魔法を覚えよう(下)
「結論から言いましょう。スズネさん、あなたの魔力は規格外です」
「な、なんですか。私、別に魔法とか使えないし、規格外とか言われても……」
えぇ。恥ずかしながら私、今まで居た4つの世界でも凄腕魔法使いどころか、見習い程度の魔法しか使えませんでした。
前の世界で魔法使い~と言っても、剣も弓も使えないから仕方がなく……。
物理の勉強って意外と役に立つのね。電気とかエネルギーとか。
具体的にナニとは言いませんよ。焦げたお肉は……うぇっ。思い出しちゃった。
「高次元の魔法を複数同時発動、しかも無詠唱で。なんて伝説の神の域ですよ」
「言語翻訳ならワシも出来るが、流石に魔力干渉防壁は五行術じゃわい」
はい、分かりません!
日本語でお願いします!
そんな私の心の声を聞いてくれたのか
「分かりやすく説明します。スズネさん、あなたは魔法を使える……と言いますか、使いこなせています」
なんと!?
「まぁ、問題は無意識に発動している魔法が強すぎる事でしょうか」
「魔法が使えているってだけでもびっくりなのですが、無意識で強すぎるとか言われても……」
魔法を使うよ!っていう感覚が有るならまだしも、「無意識で使っています。しかも強すぎます」と言われてもさっぱり。
もしかして、私この世界だと無意識にしか魔法使えないんじゃ……?
「常時発動か無意識発動かはともかく、こんな強力な魔法を使いこなせているのですからコツをつかめばすぐですね」
「詠唱は無理そうじゃがのう。ふぉっふぉっふぉ」
「むしろ詠唱までされちゃうと困ります。国が消し炭になります……」
さて、薄暗い……いえ、もう真っ暗な中始まりました。始まっちゃいました。魔法講座。
なんかノリノリで説明を始めたウィルヘムさん。
空中に文字とか絵とか出して説明してくれるのは良いんですが、ふわふわしてて酔いそう……。
「先ほども見せましたが、これが無行術と言われる一言で発動できる魔法です。『炎の槍よ』」
火の玉が出てきたと思いきや、真っ直ぐに伸びて飛んで行きました。
分かりました。俗に言うAGM(対地ミサイル)ですね!
うん。着弾地点良く吹き飛んでる。
「説明した通り、魔法と言うのは術者の魔力によって威力は変わります。私は爺さんに比べると魔力少なめですが、人間族では三行術から五行術ですかね」
○行術と言うのは詠唱の長さらしい。
無行術と言うと一言だけで出せる魔法、○行術となるとその分詠唱が必要な魔法。
詠唱で魔力を増幅させて、その分威力を出す。と言う流れらしい。
と、文字がふわふわしていたウィルヘムさん講座で覚えました。
「でも、私は無行でもなく無詠唱しか無理なのですよね。普通に詠唱した人より全然弱い魔法だけしか使えない、ってことで良いですか?」
詠唱は古代魔術語と言われている言葉で詠唱しなければダメ。
そして、私は翻訳魔法(自動)のおかげで古代魔術語で詠唱したつもりでも共通語になってしまう。
つまり……私は詠唱が出来ない!
「そんな事は無いのですが……まぁ、試してみますか。出したい魔法のイメージをして、放つイメージをしてください。それだけで出せるはずです」
なんともアバウトな。
イメージと言われても……さっきのウィルヘムさんの魔法で良いかな。
あんな感じで近くの草むらに~……
あっつい!あっつい!
なにこれ!?誰よ!こんな炎出したの!?
「いや~……これほど威力差があるとヘコみますね~……」
あ、はい。私です。ごめんなさい。
イメージはウィルヘムさんの魔法でした。
実際出てきたのは数十倍おっきい炎の塊でした。
玄武さん、すぐ水掛けてくれてありがとうございます……私まで燃えるところでした。
ウィルヘムさんはこっそり後ろに下がってて無事だった模様。こにゃろう!
「はい、お分かりの通りスズネさんは魔法が使えます。使えるどころか規格外に使えます」
熱いほど……痛いほど分かりました。
「たぶん今のは漠然としたイメージで発動したんじゃないかと思いますが、威力まできちんとイメージすれば調整は出来ます。『炎よ』『水よ』『転送<<茶器>>』こんなふうに」
続けざまに三連発の魔法。
『炎よ』って聞こえた時点で身構えちゃったけど、出てきたのはウィルヘムさんの手元の御茶一つ。
「大分冷えてきました。魔法で出したものですが、御茶をどうぞ」
「あ、はい」
差し出された御茶を受け取ると、ふわっとどこかで嗅いだ香りが。
バニラ…?いや、シナモン?
懐かしい香りなんだけど、ど忘れなのか思い出せない……。
「良い香りの御茶ですね。私の世界にも同じような香りの御茶が有ったのですが……こんな感じの?」
ポンっとティーバッグが。
はい、見覚えあります。と、言うか思い浮かべたモノです。
某ファミリーレストランのドリンクバーで見かけた、メイプルティー。
うん、この香りに似てたのよ~。
……じゃなくて、何で出せるの!?
「ふむふむ。これがスズネさんの世界の御茶ですか。無詠唱で具現化してしまうとは流石ですね」
「ワシの分も出してくれんかのぅ」
あー……はい、何故か出てきた事はスルーですか。
そういうもの。として慣れますよ。うん。
私の魔法練習 改め各種ティーバッグ練成会は無事?終わり、
玄武さんは嬉しそうにティーバッグを持って帰って行った。
おかげで思った通りの魔法が出せるようになったけど……玄武さん、それで良いのか!
「そうそう、スズネさん」
私も御城に戻ろうか。と思った所でウィルヘムさんから呼びとめられた。
「スズネさんの魔力は桁外れに大きいので、正直にいえば何でも出来ます」
サラっと言われたけれど、それって大分大事な事な気が。
実感は無いのですが……。
「ただ、とても危険です。魔力と言うのは世界との結び付きの力と言われています。スズネさんは今まで居た4つ、そして故郷の世界、合計5つとこの世界から魔力を得ています」
そういう物なんだ。と思いつつ、
3つ目の世界の「あ、ごめん。間違えたから乗り継ぎ便来るまで待って!」と言われた十数分の滞在は数えなくて良いんじゃ?
と思った。
でも世界4つ分かぁ。そりゃ凄い事になるわな~。
「魔力が凄い。って言われても実感は無いんですよね」
前の世界の魔法は、
・魔法は呪文を唱えれば発動する。
・凄い魔法使いは難しい呪文を覚えている。
・魔力は使える魔法の最大規模。
みたいな感じだったので、
・考えるだけで魔法が出ます。
・無意識でも魔法使ってます。
と言われてもピンと来ないというか。
「その分、暴発した時は何が起こるか分かりません。普通の魔法を使う分には良いのですが、複雑な魔法を使う時は気を付けてください」
そもそも何が普通で、何が複雑な魔法なんだろう?
火を出す魔法なんかは単純っぽいけど、そもそも何も無い所に火を熾すだけでも可燃物と熱量、酸素を生み出さなきゃいけないし。
酸素はその辺から持って来るにしても、熱量を生み出す?集める?
うん。複雑だ。
「何やら考え込まれてますが、複雑な魔法と言うのは人体練成や死者蘇生、時間停止のような物ですので。おそらくスズネさんには縁の無い魔法かと思いますよ」
確かに縁が無い。
そっか。「何でも出来る」って、そんな事まで出来るんだ。
「ややこしそうな魔法を使う時は、まずウィルヘムさんに聞いてからにします。使う機会が無ければ良いのですが」
時間を止めてナイフとか投げてみたいな。と思ったのは秘密。
ナイフなんて上手く投げれないけど。
「そう言えば、魔法使う時って杖とか魔道具的な物とか無くても大丈夫なのですか?」
魔法使いのイメージ=ローブ+杖+うさんくさい
前の世界もそうでした!
誰だ、私を見て「確かにうさんくさい」と思った輩は。出てこい!
「あぁ、スズネさんの場合は無くて大丈夫です。一般的に魔導杖や魔法書と言うのは、魔力の増幅に使うだけですから」
これとかです。と手元の古本(失礼)を見せてくれた。
「私はまだまだ魔力の増幅が必要な時が有りますが、スズネさんの場合は増幅する必要性が無いですから。むしろ、スズネさんの魔力に耐える素材が有りません」
増幅されちゃ困りますね。確かに。
焚き火を作ろう。と魔法を使って、山火事規模の火が出てきたら困るもの。
「なるほど。色々教えてもらってありがとうございます」
何も知らずに魔法を使って大変な事になる所でした。
部屋の中で火の玉とか暴発したら……。
うん、気をつけよう。
「いえ。私も魔導学論文のネタをもらえて助かりました。今度、実験の手伝いをしてもらいたい位です」
論文のネタも何も、私何かしたっけ。
「物質転送ではなく無からの物質練成が実用可能だなんて、魔導学の革命になりますよ」
……そんな大変な事をしてたのね。私。
これこそ「複雑な魔法」なんじゃないのかな?
まぁ、ダメって言われてないから良いか……。
これで仕事中のお茶に困りません!
※練習で作ったティーバッグは玄武さんが全部美味しく頂きました。
「この茶葉を特産品にして売り出したらどうかのう」
「やりませんよ」