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そこに愛はないけれど

作者: 戸雨 のる

 依存の強い状態を、愛と呼ぶんだよ。

 彼は私にそう言った。裸のまま、後ろから抱き締めたまま。私はどう返せばいいのかが判らなくて、けれどそれならば、ついさっきまでの行為は愛故ではなかったのだと言われたような寂しさも感じて。

 彼に表情を悟らせないよう、そっと顔を伏せてみた。相変わらず、彼は私を抱き締めている。私が眠ってしまったのだと、思っているのかもしれない。

 私は、彼の前ではよく眠る。彼の存在を感じ、心から安らいでいるのだ。悪夢を見る不安も、一人で目覚める孤独も、彼がいれば消えてなくなる。彼がいなければ、私は安心して眠れない。

 ああ、本当にこのまま眠ってしまいそう。彼の腕に包まれて、私はまどろみの中をたゆたう。彼の温もりを常に欲している私は、僅かな瞬間のためだけに、愛を信じているらしい。

 私は彼に、依存しているのだろうか。

 愛が依存だというのなら、私を包み込む彼の腕も、私に安心を与える温もりも、全てが依存ということになる。一方的な彼への依存。けれど彼も、私を欲しているはずだ。少なくとも、身体を重ね合わせたいと思う程度には。

 ふ、と。目を瞑った。彼の温もり以外の全てを、感覚から遮断する。世界の全てが彼になる。これを依存と呼ぶのなら、私はそれでも良いとすら思う。

「……なあ」

 耳たぶに唇を寄せ、彼が優しい声を出す。愛しい響き、震える空気。耳の奥に浸透し、そのまま私の一部になる。

「寝てるのか?」

 蕩ける声音。ほんのりと息を漏らし、微笑むような囁きで。違うよ、と言おうかと思ったけれど、彼の腕の温かさに、思わず口を噤んでしまった。もう少しだけ、このままで。このまま、依存させて欲しい。

 繊細な小物を扱うように、私の髪を撫でる彼。それは依存にも似た愛。失いたくない感情を、想いを愛と呼ぶのなら。

「起きてるよ」

 私は彼を愛している。彼を失ってしまう恐怖を、思い描けない程度には。

 目を開き、彼の方へ寝返りを打つ。そのまま腕を伸ばし、彼の温かな背中に添えた。

「ねえ、愛してる?」

 私は問う。求める答えは、イエスのみ。或いは、同じ言葉のみ。

「……好き、だよ」

 困ったような優しい笑み。依存を愛と呼ぶ彼は、私への依存を否定したいのだろうか。たとえそれこそが愛だとしても。求め合うことが、愛だとしても。

 一方通行の愛情ならば、それを愛とは呼ばない気がする。私が彼に求める感情と、彼が私を欲する感情。対等でない、依存関係。けれど私は。

「好き? 愛してる?」

 求め、信じ、愛を語らいたいと願う。私の依存が愛ならば、彼の欲情もまた愛だと。

「難しい質問だ」

 そう呟き、彼が私の唇を塞いだ。面倒臭くなったのか、私を欲したのかは判らない。判らないけれど、これが彼なりの答えだと思う。言葉ではなく、態度で。私への依存を語ったのだ。

 彼の背に回した腕を引きよせ、首筋に唇を這わす。愛しい温もり。私を安心させてくれる。まどろむように溺れるように、私は愛を確かめる。私たちは、依存し合う。

 求めることが依存なら、求め合うことは愛になる。私たちの間には、きっと確かな愛がある。

 彼は愛を語らわない。これからもきっと言葉にはしない。そこに愛はないけれど、確かな温もりを感じた。

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