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優しき修羅の行く道は  作者: 日明
2/11

溢れる幸せ

 ユキとは無事に結婚し、一年近くが経とうとしていた。そんなある日、出勤前にある男を見つけた。


「おいあんた!」

「え・・・?」


 振り返った男は間違いなかった。


「あんたユキにちょっかい出してた男だろ!!」


 以前に俺がいきなり「結婚しろ!」と口走った原因になった男がそこにいた。


 男は困惑した様子ながら頷く。


「え、あ・・・まあ、バッサリ断れてましたがね・・・。貴方は?」

「ユキの旦那だ」


 牽制しておかねばもしかしたらまたユキに手を出すかも知れないと思うとどうにも威嚇してしまう。


 すると男は驚いたように目を丸くしたあと、うんうんと頷いた。


「貴方が・・・」

「な、何だよ?」

「いえ。ユキさんに好きな人はおられますか?と聞いた時、ずっと片思いをしている人がいると伺っていたものですから」


 思わず目を見開く。


「その人は弱虫だったのにいつの間にかいい男になって、昔は傍にいてあげなきゃって思ってたけど、もう彼は選べる側になったって」


 もしかして・・・


「サンキュ!!」

「え!?あ、はい」


 俺は慌てて家に戻り、リビングに飛び込む。すると、ユキが驚いて振り返る。


「どうしたの?忘れ物?」

「お前・・・っ。ずっと結婚先延ばししてたのって・・・っ。俺に他の女にも目を向けさせるためだったのか?」

「え・・・今更・・・?」

「そんな無駄なことのために俺は何年も待たされたのかよ!!」

「む、無駄って何よ!私はあんたに合ったいい人が見つかるようにと思って!!」

「・・・見つかったらどうしてたんだよ」


 そう問うとユキは少し黙った後、俺の傍に来て、胸元に顔を寄せた。


「多分・・・笑っておめでとうって言った後、ダッシュで逃げて泣いてた」

「そうなるぐらいなら最初からOKしとけよな・・・」


 そっと額にキスを落として耳元で囁く。


「愛してる・・・。ユキ・・・」


 すると、ユキは勢いよく俺を突き飛ばし、耳を押さえて怒鳴る。


「馬鹿!!さっさと仕事行きなさい!!」


 傍にあった本が投げられ、反射的に取る。


「待て!本はあぶねぇだろ!!」


 物は大切に扱えーと言った後、手にした本に目を向ける。


『妊娠中の準備』


 ・・・ん?


 ゆっくりとユキに視線を向けた後もう一度本を見る。


『妊娠中の準備』


「・・・え!?」

「あ!!」


 ユキは慌てて俺の手から本を奪い取った。


「ち、違うの!!ま、まだ分かんないの!!」

「ま、まだ・・・?」

「か、可能性は高いらしんだけど・・・まだ微妙で・・・ハッキリしてから伝えようと思って・・・」


 真っ赤な顔でモゴモゴと口ごもるユキを見て、俺はかつてないほど顔を緩め、天を仰いだ。


「ま、まだ分かんないんだから!!きょ、今日また病院に行って確認してくるけど・・・」

「大丈夫だ!もしまだならまた子作りすればいいしな!」


 深い意味はなく言ったのだが、馬鹿!!と思い切り顔面を殴られ、さっさと仕事いきなさい!!と家を追い出された。




「・・・隊長ー。顔が滅茶苦茶気持ち悪いですよー」

「お前会って早々の上官に対する口の聞き方間違ってねえか?」


 隊長補佐をしているニドルクが会って早々酷い。


「どうせ奥さんのことでしょー。3番隊の連中は耳にタコが出来るほどのろけ聞かされてますから」

「なら更にタコを作れ!「結構です」

「実はな!「聞いてますか?」

「俺はお父さんになるかも知れない!!」


 ギドがそこまで言うと隊員達の表情が止まった。表情の変わらないニドルクも珍しく目を丸くしていた。


「・・・そうですか。ちゃんと父親してくださいね」

「何だその言い方!するに決まってんだろ!息子でも娘でも可愛い!でも娘の方がいいかな~。絶対嫁にはやらんが」

「あ、面倒臭い父親だ」

「そういうタイプの父親は思春期に娘に嫌われるやつですよー」

「娘に嫌われたら生きていけねぇ・・・」


 ニドルクに続き、同じく部下のカランも酷いことを言う。


「想像で泣かないでください」


 ニドルクがまぁ・・・と言葉を続ける。


「性別分かったら教えてください」

「え?何でだ?」


 そこでハッとする。まさか・・・っ!


「娘だったら狙う気だな!?「殺しますよ?」


 殺気が本物だったのでひとまず黙る。


「それに、僕もそろそろ結婚する予定ですから」

「え!?初耳だぞ!!」

「隊長にだけは言ってませんから「何で俺だけ!?」

「面倒臭そうだったんで「酷い言われよう!!」


 ニドルクはほんと俺に対してなんか酷い。


「まあ、何はともあれ・・・おめでとう」

「ありがとうございます」


 穏やかに笑ったニドルクはとても幸せそうだった。


 この日は仕事が終わって速攻家に帰った。


「ユキ!!」

「何?」

「何じゃなくて結果は!?」

「どっちがいい?」

「え!?」


 動揺する俺にユキはクスリと笑って俺の手をとって自分の腹部に当てた。


「ここにちゃんと、命が在るよ」


 それを聞いて、一瞬何も考えられなかったが途端に涙が溢れる。


「やったー!!」

「きゃっ!!」


 喜びのあまりユキを抱き上げ、クルクルと回る。


「俺達の子供だー!!」

「ちょ!危ないでしょうが!!」


 容赦のない肘が俺の顔面にめり込む。ユキを丁寧に降ろしたあと、床でのたうち回る。


「もう私一人の体じゃないんだからね!」

「そ、そうですね・・・」


 体を起こし、ユキを見上げる。


「性別は?」

「さすがにまだ分かんないって。どっちかな?」

「男だったら剣術は絶対習わせるぞ!お前のお陰で俺が培った最強の戦い方も伝授する!」

「あんたみたいに野蛮には育って欲しくないわね。弱くちゃいけないけど、勉強も出来る子になって欲しい」

「俺だって日常生活は支障ないぞ!」

「日常生活“は”でしょうが」

「うぐ・・・。女の子だったら絶対嫁にはやらんぞ!!」

「素敵な人なら私はいいと思うけど?結婚ってやっぱり女の子の夢だし、幸せだもの」

「・・・今幸せか?」


 ユキは微笑んでそっと俺にキスをした。


「勿論」


 俺はこんなに幸せで本当にいいのかと思った。


 幸せが溢れて溢れて、止まらない。




「ギド。お知らせがあるの」

「ん?何だ?」


 出勤前ユキに呼び止められる。ユキのお腹はもう随分大きくなっていた。


「お腹の子は、女の子だって」


 一瞬理解出来なかったが、すぐに表情が崩れる。俺は仕事場に走って出ていき、隊の連中に向かって叫ぶ。


「俺の子は女の子だ!!!」

「へえ。女の子」

「思春期に嫌われるやつですね」

「ご愁傷様です」


 部下のマルスに続き、カラン、ニドルクが酷い。


「俺の未来を勝手に決めるな!!」

「隊長に似たらあれですから奥さんに似るように俺達祈っておきますね」


 続いてサースは祈る仕草をする。


「テメーら・・・」


 しばいてやろうかと思った直後、ハッとして走って家に戻る。


「ユキ!!」

「え!?走って出て行ったと思ったらどうしたの?」

「家のこと全部俺がやるから!!」

「は?」


 ユキはいきなり何?と怪訝そうな顔で俺を見る。


「買い物とかも全部やるからお前は温かくして座ってゆっくり美味しいもの食べててくれ!!」

「いや・・・あんた仕事でしょ・・・」

「仕事なんてサボる!!「行きなさいよ。生活費あんたの給料なんだから」

「じゃ、じゃあ買い物は俺が行くから家でゆっくりしててくれ!」

「・・・分かった。買い物は頼むわね」

「ああ!!」


 じゃ、行ってくる!と再び走り出した。


 俺に娘が出来る!嗚呼・・・っどれだけ可愛いんだろう・・・っ!!


「早く会いてぇ・・・っ!」





「僕の嫁が度々隊長の奥さんとこ行ってるの知ってました?」


 ニドルクからの衝撃の言葉に俺は持っていた剣を落としそうになった。


「し、知らなかった・・・っ」

「いや、そんな驚くほどのことじゃ・・・」

「女の子2人でキャッキャッしてるなんて!行かなきゃ損だろ!!」

「一人僕の嫁さんなんで手ぇ出したら殺しますよ」


 相変わらず上官に本気の殺気を放ってくるからニドルクは怖い。


「奥さんから妊娠してからのこととか色々聞く代わりに、身の回りの辛いこととかしてるみたいです。女子トーク楽しいって毎回ツヤツヤしながら帰って来ます」

「何それますます混ざりたい「むさい男が入ったら一気に絵面が悪くなるんで却下です」


 ニドルクがそうだと声をあげた。


「これどうぞ」


 渡されたラッピングのされた箱に困惑する。


「俺・・・誕生日とかじゃないぞ?「誰も隊長にあげるとは言ってませんよ」


 え・・・じゃあ何で俺に・・・?と思っていると考えなくていいんで開けてくださいと冷たく促される。


 複雑な気分で綺麗にラッピングされた箱を開けるとそこにはピンクがメインの可愛いらしく赤ちゃん用のグッズが入っていた。


「僕らから隊長の娘さんにプレゼントです。むさい男共がどんな気持ちでその可愛らしいグッズ買ったか考えてみてくださいね」


 確かに中々の事態だろう。だが、それを想像して笑うより、感動の方が勝った。


「ありがとうな・・・っ」


 抱き締めて感謝すれば、ニドルクから相変わらずの声音で気持ち悪いですと言われた。だが、ちょっとだけ頬が赤かったことは見逃さない。


「ニドルクも子供できたら男の子か女の子か教えろよ!絶対何かやるから!!」

「何かくれるなら必ず奥さんと相談してくださいね。隊長一人だと恐ろしいもんくれそうなんで「信用ないな!!」


「・・・嘘です。楽しみにしてます」


皆驚きの表情になる。


「デレた!!」

「あのニドルクが!!」

「超レア!!「全員殺しますよ?」


 俺に続いてカランとサースが言ったが、ガチトーン過ぎてみんな黙った。

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