第19話 リリアーヌ・フォラス・サラエノ
「今回は未来のハーレム王であるお兄様についてです」
「ご主人、流石、素敵」
「ちょ、どこへ、いたたた何僕の出番は」
「お兄様は今回別室で待機してい頂きましょう」
「大丈夫テッラ、あれで力持ち」
うわああああ…バタン。
「まあ今回の主題はかの方々ですからね、精霊、特に7名の精霊の方々はお兄様の奏でる音に惹かれて集まりましたが、絶世の美女ばかり、まさに5歳にしてハーレムですわ、まさか魔力で肉体構成まで成し遂げるだなんて、思わぬ伏兵でした」
「大丈夫、彼女達、アタシ達仲間」
「まあ将来共にお兄様を支える訳ですからね、ではまず特徴を、ウィニアさんはまさに透き通る肌の美少女でしろと緑の服装が良くお似合いですわね。エクレールさんは颯爽とした雰囲気の格闘家の衣装でしょうか、あのブロンドの髪がキラっと輝きながら戦う姿は女性でも惚れますわね、フレイさんはあの赤銅の髪と肌に南国の衣装が良く似合ってますわねちょっと刺激が強すぎる気もしますが、アクアさんはあの水色のドレスの落ち着いた雰囲気その物、知的で憧れますわね、テッラさんは皆さんより少々背が小さいけれどあのブラウンヘアのクルっとまいた感じの可愛らしい外見からは思えないほどの力強さ、ギャップに萌えますわね、アヴローラのあの輝く肌に銀色の髪、あれは反則級の美しさでしょう、ルナの漆黒の髪とドレスに黒い瞳、2人揃って立つ事でより互いの美しさを増すだなんて卑怯です」
「私たちも頑張る努力する」
「そうですわね負ける事は出来ません、お兄様の一番二番は私たちで独占するのです」
「「オー」」
『これは此方の部屋に聞こえていたとは言いづらいなあ、黙っているのも男だよね』
「「「流石ですわ」」」
何が流石なのか、それはリックの心の奥にしまい込まれました。ちなみにパラレル展開ですのでご安心を。これを読み飛ばしても本編に一切関係はありません。
数日後、ヴェルンド王国の闇輝人達0は今回の騒ぎについて静観する事に決めていた、と言うのも信仰の度合いの違いもあるのだが、闇輝人には独自の情報組織が存在するのだ。リックの名前は判らないまでも、人間社会にいる仲間からの報告で混乱する必要は無いと判断したのである。実際に鍛治や仕事に問題が無ければ、彼らにとっては大騒ぎする出来事では無かった。
だが光輝人の混乱は凄まじかった。彼らの仲間は町に住んでいないのである、よって一切の情報が無かった、精霊は契約者に忠実であり情報を漏らさない、それが事態に拍車をかけていた。
森を愛するの一族であるからかアルヴヘイム国以外の土地でも森にしか住居を構えないのが普通である。人間を嫌っているのでは無いがプライドが高く、自然を破壊しながら己たちの生活する面積を増やす種族に対しあまりいい態度を取らないのも事実である。それ故に情報に疎かった。
そんな彼等は(契約してないのは崇拝対象であるからである)精霊が名前を名乗るのは契約者がいる事を示していたのだ。長老達は各村へと通達を出して調査を命じた。時折訪れる交易商人などの情報だけでは正体を掴めない事態に痺れを切らしたのである。とは言っても国や村から出た光輝人など殆ど居ない。一部ハーフ光輝人となっている者達もいるが余り快く思っていないのであった。仕方なく村から数人の若者などが選ばれて地方を飛び回る事になって冒険が繰り広げられるのだが、これはまた別の物語である。
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気楽な旅を続けるリックは今日も音楽を奏でて精霊に名前をつけていた。精霊だけでなく妖精なども時折現れては馬車の中に入り込んで歌を即興で披露してくれたり、リックの持ち込んだ楽器を精霊達も練習したりと大変賑やかだった。
サラエノ公国はノルテア王国を挟んでクルネヴィア王国の北東に位置している小国で近隣国としてそれなりの交流のある国でこれといった産業もないが風光明美な土地である。だがサラエノ大公は初代から続く武門の家柄である、貴族であった頃の忠誠を誓った国は既に無くなったが質実剛健の軍事力に優れた国である。そして小国家ではあるが規模としては周辺国と同等な上に貴族も居ない珍しい国であった。家臣団は実質的に弾爵位と同様の扱いは受けるのだが一般の商人などからの登用もある進んだ国だ。
リックがこの国に入ったのは通行上の問題もあったが以前から気になる国であり、さらに用事もあったのである。既に王城には先触れとして国境の兵が向かっていて数日間滞在する予定なのだ。
これは反乱軍を治める前から計画していて国王にも承認をもらっての事である。
一部貴族からは不安の声を密やかに囁く声もあったがノルテア王国を押さえ込むには周辺国との同盟強化が必要であると早期に訴えていたリックの案が採用されたのである。
5歳のリックには大役ではあるが親書を渡しさえすれば良いのだよという祖父の言葉に騙されている状態でもある。本来ならリックの父であるブラウン公が使者として出かける所を敢えて計画を変更したのが国王なのだ。一応は自分の提案した政策である為に断ることもできず引き受けてしまったのであった。
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質素倹約ではありながらも威厳と風格のある謁見の間であった。
金銀の細工ではなく鎧や盾、剣や槍が飾られて公国の紋章が掲げられたリック好みの広間であった。思わずリックは大公の到着が告げられる前触れまで感心しながら部屋を眺めていた。
実はサラエノ大公は既に到着していたのだが、リックが余りにも熱心に周囲を見渡している事に興味を示して見守っていたのである。5歳児が使者に訪れた事に当初は不審のあった大公であったが、リックの悠然と佇む姿を見て感心したのである。自分の娘が6歳で一つ年上であるが此処まで落ち着きのある態度を見せる事はないのだ、第一王子である4歳の息子など走り回るだけであり、その差と言う物を考えると使者として使わされた理由も読めそうであったのである。
最初の口上をすませて親書を近衛に渡して、大公が受け取って黙読すると大声を上げて笑い出してしまった。流石に何か失礼な事でもあったかと思ったが一切顔に出さないで黙って控えていた。
「なるほど、5歳にしてその胆力もありと言う事か。
ジョージ殿が羨ましいな、どうだ娘と婚約をせぬか」
どうしてこう行く先々で婚約話がでるのかと困ってしまう。別段構わないかと思う反面、さすがに5歳の子供に勧めるのはどうかとも考えるのは魂の影響である。本人を抜きにすれば別段この時代家同士が勝手に許婚の関係を結ぶなど普通にある事で、驚く程ではないのだが、本人に意思確認をする方がある意味驚きの事態なのである。
「お嬢様の確認も取らずにそのような事を申されても困りますが、
出来ましたら私はこれから留学する身ですので、
帰るときの様子などを見られて判断されては如何でしょうか」
真正面から流石に断るのも失礼な事であるし、といって引き受けましたなどと軽く受けるのも憚られる。
卒業した後の自分の出来を見て決めろとはそれ以上に大胆な発言にはなるが致し方ない。
「ふむ、なかなか上手く躱な、言葉の槍にも怯まぬか。
我が娘も鍛えねば釣りあいが取れぬかな」
大公はそういうと近衛に指示して一人の少女を連れてこさせた。何故か鎧姿で登場した幼女は颯爽と部屋に入ってくるなり勝負だと威勢よく叫んだのだった。
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「まったく、お父様ってば許婚ですって、冗談じゃないわ」
ぷんすかと怒っているのは大公の娘のリリアーヌである。
時間は少し撒き戻ってリックへと国王が許婚の話を切り出した所である。話を廊下で盗み聞きしていたリリアーヌは急ぎ部屋に戻りながら怒っていた。褒められるような事ではないのだが情報収集も戦の常道と言って憚らないサラエノ大公家としては当然の行いと言えばいいのだろうか、ある意味自然な子供の育ち方であった。
多少顔立ちが少女のように美しい男の子であっても我が家は武門の家柄である。そう教え込まれて来たリリアーヌからすればいくら見た目でドキっとしてしまったからと言って、ハイでは許婚としてお願いしますと受け入れるような淑女教育など頭から飛んでいっているのが今の状況である。もっぱら剣と魔術に軍学を学ぶ事に喜びを感じていて、それを父も苦笑いしつつも喜んでいるのである。母親だけが若干の呆れも含めて諭してくるが知った事ではない。将来好きな相手が出来た時に困りますよと言われてもそんな事を引き合いに出すような軟弱な相手など此方から願い下げである。少なくとも自分よりも強く逞しい男性にしか興味がないし、遊び相手として連れて来られる少女などつまらない、同世代の騎士の息子などとも戦ったがどれもリリアーヌが本気を出す前に泣き出す始末であったのだ。
所謂じゃじゃ馬が極まった少女、それがリリアーヌである。
部屋に戻ったリリアーヌは稽古用のハーフプレートを身につけると腰に訓練用の剣を刺して謁見の間へと向かった。すぐさま婚約話を解消させる為である。まさかリックからやんわりと先延ばしになっているなど露にも思っていない。
貴族であれば自分との婚約がどれだけの意味を持つのか判っているはずである。国家間の情勢や国外の情報には完全に無知であったリリアーヌではあるが己の立場等は理解していたのだ。
丁度近衛が呼びに部屋を出た所へ構わず突撃を仕掛けたのである。
「私と勝負なさいリック・ブラウン!
勝てれば許婚として認めてあげても宜しくてよ。
勝てたらの話ですけれどね、宜しいでしょお父様」
バーンと胸を張っての大音声である。してやったりといった顔がドヤっと物語っていた。
「奇襲も大事な戦法の一つではあるがな、リリーよ…
流石に正式な使者のいる謁見の間にはどうかと思うぞ」
この教育はまさに大公の人柄を表していたのだとリックはそこで理解をしたが下手に答えられずに黙る事で大公へとバトンを渡した。
「それにな、リリアーヌよ、どこまで聞いていたのか判らぬが、
婚約するかどうかはまだ解らぬのだよ」
「先ずは許婚の話をされていたから仕掛けただけで、
他の話なら私もこんな行為は致しませんわ。
それとまだ解らないってまさか私との婚約を断りましたの」
小さいと言えどレディーである。断られたとなれば許せるものではない。メラメラとプライドの炎が湧き上がってきた。その様子をみて大公もリックも溜息をついた、此次の展開が読めたからである。
「許せませんわ!
決闘よ!」
余りにも予想通りの展開でリックは思わず天上を見上げてしまった。
対面していた大公までもが同じ所作をしたのだから問題はなかった…
こうして何故だか回避不能の事態に追い込まれてしまったリック、彼はどうしてこうなったと心の中で呟いた。