第1話 プロローグ
がない!を見て下さって有り難う御座います。
異世界見聞録に引き続き、肉付や校正より拙速をもって物語の進行を優先するスタイルです。
読みにくい部分などは御了承くださいませ…
2014/09/12 せおはやみ
『よく寝たなあ……、後5分……』
目を開けて……あれ、目が開かないじゃないか、
感じるのは僅かな光だけ、それに体が動かないだと!
植物人間にでもなったのか?
ちょっと待ってくれ、冗談じゃない。
いや、まてよ、何が冗談じゃないんだろう。
落ち着け……死んでる訳じゃないんだ。
状況を確認しよう。それで……
いやまて、それよりも、俺は誰だ…
名前?
年齢?
男だというのは判る気がする、多分男だった筈だ。
う……思い出せないのか、クソ。
体が動かない上に記憶喪失だとか、ハハハ、笑えないじゃないか。
自暴自棄になりかけた時に何かが聞こえてきた。
「ン~…………、ン~…………」
誰かが俺に話しかけてるのか。
いや歌か?
優しくて、暖かくて…駄目だ意識が途切れる。
俺は起きていた……に……なん……こんな……むいん……
どれくらい時間が経ったのだろうか判らない。俺は数時間毎に起きては寝てと繰り返した。
動かない体に苛立ちはあった、だが優しい歌声が俺の心を優しく宥めてくれる。
理解出来ない言葉、そして揺らめきの中に真綿に包まれながら抱きしめられているような安心感。それは優しく眠りへと包んでくれる。
苛立ちもあるがあの歌声を聴くとこのままでもいいのではないか…そう思えるのだった。
俺が誰だろうと、どうせ動けやしないんだから。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
何日ぐらいが過ぎただろうか…動かない体を少しだけ動かせた。
手も足も少し動かせたのだ。だが本当に僅かな動きだ。
この違いをこの歌声の主に伝えたい。
俺は、動けるよと。
目さえも見えないのは事故にでも遭ったのだろう。
それでも俺は生きてる。そして誰かが俺を見守ってくれているんだ。
毎日、寝て起きてを繰り返すなかで懸命に足や手を動かす。反復した結果は徐々に現れてきていた。
リハビリは辛いが成果があれば出来るんだなと実感した。
記憶は戻らないけどそれはもうこの際どうでもいい。
俺が誰で何があって寝たきりになったのか、そんな問題よりも生きていれば何とかなるだろうという希望がある。毎日の歌声、あの歌声の人と話してみたい。
少なくとも下半身不随かと思っていたのだからここまで動けば満足だった。
だが声が出せない。これは厳しいと言わざるを得ない。
目が見えないから言葉を理解もできない。毎回語りかけている言葉は馴染み深くなってきたので覚えたが意味が解らない。話せない、目が見えず筆談も不可能か…でも最近光の方向がわかるぐらいにはなってきたし。回復しているのだろう。
俺はひたすらリハビリを続けた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
最近体の感覚が掴めてきた。日々のリハビリの成果だろう。
足も勢いをつけて伸ばせるし、其の時には嬉しそうに女性の声が掛かるのだ。回復を祝ってくれてるのだ。
そうなると体を思いっきり動かしたいのだけど奇妙な事に気がついた。
この暖かい医療器具に寝かされていると体が命一杯には伸ばせないのだ。
最近は優しそうな男性の声もする。医師と看護婦なのだろうか。
寝たきりの自分の心配をしてくれる人がいるのは感謝に耐えない。
だがもう少し待っていてくれ。俺の体はまだ完全じゃないけど動けるようになったんだ。
目が見えたら、必ず貴方たちに感謝を述べよう。そう考えると言葉が発せられないのは不便だった。
こればかりはどうにも出来ない。処置もされないので恐らく治療は出来ないのだろう。
だが人間『為せば成る、為さねば成らぬ何事も』と偉い人も言ったと言う。信念だ。岩をも貫く一念で俺は諦めたりはしないと誓った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
突如としてその時は訪れた。
呼吸が出来なくなったのだ。
『助けてくれ!』精一杯叫びたかった。
苦しい、きつい、体が締め付けられる。どうした、俺の体、動けた筈だろう。
だが抵抗も空しく肺が潰されるような苦しみ、頭を締め付けられる痛み。
辛うじて足の先はまだ動く…だめだ段々と足まで…
『今まで歌ってくれて有り難う』そこで俺の意識は途絶えた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
ゴホッっと体から水が出た。
死ぬかと思った。いや死んだと思う程苦しかったし、確実に意識が無かった。
水を吐き出した瞬間には溺死しかけてたのかと医療器具を疑った程だ。
突然回りが明るくなった。
眩しい。
「コフッ、コフッ」
やはり声が出ない、そう思ってると叩かれた。痛い、何かの検査か。ヒリヒリする。
やめてくれ、殴らなくても生きてるよ!
「…………」
「…………」
布に包まれた感触がある。何かを言い争っているような声が聞こえた。
あの優しい歌声の女性が珍しく怒っていたように思う。
だが今の俺には体力が無かった。
ものの数分で温もりに包まれながら眠る事になった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
それから暫くして、以前のような環境では無くなった事に気がついた。
というよりも恐ろしい事に気がついたと言っていいだろう。
まだ声は出せないでいる、泣くかアーとかウーとかしか無理なのだ。
だが排泄行為もある。そして気持ち悪い事を伝えるのに泣くしかない。
思い当たる事がある。これは老人介護だと…
自分が誰であるかという記憶は無いが、少なくとも老人ではなかったはずだ。
ショックだった。
そうか、養護施設か何か最新医療で生かされていたのだ。
俺はそれでもまだこの歌声の主に感謝を伝えたいと願った、そしてリハビリを繰り返す事にした。
生きる希望を与えてくれた人である。感謝を捧げないなど罰が当たる。
俺には母親の名前すら思い出せないが居たらきっとこんな人だろう。
慈愛に満ちた女神のようだ。
もどかしいのは、意志を伝えられない事だ。
ウー、アーでは言語とは言えないので言葉が通じない。
それでも笑って食事を与えてくれる。
もし若くして出会っていたら結婚を申し込みたい女性NO.1に挙げたと思う。
記憶喪失の男なんて困るだろうけど。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
臨死体験をしてから数日後…
俺は漸く自分の勘違いに気がついた。
ちょっとまてよ、と思ったのは俺の手のサイズだ。
時折下の世話をされる時などや食事を与えられる方法で疑問に思ったのだ。
徐々にだが近い物体は見えるようになったのだ。
驚愕とはこの事だろう。手が小さい、小さいどころか赤子である。
抱きかかえられてフワっと上昇した先には主食である母乳だ。
え?
臨死体験でパニックに陥って状況を確認できないにしても、此処まで気がつかないとは……
俺は老人になった訳でも寝たきりだったわけでもない、記憶を失った転生者だった。