ノーヴの(馬)車窓から2
「なんか視線を感じる」
アッヅ西の関を抜けてから、どうも見られてるような気配が。
ズイホウちゃんが空から見てるのかな。と、見上げてみたけどそんな事もなく。
<<スズネも気付いたかニャ。斥候が着いてきてるニャ。右手側の距離350辺りかニャ>>
流石に私も距離までは分かりませんでした。
リュミちゃん流石っ。
<<音も気配も消せてニャい。まだまだ素人さんなのニャ>>
なにそれこわい。
<<俺は苦手だから無理ですけど、リュミが本気が出せば隣に居ても気付かれませんよ>>
それもこわい。
<<ニャーは接近職だから隠れるのは得意なのニャ。ヴィルも苦手って言ってるけど、狙撃体勢に入ると凄いのニャ。全然居る事分からないニャ>>
そう言えばヴィル君は弓使いだっけ。
単なるメカヲタクってだけじゃないんだよね。
<<ギルドハンターならもっと上手くやるニャ。あんな偵察じゃノロマガメにも気付かれるのニャ>>
ノロマガメって、アホウドリみたいなアレですね。
人に慣れてる?のか、単に動きが遅いからなのか、近付いても逃げないから初心者ハンターにお勧めの魔獣。
お肉は鳥肉みたいな味らしいです。ウミガメのお肉もそんな感じらしいよね。
<<気にしつつ進むしか無いよね。見てるだけで何もしてきてないし>>
ズイホウちゃんも人がいるって言ってたし。
ギルドの研修してる人達かもしれないから、特に手出しせずに進んじゃいましょ。
―――
手綱を交代して御者席に。
テブクロちゃんとクツシタちゃんの尻尾がフリフリ揺れるみてると眠くなります。
「すいませんスズネさん、今よろしいですか?」
はっ!寝てません!寝てませんからっ!
……あ、カルメンさん。何でしょう。
わざわざ荷台からこっちまで来なくても……あ、リュミちゃん寝てる。ヴィル君は本読んでる。
「何でしょう。私で良ければお伺いしますが」
分からなければヴィル君に対応してもらおう。
「先ほど、本社と定時連絡した時に聞いた話なのですが」
カルメンさんも魔道具屋さんだし、魔法通信で連絡とかしてるのね。
内緒話が出来るのは私達だけじゃなかったのでした。忘れてた。
「今運んでいる荷物関係で、何やら不穏な動きが有った。との事らしいです」
「不穏な動きと言うと、盗賊か何かの襲撃が予想される。ということですか?」
まったく。穏やかではない話で。
そういう話も分かるなんて、大きい会社は情報力も凄いんだねぇ。
「この依頼はキーリの教皇庁から請けているのですが、一部の急進派が暴走し始めたようで」
祭具の改修。だっけ。書類見る分には。
教皇庁って、確かキーリ教国だと行政の中心じゃなかったっけ。内閣府みたいな感じの。
「枢機卿会議でも承認請けていると聞いていますが、野心的な大司教が奪取を狙っているとか」
うろ覚えだけど…教皇、枢機卿、大司教、司教の順だっけ。偉い順では。
前やってたネットゲームの知識なんだけどさ……。
「まぁ、どちらにしても賊ですよね」
<<スズネさんもズバっと言いますねぇ>>
なんだ。聞いていたのかヴィル君。
国のトップがOKと言ってる案件を、いくら貴族(って言って良いのかな?)でも勝手に反対するのは道理じゃない。
それでも手を出してくるならば国の後ろ盾が無いんだから『賊』でしかないよね。
「賊……まぁ、確かにそうなのですが。問題の大司教が辺境領持ちなので、私兵も居るから困りものです」
他国の事だけど……そんな怪しい奴はさっさと潰しちゃえよ。と思ったり。
「流石にノーヴまで来る事は無いと思いますが、金で雇われた連中が居るかもしれませんので注意してください」
気を付けるに越した事は無いけど……うちの国の中より、大陸に戻ってからの方が危ないと思うよ。
海に囲まれた島国よりも、陸続きの大陸の方が入り込みやすいし逃げやすいからねぇ。
とりあえず、銀狼さんに報告して指示を仰いでみましょうか。
<<と、言う事で銀狼さ~ん>>
<<話は聞いてる。伊予から伝言、『スズ姉にお任せだよー』らしいぞ>>
話が早い。
と、言うか早すぎる。
<<こっちにも連絡きてんだよ。ったく、他人の国を巻き込むなってんだ>>
それは私も言いたい。勢力争いや派閥争いは結構だけど自分の国でやってほしい。
<<分かりました。ノーヴのスタンスとしては『正式なお客さん』はカルメンさんの方、と考えて良いのですよね>>
『正式なお客さん』はノーヴ内に居る限り、私達の庇護下にある。と言うのがノーヴの基本概念なのです。
他国の事情はともかく、うちの国に居る限りはうちの国のルールに沿ってもらおう。
<<キーリに確認を取って入国許可の再判定した。結果は変わらず、その商人は俺たちの正式な客だ>>
何も無いとは思うけど、念のため……ね。
策は考えておいた方が良いよね。
―――設定小ネタ
馬車の速度は20km/h程度です。
一般的(史実上)の馬車より速度が速い理由ですが、
・馬車馬(テブクロやクツシタ)は魔獣の一種であり、速い速度で長時間の移動が可能
・ノーヴの荷馬車の品質
の二点が挙げられます。
馬側としてはこれでも「小走り」程度なので、必要と有ればもっと速度を上げることも可能です。
……馬車や乗客が耐えれるかは別の問題ですが。