第6話 中和させるときは2つの液体を同じ重さにするといいらしいよ。
「紅茶ができました」
俺は、幸か不幸か分からないが大豪邸に来ている。長田は3番目の大きさと言っていたが、じゃあ、1番大きい家は東京ぐらいの大きさじゃないのか?
「ありがとうございます」
執事さんが俺に紅茶を持ってきてくれる。せっかくだし飲んでみよう。…………感想を言うと、これ絶対に1杯千円がぐらいしそうだ。
「おいおい、こんなに高そうなもの飲んでいいのか?」
「それ後100パックぐらいあったと思うから全然いいけど」
「そ、そうか」
どうもこの空間にいると頭が上がらない。しかし、空気が重い。何かやることないのかな?
「なあ、何かすることないか?」
「じゃあ、さっそくキャリーの使い方を教えてよ」
「それは、後で」
「じゃあ……ゲームでもする?」
「さっそくやろう」
俺たちは別室に行き、車ゲームや闘いゲーム、頭脳ゲームなどをたくさんやった。時間は……1時すぎってところか。そろそろお腹がすいてきたな。
「そういえば、今日の昼ご飯ってどうするの?」
と聞かれ、俺は
「決めてないな」
「じゃあ、ここで食べて行きなよ」
「悪いな。世話になっちゃって」
「いいって。別に。私もお腹すいてきたところだし」
「なんだ。お前もか」
「じゃあ、食卓に行こう」
俺が着いた先は、とんでもなくデカイ部屋ではなく普通の部屋だった。
「なんでここだけ小さいんだ?」
「食事の時ぐらい普通がいいの」
「まさかこんなこと言うなんて……」
「なんで常識外れみたいな言い方なの?」
「え?人類の中で多分一番外れていると思うけど」
「若干、心に来るわ……」
「お嬢様にお客様。食事の用意ができました」
メイドさんが声をかけてくれる。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
メイドか……。俺もほしいなあ……。
「ちょっと、考えていることがまずいと思うけど」
「駄目だよな。でもこういうのっていいよなあ。」
「だから、声に出てるって」
「す、すまん」
「じゃあ、食べましょう」
「「いただきます」」
いつも食べているものも美味しいが、この料理はなんだか次元が違った。なんだろう?見ただけだとただの肉のはずなのに口の中に入れると舌がとろけるというか、溶けている感じ……。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ」
どうやらタダの料理人の仕業ではないらしい。酸性のレモン汁がかかっている。俺は即効、あらかじめコップに入ってあった水を飲み干す。だが、これは水ではないことを口の中で悟る。
この液体を飲み干し、メイドさんに聞く。
「この液体って何ですか?」
「それは、水酸化ナトリウムです」
「俺を排除したかったんだな。何となく分かった気がする」
まさか、この組み合わせは……。
「気づいたようだね。佐藤輝樹君」
「誰だ?お前は」
「ただの料理人ですが。いかがでしたか料理は?」
「こんなもん食えるか」
「ちょっと、お父さんとお母さん出てこないでよ」
お父さんとお母さん? 料理人とメイドの格好じゃないか。
「千佳。そんなこと言わずに」
「じゃあ、お母さん。前からコスプレはやめてって言ってるよね」
「え~。でも佐藤君カッコイイからちょっと色気使っただけじゃん。しかも、千佳だってこの前―――」
「ちょっと向こうの部屋に行きましょう。お母さん」
「ええー。ここからがいいところなのに」
と言いながら出て行く長田と長田のお母さん。邪魔ものがいなくなるのを待っていたかのようにお父さんはやっと話し始める。
「さて、この料理で君を試したかっただけであって別に殺そうと思って作ってはいないよ」
「は、はあ」
(明らかにレモン汁がかかっている時点でわざとには見えないんだけどな)
「でも流石10位ということはあるね。こんなパニック状態でも中和のことを思い出すだなんて」
「まさか自分の体を使って体験するとは思いませんでしたけど」
中和とは酸性の液体とアルカリ性の液体を合わしたら、見事に両方の力を失い、ただの水と塩という物質ができることだ。俺はそんな危ないことを成し遂げたのである。
「でもなんで俺が10位って知っているんですか?」
「それは、禁〇事項です」
「本当は?」
「真言学校の会議のメンバーだからさ」
真言高校の会議というのは軽く言うとPTAみたいなものだが、重く言うと治安維持法みたいなものである。要するに生徒が何かできるレベルではない。だが、俺は行ったことはないがXランクの人は会議に参加できるらしい。だが、発言権は少ないらしい。
会議が作られた理由は、真言高校は次世代の高校であるので困ることも多い。そこで、日本各地の有能な人を集めて作ったらしい。だから、この人も有能なんだろう。
「それで、なんでこんなことしたのですか?」
「娘を守ることができる力があるか?ってことを試したかったんだよ」
それだけで人殺しまがいのことをするか?だが、
「(ガチャ)試さなくっても娘さんを守りますよ。例え俺が死んでも(ガチャ)」
ガチャってドアの音だよな。でも、誰も入ってこないなあ……。まさか、聞かれた? うわぁぁぁあぁ。
また誤解を招くようなことを言ってしまった。
「君の意志は伝わった。では、娘をよろしく頼む」
「いや、そこまで進展してませんし、本当に取り返しつかないこと言っていますよ。娘さん、多分赤い顔していますよ」
「(ガチャ)」
「お、噂をすればってやつですね」
俺はさっきの守る的なことをすっかり忘れていたようだ。
「この、恥知らずがぁ」
プチ。と何かが刺さる。
「注射?」
「そう。注射」
「駐車じゃなくて注射?」
「勿論」
俺は目の前が真っ暗になった。
暫く寝ていたらしいがどうやら何も起こらなかった。夕食は普通に美味しく気がついたら夜8時を回っていた。もう、暗いし帰るとするか。
「じゃあ、長田とお母さんとお父さんとメイドさんと執事さん。今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「またきてね」
「ああ、本当にありがとう」
「じゃあ、また月曜日に」
「バイバイ」
今日は色々あったけど、楽しかったなあ。絶対にまた来たいな。
家に着いた。そうしたら、なにか忘れている気がして思い出すと、
「あ、キャリーについて教えるの忘れた……」
何のために行ったんだろうと家に帰ってから思ってもどうにもならなかった……。