ひきだしのオルゴール 〜おばあちゃんの魔法と、旅立ちのメロディ〜
お母さんがお買い物に行ったので、おうちにはだれもいなくなりました。
花ちゃんは、宿題のノートをひろげたまま立ち上がって、おばあちゃんのお部屋にそっと入りました。
おばあちゃんのお部屋は、ちょっとだけ、おばあちゃんのにおいがします。
花ちゃんはトコトコと窓際に置いてある鏡台の前に向かって、カタンとひきだしを開けました。
ここには、おばあちゃんのオルゴールが入っているのです。
小さなオルゴールです。
カチリカチリとネジを巻いて、木の箱を開くと、かわいい音が流れはじめます。
おばあちゃんがまだ元気だったころに見せてくれてから、ずっと花ちゃんのお気に入りです。
おばあちゃんは、去年お星さまになりました。
お父さんが泣くのをはじめて見ました。
花ちゃんも、大好きなおばあちゃんに会えなくなるのが寂しくて、いっぱい泣きました。
それからというもの、花ちゃんは時々こうして、ないしょでおばあちゃんのオルゴールを聴きにくるようになったのです。
はじめのうち、オルゴールはいつも同じ音楽を奏でていました。
でも、そのうちーーー。
雨の日には、雨の歌。
楽しい日には、楽しい歌。
花ちゃんがちょっと寂しい日には、元気なマーチ。
しかられた日には、優しい歌。
箱を開く度に、色々な音楽が流れてくるようになりました。
花ちゃんが、好きなアニメの歌が聴きたいなぁとおねだりすると、その曲が流れます。
でも、同じところを何度もくりかえしたり、ちょっとまちがえたりします。
月日は経ち、花ちゃんは花さんになりました。
夜、花さんはおばあちゃんの部屋にふと入ってみました。
普段使っていない部屋なので、少しだけ、埃っぽい匂いがします。
花さんは鏡台の前に座って、ちょっと髪を直しながら、カタンと引き出しを開けました。
そこには、おばあちゃんのオルゴールが眠っていました。
花さんは、懐かしそうにオルゴールを手に取って、丁寧にカチリカチリとネジを巻きました。
そして、木の箱を開くと、幼い頃に聴いたかわいい音で優しいメロディが流れ始めました。
花さんは静かに耳を傾けていました。
徐々にメロディがゆっくりになって、リロリン、と音が止まりました。
花さんは、そっと箱を閉じて、オルゴールを引き出しにしまいました。
明日、花さんは家を出ます。
お嫁にいくのです。




