月夜の小話
実はあの後こんなことあったら萌える、いや燃えるよね、な話。
『緑の柱』RubyのStrollの後の、ルークとロイの対話。
「無断で女性の部屋に入るなんて、感心しませんね」
フィリアの部屋から出たルークとバルドに、どこからかそんな声がとんできた。
見ると、ロイが壁に寄りかかってこちらを見つめている。
「いや、少し用があってな。
フィリアには後で謝っておこう。
それじゃ、俺はこれで」
バルドは俺は関係ない、とばかりにさっさと自らの部屋に戻り、その場にはロイとルークだけが残された。
「ずいぶん、フィリアのことを気に入ったようですね」
「ええ、地位に目がくらむ連中が多い中で、フィリアのような存在は貴重です。
――何より彼女は、私がほしい言葉をくれたのですよ」
何かを思い出しているのだろうか、蕩けるような微笑みを浮かべるロイに、バルドの予感が当たったようだ、とルークは歯噛みした。
「貴方もそうなのでしょう?
もっとも、貴方はまだ何も彼女に明かしていないようですが」
「…そうですね。
けれど、いつかきっと。
僕達は共に旅をしているので、チャンスはいくらでもありますから」
真実を告げるチャンスも、勿論その他のそれも。
そう言外に言い含めて、ロイを見る。
「……そうですか。
そう言えば、フィリアがもっと我が家の庭を見たいと言ってくれましてね。
旅が終わった暁には必ずまた来ると。その時にはまた、私が案内したいと思います」
「…っその時はぜひ僕も加わりたいものですね」
「おや、旅が終わればルーク様はお忙しいのでは?
無理はされない方がいいですよ。
…私もそろそろ部屋に戻らせていただきましょう。
そうそう、いつまでも嘘をついているようでは、フィリアに嫌われますよ?
では、よい夢を」
そう言って、ロイもその場を立ち去る。
今回は、おそらく引き分け。
だが自分が彼女と共に過ごせる時間は残りわずかだ。
その点では、あちらの有利は否めない。
(どこまで、彼女の中に私の存在を刻み込めるでしょうか――)
知らずクスリと笑みがこぼれる。
こんなに楽しいのは久しぶりだ。
思えばこうして何かにのめり飲むことは年を重ねるにつれなくなっていった。
だからこそ、逃しはしない。
彼には悪いが、こちらも引く気は全くないのだ。
(可哀想ですが、しばらく思い悩んでいていただきましょう)
館の次の主は、悠然と笑んだ。