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優しき修羅の行く道は  作者: 日明
4/11

一瞬の儚さ

 城下まで敵が攻め込んできた。それはつまり・・・ケセル王国の軍が負けたということ。


「ギド・・・っ!」


 お願い無事でいて・・・っ。それ以外は何も望まないから・・・っ


「キャア!!」


 悲鳴が聞こえ、窓からそっと外をうかがう。敵兵の前にいる子供とそして、敵兵に髪を掴まれている女性。


 あれは・・・リラさん!!


 夫の部下の奥さんでよく身の回りの世話をしてくれた。優しい彼女のことだ。子供が危ないと思って飛び出したのだろう。そう理解するのと同時に家から飛び出していた。


「その汚い手を離しなさい!!」


 家にあったほうきを片手にそう怒鳴る。敵軍の目が私に向く。


「おいおい、腹ボテがわざわざ出張って・・・何のつもりだ?」

「私は・・・」


 ねえギド・・・。あんただって、部下の奥さん見捨てたら怒るでしょ?私、あんたに約束させたから、私も・・・それなりのことするよ。


「ケセル王国3番隊隊長の妻!我が夫の意思と共にこの国を守る!!」


 ほうきの先で容赦なく男の喉笛を突いた。男は血を吐き出し、後退する。毎日ギドのことを見てきた。ギドが護身術にって教えてくれた。今それが・・・役に立ってるよ。


「逃げて!リラさん!」

「ユキさん!!」

「早く!!」


 リラさんは子供を抱き上げ、泣きながら駆け出した。


「やってくれたな・・・」


 兵が私を取り囲んでいく。怖くないって言ったら嘘になる。けど・・・


 私はずっと・・・っあんたを見てきた!!強くなるあんたを!


 ほうきで敵の後頭部を打ち、斬りかかってきた男の股間を思い切り蹴り上げる。悶絶しながら蹲る兵を尻目に怒鳴る。


「私の街を壊させはしない!!」


 ギド・・・私も頑張るから・・・あんたも頑張ってね・・・。






「隊長!!!」

「平気だ!!!」


 背に刃を受けつつ、敵を切り伏せる。


「何故僕を庇ったんです!!」

「言ったろ!?嫁さんに言われてんだよ!部下を守れってな!!」

「そんな貴方が死んだら奥さんはどう思いますか!?」

「安心しろ」


 同時に2人の敵を斬って笑う。


「俺は死なねぇ!!!」


 ニドルクは暫し目を瞬かせていたが、すぐに俺と同じように敵を斬る。


「早く城下に戻りましょう!!」

「おう!!」


 2人で敵を斬り、道が開けた。


「ニドルク!馬に乗って走れ!!」

「貴方は!?」

「俺の部下はオメーだけじゃないんでなぁ!」

『隊長!!』


 吼えるような声に少しだけ驚いていた時、周りの敵が一気に倒された。現れたのは3番隊の連中だった。


「お前ら・・・っ」

「俺達なら平気です!」

「奥さんのところに行ってあげてください!!」

「けど!」

「あなたは俺達を見捨てる訳じゃない!!」


 そう言って皆笑った。


「俺達を信じて背中を預けてくれるんです」


 一瞬だけ迷った。だが、俺はニドルクと同じように馬に飛び乗る。


「必ず戻る!!それまで生き延びろ!!命令だ!!」

『はい!!』


 全力でニドルクと共に馬を走らせる。戦場を駆け抜け、ひたすらに真っ直ぐ城下へと向かう。


 すぐに城下の門が見えてきた。門は破壊され、兵が中になだれ込んでいるのが見える。


「退けぇぇえ!!!」


 馬ごと兵の群れに突っ込み道を開く。


「ユキ!!!」


 顔を上げて叫んだその先に・・・ユキはいた。街の男達と共に兵を相手にして血塗れだ。ユキは俺に気付いた直後、安堵したように笑った。そんなユキの背後で敵兵が刃を振り上げた。俺は全力で馬を走らせる。だが、俺の伸ばした手は届くことなく、目の前でユキは切り裂かれた。


「ユキぃ!!!!」


 即座に馬から飛び降り、ユキの周りの敵を殲滅させる。


 そして、倒れ伏したユキを抱き上げて叫ぶ。


「ユキ!!!ユキぃ!!!」

「ギ・・・ド・・・」


 口からコポッと血が溢れる。抱き上げる俺の手を濡らす温かい血は止まる気配を見せなかった。


「ユキ!!ごめん・・・っ俺・・・っ」


 頬にそっとユキの手が触れる。


「私・・・ね・・・。リラさん・・・助けられたよ・・・」

「ニドルクの奥さんの?」

「うん・・・。ギド・・・頑張って・・・るから・・・私も・・・」


 ユキの綺麗な瞳から涙がいくつも零れ落ちる。


「元気な・・・子・・・産んで・・・あげられなくて・・・ごめんねぇ・・・」


 ふとユキの腹を見れば、裂けたそこから水は溢れ、血に塗れた手足が覗いていた。絶望は更に絶望を呼ぶ。


 頬に当てられていた手がゆっくりと俺の唇に触れる。


「あんたなんか・・・大嫌い・・・」

「え・・・?」

「だから・・・あんたのお嫁さんになんか・・・なりたく・・・なかった・・・」

「ユキ・・・?」

「可愛い・・・女の子・・・口説いて・・・元気な子・・・見せ・・・て・・・」


 力なく落ちる手を反射的に掴む。


「ユ・・・キ・・・」


 閉じられた瞳から、溜まった涙がゆっくりと落ちた。


 ユキが唇に手を当て何か言うのは裏にメッセージがある。知ってんだよ。お前のさっきの言葉は、俺を思う嘘だって。


「ユキ・・・。ユキっ!ユキぃ!!!」


 天に向かって吼えた声は町中に響き渡った。


 ユキの体をゆっくりと横たえ、ユラリと立ち上がる。


「テメーら全員・・・」


 敵を睨みつけ、唸るように言葉を紡いだ。


「皆殺しだ」




 次々容赦なく敵を殺す俺を見て、奴らは一時撤退の判断を下した。それを見送った後、街に自国の兵が一切いないことに気付く。


「ニドルク。確か9番隊。10番隊はいるはずだよな?」

「はい。ここを守っていたはずなんですが・・・」

「ニドルク。お前は嫁さんとこ行け」

「え・・・」

「うちの嫁さんが言ってた。ちゃんと守れたってな。お前の奥さんはちゃんと生きてる。だから行ってやんな。お前が来るのを待ちわびてるはずだ」


 ニドルクは数拍間を空けた後叫んだ。


「・・・すみません!!」


 走っていくニドルクに小さく微笑んだ後、ユキを抱き上げる。


「ユキ・・・。家でもうちょっと待っててくれな」


 抱き上げたユキをベットに寝かせ、俺は城へと向かった。


 城は城門は硬く閉じ、その城門の上に兵達が並んでいた。


「テメーら何してやがる!!!」

「ギド隊長!?」

「街に敵兵が攻め込んでやがったのを知らねぇ訳はねえよな!?こんなとこでテメーらは何してんだ!!!」


 兵達はビクリと身を強張らせながら答える。


「国王からのご命令で・・・っ」


 国王の・・・?


「・・・門を開けろ」

「しかし・・・」

「いいから開けろってんだ!!!」


 ギドの気迫に押され、門はゆっくりと開けられた。ギドは真っ直ぐ謁見の間へと向かった。


 謁見の間には両脇に大勢の兵士と、大きな玉座には真っ青な顔の王の姿があった。


「おお!そなたは3番隊の・・・っ。そなたがここにいるということは戦は勝ったのだな!?」

「一時的に敵は引きましたが、まだ予断を許さない状況です。国王陛下・・・。お聞きしたいことがあります」

「何だ?」

「街まで敵兵が攻め入って来ていました。しかし、ただの一兵たりとも我が国の兵がいなかった。これは一体どういうことですか?」

「だ、だって・・・街に兵をやったらこの城の警備が手薄になってしまうじゃないか・・・っ」


 は・・・?


「民はいくらでも変えが効く!だが、王は私一人しかいないだろう!?なら何を守るかは明白なはずだ」

「・・・よく分かったよ」


 俺は腰に帯びた剣を引き抜き、目の前の王の腹部へと深く突き刺した。


「俺がクソみてぇな奴を守ろうとしてたってことがなぁ!!!」


 吐き出される血が俺を濡らす。


「陛下!!」

「ギド!!貴様何をしたか分かってるのか!?」


 俺を止めようと駆けてきた兵に怒鳴る。


「じゃあテメーらは何をしなかったか分かってんのか!?」


 動きが止まった兵の目が俺に集まる。


「テメーらがこのクソヤローを大事に大事に守ってたお陰で・・・っ。俺の妻は死んだんだよ!!!」


 ユキの綺麗な死に顔を思い出し涙が溢れた。


「分かるか!?もうすぐ娘が生まれるって二人ではしゃいで、部下達から祝いに赤ん坊用の服とか沢山もらって・・・っ。それを一度も使うことなく・・・!!どころか・・・俺は・・・出会うことすら出来なかったんだよ・・・っ」


 ユキと共に大事に大事に愛そうと思ってた命――。


「お前らに分かるか!?愛しい者を同時に2人失う気持ち!!これから訪れるはずだった沢山の幸せを全て失った俺の気持ちが・・・っ分かるのかよぉ!!!!」


 俺は鋭く目の前の王を睨みつける。


「俺はこいつを殺す!!その後斬首でも火あぶりでも何でも好きにすりゃいい!!俺は逃げねぇよ!!もう・・・失って怖いもんもないんだ・・・っ」


 ズチャッ


 剣を引き抜けば血が辺りを濡らした。同時に崩れ落ちる王は血走った目で俺を見上げる。


 俺が刃を振り上げるが、止める者は誰もいなかった。


「やめ・・・やめて・・・」

「地獄に行っても俺は一生テメーを許さねぇ」

「やめてくれぇ!!」


 叫んだ王の首が飛んで転がった。

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