第23話 光輝人
「この図鑑にはホント沢山載ってて面白いんだけど、登場させられるのも少ないなあ」
「そうですね、でも人物じゃなきゃいいんじゃありませんか、お兄様」
「そうすると3話分ぐらいになるらしいから今回はしない予定で前書きがあるらしい」
「やはりそれはあの人からですか」
「そう、だから登場した動物だけ登場させていくよ」
「では今回は大狼ですわね」
「そうしよう、何回か討伐してるしね」
大狼
ベトッグよりも体格も大きい
牙を持ち群れで行動する
通常の個体は大狼黒毛である
北に行くと銀大狼が存在する
鋼の低位で1匹対応とされている
ギルド買取価格
皮1200 牙900 討伐1000
「これを見る限りはお兄様のランクですと楽勝ですね」
「まあ目安ではあるけどね」
「本気でやれば今だとどれ位まで可能ですか」
「どうだろうなあ、でも魔狼は何とかなるけどそれ以上は魔術のみでどうにかできるレベルかなあ」
「たしかにBクラスの魔術なら何とかなりますわ」
「でも詠唱まで考えれば実戦投入は難しいんだよ、もっと強くならないとね」
カルロス一行が次の町へと急行した時には既にリック達の姿は無く、当然守秘義務を守る冒険者組合からは一切の情報は得られなかった。
カルロスからすれば獲物を横取りされた相手であり、しかも足止めをした一味だと考えている。相手の名前も判らないが王族の権威をもって冒険者組合を脅せばどうにかなると思っていたのだった。
しかし冒険者組合としてもリックは敵に回せない存在であった。それこそ小国の第一皇太子の息子を敵に回したとしても構わない程の人物だったのだ。既に冒険者組合の特別通信網でリックの扱いは最重要の情報として取り扱う様に指示が出ていたのである。
まず小国ではあるが獣人種差別を無くした事が一番に評価されていたのである。その次に内乱を実質上収めたという情報や国の発展に貢献した事などが評価され、此処最近の討伐状況とそしてエスタット、サラエノ両国からの報告なども考慮すれば最重要事項となるのも当然の対応であったと言える。
カルロスは地団駄を踏みしめて悔しがったが所詮は他国での活動であったし、冒険者組合を敵に回すほどまで愚かでもなかった。
「爺よ、必ずや今回の件調べるのだぞ」
そう無茶な命令を執事に告げてカルロスは宿へと向かった。野営などした事のなかった王族には野営地というのは寝心地も安心感も最悪の環境であったのだ。彼は悔しさを感じながらも睡魔には勝てず眠りに付いた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
街道の安全を回復させたリック達は組合で討伐報告と換金を行い、引き続き旅に備えるべく宿屋に泊まって翌朝には出発をしてしまっていた。
街道の杭を処理する事を忘れたのが偶然にもカルロスとの遭遇を逸らしたのである。だが仮にカルロスとリックが遭遇しても問題は無かったかも知れない。テッラが居ない状態で鉢合わせしても気が付く要素がなかったのである。冒険者組合で遭遇でもしない限りは互いに見知らぬ物同士である為問題が起こる事はなかったのだ。
そしていつもの様に出発したリック達の旅の速度は通常の旅人たちよりも数倍は早いのでカルロス達が追いつく事はまずありえないと言える。リックの音楽の効果でもない限りは街道で魔獣に襲われるのが通常に近いとも言えるのだ。そもそも獣達からして襲ってこない方が稀なのである。
そしてついにと言うよりはやっと光輝人達がこの光景を見て驚きと共に走り寄ってきたのであった。
光輝人は尊大であるとされている。それこそ一部の者などは自分たちを超える者はいないとさえ思っている者も実際に居るのだから全くの嘘ではない。ただ戦闘力は獣人種の方が優れているし、魔法も操魔人が優れている。そして鍛治なども闇輝人には及ばないと、冷静に判断して入る光輝人が大半である。ただ数が多く芸術などぐらいしか力を持たない人族よりは優れていると考える光輝人も多かった事や森を大事にする光輝人は人と余りにも関係を築かない種族だった為に誤解も多くあったのだった。
最初は賑やかな旅の集団だとぐらいに思っていた光輝人の若者達だったが、すれ違う瞬間に馬車の上にいる人物を見て固まってしまったのである。
流石に馬車の中は精霊が全員入るには少々狭く、全員が必ず集まる訳でも無いのだが、この日は入りきらなかったので、気を利かしたウィニアとアクアが馬車の屋根の上へと移動していたのである。
精霊の中でもお姉さん風の2人はこうして気を利かせる事があるのであったが、よりにもよって光輝人が通り過ぎた時に居たのがこの2人だったのは驚き意外のなにも光輝人には与えなかったと言っていいだろう。しかも光輝人がいたと気が付いた2人は笑顔をむけて手を振ったのである。
崇拝している精霊に手を振られて笑顔を向けられた若い光輝人が固まるのも無理はない。
だがハッと気が付いた光輝人達は猛然と走り出し馬車の前に立ち塞がったのである。
「「と、とまれえええ」」
仰天したのは馬車を操っていたレビンと護衛の為に馬にのっていたマークである。
そして急激に止まることになった馬車にのっていた面々も同様に驚いた。
屋根に乗っていた2人はふわっと魔法で事なきを得たが馬車の内部では実体を伴っていたが故に大混乱である。
流石にリックも後部座席から前方に飛び出したがアヴローラとルナがいち早く受け止めて居た。エリーゼとフィーナも同様に受け止められてはいたが全員が重なり合う大惨事である。
フレアは窓枠に座っていたのが災いして転げ落ちたが、軽く身を捻って着地していた。
テッラは床に座っていたのでそのままゴロンと転がりエリーゼを抱きとめながらフニャっといって押しつぶされていた。エクレールは持ち前の反射神経でフィーナを抱きとめたまでは良かったが楽器も抱えていたので十分な体勢を取れないままに一緒に転がっていた。
この馬車の中の事態までは判らなかったが投げ出されたリック達の悲鳴は聞こえていた為にレビンもマークも冷静には対応できなかった。突然馬車の前に飛び出すなど命を失っても仕方が無い行為なのである。
恐らくリックの改良した馬車でなければわき道に逸らして大惨事が起こった可能性もあったのだ。
ストッパーを完全なブレーキへと進化させていた為に急制動が聞いたのである。
レビンとマークは怒りを顕にしながら誰何した。
「突然馬車の前に飛び出すとは何者か」
既に剣も抜き放っているし、不審な行動に出れば切り掛かる心算であった。馬車を襲撃したと見做されても仕方が無い行為なのだ。
「吃驚した、ありがとうアヴローラ、ルナ。
お蔭で怪我をしなくてすんだよ」
リックが2人に礼を述べながら馬車を降りてきた。一応念のために武器も腰に下げていた。
「で何者なのかな、光輝人に見えるんだけど」
「貴様は何者だ」
「質問に質問で返されるか…余り宜しくはないね。
でもまあ、何者かと問うのなら流石に知らないでやったのか」
ある意味その問い自体が知りたい事の答えでもあった。リックをクルネヴィアの貴族と知っていて攻撃を加えに来たわけでは無いという事である。
「一応これでも其れなりの立場で旅の途中なんだが」
「貴様、人族の貴族か…
人族がなぜ精霊様達と共に…
む、ソイツはハーフ光輝人かっ」
フィーナも降りてきたのだがハーフを快く思わない光輝人は多い。純潔主義のような物があるのだろうとリックは考えている、そしてそれは事実でもあった。
「まさか精霊様がいるのはそのハーフ原因かっ。
答えろ人間」
余りにも尊大で無礼な態度である。人の上下には余り拘りもないが、ハーフを蔑んでいるのが言葉からも判るし人間と嘲り呼ぶのも頂けない。
「控えなさい」
「愚かな若者よ、貴方達は何を勘違いしているのでしょう」
そこに仲裁にはいってくれたのは精霊達であった。実際には仲裁というより慌てて間を取り持ったに近いのであるが…
光輝人の里でも、いやアルヴヘイムでさえ実体をともなった精霊になど遭う事は出来ないのである。薄く半透明な状態が精々であって実体を伴った精霊が現れた記録は遥かな昔にのみ残されているだけである。
「勘違いをしてはなりませんよ、私達は己の意思でこの方と共に契約しているのです」
「我等を崇めるのは光輝人の勝手でもあるが…この行為はいただけないなあ」
「まったく、頭を打ったのです」
「困った人達ですねえ」
ここまで精霊に言われてしまうと光輝人の青年達は訳も判らなくなって混乱に陥った。
まず精霊達が契約しているのが光輝人でもハーフでもなく人間の貴族であった事。これは考えもしなかった事であった。しかも少年である。そして契約していると言う事実も驚愕すべき内容だったのだ。しかも上位の精霊と考えられる7体全てが集合している上に、実体を伴ってこの場に居たのである。
精霊に無礼を働く事も考えられない光輝人達は何をどうすればいいのかさえわからなくなってしまった。そんな時に、少年が告げたのは怒りを込めた勧告だった。精霊達が慌てたのはこの怒りを鋭く感じていたからである。
「まず光輝人の方々、僕は基本的に争いは嫌いだ。
だけど、自分達を種族として貶されたりするのも許せないし、
フィーナの事も僕の友だ、まずハーフであると嘲ったその態度、
非礼に対する謝罪を要求する。
そして自らを優れた種族であると言うのであれば、
他人を見下すその態度をやめた方がいいと警告しておく。
次に僕の友人を嘲る事があったら許さない」
リックは温厚ではあるが、それよりも仲間に対する情も深いのだ、それが怒りとして光輝人に向けられたのである。
そして本気で殺意まで込めたリックなど一緒に暮らしていたエリーゼさえ知らなかった。母親を救う時以来の怒りであったのだ。
魔狼を倒す時でさえも殺気は放つ事があっても殺意は向けていないのだった。
リックが本気で怒っているとその場の全員が感じたし、逆らえば光輝人は叩きのめされ、下手をすれば死ぬであろうとすら感じたのだった。
「許さない」と言い放った一言には紛れもない殺意が篭もっていると感じたのであった。
「す、済まなかった」
その一言を発するだけで光輝人の青年は精一杯であった。そのときには殺されるとさえ感じていたのである。まさかこんな子供になどとはもう考えていなかった。少なくとも此処にいる精霊が全員契約しているし、リック側の立場に立っているのが判ったのである。
「じゃあいいか、フィーナ構わないかい」
「私気にしてない、光輝人だろうと関係ない」
「そうか、じゃあいこうか」
殺気が全くなくなった何時ものリックであった。エリーゼもほっとしたし、レビンもマークも緊張を解いていた。フィーナは光輝人など別に気にしてないとは言えないがリックの言葉が嬉しかったし、むしろどうでも良くなっていた。精霊達に至ってはやはり王だと感慨に耽っている始末であった。
光輝人達が道の端へと寄って通行の邪魔にならないようにすると馬車は何事も無かったように出発し、暫くするとまた音楽が鳴り始めた。
光輝人達はその光景を眺めながら見送り。任務の成功と失敗を同時に感じていた。
その後話し合った結果、二手に分かれた光輝人は、リック達の追跡と、里への報告へとそれぞれが向かっていったのであった。




