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第28話 魔細胞生命体

「少なくとも貴族に君たち(精霊)を見せる訳にはいかないな…」

「お兄様とちがって欲望の塊が多いですし、

 今回も原因そのものは貴族ですからね」

「では私たちは姿を隠して援護に回りますので、

 フィーナの魔術に見せかけましょう。

 お願いするわね、フィーナ」

「任せてください」

「じゃあ先ずは明かりを準備しないと、アヴローラ助かったよ。

 ルナも斥候有り難うね」


 リック達は礼をいうと姿を隠す前にアヴローラは【灯光】(キャンドルライト)の魔術で周囲を照らした。


「じゃあ、斬り込むよ!」


 進めば直に魔地蜘蛛ウィベチュラとの戦闘が待っているのだ。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆




「ああ、神よ、もしも助かるなら今までの生活を改め才能に溺れず努力します。この才能ある若者を見捨てないで下さい」


 などと意味不明な戯言を言い出した主筋をみて兵士達はついに若君も気が狂ったかと思っていた。ちなみに気が狂っていたのではなく、カルロスは真剣に神へと祈っていたのであるが不憫なので省略する。


「ギチチチギッ」


 牙をかみ合わせながら会話した魔地蜘蛛ウィベチュラがカルロス達のから離れていったのである。


「おお、僕の祈りが神に通じたのか」

「若、静かに、何処かで剣戟の音がしています」


 流石に静かにしろとは言わずに諌めたのは護衛隊長である。もしかすれば本当に助けが…


 まさか背後から新たな脅威が迫っているとも知らず彼等は一縷の望みを持ち始めていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 カルロスが見当違いな祈りを捧げていた時には既にリック達は魔地蜘蛛ウィベチュラを屠り続けていた。地下迷宮(ダンジョン)内部なので本来は火で焼き尽くせる所を切り刻んで対応していたので多少時間が掛かっていた。しかしウィニアの助けも得ながらの戦闘は圧倒的にリック達の優位に動いていた。


 魔地蜘蛛ウィベチュラは体長が6スムを超える巨大な蜘蛛が魔素変異を起こしたものである。

 口から吐き出される糸には神経毒が染み込んでいて強靭、牙は鉄さえも噛み砕く。

 8本の足には鋭い爪と棘がある。

 動きもジャンプを繰り返して移動するのだが溜から繰り出すそのジャンプは非常に強力で素早く、森林での遭遇の場合は遠距離から火炎で焼き尽くす事が推奨される程である。


 ただし、魔地蜘蛛ウィベチュラは他の昆虫系の魔蟲と違って甲殻を持っていない。魔蟲によっては剣戟を弾く防御力を誇る甲殻を持た無い事だけが唯一の弱点だった。


 そして風の刃を使いこなすリックやフィーナはまさに天敵と言える存在であった。ウィニアの力も借りてリックとフィーナは魔地蜘蛛ウィベチュラの接近を許さずに次々と切断していったのであった。


 脅威を覚えた魔地蜘蛛ウィベチュラは増援を求める鳴き声を放ったのであった。無駄な足掻きになるなどとは流石に魔素変異をしていても獣程度の知恵しか付かず逃げるという選択肢は生まれなかったのであった。そしてその為にカルロス達の死亡時期が遅れたのである。


 次々と物量で圧倒しようと迫った魔地蜘蛛ウィベチュラであったが通路全体をなぎ払うような真空の刃からは逃げる事も出来ずに次々に切り裂かれて全滅してしまったのであった。


 実際にリック一人ではここまで圧倒的には倒せなかった程の数であったが、詠唱が必要な間には必ずフィーナがウィニアと共に押さえ込み、そこにリックの魔術が炸裂するのである。


 余りのコンビネーションの良さにエリーが危機感を覚えた程である。その日からエリーゼの特訓メニューが更に強化されたのは言うまでもない。


 リック達が餌として閉じ込められているカルロス達の部屋へと入ったのはそれから間を置かず倒した直後だったのだが、地下迷宮(ダンジョン)の奥から人の歩み程度であったが怪物といって相応しい魔物が近づいていたのだった。


「貴様!早く助けぬか!」

「リック様これが例の…」

 馬鹿な貴族とはさすがにエリーも口にはしなかった。

「そのようだけど、これは参ったな」

「この僕を誰だと思ってるんだ!」


 想像以上の馬鹿《貴族》である。


「リック様、助けなければならぬのなら早く致しましょう、

 Cクラス以上の地下迷宮(ダンジョン)で魔物にでも出られれば…」

「そうだね、先ず護衛者の人から優先で、この人は僕がしよう」


 そういうとリックは蜘蛛の束縛の糸を全ては切らないで縛ったままの状態で壁から切り離したのである。


「おい、小僧!

 早く拘束を外せ、逆らうと酷いぞ」

「この中で一番偉い立場の人はいますか」


 カルロスの言葉を完全に無視しながら、兵士達に向かって問いかけた。勿論カルロス(馬鹿)を除いて一番偉い者はだれだと聞いたのである。多少騒がれても問題はなかった。


「私が護衛隊長を務めている」


 明らかに少年であるリックの問いに困惑しながらも疲労困憊の男が答えた。


「では、この人を抱えて即座に地下迷宮(ダンジョン)から脱出をして下さい。

 今なら此処までの道のりに敵は居ません」


 喚くカルロスをリックはそのまま護衛隊長に渡した。


「君たちは…」

「貴方の部下の方々は残念ながら助からないでしょう、

 せめて止めを刺してあげないと…

 孵化した幼虫に体内を食い破られる苦しみが待つだけです」

「すまない」


 護衛隊長は喚くカルロスを担ぐとそのまま外へと向かおうとして後ずさったのである。


「こ、これはまさか…」


 部屋の出入り口は一つ、そして現れたのは魔細胞生命体(ウィゼルアニア)だった。


 物理攻撃が一切聞かない騎士殺しと言われる魔物である。


 敵をみつけると体の一部を飛ばして粘着しそこから侵入する寄生種や、酸などで溶かしながら栄養吸収する酸喰種など様々な種が存在するので特徴は対戦するまで不明であり全てを魔細胞生命体(ウィゼルアニア)と呼称しているのだ。


「ハッ、何をビビってるんだこんな奴ぐらいに」

「これには剣が一切効かないんですよ!」

「ならば僕が魔法で吹き飛ばしてやるさ。

 火のこと、ワブホォ」


 容赦なくリックの拳がカルロスの顎を打ち抜いていた。


「貴様なんて事を!」

地下迷宮(ダンジョン)は爆発の可能性もあるのだ、

 それを止めない馬鹿がいるか、愚か者が」


 5歳の少年に説教をくらう護衛隊長は全く気が付かなかったらしくただ唸るのみであった。

 カルロスは白目を剥いて気絶しているが放置である。やっと静かになったという思いもあったのは隠せない。


「だが、まずいな」

(ウィニア爆発の可能性までは調べられるだろうか…)

(流石に爆発物かどうかまでは)

(そうだよな)

「閉じ込めて退避だ、いくよ!

 【石壁(ロックウォール)【石壁(ロックウォール)【石壁(ロックウォール)【石壁(ロックウォール)【石壁(ロックウォール)

 走って!」


 流石にDクラスの魔術と言えど連発する上に完全に閉じ込めるのは精神的にもイメージを司る脳にも非常に厳しい物である。といえど精霊の力を公にするよりはと無理をしたのである。


 出入り口にも【石壁(ロックウォール)】を厚く仕掛けて護衛隊長達が出口に向かってから鉄の防壁にテッラに頼んで作り変えさせた。別室にいるであろう卵を寄生させられた兵士達の所へ向かう必要があったのである。まだ卵を植えつけられる際に麻薬成分が注入され意識が無い状態なのが唯一の救いだっただろう。

 リックは一面を真空の刃で切り刻むと本来であれば自ら荼毘にしてやる役目をフレイに頼んだのであった。


 魔地蜘蛛ウィベチュラの牙と糸を出す器官のみを回収する。残りはフレイに燃やしてもらえばいいのである。


 地下迷宮(ダンジョン)から抜け出した一同は全員で都市へと帰還した。

 殴り飛ばした事については護衛隊長も何も言わなかった。何故なら実際に魔術を発動するとしてフレイには一旦戻ってもらってから放り込むと大爆発が起きたのである。地下迷宮(ダンジョン)魔蟻(ウィランツ)達の分泌液で強化されている為に崩れなかったが、人間が先程の爆発に巻き込まれれば無事では済まないと理解していたのである。


 哀れなカルロスは失神だけでなく疲れから眠りへと移行した様子でもあったのでそのまま宿へと運ばれていったのだった。リック達も組合(ギルド)に救出の報告と地下迷宮(ダンジョン)のランクの違いの問題を指摘し、カルロス一行にその辺りは聞くようにと告げて討伐金などを受け取って宿へと向かった。


 翌日怒鳴り込もうとしたカルロスを押さえ込んだギルベルとという執事と、護衛隊長のマシューがリック達の出発前に礼を述べに訪れていた。そして馬車をみてからもう一度リックを見て納得がいったという顔をしていた。


「なるほど、貴方様がリック様ですね」

「ええ」

「私、カルロス様の従者長を勤めているギルベルトと申します。

 以後お見知りおき下さいませ」

「リックです、此方こそ宜しくお願いします」

「よかったです、カルロス様を連れてこなくて正解でした。

 これは褒章とは別にご用意した感謝の印です」

「それは亡くなられてた兵士のご家族へ差し上げて下さい。

 私では身元などわかりませんので…」

「そうですか、賜りましょう。では道中お気をつけて」


 リック達の馬車が出発すると、ギルベルトは呟いた誰にも判らない程の小さな声だったが、溜息を吐いた事だけはマシューにも判ったのである。それは恐らく主とあの少年を見比べたときの器の違いについてだとマシューは考えた。この考えは半分は正解と言えるだろう。だがもう半分は間違っていたのである。

 あの少年が間違いなく将来、いや現在において自分の国にとっての最大の敵だろうとギルベルトは見抜いたのである。それは長年主に仕えるという仕事をしてきた彼だからこそ見抜けた特殊能力といっていいものである。

 もし、少年がクルネヴィアや周辺国家の国王にでも納まれば将来地域一体のみならず大陸を収める器を持つと考え、この機会に死ななかったのも当然で、仮に死を願おうが無理な話だろうと、ギルベルトは納得してしまったのである。


 リック達を乗せた馬車はカルロス達より一日早く帝国へと向けて出発した。

 それを見送る老執事長は疲れとあのような主に仕えたいものだったという願望が見て取れるほどであった。

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