第2話 トーキングベビー
『事象改変能力と魔術は違うんだよ!』
「ややこしいですわね」
『転生してる時点でややこしいなんて言ってられないよ、メアリー』
問題はありません
『だれ?』
作者です
考えてみて欲しい。記憶は無いが、成人男性程度の知識を持つ男が、授乳される気持ちを…
屋敷の一室で与えられる食事は未だに授乳だった。
歯も生えていない乳幼児なのだから当たり前である。
ここでお粥をお願いしますと言えない所が辛い。
まだ声も出せないし。幾ら転生したと言えども赤ん坊が喋りだしたら処分されるかも知れない。
そう考えても仕方が無いだろう。流石にママ、パパやオシメ、など日常で使う言葉が理解出来るようになったと言えどこの世界の常識が解らないのだ。同じ地球である事を願いたいが、聞いている限りは知らない言葉だった。
徐々にだが恥ずかしさも無くな…りはしないが耐える事ができるようになった。女神からの施しだと思い込む。それしかなかった。
そしてある程度ではあるが会話の内容も解る様になってきた。
「奥様、リック様は大変…です」
「フフフ、お腹の中に居た時から…でしたもの」
名付けられた名前はリック。母親の名前はニーナ・ブラウン、父親の名前はルーク・フォン・ブラウンだ。なので俺の名前はリック・ブラウンとなる。
母親の顔は近くで見る事ができたので判ったのだがブロンドの髪にブルーアイの西欧風の美人だ。なんでも優秀な魔導師だったらしい。父親は生まれた時には声を聞いたが忙しい人物らしいが貴族の役目があると言っていたのは判っている。まあこの美人の嫁を貰うぐらいだ、顔も悪く無いといいな。そう願わずには居られなかった。その遺伝子の組み合わせで自分の顔が決まるのだから当然の心配だろう。
早く首が据わってくれないかと切に願う毎日を過ごしていたのだが、毎回タイミングの悪い父親がやっと起きている時間に顔をみせた。優しそうな顔をした男性である。最初は我慢したが、流石に男に頬擦りをされて喜ぶ趣味は持っていない、全力で拒否させて頂いたら髭を気にしている様子だった。心の中で詫びておいた。
記憶は無くとも知識があるリックにとって学べる事を次々に吸収していく事は非常に楽しい作業だった。
一年もの間母親の体の中で寝たきりだと勘違いしていたのだ。お腹がすいたら申し訳程度に泣いて知らせ、オムツの交換を希望する時は大きめの声で、満足するとスマイル攻撃である。
そんなリックが何よりも願ったのは物語と子守唄だった。
子守唄はお腹の中に居た時からの最高の至福を齎してくれる聖歌なのだ。思わずスヤスヤと眠ってしまうが心地よすぎて堪らない。物語を読んでくれるようになったのは、意思表示の方法が伝わったからだろう。
母親だけに限らず面倒をみてくれる侍女がいて、思いが伝わったのだ。
「まだ坊ちゃんには早いかもしれませんが、この物語は面白いですよ」
『ここだ、ここで笑えば俺が興味を示していると伝わる筈』
キャッキャとはしゃいで歓迎の意思表示をした。絵本を持っていこうとすれば泣き始める。侍女のメアリーは理解した。ある意味いい間違い方だったのは偶然だろう。彼女は本を語って聞かせるのではなく絵共に見せて読んだのだ。そこでさらに歓迎の意志を伝えられ、確信したメアリーは次々と絵本を持ってきては読み聞かせた。
あっというまに絵本のストックが尽きたのだ、これは仕方が無い事だった。3回目には別の本を泣いて催促する赤ん坊がいれば本など幾らあっても足りない。だがそこは貴族の力なのか、絵本から次は物語へと変わりはしたが次々と本が増えていく。いつしか部屋の中が書庫のようになっていた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
そんな毎日を送っているうちに首が安定してきた。
これで動ける!
だが、目の前には子供用ベットの柵という難敵が待ち構えていた。
ハイハイをしようと頑張る姿を見て流石に驚いたのだろう。お釈迦様程じゃないんだ驚かないで欲しい。
「奥様!」
「ええ、やはり天才よねもうハイハイしようとしてるわ」
「意思疎通も不思議とできますし」
「アー、ウーアー」
「なんでしょうか、なにか訴えられているような」
「アー、アーウー」
「狭いと怒ってるのかしら」
「キャッキャ」
「でもまだ生後2ヶ月よ?」
「奥様が先程仰ったではありませんか、天才だと」
流石に2ヶ月でハイハイは拙いのかと思ったリックだが、本人としては早く動きたい、知的好奇心が止まないのだ。何といってもこの世界には魔法があるリックは物語だけではなく魔法を覚えたいと思った。最適な教師がそこにいるのだ。
「まーマー」
「メアリー!今ママって言ったわ」
「ええ、これは旦那様にも御報告して優秀な家庭教師をつけないと」
「ウアー…」
「それじゃそうね、この部屋に敷物を用意して頂戴。リックがハイハイしても大丈夫なようにしておいて」
最高の環境だった、これで本が好きなだけ読めると、リックは喜びを覚えた。
しかし、まだ長時間首をあげているのは辛いな…まだまだ鍛え方が足りないか。
前世の俺はどうやら本も好きだが、それ以上に体を鍛える事も好んでいたのかな。
眠っては本を読む、動き回る事で体も強くなる。ママ、パパと両親を呼んでは喜ばせた。
絵本は隅へと頑張って運び、物語で字を覚える為にとメアリーに読み聞かせてもらう。
体が座る事が出来るようになったので読んでもらう時は基本的に姿勢を正している。
まあ赤ん坊のお座りだけどな。
頭が体に比べると重いのでお辞儀はできない。変わりに拍手をする事で感謝を示した。
「アー、トー」
「さあ、坊ちゃまそろそろ眠りましょう」
「ウー」
「また起きたら本をお読みします」
「アー、ンー」
「ではベッドへ」
所詮はまだ赤ん坊である。直に寝てしまうのだ、メアリーに迷惑もかけられない。
スヤスヤと眠りにつくリック、優しく抱きかかえたメアリーはそっとベッドまで運んだ。




