第13話 フードの奥
「試合開始」
審判の声が試合会場に響く。と、同時にバリアを張る。ついに、1VS1の決勝戦となった。今は、桜花のことを忘れて試合に集中しよう。でも、あんな鮮明に思い出すとは……。
相手は……何だあれ? フードを深くかぶり、まるで自分の姿を俺に見せたくないような感じだ。武器は……銃っぽいものだ。
「謎だ」
ふと、口に出してしまう。そう、第一印象は謎なのだ。それだけで、相手を恐怖に落とすのだ。もしかすると、順位がある人なのかも知れない。
多分、俺が10位だということはばれているだろう。しかし、こちらに何もデータがないのは不利。ここは、先手を取らず相手を観察しよう。
制限時間は、1時間だというのに5分以上は硬直状態が続いている。お互いに3mは離れていているため不意打ちはできない。っていうかこれは、我慢比べか? でも、流石に何もしなければまずいが何かするのもまずい。
さらに10分が経過した。フェイントでも1発かまそうかと思ったが戦局に変化は現れないと思ったのでやめた。と、ここである案が思いついた。俺には異能力として瞬間移動が与えられているので相手の背後に一瞬、即ち1万分の1秒(これは、憶測だが)で移動することができる。そして、後ろから集中攻撃という案だ。しかし、いつ使うかだよな……。
さらに、10分。合計約30分は硬直状態だったがここで輝樹はついに動き出した。動き出したといっても、我々が見ることは不可能な速さである。
謎の相手の背後に移動中、輝樹はこう思った。勝負あった、と。
しかし、謎の相手はその一手先だった。
輝樹が、攻撃する瞬間それは起こった。
「!!」
そう、輝樹の攻撃をすり抜けたのだ。後ろからwing of metalで貫通したはずだが。
「ど、どういうことだ……」
謎の相手はちゃんといるのだ。しかし、バリアの色は緑どころが変化なしの青のままなのだ。Wing of metalも音速並の速さなのだ。通常の人間が輝樹の攻撃を食らうと今の輝樹の心情になるのだ。
「流石、最近噂になっているだけはあるわね」
と、謎の相手は呟く。口調からして女と見える。
「お、おい。どういうことだよ」
俺は半ば焦りながらも相手の情報を得ようとする。
「これは、私の異能力よ」
「……っ!!」
「あれ? 私がxランクって気づかなかったの?」
「それには気づいていたが、異能力を出す欠片すら感じなかったから」
なぜ、俺の攻撃がすり抜けたのか。さらに謎が増えた。
「ふふ、これはそういうものなのね。ありがと」
!! な、なんで俺はドキドキしてんだよ。俺には、ち、ち……千佳がいる――だぁぁぁぁぁぁ。何時から俺はそんなに千佳を思うようになったんだ。別に、あいつとはタッグなだけじゃねえか。特別な感情は抱いていないはず。
しかし、やるじゃねーか。謎の女め。こっちの精神揺さぶってくるなんて。本当に出来る相手だ。気を引き締めないと。
「さて、俺の異能力は見ての通り『瞬間移動』だ。確かにお前は避けなかった。ワザとなのか?」
「まあ、実験ということでね」
なんてやつだ。自画自賛するつもりはないが俺の噂ぐらい聞いているはずだが、その俺で実験だなんて……。すいません。自慢ですね、これ。
さらに、フードを深く被りなおし本気のオーラを出してくる。
「あんた、ちょっとはやるみたいじゃないか。俺の噂ぐらい知っているだろ? ここ最近ではMGCの王者とも呼ばれてきているんだぜ。その王者に実験って完全になめきってい――」
「佐藤輝樹でしょ? 10位でⅡxランク。『急所眼力』ってい――」
「!! ちょっと待て。な、な、なんでそれを知っているんだ?」
「まあ、こっちで勝手に調べさせてもらったの。データならまだまだあるわよ? この前の数学のテストの点とか」
こ、こいつ……何者なんだ? 恐怖なんて桜花が襲われそうになった10年前ぐらいだぞ。
それにⅡxランクのことまで知られているとは。あれは、知る人は千佳の父さんと、白髪のおっさんぐらいだぞ。千佳の父さんは絶対に言わないはずだ。なら白髪のおっさんか? いや、でも確か倒れていたはずだ。なら盗聴器? 考えても仕方がない。
「あんた、何者なんだ?」
俺がそういうと、いっそうフードを深くかぶる。
「私はただの新参者よ」
「そうだろな。俺、まったくデータないんだから……ってそういう『者』じゃねえよ。じゃあ、名前は?」
「……」
「? どうしたんだ?」
「!! わ、わたしの名前?」
「ああ。って審判の名前聞いてもしょうがないだろ」
ちょっとだけ審判がピクッ。としたのは俺だけの秘密だ。
「……シェンロン」
なんで、俺の周りはこんなやつらばっかなんだ?
俺がジーとフードらへんを見つめると慌てて言い返す。
「名前……ないの」
空気重くすんな!! 聞いた俺が悪かったみたいじゃねーか。
でも、名前なんで隠したんだ? 隠す必要があるのか? すべて秘密主義とか。
しかし、とことん謎で埋め尽くされているな。フードだけでもはがしたくなってきた。
「!!」
なぜ、こんな好奇心が生まれるんだ? さっきまで恐怖だったのに今はお互い見方みたいな関係じゃないか。名前なんか聞いたりして。それに、普通に恐怖なやつが相手のフードはがしたいとか思うか? 心のどこかで……。いや、そんなわけない。なんであんな謎の女と――なんだよ。
しかし、この心境にどう理由をつければいい? その答えを出すためにはやはりフードを取らないといけないようだ。しかし、どうやって? 相手は俺の攻撃を透過したんだぞ。
分からない。再び恐怖に陥りそうになる。思わず、戦場から目を背けてしまう。と、背けた先には……
「千佳!!」
「輝樹。頑張って」
長田千佳。俺のパートナーであり、俺の……思い人かもしれない人がいた。
その千佳の後ろには女子がスカートのめくりあいをしている。今すぐにでも行きた――注意しなければならないのだが……。
「そうだ!!」
この手があったか。ちょっと、MGCのやりすぎなのかもな。
でも、これを確認していいのだろうか? 謎の女は顔を隠さなければないといけないのだろう、きっと。そして、俺自身も自我を保てなくなるかもしれない。思わず棄権でもしてしまいそうだ。でも、それ以上に俺は――――
フードをはがす決意を固め、俺の全てのブラッドをこれから行う瞬間移動のために溜める。このブラッドは固まった時間を溶かす、まるでマグマのようなものだ。
そして……瞬間移動を――した。場所は謎の女の背後ではなく……真ん前だ。そして、呆気なくフードをはがす。透過することなく。そして……
「試合終了。この試合ドロー」
との審判の声が響く。
俺には、そんな声より別の……もっと懐かしい声が聞こえていた。
「輝樹。ごめんね」
「桜花!!」
フードの奥には俺の思い人……藍神桜花がいたのだ。
お久しぶりですね。超常毎日です。このあとがきを見ているということは驚愕に浸っている人もいれば、読んで損したと思っている人もいるはずですね。(明らかに前者の数より後者の数が上回るでしょう)
この大富豪の手札も結構前から書いているのですが自分で読み返してみると、変換ミスだったり、文法的な間違いや、根本的なミスまでありました。
なので、そういったところも注意してもらえると私としてはうれしい限りです。