第7話 ゴンダラフの失態
宇宙の中枢に存在する「神の白い部屋」。
目に見えぬ高次元、思念体のゴンダラフは、白色の空間で、3Dホログラム・プロジェクターをスライドして操作する。
『ルドハイ7星団、創生の準備はこれでよし、と。
ターク星、ギャベン星の進歩状況は順調ですね。
パーカント星での、転移人による産業革命は良好状態。
シャットホート星への、勇者召喚の選定は完了。
ミルッキャ星は、他星からの侵略で惑星戦争に突入。
これは要報告ですね。
テンケ星は、魔族の誕生。
まったくどこにでも魔族は沸いてきますね。
あとは、ファルタ星域の……』
<チロリロリン♪>
スペース・スマホから「Cosmos Raine」が届く。
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[ From 9代目神龍 ゲンダラフ神 ]
[ To ゴンダラフ ]
[ 件名 ] 『視察 地球着 (`・ω・)ゞ 』
新譜のブルーレイ付き初回限定版、
○do様のアルバムを発見!
土産に買っていくでのう。
楽しみにしておくのじゃ。
フォルタ星域 ギャラクシー誕生プロジェクト。
テラウス星 召喚の任、頼んだぞい(`・ω・´)/
[ 画像 ] 『 渋谷ナウ 』
DXバナナチョコホイップを手に、
サングラスを掛けた禿げの老人「ゲンダラフ」神と、
若く美貌の魔族サキュバスとの笑顔のツーショット。
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ゴンダラフは画像を確認。
『仕事を押し付け視察を理由に愛人と旅行ですか。
テラウス星の召喚も途中から丸投げ。
新たな星団プロジェクトも「ゲンダラフ」神様の仕事でしょうに。
私が10代目神龍と確定されてるならまだしも、内定の段階で神決済の8割がたの仕事量を押し付けるのはいかがなものでしょう。
今回のテラウス星への召喚も、地球星に出向くのなら直接選定者をここに直結してくださいよ。不安定な自動召喚より確実的でしょうに。
もう一連の越権行為、愛人旅行。「UUA (宇宙統一協会)」に暴露、漏洩しましょうか?
いえいえ、「ゲンダラフ」神様の失脚は、私自身の道も閉ざされるということ。一時の感情でそのようなリスクを冒すことはできません。
このまま従え過誤なく仕事をこなしていけば、10代目神龍(宇宙神)の座は私のもの。
全宇宙でのその権力は絶大。
様々な決定権。権限。その恩威は計り知れませんからね……』
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[ 返信 ]
[ To 9代目神龍 ゲンダラフ神 ]
[ Re 視察ご苦労様です (*^_^*) ]
いつも気遣い有難うございます。
アルバム、楽しみにしております。
グラマーな淫魔さん キタ――(゜∀゜)――!! 裏山!
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『「ゲンダラフ」神様同様、密かに越権行為を行っているのは私とて同じこと。
アルバムも直接地球に伺い、手元にあるんですけどね』
アナウンスが流れる。
『テラウス星 魔王討伐 第7世代目 自動直結召喚完了 地球星より召喚者 到着いたします』
『おっと、もうこんな時間ですか。
「勇者」は済ませたので、今回は「賢者」と「聖者」の到着。
地球星は、テラウス星と同じヒューマン型ですね』
霊的存在から、突如人間が現れる。
白のローブに頭に龍の冠。
仮の人間の姿、若い青年のゴンダラフ(10代目「神龍」予定)。
「あ、あ、ああーー。発声もこれで、よし、と」
「神の白い部屋」内の、召喚転移地点からまばゆい光が溢れだす。
少年が1人、少女2人が瞬間移動され、
突然の見知らぬ殺風景な白い部屋に驚いている。
「「「…………?」」」
ゴンダラフは転移された召喚者に悠々と語りだす。
「地球から召喚されし者よ、心して耳を傾けてください。
ここは宇宙の中心「神の白い部屋」。
そして私は10代目龍神予定のゴンダラフ神……え? 3人?」
あれ?「勇者」はすでに6日前に召喚済み。「後藤十三」さんを送り出したのですが…。
残りは「賢者」と「聖者」女性2人のはず…。
興奮した口調、高校の制服を着た少年は、
「召喚!? このシチュエーション、神様的な登場パターンは、まさかの!」
ジャージ姿の少女は慌てふためき、
「え? え? 私、家に……え?」
悪魔Tシャツのラフな格好の少女は、目を見開き何もない空間を隅々に確認している。
少年は冷静に辺りを伺う少女に話しかける。
「ノゾミ、オレ死んだ? いや、オレたち家に居たよな?」
「んーー、リビングに居たねぇー」
「死ぬ要素とかあったか?」
「ないねぇー」
スマホを片手に慌てるパニックの少女。
「ここ、どこー!? どこよおおお!!」
「勇者」はすでに召喚済み。
「賢者」と「聖者」はこの少女たちで間違いないのでしょう。
この少年が2人に巻き込まれ「召喚不具合」で別人を?
これだから予約自動召喚は、非効率すぎるでしょう…。
混乱、焦るゴンダラフは、召喚者リストを投影。
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〔 K-7544824宇宙 〕
[ K-ランダリア銀河系 第2惑星テラウス ]
[ 4254388 603-8 ]
ーテラウス星 魔王討伐 第7世代目 転移人 召喚確定者ー
【地球人 一条 武瑠 勇者 称号 救世主】
【地球人 一条 彩佳 賢者 称号 オールラウンダー】
【地球人 一条 希美 聖者 称号 女神】
選定者
9代目神龍「ゲンダラフ」
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召喚ミスはこの少年ではなく、
6日前に召喚されてきた「後藤十三」さんの方?
しかしステータスは確認したはず。それとも勇者がダブっている?
記憶を辿る。
名前、LVは確認。
LV99のカンスト状態に驚愕して…その他確認なし…。
「後藤十三」のステータス画面を確認。
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【ステータス・ボード】
【名前】 後藤十三 (ゴトウ ジュウゾウ)
【性別】 男
【年齢】 72→28
【種族】 人族 (地球出身)
【ジョブ】 暗殺者 (アサシン) ←←
【LV】 99
【HP】 999/999
【MP】 999/999
・
・
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ジョブが、「暗殺者」……?
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[ K-ランダリア銀河系 第2惑星テラウス ]
[ 4254388 589ー7 ]
テラウス星 魔王討伐 第7世代目 転移人 召喚予定者
地球星 → テラウス星
――
地球人 相川泉
女性 34歳 能力値 79
――
地球人 一条彩佳 [★ 賢者]
女性 17歳 能力値 82
――
地球人 一条武瑠 [★ 勇者]
男性 18歳 能力値 86
――
地球人 一条希美 [★ 聖者]
女性 17歳 能力値 94
――
地球人 エバ・フォード
女性 27歳 能力値 78
――
地球人 小沢明人
男性 79歳 能力値 79
――
地球人 後藤十三
男性 72歳 能力値 99
――
地球人 瀬川隼
男性 28歳 能力値 78
――
地球人 テラ・グッテンバーグ
女性 12歳 能力値 80
――
・
・
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確定前の召喚者リストに「後藤十三」さんの名。
「ゲンダラフ」神様の選定ではこの兄妹3人が召喚確定者…。
後藤さんは召喚不採用……。
「んー、なんか想定外の事が起こったらしいねー」
「これはまさか、人違いでオレたち召喚されたとか?」
「お約束すぎてウケるー」
「チートも無しに異世界に追放パターン?」
その言葉にノゾミは苦笑い、アヤカは怒り心頭。
「ちょっとアナタ、ここはどこよ! 黙ってないで説明しなさいよ!」
<ブツブツブツブツ>
「何コイツ? 人の話しを聞かない奴?」
「神さまみたいな人ー。ちょっと不安になってきたんですけどー」
「賢者」「聖者」はともかく、能力値的に「勇者」の召喚はこの少年ではなく後藤十三さんの方では?
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後藤十三 データ
ー家族構成ー
後藤十三 (72) 一条マリア (41)
長男 一条武瑠 (18)
長女 一条彩佳 (17)
次女 一条望美 (17)
・
・
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後藤さんの子供……?
3兄妹の個々のステータス、記憶をダウンロードする。
「ガン無視ですかー?」
「ノゾミ、これもう絶対にオレたちじゃないだろう…」
「完全無視だねー」
「トラブルなら、オレたち地球に戻されるのか? それともチートも貰えず追放?」
「たぶん戻されるのも追放も、タケ兄だけかな?」
「え? なんで!?」
「ちょっと、アナタ! ワタシたちの話を聞くつもりあるの!黙ってないで何か言いなさいよ!」
ダウンロードが終了し、ロードを読み込む。
成る程。この一条武瑠という少年は、父親の天資と比較するとまだまだ未熟ですが過去の転移人よりも能力値は上。
遺伝性的に素質、資質面と十分にこの世界で適応できる力、底知れぬ潜在能力を秘めていると。
それはこの双子の少女2人も同様ですね。
何故に後藤さんが召喚不採用なのか謎ですが 、
(「ゲンダラフ」神様がボケて間違い? それか見逃し?)
しかし最終的な選定は、紛れもなくこの3人ということ……。
「アヤ姉、スマホ繋がる?」
「え? あっ」
アヤカは手に持っているスマホを確認。
「圏外!うそ!」
「ノゾミ、何でオレだけハブなの?」
「どうしてでしょうかねぇー?」
現状の整理です。
前提は地球星から「テラウス星」への不安定な召喚。
過去の事例でもある誤召喚。
「血縁者の繋がりから」 「召喚候補者から」により召喚ミスが発生。
それにより選定候補の「後藤十三」さんが、
地球での事故により誤って早期に誤召喚される。
私はステータス確認時、暗殺者というジョブの確認を見逃し。
(レベル99のカンストに驚いて)
勇者と心得違いをしてそのまま交渉。
「後藤十三」さんの了承を得て勇者として「テラウス星」へと送り込んだ。
完全に私の過誤であり失態ですね。
今さら接触する事も呼び戻す事も干渉不可の為できません。
「ゲンダラフ」神様の権限なら可能ですが、それを行うと私の過失が露見するということ。
今回のミスが発覚すれば10代目神龍を目指す私は厳罰どころか、神内定取り消し……。
「ねぇー、さすがに放置はないよー」
「あの、勝手に呼んでおいて、間違いとか、ありませんよね?」
「スマホ…圏外…」
事態は早急に「ゲンダラフ」神様への報告ですが、しかしそれは数々の神候補との競争に打ち破り「ゲンダラフ」神様の仕事を文句を言わず請け負い、ミスをフォロー、時には庇い、残業や休日出勤をしてきた苦労も努力も水泡に帰すということ。
たった一つの失態で責任追及され厳罰対象、最悪追放……。
たかが小さい星の召喚ミスごとき些事で失っていい地位ではありません。念願の10代目神龍、頂点の座は……。
深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。
「後藤十三」さんの遺伝子を受け継ぐ能力、ステータス値。これはもうあながちイレギュラーとはいえないのでは?
要はどちらかが、もしくは共闘で討伐を成し遂げてくれるのなら1人くらい転移人が増えても許容範囲では?
過去にも3人以上、16人と複数の実例もありますし。
今回の召喚は途中から全て私に一任。
このまま父子共々4人で魔王討伐を向かわせ、
想定外の「後藤十三」さんの存在は報告せず、隠匿。
露呈しなければ全てが丸く収まるはず。
親子で共同で魔王討伐を成す、なかなかいい物語ではないですか。
はい、自己保身決定。黙認、傍観、座視ですね。私の未来の為にも。
円滑に進める為、記録類改ざん隠蔽です。
「ゲンダラフ」神様も管理者側も経過に興味なし、結果しか求めません。
この様な事態が露呈しなければ問題はなし。
あとは適当にこの3人を言い含め、ささっと「テラウス」に送り込みましょう。
まったく、こんな事態に陥ったのも「ゲンダラフ」神様が、膨大な量の書類仕事や、
<チロリロリン♪>
「Cosmos Raine」が鳴る。
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[ From 9代目神龍 ゲンダラフ神 ]
[ To ゴンダラフ ]
[ 件名 ] 『 湘南の海ナウ 』
[ 画像 ]
水着姿の「ゲンダラフ」神とサキュバス。
サキュリンのハイレグ姿じゃぞい(^^)
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――このクソ爺!!!
床にスペース・スマホを投げつける。
₋∧₋
⊂(#・ω・)
/ ノ∪
し―-J |l| |
□ <ペシッ
「あ、投げた」
「ねえ、あのスマホ、電波繋がるんじゃないの?」
ゴンダラフは慌てて床からスマホを拾い上げ、
いけませんいけません。あんな老いぼれでも現絶対権力者。
感情的になってはいけません。冷静に冷静に深呼吸深呼吸。
<スーハー スーハー>
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[ 返信 ]
[ To 9代目神龍 ゲンダラフ神 ]
[ Re 羨ましい限りです(>_<) ]
今日の夜はハッスルハッスルですね\(^^)/
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「神様、怒った?」
「焦り、不満、安堵、怒りの衝動、今は冷静、かな?」
「ノゾミ、どうなるんだ、オレたち…」
「現状為す術なし。相手の出方次第だよ」
おっと、いけませんいけません。神 (仮)たる私が召喚者を不安や混乱させては。
少し動揺しましたが威厳を保ち、毅然とした態度で接し臨まなければ……。
ゴンダラフは満面の笑みで3人を見据え、
「はい、お待たせいたしました」
「事故ったような顔だったよー」
「事故はありません」
「あの、これは異世界の召喚で合ってるんですよね?」
「その認識で合っております。
あなた方は地球とは遠く離れた「テラウス」星に召喚されし者。
武瑠さんは「勇者」。彩佳さんは「賢者」。希美さんは「聖者」。
魔王討伐を果たす為に選ばれし、導かれし者たちです」
「え? 頭おかしい人?」
「人違いじゃなかった!ハブかれてない! 異世界、よっしゃー!!!」
タケルは拳を上げ喜ぶ。
「いやいや、訳わかんないって! 別の世界? あり得えなくない!」
「別の世界なんだー。時間的に流れは地球と一緒なのかな?」
「待って待って、これもう拉致でしょ、誘拐でしょ!」
「それでは「テラウス」星で冒険を始める上での要用な説明、神託を行います。よろしいでしょうか?」
「よろしいわけあるかー!! 話し聞け!人攫い!訴えるわよ!」
――
7 ゴンダラフの失態 終わり (57)
8 「勇者」「賢者」「聖者」 (58)
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