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後始末その1‐例のアレ‐

「ところで、スズ姉。どーすんの?アレ」


「ん?アレって?」


「アレ。スズ姉拾ってきたじゃない」

魔法通信にて映像を転送されました。

はい。『アレ』ですね。

とりあえず捕まえてみた宗教監察官のワマイとやら。

独房でちょこんと座っている姿が見えます。牢屋の中って監視カメラ?監視魔法?有るんだね。


「アレをどうこうする前に……お願いしていた調査は完了しました?」


「頼まれていた通りに情報収集している。例の大司教、主席助祭の言質は取れたが、それ以上はまだ無理だな」


ワマイ君とやらを捕まえてから,まず初めにお願いしたのは相手の命令系統と証拠の確保。

いくら下っ端を突き出しても、上の人が白を切ったら終わりですから。

その為に、ワマイ組の状況を尋ねる言葉を拾ってもらいました。

勿論、贅沢にも記録用魔道具に最大音質で。

これだと息遣いから服の磨れる音まで入ります。証拠として十分です。


……あぁ。いつの間にスパイを送り込んだのかって?

送り込むまでも無く、ノーヴ民って色んな国の首脳部に入りこんでるんですよ。

一人一人の戦力が戦力なので、ノーヴ民って国際ギルド連盟のトップランカーに名を連ねてるんですよね。

小さな国も、大きな国も、そんな腕の有る人は重用する訳ですよ。

そんな訳で、国外のノーヴ民に情報提供を募ればすぐに内情なんて手に入っちゃうのです。

本職の諜報員を養成した方が良いのかもしれいないけど、それはまた今度ですかね。

一朝一夕で身に着くような技術じゃないですし。


「まぁ、それだけ取れれば十分かと思います。そもそも、私達が手を出しちゃ内政干渉ですし」

そうなのです。いくら、私達ノーヴに喧嘩を売ってきたからと言って、手を出すにはちょっと遠すぎるのです。

「なので、もうキールに身柄を返しちゃおうかと思います。もちろん熨斗を付けて」


「え、返すのですか?ノーヴの法でも十分に処罰出来ます。スズネさんに任せはしましたが、流石に無条件釈放は見逃せません」

ふふふ。無条件釈放だと思いましたか。


「もちろん、返す先はキールの一番上の人です。教皇さんになるんですかね?」

公務員……特に一般職員にとって、『されるとマズいこと』って言うのは『ミスを報告される事』なのです。

しかも、上司を飛び越えてそのまた上司、ましてやTOPになんて知られるのは致命的。

今後のキャリアプランなんて吹っ飛んじゃいますよね!

「私から事情を説明しに行きますが……申し訳ないのですけど、あちらの上層部と面識のある方に同行してもらいたいです。もちろん、行く前に調査資料は確認します」

私がノコノコ出て行って説明して、それで納得してくれるなら良いですが……そうもいかないでしょう。

いくら国同士の外交だと言っても、面識の有る人(交流の有る人なら尚良いですけど)が同行しているとなると話も通じやすいのです。

最善は、相手に貸しが有る人が同行してくれる事ですけどね。流石に国外にそんな伝手を持ってる人も居ないでしょう。


「う~ん、流石スズ姉だね。返すだけじゃないよね?その後、キールに恩を売りつける事まで考えてるよね」

むぅ。伊予ちゃんにはバレましたか。

流石に、国の長やってただけ有りますよね。

うん。考えてるよ。この件を有効活用する方法。

「たぶんだけど……スズ姉は監察官の身柄を教皇さんに押しつけて、その後で調査報告を伝えるつもりだよね。そして、上手い具合にキールの中で連中を捕まえさせるつもり。公開処刑や領地剥奪までやるのかな」

む……鋭い。

私のプランはこんな感じです。

1.ワマイ達をキール国王(キーリ教皇)に突っ返す。

2.調査報告と証拠物件(命令書ね)を基に、『キール教国の命令書が偽造されている事』を教える。

3.ノーグが被害を受けたけど、キールが取り締まりを行って再発を防止するなら不問にする事を伝える。

4.要請が有れば、命令書偽造犯の捕縛をノーヴ国は支援する事を伝える。(まぁ、私が行くつもりだけどね)

あんまり政治工作とかは詳しくないから、これで限界です。

上手く回ってくれれば、急進派らしい大司教さんを捕縛してキール教国内の法律で処罰。(最低でも公文書偽造でね)

実は上層部まで大司教派の勢力回ってました~。なら、大事になる前に上層部を制圧して、元の派閥に影響力を戻す。

こういう作戦って、C○Aとかの人達が立案するの上手そうだよね。私じゃこれが精一杯ですよ。

たぶんCI○の人達にお任せすると、『殉教者の解放作戦』とか大それた名前付きそうだけど……。


「流石、伊予ちゃん。でも、例の大司教派には警告する程度で終わらせるつもりだよ。あんまり一気に攻めすぎても、最後の反撃が怖いじゃない」

流石に無いだろうけど、飛行機でノーヴ城に突撃されても困るしね。

……飛行機が有るか無いかは知らないよ。たぶん無いと思うけど。

ま、まぁ……そうじゃなくても自爆テロとかされると困るじゃない。

一気に攻勢に掛かると、そういうゲリラ作戦に方向転換されちゃう可能性が有るから。あんまり一気に攻めちゃってもダメなのです。


「ん~……そこまで考えなくても良いと思うんだけど……ま、いっか。天龍さん、送りがてら同行してあげてね」


「元よりそのつもりですよ。旧知の仲を温めてきましょう」

天龍さんが着いてきてくれるなら安心です。

これなら、少し無茶をしても……げふん。

「それにしてもキールですか……。厄介な人達が出てこなければ良いのですが」


「それは勿論。出てくると思うよ」

な、何、その『厄介な人達』って!?

「宗教監察官なんて捕まえちゃったんだし、聖教会は出てくると思うね。……でも、今回はうちに落ち度無いからそんなに心配しなくても良いんじゃないかな?」

流石キーリ教の総本山。行政機関とは別に教会が力を持ってるのかな。

……あれ?でも、カルメンさんの商会って枢機卿さんや教皇さんから依頼を受けて来たような?

私の知ってる限りだと、枢機卿とか教皇って教会のお偉いさんだった気がするんだよね。

教会のお偉いさん達が頼んだ仕事を邪魔するのは教会の人達が怒っても当然だし、その仕事を手伝ったのなら感謝されるんじゃ。


「不思議そうな顔をしていますね。教会と教皇庁は一緒ではないか、とお考えですね」

端的に言ってしまえばその通りです。

と、言うか天龍さん。何で私の疑問をお見通しなんですかっ!

「簡単に言ってしまうと……キーリ教が聖教会で、キール国の行政機関が教皇庁です。重視する対象が異なるので、聖教会と教皇庁が異なる行動を取る事も多いのです」

分かったような分からないような。


たぶんだけど……

国として実現可能かどうかはともかく、キーリ教の教義に則った行動をするのが聖教会

キーリ教に基づくけど、国として成立するように動くのが教皇庁

ってことなのかな。

宗教と言えば有名な『右の頬を打たれたら』って例えだと、

喜んで左の頬出すよ!殴って!が聖教会

それ以上殴られちゃ困るから身を守るよ!が教皇庁

って所なのかな。

「と、いう理解で合ってますか?」


「うん。大体そんな感じだよ。どちらかと言えば『やられたら倍返し』な気もするけど……」

私の世界だと、宗教って非暴力系だった気がするんだけどなぁ。

世界が変われば教義も変わるってことなのかな……。

「そして、問題は……キーリ教って意外と種族差別が有るんだよね。人間至上主義って言うのかな」

心の狭い宗教ですこと。

と、言っても……私の世界の三大宗教(の一つ)も、『救われるのは白人のみ』とか言ってた時代が有るらしいしね。

時代を遡って考えれば、どこの宗教も似た感じなのかな。


「最近は緩和しているようですが、それでも『聖杖』を国外……ノーヴに持ち出した事をどう考えるかは分かりません。例の者達も、彼らの考えで言えば『聖具を守った者』になる可能性は有ります」

これまた厄介な。

単なる勢力争いかと思えば、そんな背景が有ったのですね。

「特に、宗教監察官は聖教会の役職です。キーリ教の教義に沿っている限り、独自の自由裁量権を持っているとのことです」

なんか……それは、悪用し放題な気がしないでもない。

そんなの、魔女狩り裁判とか異端諮問みたいな物じゃないですか。


「だから、めんどくさいから捕まえずに仕留めちゃって~って言ってたんだよね。今からでも海に捨てちゃう?」

その気持ちは分からないでもないし、事情を聴くと『うわぁ。めんどくせぇ連中だ』と思うけど……。

無力化して捕まえた人を、そのまま勝手に処分しちゃうのはダメだと思うんだ。

「スズ姉は優しいねぇ。まぁ……どうするかはお任せしてるから、スズ姉の考えで良いと思うよ」

優しいと言うか、考え方なのかな。

私の世界、現代の地球では捕虜の取り扱いとか色々有るし。

国際法を持ち出すまでも無く、勝手に捕まえて勝手に処刑なんて気が進まないよ。

文化の差とか、考え方の差って言うのは有るのかもしれないし、私が平和ボケしてるのかもしれないけど。

まぁ、だからこそ身分的に、社会的にギッタギタになるような策とか有るんだろうけどね。

どっちの方が幸せなのか……いや、どっちも嫌なのは分かるけど。


「せめてもの対策としては、聖教会が動く前に終わらせる事でしょうかね。今現在で聖教会が事態を把握していない、と言う奇跡が必要ですけど」

考えてても仕方ないし、天龍さんの言うとおりさっさと片を付けるべきなんだよね。


とは言っても、アッヅからキール教国の首都バーツまでって遠かった気が。

海路で二日、陸路で一週弱と聞いた気がします。

テブクロちゃん達みたいな子を連れていけば陸路は短縮できるかもだけど……急いで出発しても一週弱は掛かるよね。

「急いで準備をしても着くのは来週ですよね。船は出払ってるから上手く手配するとしても……」


「あれ、もしかしてスズ姉……歩いて行くつもり?」

いや、流石に歩いては……。

馬やら馬車やら上手く使って行くつもりだけど。

「えっとね、何のために天龍さんと一緒に行ってもらうかって言うと……」


「私はこれでも龍の身なのですよ。空から行けば一日と掛からず着くかと」

……。

あ、はい。すっかり忘れてました。

天龍さんって龍でした。竜族の人達で空飛べるんだから、天龍さんも空くらい飛べますよね。

「『導き手』たるスズネさんを乗せるのは良いとしても、犯罪者を乗せるのは気が進みませんが……この際、しょうがないと思いましょう」

えーっと……

天龍さんが乗せてくれるって言うなら良いんだけど、確か龍って竜族の上位種族だったよね。(資料室の本に書いてました)

竜でさえも出てきたら大事なのに、龍の天龍さんなんて飛んできたら大変な事にならない!?

ただでさえ変な事になってるのに、そんな大変な事したらそれは……。


「たまには牽制しないとね。最近、だいぶキールから甘く見られてるし」

「なに、上空から焼き尽くさないだけでも優しいと思って下さい。偶然とはいえ、スズネさんに手を出した愚か者達など燃やしてしまえば良いのです」

うわぁ。さらっと怖い事言ってるよこの人達。

「天龍さん、分かってると思うけど……いざって時はお願いね」

「スズネさんの身に何か有れば、一面消し飛ばして連れ帰ります。問題ありません」

おまわりさん!この人達こわいよー!

捕まえて見て意外と困る容疑者。

さて、どうしましょ?

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