愛は狂気を誘い出す
「あんたのせいで!!私の弟は死んだのよ!!」
それは以前感じた絶望に似た感覚だった。姉はマリアの胸倉をつかみ上げ、何度もマリアを殴りながら怒鳴った。
「あんたがいなくなってあいつは真っ先に私達を責めた!彼女に何をしたって!!その後はひたすらあんたを探し回った。三年!毎日ずっと!!そして・・・アイツはあんたと過ごした家に帰った。あんたが待ってんじゃないかって!!けど・・・あんたはいなかった!!!」
殴られる痛みなど何でもなかった。
「アイツは絶望した!!あんたがいない世界に!!あんたに置いてかれた自分に!!!絶望して・・・どうしたと思う?」
首に手がかけられゆっくりと締められる。
「玄関で首を吊って死んでたわよ!!!」
苦しくなるのと同時に、顔に当たる温かい雫に気付いた。
「あんたが入ってきてすぐに分かるようにしたかったんでしょうね!!!置いてあった遺書にはあたし達のことなんて何も書いてなかった!!ただ一言・・・っ」
『おかえり』
「そう書いてあったのよ!!!」
怒鳴りながら泣く姉の顔が次第に見えなくなった。ぼやけて、滲んで、溢れて・・・止まらなくなった。
やがて、姉の手は解け、大きな鳴き声が響いた。
あの時、自分がちゃんと説明をして、別れていれば良かったのだろうか?
いや、彼は諦めてくれなかっただろう。
では、訳を話してもずっと傍にいれば良かったのだろうか?
いや、きっと自分が苦しみ続けただろう。幸せを掴める彼の人生を狂わせて。
けど・・・
今よりはきっといい結末だったに違いない。
ここまで悲しい結末には、ならなかったはずだ。