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優しき修羅の行く道は  作者: 日明
5/11

優しき修羅の行く道は

 俺は地下牢に入れられ大人しくしていた。もうこれ以上怖いものはないほどの地獄を見せられた。これから起こることに恐怖はない。


 不意にコツコツと人の足音が近づいてきた。随分刑の執行が早い。まだ入れられて1日も経っていない。


 足音は目の前で止まり、鍵が開けられ、入ってきた人物に目を見開く。


「お前・・・っ!」


 そいつは俺の隊の部下、マルスだった。


「貴方を助けに来ました。隊長」

「良かった!無事だったのか!」

「貴方・・・自分の今の状況そっちのけでそれですか・・・」


 呆れたように苦笑され、俺は笑う。


「俺のことよりお前らだ。他の連中は?」


 一瞬言葉が詰まった。


「怪我は結構してますが、全員命はあります。安心してください」

「・・・そうか。良かった」


 俺はその言葉が優しい嘘なのだと悟った。何人か確実に命を落としているだろう。いや、もしかしたらほとんどかも知れない。


「隊長。よく聞いてください。敵軍は明日の夜再び攻め込んでくるようです」

「んだと!?」

「我が軍はすでに瀕死の状態。まともに戦えはしないでしょう」

「なら逃げろ。命あってこそのもんだ」


 首が静かに左右に振られた。


「俺達は皆死ぬ覚悟を持ってあなたの下についていました。最後まで、愛した我が国を守ります」

「・・・なら俺も」

「いえ。貴方は混乱に乗じて逃げてください」

「は・・・?」


 マルスの言葉が理解出来ず思わず聞き返す。


「この国は死にます。そして吸収された新たな王は謀反を起こした貴方を決して生かしはしないでしょう」

「覚悟の上だ」

「いいですか?ケセル王国3番隊隊長ギドはもう死んだんです。貴方はもう俺の隊長じゃない」


 小さく奴は微笑んだ。


「俺は隊長ではなく、一人の男ギドを助けたい。これは多くの兵が同じ意思です」

「俺に・・・お前ら見捨てて逃げろってか!!」


 胸倉を掴んで怒鳴れば奴はひるむことなく言った。


「俺達は地獄を見ました。必死に守ろうと戦った国は帰ってみれば既に踏みにじられ、王は国を守ってすらくれなかった。そんな愚王のせいで死ぬ人を・・・もう見たくない・・・っ」


 マルスは俺の服を掴んで叫んだ。


「だから!!貴方が俺達の代わりに他の国の民を守ってあげてください!この国の悲劇を二度と・・・っ繰り返さないでください!!それが出来るのは・・・っこの地獄を知ってる貴方しかいないんです…!」

「・・・ならテメーらもついてこい」

「それは出来ません」

「何でだよ!」


 苛立ちがつのり、胸倉をつかんだまま揺さぶる。


「我が軍で最も多く生き残ってるのは3番隊です。多くは戦死、もしくは逃亡しました。俺一人が貴方についていく訳にはいきません。かと言って・・・3番隊全てが貴方についていくのは目立ち過ぎますし、3番隊がいなければ恐らく敵と交戦することも難しいでしょう」

「・・・俺一人で・・・戦いぬけってか・・・」

「はい・・・。無理を申し上げてすみません」


 深く頭を下げるマルスを俺は強く強く抱き締めた。


「必ず・・・俺は王家に復讐を果たす・・・!」

「・・・はい。でも、疲れたら休んでくださいね。それだけのために生きる必要はありません」


 その時俺はまた嘘を見抜いてしまった。


 王家に復讐をしてくれというのはあくまで俺を生かす目的を作っただけで、こいつらの本当の願いは俺にただ生きて欲しいだけだ。


 そして、翌日。俺は一人街を抜け出した。ユキのことを話すと、戦いに乗じて家に火を放つと言ってくれた。誰の手にも渡ることがないようにと。俺は全てを見捨ててただ走った。


 それからは山賊に出会い。倒して俺が大将になり、王族を殺しては金目の物を奪い、資金にし、人々に配った。


 ある日『王族殺し』の異名を持つ義賊である俺の元に酔狂な奴が訪れた。


「俺の国で兵士をやってくれないか?」


 そいつは豪華に着飾り、従者を三人連れていた。一目見て分かる王族だった。


「おい・・・俺達の事を知らねぇ訳じゃねえよな?」

「ああ。【王族殺し】の異名を持つ賊集団だよな?」


 百合とドラゴンの紋章を見て相手がウルアークの王だと悟る。


「つまり王族であるテメーは俺らのターゲットでもある訳なんだけど?」

「構わない」


 意味が分からなすぎて作った顔がどんなものだったか覚えていないが、妙な表情だったに違いない。


「俺がウルアークの王に相応しくないと思ったその時はその剣で容赦なくこの首を跳ねてくれていい」


首を跳ねる仕草をする王においおい・・・と呆れる。


「下克上覚悟で俺を懐に入れるってか?」

「まあ、正直なところ俺の王政はそう長くないから、次に続く息子達の監視をして欲しい訳だ」

「監視・・・?」

「俺は今のところ死んでも愚王になる予定はない。だが、次に続く息子達がどんな政治をするか分からない。だから、息子達が愚王になったその時は容赦なく殺してやってくれ」

「お前・・・正気か・・・?」

「ああ。正気だ」


 ニコリと笑みさえ見せるその王は正気とは思えなかった。笑顔で実の息子を殺してくれと依頼する親など想像もしなかった。


「君の力が欲しい。俺に手を貸してはくれないだろうか?」


 差し出された手を静かに見つめる。


 見た目は穏やかな雰囲気のある人柄の良さそうな人物だ。だが、その腹は真っ黒でいつ寝首をかかれるか分かったもんじゃない。


「――条件がある」

「何でも」

「俺が率いてる連中が好きな国で普通に暮らせるよう手配を。あんたが欲しいのは俺であって、【王族殺し】全てではないだろう?」

「族長!?私たちはっ」


 周りの連中が騒ぎ始めたが手で制止する。


「正直なところ優秀な君の連れ達も欲しくはあったが・・・一番欲しい君が来てくれる条件がそれなら仕方ない。飲もう」


 王は少し考える素振りをしたが、相変わらずの笑顔を浮かべ了承した。俺は差し出された手を強く握り締める。


「よろしく頼むぜ。陛下」

「ああ。よろしく頼む。ギド団長」


 ん・・・?


「今・・・団長って・・・」

「ああ。君は俺の懐刀である騎士団の団長をやってもらう」

「ちょっと待て!!俺はよそもんでしかも今から騎士団に入るんだぞ!?いきなり団長なんて他の連中が納得する訳ねえだろ!!」

「納得させるんだよ。君のその腕で」


 王はニッといやらしい笑みを浮かべた。仲間を認めさせられねぇ弱い奴はいらねぇっていうことか・・・。何て奴の配下になってしまったのかと正直思ったが、これはこれで新鮮で面白いじゃねえか。


 やってやるよ。


 俺がその時団長だったライドを倒して団長になったのは俺が兵団に入ると顔を見せたその日だった。


 ユキと約束した通りちゃんと女の子は口説いてる。んで、その子達は自分に自信もっていい男見つけて可愛い子産んでる。ちゃんと約束守ってんだろ?


 マルスの約束守って愚王はとことん潰した。


 そういや・・・二ドルクはちゃんと嫁さんと逃げられたんだろうかな・・・。元気に・・・してるよな・・・。


「まーたこんなとこでサボって!ギド団長!!」


 副団長であるメルフィが木の下から怒鳴っている。


「メルフィ・・・お前またちっこくなった?「しばき倒しますよ」


 顔と声がガチ過ぎて反省した。


「ディーナさんがカルメ焼きという面白いお菓子を作ったそうなので一緒に食べませんかとお誘いが来てますよ「行く」

「騎士団の方にも2つ返事で来てくれませんかねぇ」


 額に青筋の浮くメルフィに俺はニッと笑う。


「女の子には優しくすっけど、男にする義理はねえな」


 メルフィはでしょうね・・・とため息をついた。


「ほら、早くいきましょう」


 メルフィに促されていけば、庭にテーブルを置き、お茶会という形になっていた。真っ先に嬢ちゃん・・・王がお気に入りの歌姫のディーナちゃんが出迎えてくれる。


「ギドさん!お疲れ様です」

「おう。嬢ちゃんは相変わらず笑顔が可愛いねぇ」


 頭を撫でようとすれば即座に王であるラディが割り込んできた。言外に触るなと威嚇してくるため大人しく引き下がる。


 すると、王の右腕であるマルドアが俺を指差して言う。


「これは休憩のための茶会だろう。その男は年中休憩している」

「え、でも・・・あの・・・」

「マル坊嬢ちゃん困らせねえの「貴様のせいだ」


 何はともあれ皆で茶会をする。笑って、話して、普通な幸せがそこに在った。

 

 ユキ。俺はずっとお前が好きだ。今も変わらない。お前が俺のことを大嫌いだと言っても俺は大好きだ。だから、沢山の土産話を持ってお前に会いに行く。お前が嫌がっても会いに行くから、娘と一緒に待っててくれ。


 愛してる・・・ユキ。



―END―

過去編終了です!泣けなかった方ごめんなさい!

良ければ最後に出て来たメンバーが活躍する『覇王様の子守唄』の方もご覧ください。

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