第5話 トーキングベイビー2
『未だに喋らないリックの前書き講座』
「今回はなんでしょうか」
『ちょっと特殊な種族を紹介するよ。光輝人っていう森の守護者的な一族だね、白く輝く肌と髪、に赤い瞳、耳もちょっと変わってるんだ』
「まだこの人達には会いませんね」
『アルブヘイムっていう所か森にしか住んでないからね』
「一度会ってみたいですね」
『そのうち嫌でも会うよ』
「そうなんですか」
『そういうお話だもの』
『流石に辛かったよ』
全力疾走を繰り返しながらの逃避行である。それも体を鍛えた元騎士の全力で、身体能力の上昇魔術を使っての長時間行動ともなれば泣きたいほどに揺れた。赤ん坊の体は不便なもので小食なのにすぐお腹も減るのだ。
揺れには耐えても空腹は中々厳しい物があった。残念な事にメアリーからは授乳は不可能である。リックは激しい揺れと空腹に耐える苦行に耐え切った。
「坊ちゃま、申し訳御座いませんが私では乳はでません。
里に着き次第、乳母を捜しますので一先ずは水をお飲み下さい」
「ウーアッ」
「しばし休憩を取りましたら、移動します」
「ウー、ウーウー」
『一晩中走り回っていたじゃないか、無理はしちゃいけない』
「大丈夫ですわ、3日程でしたら休まずとも平気ですよ。
メアリーはこう見えて優秀な騎士でしたから」
「アー」
「では坊ちゃま、参りましょう」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
2日かけてメアリーの故郷へと辿り着いたリックとメアリー。
メアリーはこの里で追っ手の有無を確認した後に潜伏するかどうかを決める心算である。可能ならばブラウン伯爵領へ赴きたいぐらいなのだが危険な上食事を与えないといけないリックの問題もある。
一先ずは姉夫婦の所へと赴いて助けを求めた。
「いらっしゃいメアリー、突然で驚いたけど良く来たわ」
「久しぶり姉さん」
「あら、其の子はまさか貴方の子供なの。
結婚したなんて聞いてないわよ」
「ネリス、流石にメアリーに失礼だよ」
「カール義兄さん御無沙汰してます」
「でも赤ん坊を連れて…」
「姉さん、この子の事は聞かないで。
でも乳を与えてくれる人が必要なのよ、誰か居ないかしら」
「ならネリスがいいだろう」
「そうね、貴方にも知らせたのだけど、姪が生まれたばかりよ」
「そうだったの?
いつの事なの知らなかったのだけど」
「先週さ、おかしいな手紙はとっくに届いてる筈だけど」
「そうなの、今の状況なら何があっても不思議じゃないものね」
「どういう事かしら」
「驚かないで聞いてね、王都で反乱があったわ」
メアリーは王都での出来事と此処に来た理由を告げた。
とんでもない事態と共に厄介事を持ちかけたのだが、姉夫婦はよくぞ頼ってきたと歓迎してくれた。
この状況下で次に何をするべきか…一先ず2日も食べてないリックの食事が最優先だとなった。
『また、いやしかし、飲ませてもらわないと厳しいので頂きます。母乳とはまさに神水だ。
これは感謝の意も込めて最大限の笑顔を向けねばならない』
「キャッキャッキャ」
二日ぶりの食事である。最高なのは当たり前だろう。そして若干リックの思考が狂ったのも致し方ない事と言える。
「坊ちゃまが感謝されてるわ」
「え、そうなの」
「ええ、坊ちゃまとは意志の疎通ができるのよ」
「そんな、どう見てもまだ乳幼児よ」
「そうよ、でも可能よ。
此処までだって、静かにして下さいねとお願いしたのだもの。
奥様とも話してたの、天才に違いないって」
「それはメアリーどの親も思う事よ」
「信じてないわね、坊ちゃま。
私の言う数字を何かの方法で表してください」
『え、うーん、いいのか』
「ウー」
「大丈夫ですよ、隠されなくても問題ありません。
姉さんには信用できます」
「アーウー」
「では先ず1です」
リックは指を曲げて伝えようとしたが、見分けがしにくいので手を一度叩いた。
「ほらね」
「これは偶然でしょう」
「じゃあ3をお願いします」
パンパンパンと3度手を叩き合わせてから、どうよという眼差しを向けるリック。
「本当なの、すごいわね偶然じゃないのよね」
「王国の最強の魔導師と最強の騎士のお子様だもの」
「もっと凄い事が出来るかしら」
「本ぐらいならもう読まれてるわ」
「え?」
「凄いでしょ、屋敷の中の本を読み尽くしちゃって。
更に物語を買う事になった時なんて大変だったわよ。
旦那様が驚いたほどだったもの」
「メアリーがどちらか判りますか」
「アー」
「じゃあ、ネリスは」
「アー」
「世の中には天才って居るのね」
多少の不安があったが知能がある事が判っても問題は無かった。王国でも有名を馳せる両親のお蔭であった。まさに天才といえる二人の子供なのだ、それぐらいの事が出来てもありえる事と捉えられたのだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
メアリーとリックがネリスとカールの下へと身を寄せてから5日後、王都での反乱の結果が到着した。
国王を始めとして王族が悉く幽閉された。第二王子だったグラムが王位につき第一王子や第三王子は国王と共に幽閉されたのだ。殺害に及ばなかったのは謎だったが事態はリックの身に危険がある事を示していた。
幸運だったのは生まれたばかりの子供がいた事だった。しかも反宰相派の貴族が反旗を翻したのである。
たちまち国内は混乱を迎えた。宰相派もリック捜索に力を裂く余裕はなくなったのだ。
国内の混乱は更なる争いを呼ぶことになったのだ。
隣国からの侵略が始まったのだ。
第三軍団が対応していた所であったが敵国が増援を送ったのだ。一軍のみでは防戦に回る他無く、結果として国内の有力貴族が軍を編成し、救援に向かう必要が生じたのだ。
この混乱に乗じてメアリー死亡の報告書の偽造とリックをネリスの子供と一緒の双子として届け出たのである。
この策略はカールとリックの祖父であるフランツの手によるものであった。
こうしてリックとメアリーは安全を手に入れたのである。




