第11話 フィーナ
重さについてです
1ガット= 4g=1エルン小銅貨の重さ
1000ガット= 4kg=1ケット
「天秤、不正あるですよ」
「色々大変な世の中だよ、騙されない知識も必要だね」
「負傷している者や、生きている者は他に居ないか」
「残念ながら護衛の方々は…」
「そうか、せめて遺品だけでも組合に届けてやらないとな」
放置するわけにもいかない、護衛を務めていた者や商人の遺骸は町まで運ぶかその場で焼却するしかないのだが、どちらを選ぶのかを尋ねてみた。
「私たちの行商隊はエスタットへ向かいますが故郷は違いますので」
「ならば火葬したほうがいいな」
放って置けば確実に不死者となる、埋葬した場合も同様で魔素の影響を受けた死体が動き出すと魔物同様の強さの怪物となるのである。
冥界の住人とされる死者と違って知性もなく、腐乱死体や骨などに取り付く。
これらは不文律として常識である為に話がついた。
遺品を取り除いて一箇所に集めた後にリックの魔法によって薪に火がつけられて荼毘に付された。
同様に皮や牙などを取り除いた魔狼と大狼も燃やし尽くす。
ここで問題になったのが当然の事ながら行商隊の護衛である。
死亡した商人の荷物もある上にどうやら数人の奴隷までいたようなのだ。後はどうにかしろと言って過ぎ去る事も出来ない。それに奴隷の一件もある。
「では我々はエスタットまで行くが護衛が必要か」
「出来ましたら同行させて頂ければ…」
元々5人の商人で行商隊を組んでいたのだが死亡したのは2人で、その内一人が奴隷を一人持っていたのだとリックへと説明してきた。
「では条件は奴隷と、その荷物を頂こう。
残りの荷物は…そうだな、遺族への見舞い金にしてもらおう。
冒険者組合を通じて見舞金として貰う事でいいかな」
かなり無理やりな条件であるがここで魔狼を倒したリックに逆らう者は居なかった。
契約魔術でもって条件を承認させてしまえば不履行できないのである。
別名を魂の契約といい故意に破った場合は魂が刈り取られるたり、一生契約魔術ができなくなったりと商人にとって致命的な条件が課せられるのである。
「では、レビン悪いが僕はこっちの馬車を動かしていく」
そう告げたリックは奴隷となっている子供と共に馬車を動かした。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
奴隷として連れられていた少女の名前はフィーナと言った。
最初は主人だった商人が死亡した上に、主人が変わるとまで告げられて混乱していたのだが、リックが話しかけると徐々に落ち着きを取り戻していた。
一気に行商隊が全滅しなかったのは彼女が頑張っていたからなのである。彼女は珍しい人間との間に生まれたハーフ光輝人だったのである。純粋な光輝人には及ばないが違った意味で光輝人よりも成長すれば強くなるのである。ハーフ光輝人は精霊魔法に関しては劣るが、普通の魔法も訓練すれば使えるようになるのだ、勿論魔術に関しての才能は通常の人族を凌ぐ才能を発揮する。リックのような王家の血に神族の血が入っている場合は其の限りではないが恐らく護衛として育てる心算であったのだろう。
「よし、フィーナ短い間だけど宜しくね」
ビクッとフィーナは反応を示した。突然短い間と言われればどう思うか、説明の足りないリックが悪い。
「あの、私売られるの、ますか」
「済まない説明が不足していたね。
次の町へ到着したら君は自由になれるんだがどうしたい」
「私自由、困る」
「そうなのか、うーん如何してなのかな」
「私の両親は、死ぬした」
「身寄りがないのか…うーん判ったじゃあ君の事は僕が雇うよ」
「雇う、奴隷違うの、事なの」
「うん、君には給金を渡す、それで僕の世話をするんだ」
「わかった、努力する、ます」
言葉はゆっくりと覚えさせるとして、まずは奴隷刻印の解除からだとリックは荷馬車を操りながらこれからの事を考えた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「エリー、この子がフィーナ、フィーナ、僕の妹のエリーだ」
「宜しく、して下さいです」
「宜しくね」
流石に撃退に加えて荼毘になどに時間を取られた上歩みの遅い荷馬車をつれての旅となった事でエスタットの国境には辿り着く事が出来なかった。
今から夕食を準備する為に野営の準備を始めた所で二人を引き合わせたのである。
「明日からエリーにフィーナの教育も頼もうと思うんだ」
「私がですか」
「うん、フィーナはまだ言葉が上達してないからね。
逆に魔術や魔法なんかはフィーナが上だから教わるといいよ」
「わかりました、じゃあ頑張ろうねフィーナ」
「私、頑張る出来る、ます」
「じゃあちょっと行って獲物を取ってくるよ」
実用性を重視している為に開発した武器だが、強力な為に仕組みの部分も多い隠したコンパウンドボウを手にもって森へと入っていった。
かすかな記憶には猟師だったなどとは思う程でもないが、時折山に入っては狩猟をしていた知識がある。
その際には和弓を使っていたのだが、他の知識からもっと優れた武器がある事を知って作ったのがコンパウンドボウである。
さすがに通常の弓を引くには身体強化の魔術をもってしても厳しいのだが、この特注の弓は一味違う、鋼鉄製の糸よりも丈夫な虫の糸を使って組み上げられた現代の物よりも強力なその弓は5歳児のリックにとってはなんとか扱えるレベルの物なのだ。そして威力は弓を遥かに凌ぐのである。
弓が優れている点は静穏性である。エアライフルなども試作はしたがやはり使い勝手と文明レベルを考えたり弾丸の供給を考えた結果として弓に今のところは軍配が上がったのである。
さくっとホッコ鳥を3羽仕留めて野営地へと戻って捌いて商人達にも分け与えた。1羽あれば十分な量の肉なのである。
短時間で3羽も仕留めて帰ってきたリックを見て商人達は驚きと同時にやはりあの方なのではなどと話し合っていた。
ホッコ鳥は脂も乗っていて美味しいのだが野営料理となってしまう。単純にスープに入れるか焼くぐらいしかこの世界では調理方法がないのだが鍋に少量の水を入れながら蓋をしてリックは塩をまぶした肉を蒸し焼きにしていった。肉というのは高温で加熱すると硬くなってしまうのだ。それを防ぐ為には遠火でゆっくりと焼いたりするのだが野営地でそこまで手間を掛けれない。玉葱などを使って漬け込むことも出来ないのである。となれば短時間で蒸し焼きにしてしまえばきちんと火も通った上で余分な脂も落ちるのである。そしてその脂の落ちたスープに調味料を放り込んでタレを作り、肉汁がジュワっとでる所へ濃厚なタレと合わさった美味さは筆舌しがたい味になるのだ。
普段からリックの手料理を食べたり手伝っているエリーと長期にわたって手伝いをしてきたフィーナも料理に加わった事で時間も掛からずにパンとメインの料理にスープまでついた食事となった。
翌日には到着するだろうという事で最初の見張りはリックが担当した、其の後をレビンとマークが担当する。
焚き火に薪をくべていると横から人の気配がした。
「どうしたの、眠れないのかい」
「ご主人様起きてる私も起きてる」
「そうか、わかったじゃあ一緒にいよう」
「わ、私もお兄様と一緒にいます」
何故エリーゼまで一緒になって火の番をしながら見張りをすることになった。
他愛も無い話をしながらその日の夜は過ぎていった。
エリーゼがフィーナをライバルになるかもと思っているなどとはリックは流石に思わなかったのであった。