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優しき修羅の行く道は  作者: 日明
1/11

始まりの約束

 俺は弱虫で、いじめられっこだった。そんな俺をいつも助けてくれたのが、幼馴染のユキだった。白い髪、銀の瞳が特徴的な綺麗な女の子。男勝りなのが玉に傷だとボヤかれていた。


 その日も俺は街のいじめっこ達にいじめられていた。


「おい!お前は俺らの奴隷だよな!?ギド」

「裸になって街一周してこいよ!」

「おら!脱げよ!」

「や、やめてよぉ・・・」


 三人がかりで服を引っ張られ、弱虫だった俺は大した抵抗も出来ずボロボロと泣くだけだった。そして、そんな俺をユキはヒーローのように助けてくれた。


「コラァ!ギドをいじめるなぁ!!」

「うっわ!ゴリラ女だぜ!皆逃げろ!!」


 ユキは以前いじめっこ達と掴み合いの喧嘩をしてまで俺を助けてくれた。それが中々強くて、いじめっこ達はユキとだけは喧嘩をしなくなった。


 いじめっこが散っていったところでユキは俺の前に膝をつき、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫?ギド」

「ごめんね・・・。ユキちゃん・・・」


 泣きながら謝ればユキは何謝ってんのと笑った。


「謝るぐらいならいじめっこに立ち向かってやるぐらい強くなりなさいよ」

「うん・・・」


 それが最初の約束だった。




 次にいじめられた時、俺はいじめっこの大将の手に噛み付いてやった。何度殴られても離さないくらい強く、強く。


 するとユキが来てまた助けられた。


「あんた何してんのよ!!」

「ユキちゃん・・・ちゃんと立ち向かったよ・・・」


 顔は腫れあがり、血だらけの顔で小さく笑えばユキは俺を強く抱き締めてくれた。


「今度は傷だらけにならないようにしなさい。お願い・・・っ」


 お願いと言った声が震えていて、泣いているのだとわかった。俺にとってヒーローだったユキが泣いたことがとにかくショックだった。





 次にいじめられた時は噛み付いて逃げてを繰り返した。


 そうしたら今度はあまり怪我をせず、いじめっこを撃退することが出来た。これを喜々としてユキに報告すると。


「じゃあ、今度は怪我しないで追い返して」


 とのことだった。こうやってどんどんユキの約束はレベルが上がっていった。やがて・・・





「ユキ!どうだ!?街最強になったぜ!」


 体が男に近づくのと同時に俺は喧嘩で負けなくなった。そんな俺の言葉にユキは呆れた顔で言う。


「誰が最強になれなんて言ったのよ・・・」

「お前が怪我しないで追い返せるようになれっつったんだろ?今じゃ俺の顔見てみんなそそくさと逃げ出すぜ」


 ドヤッと鼻を鳴らせば、ユキは片手で顔を覆ってため息をついた。


「じゃあ今度は、相手を怪我させないで追い返せるようになること。勿論あんたも怪我しちゃ駄目」

「また約束のレベルが上がった・・・」


 そして、度々売られる喧嘩も決して手は出さず避けることだけに専念した。これが中々厳しく、度々当たるし、つい手は出るし、相手が勝手に怪我するしで上手くいかなかった。


 やがて、体が完璧に男になった頃、ようやく俺は怪我をせず、させず、相手を追い返せるようになった。相手の攻撃は一発も受けず、相手が転びそうになれば支えてやった。


 これでまたドヤ顔でユキに報告出来ると思って家に向かうと、そこではユキと見知らぬ若い男が楽しそうに談笑していた。思わず隠れて様子を伺う。少し距離があるため会話は聞こえないが、相手の顔は見えた。


 俺とは正反対の落ち着いた雰囲気のイケメンで、薔薇が周りに飛んでいるような男だった。


 あんなひょろい奴俺の一発で気絶すんじゃねえか・・・?


 そして、何となくだが、男の方はユキに気があるんだと分かった。ユキの方はそうでもないようだが。いや・・・そうでもないと思いたい。


 男が去って行って少ししてからユキの前に顔を出す。


「ギド。約束達成できた?」

「お、おう・・・」


 何だかいたたまれなくて頭を掻いているとユキが微笑んだ。


「凄いじゃない。そこまで出来れば本当に最強ね」

「お、おう・・・」


 ユキは明らかに様子のおかしい俺に気付き、デコピンをしてきた。


「何かあるなら言いなさいよ。気持ち悪い」

「き、気持ち悪いってなんだ!」

「うじうじしてんのが気持ち悪いの!」


 ドスドスと人指し指で胸を突かれ、後退する。


「いや・・・その・・・」


 言おうにも俺の中でもまとまっていなくてもごもごと口ごもる。


「ハッキリしなさい!」


 今度は背を叩かれ、あーもう!とヤケで言う。


「俺と結婚しろ!!!」


 静寂。


 辺りの全ての音が消えた。


 そして、少しして俺は言った言葉の意味を理解する。


「あ・・・いや・・・」


 顔に熱がどんどん集まり、思考がショートする。


 何でそれが先に出た!?さっきの男は何だとか!その前に付き合ってくれだろ!!!


 心の中に自分自身にツッコミを入れていれば、ユキが不意に人指し指で俺の唇に触れた。


「あんたが私をちゃんと養えるぐらいの男になったらね」


 そう言ってほんのり頬を赤らめて笑うもんだから俺は見惚れてしまった。ユキが去っても暫く立ち尽くしていた。


 そして、ユキの言葉がゆっくりと染み込むように理解出来た後よし!!と天に向かって吼えた。


 それから俺は一番稼げる兵役に就くことになった。最初は手当たり次第色んな仕事に就こうとしたのだが、不器用なこともあり、中々上手くいかず、更に今までのしてきた連中がちょっかいをかけてきて仕事がうまくいかなかった。そんな時、兵隊の隊長に声をかけられたのが始まりだ。仕事に就かなければユキは養えないし、何より戦うということは俺の性分に合っていた。


「ユキ!王宮に仕える兵士になったぞ!給金は安定してるし、なくなるような仕事でもない!」


 どうだとばかりに何度目かのドヤ顔すれば、ユキは暫し黙った後、再び人指し指で俺の唇に触れた。


「隊は10番隊まであるの。そのどれかの隊長になったらね」

「・・・また約束か?」

「うん。約束」


 ションボリしながら問えばユキはニッコリと笑った。


 俺はまた死に物狂いで鍛錬した。毎日毎日朝から晩まで鍛錬し、毎日毎日隊長クラスの猛者共と手合わせしては生傷をこさえた。生傷をこさえる度ユキに治療して貰えるのが少し嬉しかったが、それと同時にまだまだね。と言われるのが悔しかった。だからまた頑張った。その結果。


「ユキ!なったぞ!3番隊の隊長だ!!」

「おめでと」

「・・・それだけか?まさか1番隊の隊長になれとか言わねぇよな?」


 1番隊は勿論隊で最も強い者が隊長になる。兵になって自分が井の中の蛙であったことを思い知ったギドにとって1番隊の隊長になるにはまた年がかかる。


「・・・体昔よりずっとガッシリした」


 ユキがそっと俺の胸板に触れる。


「そりゃ、毎日鍛錬してるからな」

「ギド・・・。かっこよくなった」


 真っ直ぐ目を見て言われ思わず赤くなる。ユキに外見を褒められるなど初めてだ。しかも惚れた女からとあったらたまったもんじゃないだろう。


「お、おう・・・サンキュ・・・」

「女の人結構寄って来たでしょ?」


 予想外の言葉に目を見開いた後、鋭く細める。


「・・・おい。まさか他の女に目移りしてたんじゃねえかとか言うつもりか?」


 さすがに怒るぞ。散々待たされて、散々死に物狂いで上まで上がって・・・お前しか見てなかったってのに。


 そう思っているとユキは首を左右に振った。


「逆。何で目移りしなかったの?」

「は?」


 意味が分からず思わず聞き返す。


「昔からゴリラ女って呼ばれるほどがさつで、女らしさがなくて、胸もちっちゃくて・・・。こんな私より綺麗でいい子いっぱいいたでしょ?何でそっちにしなかったの?」


 平然と問いかけて来ているように見えるかも知れないが、内心不安で一杯だってのが俺には分かった。何年見てきたと思ってんだ・・・っ。


 思わずユキを抱き締める。


「バカヤロウ。何年俺がお前に片思いしてきたと思ってんだ。20年近くだぞ?今更方向変えられるかよ。それに・・・お前は自分で思ってる以上に女らしくなってんだよ」


 昔は短かった髪は胸元まで伸び、絹のようだった。透き通るような銀色の瞳で見つめられれば、どんな男も長時間目を合わせてはいられない。肌も白く、ユキは焼けないとぼやいていたが俺は綺麗で好きだ。唇は薔薇のような明るさで、体も女らしく丸みを帯びている。


「それに、貧乳はステータスって言うだろ「その一言さえなければ良かったのに」


 ユキの小さな手が兵服を握り締めるのが分かった。


「本当にいいの?私・・・多分一生離さないよ?」

「俺だって・・・一緒だっつの・・・っ」


 何を言うでもなく、お互い自然とキスをした。生まれて初めてのキスだった。


 やっと一番欲しかった者が俺のもんになった。その喜びは俺を今までで一番幸せにさせた。

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