第25話 魔王と少年
リ「全く光輝人って駄目ですわ」
フ「仕方がない、それが業」
リ「嫌に達観してますわねフィーナさんて」
エ「お兄様の影響でしょう」
リ「ですが、その動じない心は気高い者のみが持ちえるもの、さすがリック様の侍女ですわ、オーホッホッホッホ」
エ「その笑いは恐らく…
フ「ホッホッホは……
リック様は嫌がる(ます)」
リ「ビィ…」
フ「フリーズです」
エ「その内起動します問題ありません
ああ、紹介がすっ飛びましたが今回は仕方ないですね」
光輝人と精霊の問題に一応の問題解決の目処がついたリックの下には、引き続いて問題が発生していた。
それも、焚き火の傍でウィニアと話し終えた直後の事だった。ガサっと草を分けるような音がした、音楽を奏でていなかった為に獣でも現れたかなと振り返ったリックの目の前には少女が立っていたのである。
着ている服は汚れていて、怯えた目つきをしている少女だった。顔も汚れている上に立っているのも辛そうな少女は後ろを振り返ると力尽きてしまったのかそのまま座り込むようにして倒れてしまった。
抱え起こそうとリックが近づくと茂みの中から小猿鬼が飛び出してきたのである。
素早い動きが特徴の獣と亜人の間にいるような存在である。
すぐさま抜刀したリックはそのまま居合いの型で一匹を仕留めた。
同時に【石柱林】を【詠唱破棄】で少女の周りに発生させて防御した。
悔しそうな態度でリックを取り囲んだが後方からエリーゼとフィーナ、ウィニアが加勢した事で一気に有利になり次々に小猿鬼は倒されていった。
流石に小猿鬼10匹相手にはリックでも手古摺るところであった。
小猿鬼を始末する間に少女の事はエリーゼとフィーナに任せる事にして、リックは小猿鬼の角を切り取ると穴と薪になる木切れを放り込んで風と炎の魔術で灰にしていった。
この時点でのリックの予想では少女は小猿鬼に攫われる直前だったのだと予想したのである。
少女に話もまだ聞いていないが、小猿鬼は人間の女性を攫っては妊娠させて人猿鬼を生み出すのである。そのターゲットとされた可能性もあるので旅の途中で襲われたのだろうと考えたのである。
すこし不審だったのは余りにも汚れた顔や手足、それにボロボロになって汚れた服であった。さらにかなりの空腹だったのか、他の要因があったのか崩れて座り込むように倒れた事と、助けが見付かったはずなのに見せたあの怯えた表情であった。
リックは流石に少女とは言えど女性の世話をするわけには行かないと、テントの前で事に備えるだけで待機しながら、少女の手当てと着替えが終るまで待っていたのであった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
翌朝になって意識を取り戻した少女は戸惑いながらも自分の体が綺麗になっている事と服が着替えさせられていた事に気がついた。物音で目が覚めた事を知ったリックが中に入ると多少は怯えた表情をしていたが、最初の時よりは幾分かは落ち着いた反応であった。
「よし、それじゃあ起きたらまずはご飯だな」
ぴくん、と体が動いた直後に盛大な腹の虫が返事をしたのであった。
リックが用意していたのは、スープを多めにしてパンを一緒に煮込んだパン粥と、摩り下ろしたアルプの実とワインを一度沸騰させたものに蜂蜜を入れたものであった。
パン粥の方は肉などの固形物は抜いてあった。長期に食事をしていない状態であれば体が受け付けないかも知れないと判断したのである。様子を見てから食事内容は判断しようと考えていたのだ。
少なくとも今回の食事内容についてはかなり満足のいくものだったらしい。
「有り難う、ご馳走様」
「どうだった、足りたかな」
「うん、足りた」
と言いながらもお腹が鳴ってしまったがこれは消化を開始した合図の様なものである。少し気まずそうにした少女にリックは質問をすることにした。
「えっと、先ず昨日の事を聞いておきたいんだ。
小猿鬼に追いかけられてたけど覚えているかな」
「うん」
「何処で追われることになったか判るかな」
「この森の向こう側になると思う、ずっと先の街道」
「ここから先の街道…じゃあ3日は掛かる距離じゃないか」
「そう、本当は死ぬのが怖くなって逃げてたの。
嬉しかった、私は死ぬべきだって言われてたの。
そして最後にこんな美味しいご飯が食べれたのだもの。
お願いです…
私を殺して下さい」
少女は寂しげな表情でそうリックに語ったのだった。
リックは未だにその殺して欲しいという理由すら判らないのである。はいそうですかと命を一つ散らせるモノではないし、生来優しい心根を持つ少年である。そして魂は士魂を宿しているのだ。
「まず、事情を聞いてから判断しよう」
必要な情報を得てから判断すればいいのである。
「あなたは私の見た目を気にしないのね」
「うーん、確かにちょっと珍しいとは思うけど…
色んな知り合いがいるからね、
ちょっと見た目が特殊な位じゃ驚いてられないんだ。
そうだ、僕の名前はリック・ブラウンだ、
先ずはご飯だと思ってさ、名乗り損なっていた」
気軽な雰囲気で応じるリックに悲壮な雰囲気を打ち砕かれた上に、笑顔で名乗られてしまうと少女は戸惑いながらも自分の名前を名乗る事にした。
「えっと、私はアリソン・マクレーン」
「じゃあアリーでいいのかな」
「うん、友達だった子は皆そう呼んでくれてたわ」
「よろしくアリー、これで僕も君の友達だ」
「あ…」
知らない間に彼女の頬には涙が流れていた。自らを殺してくれと頼む少女に友達だと名乗る少年。
そしてこの出会いはリックにとってもアリソンにとっても重要な物となるのだった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
アリーが落ち着くまでリックは考え事をしながら待つ事にした。
見た目が違う事を気にしていた事、一番にているのはアヴローラである。となれば光輝人になるのだが、特徴と一致しない。あえていうなら髪の色はリックに近いほどの銀髪である。そして透き通るような白い肌に青と金を混ぜた瞳。目の色の違いを除けばそれこそリックの兄妹でとおりそうな感じである。
(ウィニア、僕は神族の血が濃いといっていたけど、
この子はどうかな、凄く似てるんだけど)
(確かに、私の記憶にある神族と似てますわ、
ですが神族は既に純粋な族は存在していないのです)
(となるとどういうことかな、この子は王族かな)
(王族でもここまでの血の濃さが現れるなど…
それこそリック様意外には考えられません)
仮に何があろうと罪がこの子に無いのであれば全力で守るというのが男であるとリックは考える。
それは魂からの影響なのかそれとも母や家族を救う事に5年を費やした少年故の決断なのかは判らないが、死なないといけないとまで悲しむ女の子を放って置く事など出来ないの少年なのだ。
「それで、私の事なんだけど…
私を捕まえた人達は魔王だって言ってたわ」
「アリーが魔王?」
「それに村にいた旅の魔術師もそう言って叫んでいた」
「魔術師がそんな見分けなんて出来るかな」
「でも、私意外の村人は…
私の姿がこうなった時に全員死んでたのよ。
父さんも母さんも、カイルやシンディー、ケイト叔母さん…
皆死んだわ…でも私だけが生き残ってるの」
「だからと言ってアリーが魔王だなんて証拠は為り得ないよ。
辛いかも知れないけど、原因を考えてみよう」
「原因?」
「そう原因だ、何故君意外の村の人が死んだか、
そしてアリーが生き残っている原因だよ」
「私が魔王だからってことじゃない原因ね」
「そうさ、まずアリーは言ったよね、
『私の姿かこうなった時に』って。
じゃあその時他の人はどうなったのかな」
「判らないわ、皆魔物みたいになって死んだもの」
「魔物…魔獣とか大魔猿鬼何かじゃなくて、
魔物に似ていたって事は悪魔化…」
リックはアリソンの語る症例が知っている話に酷似している気がしていた。世の中には獣などの動物、そして魔獣や猿人そして魔物が存在するのだが、人間が魔素を取り込んだらどうなってしまうのか、悪魔の実験と言われる事件の話に似ているのである。その研究は魔獣研究者の一人であった操魔人によって引き起こされた事件として記録されているが、軍事国家による実験であったのではとも言われている。恐怖物語としてDr.ファルケンに連れて行かれるぞと、子供を大人しくさせる為に語られる物語の元ネタとして伝わっている。
内容も魔素の吹き溜まりに人間を放り込むことで魔物のように変貌を始めたが肉体が変異に耐え切れずに融解して死亡したというおぞましい物だったはずである。
疑問が残るのは、村に魔素の吹き溜まりなどできれば全員が気付く筈である。魔素の塊は瘴気と言われる程になり視認することができるようになるし、そうなれば魔物が誕生する可能性だってあるのだ。
素早く討伐の依頼をするのが当然である。
「当たり前だとは思うのだけど、
その直前に瘴気の渦とかは見てないよね」
「当然よ、あんな物がもしあったら気がつくわ」
だがもしもアリソンが気が付かない時に魔素変化を起こして、それで村人が死亡したのだとしたら、アリソンは魔素変異した初の人間という事になるのではないか。
「一つだけ仮説はある。だけど非常に危険な話だ」
「聞かせて、可能性があるなら私は知らなければいけないの」
「アリーは魔素変異した可能性がある」
「それって魔獣の話よね」
「うん、Dr.ファルケンの話を知っているよね」
「よくお母さんやお父さんに言われたわ。
早く寝ないとDr.ファルケンに連れて行かれるぞって」
「実はあれは実話の部分があるんだ。
そして死んだ村の人達と死因が酷似してる」
「でもあれって、悪魔の実験台に…」
「そう、悪魔の実験台にと攫われた子供達が死んじゃう話。
実際にあってDr.ファルケンは処刑されている。
そして実験の内容は人間の魔素変異化実験だった」
「それじゃ…私」
「うん、恐らくだけど間違いはないだろう、
唯一生き残ったアリーは魔素変異に耐えたんだ」
「そんな」
「でもね、考えてごらん、それで人を殺せるかい」
「無理だわ…」
「だろ、それに色んな説があるけどね、
人族を含む全ての種族は元は一つの種族で、
大昔に枝分かれしたと僕は考えているんだ。
でそれを知っているだろう人物を知っているんだけど…
どうかなウィニア」
「ご存知というかそう考えられた事が素晴らしいですわ。
記録にも残っていない筈ですが」
「え?」
突然実体化を伴って現れたウィニアにアリーは目を丸くする。
「初めまして、私はウィニアと言って風の精霊です」
「え?えっ?」
「驚かせてごめんね、僕と契約している精霊なんだ」
「でもリックって髪は銀色だけど…
ってよく見たら私にそっくりだわ。
でもだからって精霊って光輝人じゃないわよね」
「僕はこれでも人族だよ」
笑ってリックは説明を始めた、偶然にも精霊と契約する事になった事も、そして自分の旅の目的から始まりに至るまで時間を掛けてアリーに伝えた。
「じゃあリックって、場合によっては王様だったんだ」
「うーん、どうかな、その可能性はかなり薄いよ。
お母様は降嫁して結婚し訳だから継承権は返上してる」
「ああ、でも貴族様か、御免なさい呼び捨てになんて…」
「そのままの方が気楽だからいいんだ、貴族なんて言ってても僕はまだ5歳だよ」
「え?」
「どうしたの」
「だって少なくとも私より年上だと思ってたから」
「リック様は落ち着いていらっしゃいますからね」
「そうだっ、ウィニアさっきの事を踏まえて考えるとどうかな」
「といいますと?」
「アリーの原因は魔素変異じゃないかと思うんだ」
「そう考えれば、可能性はあります。
光輝人の始祖や神族に似ている容姿になったと言えますね」
「じゃあアリーが原因で村が全滅なんてのは」
「ありえませんね」
「という訳だよアリー」
「じゃあ私は悪くはないのね…でももう誰も居ない」
「僕らが居るじゃないか、言っただろ友達だって」
「でもリックは貴族で」
「友達に身分の違いは関係ないさ、
まあ働くと言って聞かない友達もいるんだけどね。
そこで成り行きを見守っていたりもする」
「「「あ」」」
「皆気になっていたんだ、紹介しよう、
僕の新しい友人のアリーだよ」
ぞろぞろとエリーゼを筆頭に全員が現れたのである。ある意味似た者だらけであった。いつ出て行こうかとタイミングを見計らっていたのである。
順番に挨拶をしていくと、精霊が合計で7人も居る事に驚いたアリーだったが、その事を告げると全部の精霊と契約作業中と聞かされて更に困惑してしまった。
そして、一緒に旅をしていこうという事になったのであるが、ここでアリーも働くと言い出してしまったのである。元は宿屋の娘であったアリーからすれば只で置いてもらう気など初めから無かったのである。
こうして何故かまたもや侍女見習いが一人増えて、リックの旅は続く事になったのである。
その日を最後にアリーは涙で死を望まなくなった、微笑みで皆と共に過ごす事を選んだのだった。




