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第29話 お受験騒動

 リック達は見事にカルロスを振り切ってカロン帝国へと到着していた。

 目的地であった魔法学院がこの帝国に存在する。当然カルロスもこの帝国、そして魔法学院への入学を目的としている訳で後々再会するのは間違いないのだがリックの知らない事であった。


 到着早々にリックは何時もの如く冒険者組合(ギルド)に顔を出して暫くの滞在だけを告げておき、宿を手配してから街を散策することにした。


 流石大陸で一番大きな国の首都ともなると、市場の賑わいは他の国とは比べ物にならない規模であった。

 東西から集められた品々も多く、貿易によって齎された他の大陸からの輸入品などは祖国に比べても量や内容などが違っていた。


 魔法学院のある都市だけあって魔術商店などの品揃えも豊富で魔術書なども大量に展示されていた。

 残念な事に棚に並ぶ物が全て知っている物だったのだがCクラス魔術以上ともなれば国の主力となりうる規模の魔法であるために一般市場で流れないのは当たり前の事であるとも言えた。


 リックの目的はBクラス以上の魔術の習得と、魔法の習得であるため興味としてはどちらかと言えば後者の方が優先である。


 ただ、魔法ともなれば使い手が完全に限られているのが現状で、ユーザーの居ない商品というものは市場に流れないのも致し方ないのであった。


「すいません、魔法書は取り扱ってませんか」

「魔法書かい、あれはウチじゃ取り扱ってないね」

「そうですか」


 3軒目で店主に尋ねてみたがやはり扱いは無いらしく、市場に流れるとしたら、古書の類を扱う所にならあるかもしれないと教えられたのである。礼を述べてリックは早速古本店を巡り始める。


「うーんやはりないな」

「お兄様市場に流れて来ない物なのかもしれません」

「明日から私たちも別々に探す」

「私たちも協力させてください」


 まあ協力は嬉しいのだが流石に3人をバラバラに行動させるというのはいくら帝国という多種族容認国家といえど危険である。それに魔法学院にさえ合格すれば勉強はできるのである。

 リックは3人に有り難うとだけ伝えて宿へと戻る事にした。


 翌日、リックは試験を受けに魔法学院へと訪れていた。試験は一定期間行われ合格すれば翌年度からの入学が認められる。特別に才能がある者などが他の大陸から推薦状を持参した場合も試験を受けて編入扱いでランクに応じた学年へと振り分けられるのである。


「えっと、君が受験者なの」


 受付の女性は少し驚きながらも受験資格証を確認していた。間違いなく帝国発行の物であり特例入学試験受理の文字の上に刻印がされていた。勿論本物であるためリックは平然と受け答えをしているのである。


「それで、本日試験を受けたいのですが」

「では会場になっているのはこの横の建物に沿って歩いていった先の訓練施設です」

「ではお兄様頑張って行ってらっしゃいませ」

「ご主人頑張って下さい」

「リック様合格お祈りしております」

「じゃあ屋敷の軒頼むね」

「任されました」


 3人はこれから共に過ごすための屋敷を手に入れるべく護衛のレビン達と街を回る予定である。寮もあるのだが流石に侍女3人に護衛2人を連れて乗り込む事は出来ない。王族などの学生も多い為にそういった為の屋敷や家も貸し出されているので、見学がてら調べて貰う事にしたのである。


 訓練施設で行われる試験だが実際にそれ程の事をするわけでは無い。まず魔法自体が一般的でなく、魔法を教える学校など少ないのである。10歳からの入学条件になっているのは、少年時代にまず魔術学校へと入学し、Cランクまでの魔術を使えるようになった者がこの学校へと進む為なのだ。

 試験は次のように決まっている。

 魔術発動試験:攻撃、防御、補助の三つで最高の物を使用する事。実際にCランクの魔術が使えるかどうかが問題にされているのでこの三種の内でどれでも良いとされている。

 魔力量検査:これは後々のクラス訳に必要な行為である。魔力量の多い少ないで伸び城が判断されるのだ。

 体力測定:意外かもしれないが魔法は肉体の強度なども必要とする物である。補助魔法などはこれを補う事もできるのだが、基礎の体力ともなれば把握する必要がある。

 魔術理論試験:これは筆記にてどれだけの学力があるのか、魔術に関する設問のみで構成されている。


 先ずはこの訓練施設で発動と魔力量の試験、そしてグラウンドにて体力測定、その後校舎にて筆記試験となる。勿論最初のCランクの魔法が使えなければ試験終了である。


「なに?

 君が試験を受けるのか」

「はい、勿論です、これ受験票です」

「うむ、ではあの的に向かって君の使える最高の魔術を発動してくれたまえ」


 試験監としてもどこかの王族や貴族がごり押しで試験だけでも受けさせに来たのだろうとリックを見ていた。そして軽い気持ちで馬鹿にした態度を見せずに淡々と告げたのである。ある意味王族のごり押しは間違いではないし、Cクラス発動を見極める試験だから最高の魔術と告げたのだ。


「あの的はいいのですが…

 その先の防壁だとちょっと危ないですよ?」


 そう呟いたリックの言葉など何をこの子は言っているのだと思いながら試験開始の合図をした。


「始め!」

「うーんまあいいか最高の魔術か…まだアレは安定しないしな」


 ここでリックの言ったアレとはAクラスの魔術であり、そもそもがこのような場所で発動できる魔術ではないのであるが、最高と普通にいわれたら発動させかねなかった。どちらにせよ同じ様な結果が待っていたので意味は無いのであるが…


「雷の理、稲妻の剣、千里を貫く刃となりて我が力となれ。火の理よ、神の鉄槌たる裁きの時を知らせよ」


 聞きなれない呪文の詠唱に何を唱えてるんだと試験監は思った、この試験監は魔法は使えても魔術に関してはCまでしか使えない人物だったのである。それがこの後の悲劇に繋がったとも言える。彼がもう少し魔術に詳しければこの呪文の発動内容を正確に理解していたからである。雷の呪文の後に続けて火の呪文が続いた時点で中止にすべきだったのである。


「【神炎雷火ライトニング・ブラスター】」


 放たれた閃光は的を消滅させて防壁をぶち破り先にある障壁で若干の威力を落としながら土の中を抉りぬいたのであった。


「やっぱりあの防壁ぐらいじゃあぶないですよ?」


 ならば使うなという所であるがリックとしては最高の魔術と言われてこれでも一ランクは下げたつもりである。仮にも魔術を使う事を想定しているのだから問題も無いだろうと思った事と刳り貫かれた地下部分が訓練施設となっていたので安心して放ったのである。最高の魔術を放たないで試験失格とされて入学出来ない事になっては困るからという対応だったに過ぎないのだ。


 だが結果として訓練施設の一部破壊という惨事である。的は勿論消滅、Bランクの魔術は次元が違いすぎるのである。


 余りの爆発騒ぎに教員が詰めかけて、呆然としている試験監に質問がされ始め、横にいる少年については放置となっていた。後から来た者達にはこのような事態を少年が引き起こしたと理解出来なかったのである。


「あの、これ僕の魔術だったのですが」

「「「え?」」」

「ハハハ何を言ってるんだい君は」

「そうよ、こんな爆発なんてBランク以上の魔術なのよ」

「教授クラスの魔術なんて、ハッハッハこれは面白い」


 自らの出来無い事を子供が成す筈が無い、そう決め付けた教員達はリックの言葉を信じなかったのだが、その時に現れた人物がリックに近づいて尋ねた。


「ふむ、君がリック・ブラウン君だね」

「はい」

「なるほど、ならば間違いはないと思うのだが…

 発動はさせなくても良いので呪文だけを喋ってみて欲しい」

「雷の理、稲妻の剣、千里を貫く刃となりて我が力となれ。火の理よ、神の鉄槌たる裁きの時を知らせよ」

「ハッハッハ、これは参ったな本当だったのだなあ。

 さては試験監に最高の魔術を放てと言われたのだろう」

「ええ、最高の魔術を放てと言われたのですが、

 一応防壁の強度については確認しましたよ?」

「うむ、まあCランクが放てるかどうかを見極める試験だからな」

「なるほど、申し訳ありません」

「いやいや、謝る必要などないよ、よしこれで君は合格だ」

「え?」

「フハハハ、済まないな名乗るのが忘れていたよ

 私はマリエール、この学院の理事兼校長だ」


 豪快に笑いながらリックに名前を告げた人物こそが、学院の設立者の一族にして現校長だったのだ。

 マリエール・フォン・ブルースト、豪快な女性であり、リックと最強の師匠との邂逅であった。

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