第3話 最強の二人
『事象改変能力講座第二弾』
「一回目がそれ程じゃなかった気が」
『気にしたら試合終了だよ』
「はあ」
『イメージを体内魔力で発現させるのが魔法の醍醐味だよ、事象改変能力と言われる所以だね。属性も沢山ある火、水、土、風、雷、光、闇、生命があると考えられているんだ。
複合して発動するのは難しいくてB級以上の魔術や魔法になるよ。でも魔術と違って、威力だけであれば体内魔力をどれだけ使うかに左右されるからね。
ちなみに属性で判明してるのは、
火 魔素による温度変化
水 魔素を形質変化
土 合成整形
風 圧力
雷 静電気電圧のコントロール
これだけしか現在わかってないんだ、じゃあ次回は魔術だね』
「ドンドンパフパフ」
『ではまた~』
この子は素晴らしい才能を秘めている。
王宮魔導師だった私にはわかる。この子の魔力量が既に私を超えている事が。
王家の血を引く私と公爵家の血を引くルークの子供だからだろうか。
だが此処まで強い力を宿した赤ん坊は居ない。いや恐らく大人を含めてこの子の魔力量には敵わないだろう。
成長すれば間違いなく王宮魔導師の長を務めるだけの器がある。
別に私の後を継ぐ必要もないが王家の者に連なる血を持つ者ともなれば好きに生きるのは難しいだろう。
いや、いっそ冒険者にでもなると国を飛び出た方がこの子にとっては将来が開ける可能性すらある。
「リック、貴方は将来何になるんでしょうね」
眠る愛しい我が子に語りかけながら、彼女は国を憂いていた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
現在の国王には七人の子供達がいる。ニーナも其の一人で昔は第一王女であった。王が目に入れても痛くないと可愛がった彼女であるが、お転婆で自らの才能の赴くままに過ごした結果が王宮魔導師の長になるという始末だった。王女だから特別に任されたのではなく、歴代最強と言われる程の腕前で、推薦をしたのは前王宮魔導師長でニーナの魔術の師でもあったヘリアルである。
そんなニーナが自分よりも強い人間に出会ったのだ。
当時の王国軍第三軍団、騎士団長ルークである。最高の騎士で公爵家の長男のルーク。舞踏会などで顔は知っていたが王宮での詰まらぬ噂が切っ掛けだった。歴代最強の魔導姫でも王国最強の騎士には敵わないといった一種の嘲りである。
貴族からすればニーナの宮廷魔導師長就任など、王族としての特別扱いだと思っての発言であり、真実を知るものからすれば馬鹿らしい中傷に他ならない。笑い話としていれば良いのだがニーナとしては許せない発言であった。上に兄二人、下には妹達と弟達が居たが年の近い妹達は既に結婚をして国外に嫁いでいるか婚約をしていたのだ。弟はたった一人、10歳も年の違う子がいるだけである。
第一王妃の2人目の子供でもある自分は兄を助け国を助けるが為に王宮魔導師になり、実力が認められたにも関わらずの侮辱である。
勝気な性格のニーナは噂を聞いた怒りもそのままに第三軍団の訓練場へと乗り込んだ。
目的の人物を見つけ、そして言い放った。
「ルーク・ブラウン勝負しなさい」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ルークは書斎で本を読みながら彼の日の思い出に浸っていた。もう2年になる。引退した父より領地を譲り受ける事にもなっていたので軍団長を辞して領地に戻る為の準備期間の事だ。
「ルーク・ブラウン勝負しなさい」
突然訓練場に現れた第一王女が宣言したのである。どうして勝負の必要があるのか、ルークには全くもって理解が出来ない。
しかも部下が大量にいる前で挑戦されてしまっては下手に回避する事さえ封じられているのだ。先ずは事情を聞かなくてはならない。部下と問題でも起こしたか。それとも何か知らぬ間に不敬でも働いたか。
「ニーナ殿下、失礼ですが何故決闘の必要があるかお教え願いますか」
「決まってるでしょ、私か貴方どちらが強いか決めるのよ」
「殿下、私の剣は国王陛下を始めとして王族の方々を守る事を誓っております、その王族の方へ剣を向ける事は出来ません」
「私が許しているのだからいいのよ、だから勝負を受けなさい」
困ったルークは何とか誤魔化せないかと思案した。しかし妙案など一切浮かんでこない。剣を捧げた相手が勝負しろと言うのだ。断っても不敬に…しかも実力ある魔導師だと知っているだけに性質が悪い。
「では訓練という事で宜しければお受けしましょう」
「いいわ、勝負は勝負よ、手加減抜きで掛かってきなさい」
互いに距離を取り勝負が始まった。
初撃はニーナの魔術である。詠唱破棄から繰り出される火炎の攻撃が放たれた。並みの魔導師では1発しか放てない攻撃を同時に3発放ったのだ。それだけでどれだけの実力か判るというものだ。
方やルークは落ち着いて障壁を展開した。騎士であっても魔術の習得は必須である。剣術の腕前だけでなく魔術の才能まで含めた最強の騎士と呼ばれるルークの障壁は土の壁である。3方向からの攻撃を全て吸収した。
ニーナとしても一撃で決まるとは思っておらず続けて水弾を発射する。慌てて回りにいた騎士達が障壁を展開する程の乱発である。
そしてここで初めて呪文を詠唱し始めた。
「雷の理、稲妻の剣、千里を貫く刃となりて我が力となれ。火の理よ、神の鉄槌たる裁きの時を知らせよ。」
信じられない事に人には扱えないとまで言われた破壊級魔術である。
見守っていた騎士達も詠唱を聞き出した途端に我先にと逃げ出していた、実力のある魔導師が態々詠唱までして放つ魔術である、命が大事なら逃げ出すか防ぎきるしかないのだ、だが詠唱しているのは王国最強の魔導師である、逃げる以外に選択肢はなかった。
「【神炎雷火】」
唯一人だけ逃げる事の敵わなかった人物がいる。ルークだ。
彼ももまた詠唱をしていたのだ。
「水の理よ、大いなる加護を示せ【水壁】、水の理よ、大気に潤いを齎せ、【水霧】」
発動したのは同時、そして上手だったのはルークだった。ニーナは水弾を打つことで周囲に水の結界をつくってルークの動きを封じる心算だった。だがルークは自らの周りには水壁を作り上げて防ぎ、さらに空気中に霧を発生させて雷を放電させて威力まで弱めたのである。直後に彼は霧に隠れて飛び上がりニーナの背後を突いた。
「殿下、お見事ですが後方が危のう御座います」
「負けね」
いや、あの時にニーナは攻撃も出来たはずだ。あの最後はお互いに互角といっても良かっただろう。
それからは急展開だとしか言いようがないな。
たとえ公爵家といえど第一王女を降嫁させるなど滅多にない事だ。
だがニーナは王位継承権を破棄する事をあっさりと決めて国王へと嘆願し半年後には婚約、そして結婚となった。
それこそ死ぬ覚悟をしたほどの決断だった。
下手をすれば国王の不興を買う行為なのだ。だが人となりを信頼されていたルークは結婚相手として認められ、国外へと嫁に出す必要もなくなったと逆に王から感謝されたのだった。
今思い返しても恥ずかしい遣り取りをした思い出がある。
切っ掛けが真剣勝負に近い最後の見つめあいである。
ダンスに興味もなかったルークは舞踏会に顔は出しても壁際の案山子だった。身分的には王女とダンスをするだけの身分だったが興味もなければ近くで顔を見るなど無い事だ。
まさに一目惚れだった。しかもお互いにである。
リックが聞けば吊橋効果だろうと言いそうなぐらいの突然の恋。
訓練と称した逢瀬を重ねて…
そこでルークは回想から意識が戻った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
それは突然の出来事だった。
屋敷が何者かによって包囲されていたのだ。
ルークもニーナも最強と呼ばれた二人である。
異変に気がつくと直にリックの部屋へと向かったのだった。
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