第7話 努力と才能
「今回は2種族紹介していこう」
「おー!」
「あれ、エリーが今回から登場なのか」
「はいお兄様の行くところにはエリーが居ます」
「軽いストーカーだぞ、まあいいやエリーだし。
まずは操魔人だな、事象改変能力と魔術ばっかり研究してる変人の集まりの種族だっていわれてるな、魔族じゃないから注意だぞ。特徴は青白い肌と耳の上に生えてる角だ。
それに獣人種これはもっふもふの種族が多い
猫獣人 犬獣人 狼獣人 虎獣人 竜獣人がいるよ、身体能力が人族より強い種族ばかりだね」
「冒険者さんに多いです」
「うん、だから優秀な人が多いけど人間は怖がっちゃうからなあ」
「お兄様は平気で付き合ってますね」
「もっふもふだからな」
現代でもある地域へ行けば少年が兵士として戦っている事はある。しかし、この世界において5歳の少年が生死をかけた戦いを念頭に鍛えているなど思わないだろう。だがリックのその修行の激しさを知るものが居れば納得してしまう程の練習量である。
体格で劣るリックはまず魔術を主体として攻撃を仕掛ける訓練を己に課した。
現在使用できる魔術はB級まで覚えたのだ。但し肉体と精神に掛かる負担も多大なため覚えたと言えど一撃を放つと数時間は放つ事が難しい。だがB級とは王宮魔導師の長であった母でさえ使うのが難しかった魔術であり、僅か5歳の少年が使うなど信じられない類の魔術である。
F級から始まる一般はまさしく家庭で使う為の魔術である。そこからE級:初級となって初めて戦闘用魔術と言われるのである。5歳でならE級を使っても驚かれるのが普通である。それを才能もあるだろうが努力を続けた結果として、次元が違うと言わしめるB級:破壊級魔術まで身につけた。
さらに知識を生かして生み出す【詠唱破棄】のC級:上級魔術を組み合わせた攻撃は既にB級:殲滅級に届く程の威力を発揮しているのである。
なぜこのような事が起こり得るのかだが単純な理屈で、そもそもB級とC級の壁は2種混合魔術が可能か否かである。通常であれば一種類の魔術を発動させるだけで誠意一杯の魔術師が殆どなのである。魔術師はD級までの魔術を修めた者達であるので不思議は無いように思われるが、実際魔導師と呼ばれるC級魔術を修めた者でさえ同時に2種類の魔術を発動する事は不可能なのだ。
天才の子は天才と思われるところだが、リックは努力という才能でこれを習得した。母ニーナでさえ同時に2種類の魔術を発動させる事は難しいのである。
2種混合魔術は単純に魔術を発動する理として存在するので法則の上で可能な事だ。
リックの行っている行為は理論上可能かもしれないだけである。
法則の存在しない物を作り上げようとしている行為であり、それはもはや魔術ではなく事象改変能力に近い行為となる。
事象改変能力とは魔力を使って事象を捻じ曲げる事なのだ。
そこにも法則がある為に制約も多数存在するのであるが、自身のイメージするものを発動させる為に紡がれる言葉が呪文であり。イメージしたものを発現させる為に必要なのが魔力で、制御するのは精神の力なのである。
リックが二つの魔術を同時に使う事に拘ったのは戦闘におけるアドバンテージを得る為である。
火と風、水と雷、2種類の属性魔術を繰り出す事で、相手に防ぎにくい攻撃を仕掛けるには最適な方法である。そして科学の常識を知っていれば簡単に解るのだが威力も上げる事もできるのである。
本来ならこの行為の為にB級魔術より上位の魔術が存在するのだ。Bと2種、A級で3種、S級で4種混合魔術として一つの呪文の並びに組み込むのである。それを独自理論で成し遂げているのだからこの先が恐ろしいと言える。
「坊ちゃま今日の訓練はそれぐらいで宜しいのでは」
「エリーゼか、坊ちゃまはよしてくれ」
「あたしの事をエリーゼっていうからです」
「わかったよエリー」
「はい、お兄様タオルです」
戸籍上はエリーゼの兄であるとなっているリックはこの対応に困るのである。
成人するまでにおいておおよそ女性の方が精神的に早熟であるのは普通なのだ。特にエリーゼは地方貴族の娘としてだけでなくメアリーの薫陶を受けて育ったからかリックに対して時折このような態度で接してくるのである。といって実際は甘えてくるのでリックとしても実の妹のように扱うのだから嫌な訳ではないのだ。
そして少年になったリックと共に育った影響からか言葉遣いまでもどこか少女より大人びた話し方でリックを困らせるのである。一緒に遊んでやれない事に不満がないのかと思っていたら知らない間にリックの真似をして共に修行をしだしたのだ、ここにもメアリーの影響があるのだが、父親であるカールにしろネリスにしろ止める気配がないのは良いのだろうかとリックが心配する程であった。
普通の女の子ならばこの年齢でなら遊ぶ事を優先するし、貴族の為の教育としては裁縫や刺繍、ダンスなどを習うべき所なのだ。
「エリー、初級の魔術は問題ないみたいだね」
「はい、お兄様のお蔭です」
そして彼女には才能があると言えよう。5歳にしてE級魔術を完全に使いこなしているのだ。すでにF級については【詠唱破棄】が可能である。
「しかし、レディーとしての習い事はしなくてもいいのかい」
「構わないわ、どうせ家の中でじっとしていてもつまらないもの」
やれやれ、と感じる事ではあるが、リックとしては邪魔な訳でも無い。
二人は庭での訓練を終えて夕食の待つ我が家へと向かった。
エリーゼはリックのシャツを引っ張りながら後を着いて行くのだった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「義父さん、義母さん、ただいま」
「ただいまです」
「もう訓練は終ったの、いつもより少し早いのはエリーね。
フフフ、またくっ付いてるわ」
「やれやれ、さすが君の娘だけあるね」
「さあ、夕食の準備が整う前に手を洗ってきて」
「「はい」」
「ああしてると、本当は子供なんだと思うんだけどね」
「でも才能は本物どころか神童よ」
「凄いわよね、既に僕よりも剣だけじゃなく魔術まで上だよ」
「流石よねえ、それがエリーに引っ付かれて困るのだから、
少し可笑しくて微笑ましいわ」
「そこが君の娘ってとこじゃないか。
将来はもう決まった気がするんだよ」
「あら、さすがに判らないわと言いたいけど。
あの様子じゃ押し掛けそうよね」
「そう考えるともう少し淑女としての教育が…
ああ、それに娘はやらんぞ!
っていうあの科白は無理だなあ」
「『俺を倒せる奴にしか娘を渡さない』
って父さんのセリフだったわね」
「僕には無理だよ、あの時は死ぬかと思った」
「教養に関しては…ちょっと拙い気もするけど大丈夫よ。
間違いなく、私よりメアリーに影響を受けたでしょうけど。
あの方はもっと奔放だもの」
「確かに、でも何処かの姫様あたりと結婚される立場だからね」
「そうだけど、娘の恋は応援するわよ、母親ですもの」
「まあ幸せになってくれるなら…僕だって応援するよ」
「複雑ね、この年で娘の結婚話なんてね」
「全くだよ、彼が相手じゃなきゃ一言で笑い飛ばすのに。
貴族側だけとはいえど既に此処までの才能を発揮してるんだ。
あの年で国を変えるだけの才能があるんだよ。
彼が宰相にでもなれば国は安泰だよ」
「まったくあの可愛らしい見た目に才能。
エリーは苦労しそうね」
カールとネリスは娘の将来を考えて溜息を吐いた。流石に王族の血を受け継いで王位につけるリックと我が娘が結婚するなど本気では考えないものの、娘の初恋である事には気がついているのだ。
そして、まもなくリックが旅立つ事を知っているのである。
仮にも5年間義父と義母として育てたのだ。愛情もあるし心配もあるが、本当の父と母を救う為に旅立つリックを引き止める事は出来ない。
二人はリックと過ごす最後の晩餐にむけて準備を進めた。




