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第10話 旅路

 長さについての単位です


 3cm=1セム

 30cm=1スム 肘から手首の長さ

 3m =1メム

 3000m =1ケム


「基準は肘から手首の尺骨の長さです」

「よく勉強してるねエリー」

「まったくやっと再会を果たしたと思ったら留学か」

「私達の子供ですからね、仕方が無いです」

「しかもメアリーの結婚まで心配するなんて」

「それは貴方譲りなのかしら」

「どうだろうか、僕は女性にモテた記憶は無いよ」

「ではお爺様あたりからの遺伝ね」

「そうかも知れない」

「しっかりとあの子の為にも頑張らないとね」

「ああ、僕も子供に負けてられないからね」

「でもきっと帰ってきたら私たちよりも強くなってるわよ」

「それは親としては嬉しい反面困った事になるよ。

 また二人で訓練をしないといけないね」

「それもあるけど。

 もう一人妹でも用意していて驚かせるのもありだわ」

「うーん、確かにそれはリックも驚くかも知れないね」



 両親がそんな会話をしているとは旅の空の下にいるリックには判らない。

 自分の設計した馬車に乗り、快適な旅を続けていた。


「旅いーゆけばー」

「お兄様、変わった歌を歌うのはおやめ下さい」

「すまない、何か歌わないといけない気がしたんだ」

「だからって種類を考えて下さい。

 さっきも子牛が連れて行かれる歌だったし。

 なぜだかとても悲しくなりました」

「折角の旅だからと思ったんだけどな。

 じゃあこの楽器でも弾いておこう」

「それはお兄様が作らせたリュートですか」

「うんギターって言うのさ、もっとお上品な物も考えたんだけど材料が足らなくてね」


 楽器の種類が夜会で見た際に少ない事を感じたリックが作った品物の一つであった。

 クラッシックギターを作らせて自分用にと持ち込んだのだ。

 旅に音楽は必要だろうという思い込みからなのだが音楽を奏でながらの旅はリック達の旅路に思わぬ効果を発揮していた。野盗の類は護衛を恐れて近づかないのは当たり前としても魔物や魔獣が近づいて来なかったのである。


 護衛の騎士達も不思議な事がある物ですねと語っていた。ある種の熊除けの鈴の役割を果たしたギターだが知らず知らずの内にリックが魔力を込めて引いていたなどとは本人さえも気がつかなかった事であった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 国境附近までやってきたリック達は第三師団の歓迎を受けた。

 英雄の留学と聞いていた兵士達だが、元団長の子息がまさかまだ5歳とは知らず飲み放題の宴を用意していたのだった。


「すまないがまだアルコールは止めておくよ。

 でも皆有り難う、感謝する」


 ノルテア王国とは未だに緊張状態が緩和されない為にリック達は東のエスタット王国経由で北へと向かう事になったのである。比較的戦争の心配の無い地域に配属されているからか次の移動までは寛いでいるのだ。


 勿論緊急事態にはリックの作り上げた光通信網によって連絡があった地域へと出陣するのだが今のところは心配は無い。


「しかし御曹司、この先の旅に関しては危険もありますからね」

「そうですよ、この国は安全ですが陸路で隣国へとなると」

「エスタットは問題ないとは思いますがね」

「街道の安全の方が心配だぜ」

「二人の護衛騎士だけで大丈夫ですかい」

「俺達も一緒に行った方が」

「いや流石に持ち場は離れられんぞ」

「御曹司の身になにかあればルーク様に顔向けできんぞ」


 ワイワイと宴会が進む中で心配してくれる声が上がる。

 確かに通常ならば10人は護衛が居て普通の旅路である。


「心配してくれて有り難う。

 でもレビンとマークも優秀だし大丈夫だよ。

 それにちょっと余興を見せよう」


 リックは心配してくれる兵士を安心させる為に天空へ向けて特殊な魔術を放った。

 夏場だというのに放たれた魔術は上空で結晶化したまま地面へと降り注いだ。

 ダイヤモンドダストを再現してみせたのである。

「雷の理、稲妻の剣、千里を貫く刃となりて我が力となれ。

 火の理よ、神の鉄槌たる裁きの時を知らせよ。」

 キラキラと輝く幻想的な世界の中で一つの魔術をリックは紡いでいた。

「【神炎雷火ライトニング・ブラスター


 完全に制御された破壊級の魔術であった。

 毎晩母の元へと赴いては魔術の講義を受け続けていたのだ。

 天空に吸い込まれていく輝きを見てリックの力をしった兵士達は驚きと尊敬の眼差しを向けた。さすが元団長の息子だと声が上がった。


 ギターを取り出してリックが奏で始めると楽器を得意とする騎士達が続いてリズムを合わせていく。

 かなり遅い時間まで宴は続き、騒がしく夜は過ぎていった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 国境の兵士達に別れを告げて街道を行くリック達だったが緩衝地帯の森まで来ると流石に獣や魔獣の気配も濃厚になってきた。だが相変わらず口笛とギターの演奏が功を奏しているのでリック達の歩みは速く、馬車の性能もあって通常よりも早くエスタット側へと到着しそうだった。


 しかしリック達が襲われないからといって他の旅人までもが安全な旅ができるかと言えば答えは否である。


 まさに順調な旅で遭遇した最初の出来事は獣に囲まれて身動きが出来なくなった行商人の救出だった。


 最初に発見したレビンがリックへと報告した瞬間に、リックはレビンの後ろに飛び乗った。


「急げ助けるぞ!

 マークは残って馬車を守れ」

「「ハッ!」」


 既に行商人の雇った護衛は倒されていて血に飢えた大狼ベウルの群れがジリジリと包囲を縮め始めたところだった。


「【土壁ソリッドウォール

 【雷弾ライトニングブレット】」


 商人達とベウルの間に障壁として【土壁ソリッドウォール】を展開してから威力の小さな【雷弾ライトニングブレット】で牽制してからリックはオースから飛び降りた。

 肉体強化の魔術は既にかけてある。

 レビンも強化は済んでいる様子でそのまま反対側へとオースを走らせながらベウルをなぎ倒していた。

 一際大きな一頭はリックを注視してくる。一頭だけ魔狼ウィウルが居たようである。


 通常の冒険者の護衛では手に負えなかったのか…もしくは護衛者をケチったか騙されたかである。


 リックを注視しているのは野生の感とでも言えるのだろう。人間と違ってやりにくいのはこういった本能を持つ相手だからである。


 そしてリックはこの魔狼(ウィウル)が通常の個体よりも狡猾な存在であると認めた。長く生きて魔素を取り込み知能も増えた魔獣は魔物程危険とは言わないが厄介な存在になるのだ。そして時を経るとE級魔術では通用しない肉体を手に入れる。恐らくこの魔狼(ウィウル)は長く生きている。冒険者達の護衛では対処できなかったと判断していいだろう。


 レビンに対して5匹、そしてリックに対しては10匹の大狼(ベウル)を差し向けてきた。


 闇輝人(デュアルブ)に作らせた特注の刀を構えててリックは突撃した。


「ハッ!」居合いの一閃で首を落とされた大狼(ベウル)を見向きもせずに左手から新たに魔術を放つ。


「【雷撃ライトニングショット】」



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 突然現れた人間、邪魔が入った。魔狼(ウィウル)はどうせ餌が増えるだけだと考えた。

 しかし突如獲物との間に土の壁がせり上がり行く手が阻まれたと同時に配下の大狼(ベウル)が攻撃を受けた。


 先程倒した人間よりも強い奴か…

 冷静に本能だけでなく知性をもった魔狼(ウィウル)だからこそこのように思考するのだろう。


 こいつ、特にこの小さな奴が危険だ。多くの配下をこの小さな奴へ向けないといけない。それに自ら戦わなければならないと判断した。


 だがまさか獣に対して自ら突っ込んでくるとは思いもよらなかった。

 此方が体制を整える前に突撃されてしまい配下がやられた。一撃である。強い、本能は逃げろと警告している。だからこそ此処まで生き抜いてきたのだろうと思う。だが逃げられない。そうも本能は告げるのだ。

 戦うしかないと。たかが小さな人間如き、知性でもって本能を押さえつけた。

 そう魔狼(ウィウル)は自らを奮い立たせて飛び掛った。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 大狼(ベウル)を5匹纏めて葬ったところで魔狼(ウィウル)までもが飛びかかってきた。


 地面を転がりながらリックは攻撃をかわし、更に魔術を発動させて大狼(ベウル)の数を減らしていく。

 いくら強化魔法を使っているとは言えど子供の体には限界があって、魔狼(ウィウル)の攻撃を受け止める事は出来ないと判断したのだ。

 それと同時に倒せない程の敵ではないとも判断している。

 過去に狼を倒したような覚えもあるし、実際に領地では今より小さい頃には既に大狼(ベウル)を倒していた。


「【岩槍ドライブ・ロックパイル】」


 突っ込んできた大狼(ベウル)を逆に串刺しにして魔狼(ウィウル)と一騎打ちとなった。

 連携のよい同時攻撃だからこそ避けようが無い反撃の一手である。


 しかしながらこの魔狼(ウィウル)は皮膚が通常の個体よりも強化されているのか傷を負わなかった。


 頑丈だ、刀を斬り付けても斬り殺せるかが不安になる。


 互いににらみ合う時間は過ぎた。


 魔狼(ウィウル)はその体格と鋭い牙で食いちぎろうと、全力で首筋めがけて飛び込んで来た。


 刀の一閃を魔狼(ウィウル)はその牙でもって受け止めた。だがあえてその速度で振りぬいたとまでは気がつけなかったのだろう。


「【雷閃ライトニングバスター】」


 刀を咥えてもぎ取ろうとした所に左手で目を抉りこみながらの発動である。

 長く生きた魔獣と言えど、強烈な電撃を目から直接脳内に流されれば一溜まりもなかった。


「お見事でした、お怪我は御座いませんか」


 さすが護衛に選ばれただけあって、5匹の大狼(ベウル)を一人で倒したレビンが走りよってきた。


「ああ、問題ないよ、それより処理をしないといけないな。

 それにあの人達にも話を聞かないと駄目だな」

「ではあの者達をお任せしても宜しいでしょうか。

 獣の処理は私とマークで行います」

「じゃあ、話が終ったら手伝うから宜しくね」


 皮や牙、それに魔獣の中には魔石もある。それらの処理を任せてリックは行商人達の方へと向かった。

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