第11話 lost memory 2
小学校でいう4年生になり、俺と桜花の仲はどんどん深まっていった。
料理当番の時は楽しく2人でやってたし、実を言うとお互いに嫉妬深いんだと思う。
俺が特別な理由以外で女子と話すと桜花は睨んでくるし、桜花が男子と話していると俺は睨みはしなかったが、もやもやした気分になった。
その日の夜、桜花と一緒のベッドに入るともう寝ているようで、俺も約束通り桜花より後に寝る。
コーン。コーン。
この鐘は12を告げるほうか。よし、寝よう。
俺が寝てから、3・4時間ぐらいだろうか。誰かの会話声で起きる。誰だろう……と言っても桜花しかありえないけど。
一度目を覚ましてしまったので寝ることは難しい。子守歌代わりに桜花の声を目を閉じながら聞く。
「さっきから言っているじゃないですか」
何の話だろうか?そう言えば前もこんな感じあった気が……
「だから、輝樹は相応しくないですって」
なんで俺の話しているんだよ……。と思いながらなぜ俺の話をしているか気になる。
「え?でも、まだキャリーは速いんじゃないですか?」
キャリーってなんだ?
「分かりました……。でも、それで違ったら諦めてくれますよね。ボス?」
ボス?ああ、英語でBOSSね。
「なら、構いません。では、結果は後日にでも」
ピ。と電話を切る。そして、寝た振りをしている俺に向かってこう言い放つのであった。
「絶対に輝樹は守るよ。だから、心配しないで」
この電話があってから約1か月。この時、まだまだ世界は春なのに俺の心は凍える冬のようになった。
ドォォォン。その音のほうを見ると、ヤクザが3人いた。そして、こう言った。
「おぉい。ここに、藍神桜花はいるかぁ?」
俺らはまだ、4年生だったのでとても怯えた。だが、1人だけ怯えていない少女がいた。
「ちぇ。もう来たの」
その少女は………………桜花であった。
「私に何か相談でも?」
この時の桜花は確かに何でもできた。だから、桜花に質問する人がこの施設外にもいた。だが、今回はその類いではないだろう。
「ボスからの伝言でお前の報告が遅いから無理やりキャリーを使わせてやれ。と」
と、ヤクザが1人俺のほうに走ってくる。勿論俺はこの時点で腰が抜けていて動けない。すると、そのヤクザに何かが刺さる。
「まさか……それを持っていたのか」
といって倒れる。俺は桜花のほうを向くと、銀のピストルを3つ持っていた。
「桜花。それってピストル?」
「う~ん。まあ、簡単に言うと打たれた人は打った人の記憶だけが消える針が飛ぶピストル、記憶麻酔かな」
結構、具体的だね。と言う暇も無く、桜花は次の指示を出す。
「輝樹はあの人を狙って」
と、ピストル1丁を渡してきた。あの人とはさっき伝言とか言っていた人か。
「今回のミッションの内容を知っている人はあの人だけだと思うから」
と、ついでのように言う。というか、なぜあの人は俺のことを知っているのだろうか。
「分かった。ピストルで撃てばいいんだね」
桜花の言葉を聞き、勇気がみなぎる。なぜか腰が治っていて自然に立てる。
「まあ、そういうこと」
俺は集中してピストルでヤクザを狙う。そして、
「グハァア」
命中。あっけなく倒れて、隣を見ると桜花のほうもやっつけたようだ。
「さて、桜花。そろそろ話してくれないか」
俺の心は揺らいでいた。桜花と一緒にいたい。でも、今日のヤクザのことでますます分からなくなってしまった。
俺のことは別にいいが、ヤクザは桜花も狙っていた。
これが、どうも嫌だった。でも、
桜花との日常は壊したくない。
この2つが俺の中で聞くべきか聞かないべきか迷っていたが、聞くことにした。
「あ、でも答えられない事情ならいいけど」
と、譲歩という名の逃げ道を作る。
「話す時が来たらしっかり話すからそれまで待っていてくれる?」
まあ、話してくれるって言っているんだしまあいいかと思うことにする。
「それと、輝樹。目を閉じてじっとして」
なんのことだ?まあ、いいか。
「これでいい?」
ちゃんと、目を閉じてじっとする。すると…………。
「ん……」
目を閉じながらでも分かる。今、桜花の唇と俺の唇が重なる。
実は、俺、これがファーストキスだったりする。でも、桜花なら……。
「さっきの輝樹、カッコ良かったよ」
惚れた子にキスされて、カッコいいと言われた。これほど嬉しことはないだろう。
それからは誰も襲ってくることはなく、暫くは平穏な毎日を過ごすのであった。
何をするのも2人一緒。つい先日よりもお互いを思う気持ちはさらに深まっただろう。
そして、小学校で言う5年生になったばかり。
桜花がそろそろ追手が来るころだろうと思ったらしく、ちょっと、やりたいことがある。という前振りをしたあと、
「輝樹。ちょっとこれを持っていて」
「え?これ何?」
俺が渡されたものは、携帯電話サイズの何かだった。
「それを持って、何かを思って」
「何かを思うって?」
「なんでもいいけど……じゃあ、あの石ころを心の中で思っていて」
「良く分からないけど、桜花が言うなら」
俺は石ころを想像すると、いきなり携帯電話みたいなものが光り輝く。すると……
「あれぇ?これ何?」
俺が想像したものは石ころだったのに変形したものは…………錆びた剣だった。
「何か違ったものが出てきたけど?」
「…………」
なぜか桜花は錆びた剣を見ながら驚いている。
「まさか、これは草薙の剣なの?」
何を言っているのか分からなかったので声をかける。
「桜花。ねえ。桜花ってば」
「え?あ、ごめん。ちょっとびっくりしていて」
「なんだか今日の桜花、変だよ。なんか予想通りみたいな感じの顔をしているし」
「まあ、予想を外れてほしかったけど……。でも、これが結果ならしょうがないか」
と、1人で納得する桜花だが、俺は納得いかない。
「ねえ、桜花。これどういうことなの?」
すると、
「輝樹はこれから今のことを誰にも話しちゃダメよ」
「う、うん」
桜花の目が本気だったので圧倒されてしまった。
「今のは悪かったわ。でも、もし何があってもこのことは私たちの秘密だからね」
「分かった」
桜花は、錆びた剣を携帯サイズに戻し、そこから何かを抜く。
「輝樹。万が一だけど、この剣を使わなければならない時はこのメモリーカードを今は詳しく言えないけど、そのときはこんな携帯電話をもっているはずだからさっきと同じことをして」
良く分からないけど、一応うなずく。
「うん。分かった」
「なら、このメモリーカードは命より大切と思って持っていて」
と言われ、貰う。
「あ、あとこれも。これはあなたの中に入れておくから」
桜花が手を差し伸べる。ので、俺も手をのせると、まるで体の中に何かが入り込んだような衝動に駆られた。
「いまのは?」
そう聞くと、
「まあ、神の力とでもいうべきかな」
悪戯っぽく言う桜花は可愛かった。
6年生に進級し、ますます桜花のことが気になっていた。
体は丸みを帯びて、いかにも女の子の色気というべき部分もさらに強調される。
お互い喧嘩することも多々あったが、その分だけ仲良くなった。嫉妬深さもお互い様だった。
毎日が楽しかったのに、桜花は突然こんなことを言い出すのだった。
「私、もう少しで遠いところに行くの」