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中庭の庭師:カティークの場合

「フィリアちゃん、また来たの?」


「……貴方も、まだいるのね」



声をかけたというのに呆れた目線を返されても、カティークは変わらず胡散臭い笑みを浮かべたままだった。



闇の軍勢を倒した後、王国には平和が戻った。

ルークは無事国王となり、各族長は今まで通り自らの領地へと戻ったのだが――カティークは未だ城に残っている。



「言ったでしょ?

俺が祖先の跡を継いで、庭師になるって」



そう、カティークは祖先――ウォルフリングのしていたように、庭師として中庭の世話をすることを決意したのだ。



「確かに言っていたわね…

でもここは私のお気に入りの場所だから、放っておいても荒れたりしないのよ?

貴方も知っているでしょう?」



そう、本来この場所に庭師という存在は不要だ。

世界を支える緑の柱――生き物の生を司る彼女がいる場所は、どの様な場合でも荒れることはなく、木々や花が生い茂る。

彼女の存在が、力を与えるのだ。

カティークもその事は知識として知っていた。



「いいんだってー。

それに、俺としてはそれこそ祖先みたくフィリアちゃんのお悩み相談役とかもやるつもりだし」


「貴方が?」


「そうそう」



胡散臭げにカティークを見下ろすフィリアに、へらりと笑みを返す。



「だからまあ取り敢えず、降りてきなよ」



今フィリアがいるのはいつもの木の枝の上だった。



「私、ここ気に入っているのよ」


「それじゃ、俺が行こーっと」


「え、ちょ、ちょっと!?」



フィリアが慌てている間に、するすると木を上る。

伊達に放浪の旅はしていない。

カティークにとってこれぐらいの木登りは朝飯前だ。



「…本当に来るとはね」


「フィリアちゃんの元へならどこへでも行くよー」


「ああそう…」


「で、フィリアちゃんは毎日毎日ここから何を見てるの?」


「何を……そうね、空とか、街とか」


「白銀の塔とか?」



カティークの言葉に、あからさまにフィリアは反応した。



「フィリアちゃん分かりやすいんだもん。

いっつも寂しそうにそっち見てれば、誰でもわかるよ」


「……私、寂しそうにしているかしら」


「すっごく」



頷いたカティークを見て、フィリアは両膝を引き寄せてそこに顔を埋めた。



「駄目ね、私」


「そんなことないよー。

フィリアちゃんにとっては初代達が無くなったことはまだ記憶に新しいことでしょ?」


「……」


「だからいいんだよ。

それに俺って、祖先に似てるじゃん?」


「……ウォルフのこと?」


「そうそう。

だから、甘えやすくない?」


「………」


「なぁ、フィリア?」



バッと、フィリアは顔をあげた。

強い瞳でカティークを睨む。



「…そういうこと、しないで。

貴方はカティークでしかないし、ウォルフはウォルフだわ。

どっちも、代わりなんていない」



(――嗚呼)



カティークは相好を崩した。

思いの丈のまま、未だこちらを睨むフィリアを抱き寄せる。



「ちょ、」


「やっと俺の名前、読んでくれた」



(――君は決して、過去と今を取り違えたりはしないんだね)



「それじゃあ、俺として、カティークとして言わせて?

フィリアちゃん、折角俺がいるんだから、頼ってよ」



腕の中のフィリアが息をのむ気配がした。



「甘えてよ、初代でも、ルーク様でも、俺の祖先でもなく、俺に」


「そんな、」


「甘えて欲しいんだ。

いつも君は気を張って、無理をしているから。

こんなに壊れそうなのに、俺は不安だよ」


「…不安?」


「フィリアちゃんが、いつか堪えきれなくなって、崩れそうで。

だから、吐き出して?

俺はいつでも君のそばにいるから」


「……、馬鹿じゃないの」


「そうかな」



そっとフィリアの頭を撫でる。

胸元の服が握られた。



「貴方も、ウォルフも、白はみんな、馬鹿、ばっかりで、」


「そういう家系なんだね。

だって俺も俺の祖先もフィリアちゃんのこと愛しちゃってるし」



布地が湿るのを感じた。



「……私、は…アルザスが」


「知ってるよ?」


「…のに、なんでっ」


「そんなの俺には関係ないから」



驚いたように顔をあげた彼女の、目の縁に溜まる涙を拭う。



「初代を想ってるフィリアちゃんごと、俺は君が好き」


「……っ、ほんと、ばか…」


「はいはい」



再び泣き出してしまった愛しい人を、胸元に引き寄せる。

背中を軽く叩きながら、でも、と続けた。



「こんな優しくしてあげるのは今日だけだよ?

明日からは、本気でいくから」



愛し気に髪に口づける。

もう、想いは告げた。

引き下がりはしない。

君を手に入れる為ならば。

そうして、いつか。



「君の心を、全部包み込んであげる」



俺だけの、君に。




彼は包み込む愛の持ち主(笑)

なんだかんだ、カティークさんが一番大人なんです。

もちろん独占欲や嫉妬心もありますが、それを上手く抑えつつ、出すところでは出していく人です。

彼は穏やかにフィリアちゃんがアルザスさんを忘れることを待ち、気がついたときには彼女の心に棲んでいるでしょう。

そして最終的に結婚→二人で各地を放浪!

ってなるはず。(少なくとも私の中では)

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