第4話 王都事変
「ニーナ!」
「ええ、解ってるわ」
「坊ちゃまは此処に居られます」
「これは……これ程の兵を動かせるのは…」
「兵、そうね、野党如きでこの人数はありえないわ」
「となると、グラム殿下か…その一派の仕業だな」
ルーク口にしたグラム殿下とは第二王妃の息子であり、ニーナにとって二人いる兄のうちの下の方である。
だが彼は気が弱く、周りにおだてられて威張ってはいるもののここまで大胆な行動ができる人物ではない。
「恐らく、宰相グリムバルト…という事は第一師団だわ。
この時期に仕掛けるなんて、馬鹿な真似を考えるのはアイツよ」
「参ったな、隣国との諍いがあって僕の影響が及ぶ第三師団は居ないからね」
「どう思う」
「それは僕等を殺しにきたかどうかってことかな」
「そうよ、降嫁したといえ、貴方は公爵家遠いけどそれでも継承権があるし、私と貴方の子供なら…」
「かなり危ないってことかい」
「どうかしら、第三騎士団を全て敵に回す気概があるかどうか…」
「どちらにしろリックに危険があるのは頂けないな」
「メアリー貴方にリックは任せるわ」
「姫様!」
「姫様と呼んでくれるのは久しぶりね、貴方の腕を信頼するわよ」
「命に代えてでも守り抜きましょう」
「本当は君にも逃げて欲しいんだけどね」
「フフ、駄目よこんな時に貴方だけ行かせる訳にはいかないわ」
「仕方がないね、君だからそう云うのは判ってたんだけどね」
「でしょ、諦めなさい、リックを逃がす為にも必要な事よ」
「なら、僕等が目指すのは王宮だね」
「そうね、この辺りの敵はなぎ払うとしても兄上が心配ね」
「いやこの状況だと陛下も危険だろうね。
領地なら父がいるけど、追ってが行く可能性があるな。
メアリー、これを。少しの間ならそれで足りるはずだ」
「ついでに非常用のこのセットをもっていってね」
「はい、では御無事で」
「フフ、この王国最強の二人よ」
「そう簡単には負けれないさ、まだリックと喋ってないんだ」
屋敷の使用人を全員集めて指示を出す。当主が王家に救援に向かうのだ。
本来であれば屋敷の人間全員が討ち死に覚悟で従うところである。
だが、彼が命令したのは違った。逃げよ!ただその一言である。
可能であれば変事を領地へと知らせたいが、無駄に死人は出す必要は無いと判断したのである。
但し、息子の事に関しては一言も告げなかった。
そして家人達もそれは察したのだ。知っていれば危険なのである。
ルークの合図と共に扉が開かれた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「貴様等、ここをブラウン公爵家の屋敷と知っていての包囲か」
「ルーク・フォン・ブラウン公爵、勿論ですよ」
そういって現れたのは隊長格の男だった。
ルークの記憶では確かに第一軍団の顔ぶれにいた記憶があった。
「何故の包囲だ、理由を伺おう」
「とある方からの御命令でして、こちらにいらっしゃる方々には大人しくして頂かないと困るそうです」
「ほう、いまから俺と妻は王宮へ向かうのだ邪魔をしないで貰おうか」
「困りますなあ、必要があれば武力制圧も構わないと言われているのですよ」
「貴様ら如きで引退したとは言えど、俺と妻を制圧するだと」
「ハッハッハ、面白いわ、やってもらおうかしら、
【神炎雷火】」
詠唱していた魔術を途中で中断してからの発動である。
「数で押し切ろうだなんて、甘いわね」
「さて、それじゃ舞踏会と洒落込もうか」
「ええ、久方ぶりに」
ただの魔導師と騎士ではない、出会ってからというもの名目と称しては訓練の逢瀬を重ねた二人である。互いに切磋琢磨しながら最強と言われていた頃より強くなった二人が切り込んでいく。
初撃の魔術だけでほぼ全滅に近い被害を受けていた騎士団の連携は崩壊していた。
二人は集まる兵士をなぎ倒して、夜の宮殿へと駆けて行った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
リックが目を覚ましたのはメアリーの腕の中である。
隠し通路を使って王都から逃げ出したメアリーは一旦装備を整えるべく実家のある村へと走った。
『あれ、外なんて初めてでたけど、なんで走ってるんだ』
「坊ちゃま起きられましたか、流石大物になるだけはあります」
「アー?」
「ひとまず静かにしていて頂けると助かります」
『何だ…何かあったのか、メアリーが誘拐するとは考えられない』
「今、追っ手が居ないか確認しながら移動してるので…
必ず坊ちゃまは私が守り抜きます」
「………」
『追っ手だと、何があった…
判らないが静かにすべき事態か…』
何があったのかリックには不明だった。
だが守り抜くという事はメアリーは間違いなく味方である。
御伽噺をしてもらう時に聞いたのはメアリーが元は母の護衛騎士だったという事。王宮近衛騎士団でも腕の立つ一人だったと聞いている。リックは鳴き声は絶対に上げないと心に誓った。
「では、多少揺れますが御容赦を」
「アウー」
意志の疎通だけならメアリーが一番接していたのだ。彼女の中では既にリックが言葉を理解していると思っている。それ故に了解を得たとばかりに走り出した。
『おう、流石にこれは、きついな…』
日々鍛える心算で動き回っていたリックだからこそ耐えれたのだろう。でなければ間違いなく通常の子供が泣き出すレベルの移動速度だ。
途中の休憩の度に思わず溜息を吐きたくなったリックだが、今はメアリーが教えてくれる情報の方が大事だった。即ち、屋敷で何があって、今現在何処へ向かっているのかである。
まさか王都で反乱が起きているとは……
そして父と母が食い止めに向かったとは思わなかったのだ。衝撃的な内容ではあったが二人の強さを語るメアリーの事を信頼して一言も漏らさずに聞いた。リックの持つ常識からすれば無謀な行動である。たった二人で王宮へ向かうなど死にに行くのかと止めたい行動に他ならない。
「坊ちゃま、大丈夫です。
お二人は王国最強の騎士と魔導師です」
自信をもってこう告げたメアリーの言葉を一先ず信じ、少しでもメアリーの負担を減らす為に声を上げない事だけに集中したのだった。
『しゃべらないはずのリックが解説する魔術講座』
「パチパチパチパチ!」
『魔術は呪文や魔法陣を魔術文字や記号で作成して使う物だね。
メリットは間違えなければ事象改変能力より少ない魔力でも発動できる事、デメリットは応用が利かないと考えられてる事だね』
「事象改変能力より便利な気がします」
『万能か限定かで大きく違うからメリットデメリットはあるよ。
それ【に詠唱破棄】は高位術者にしか出来ないし、あれは事象改変能力と魔術が融合してるからね』
「そう考えると姫様は凄いですね」
『母上は女神だからな』




