第4話 遭難者
ー2日目ー
翌朝。森の中の道。
街を目指す3兄妹。
ノゾミは自前の地球でのコスプレ衣装。
暗黒色のローブ、頭にはマジックハットを着用。
ギフト「マップ」を発動。
「街道まで840メートル。
街道地点からテオタビの街まで2キロ。
もすこしで街だねー。
補足事項は、
冒険者の街「テオタビ」人口21万人。
カスピス秘境まで57キロ。
トックル平原まで1キロ。
モミー迷宮まで11キロ」
「「マップ」ギフト、高性能凄すぎだろ」
「3D表示や上空からの俯瞰。LVを上がげていくと全体像、星全体が見られるぽいね」
「○oogleマップかよ。撮影車もないのに」
「ある意味、地球の科学より凌駕してるねー、スキル、ギフト」
「オレの「マッピング」スキルは、行った場所で初めて作成されているな。それでも謎技術だが」
「地図なんてそれぐらいでいいんだよ。先行きが分かり過ぎても興ざめだよ」
「ノゾミは攻略法見ない派、マッピングも方眼紙に書きこんで楽しむガチ勢だからな」
「アナログ推奨、ネタバレ厳禁だよ!
まあここでは序盤、世界観を見極める為ある程度は見るけどね」
「さすがのノゾミでも慎重に進めていくか」
「石橋を叩いて、スキルで状況確認して、タケ兄に「大丈夫だよ」と渡らせてから、渡るね」
「…うん、オマエはそういう奴と知ってた」
アヤカは歩きながらブツブツと、
「「ファイアー LV1」は、ライターやマッチの火のイメージ。
「ファイアー LV2」は、お肉の表面を焼くガストーチバーナー。
火炎放射器は「ファイアー LV3」。いや4くらいか?
魔法名の後にLV。 LVに応じて強弱のイメージ…」
「アヤ姉、ここは「マイちゃん」をイメージしていこうか」
「マイ? アニメの?」
「「魔法少女マジカル冥土マイ」。
明確なイメージがつきやすいと思うよ。
氷の矢 「マジカル・アイス・アロー」なんてどうよ?」
「氷の矢、忍者のモイだっけ?あったわね」
「アニメは弓がなくても指先から矢を発動してた。
それをイメージに頭の中で思い描くの。
「マジカル・アイス・アロー LV1」と。小型の氷の矢だね」
「小さい頃観てたからイメージできそうね」
「LV2からモンスターの個体に応じて、大きさに比例して攻撃力を上げていこう」
アヤカは手の指を木に向け、
「[マジカル・アイス・アロー LV1]」
小さい氷の矢が指先から生成されて、勢いよく飛び出す。
<サスッ>
木に氷の矢が突き刺さる。
「いいねー。これはウサギとか小動物用だねー」
「ウサちゃん、射るの?」
「ウサちゃんとはいえ獣。生存の為でもあり、食料の確保の為でもあるんだよ」
「無理」
「マイちゃんの第3クールの魔島編。ギャング・ラビットの丸焼きにヨダレ垂らして見てたよねー?」
「小学生の頃の話でしょうが」
「アニメのマイか、懐かしいな」
「アヤ姉は正義感強しのマイちゃん推し。まさに今そのまんまじゃん」
「ノゾミは闇落ちのムイか」
「アタシの原点で、人格形成を形作ったのは闇属性のムイさま。
タケ兄はアニメ版より、前一緒に行ったアキバカフェのメイ推しだね」
「アキバカフェ?」
「アニメの魔法少女マジカル冥土マイ公認、2,5次元カフェ。
半年前に話題になってて、タケ兄とどんなものかと来店してきた」
「それって子供が働いているの?」
「さすがにそれは営業法的にアウト。みんな18以上の合法ロリだよ」
アヤカは兄のタケルに蔑視の目。
「言い方!健全なカフェでオレと同い年か、なんなら上なんだが」
「タケ兄はメイちゃんを振り向かせようと頻繁に通ってるんだけど、なかなか成就しないんだよー」
「なんで通ってるの知ってるんだよ!」
「まさかアタシにも黙って足げく通うとはねー。それともっと自己アピールしないと、あのツン娘は振り向いてくれないよ」
「別に、狙ってるとか…」
「待って!「感知」!「ワイルド・ホーン・ウルフ」。右から、距離40」
「角オオカミか、アヤカどうする?」
「…やるわ」
右方向から木々を避け、疾走してくるワイルド・ホーン・ウルフ。
アヤカとの距離が縮む。
「[マジカル・アイスアロー LV 3]」
大きな矢が指先から生成され、ウルフの頭部に撃ち込む。
<ボンッ!>
ウルフの上半身が吹っ飛び、肉片がそこら中に散らばる。
「うわっ!」
「威力強すぎ!」
「い、今のは、LV 2くらいでよかったか、な…」
「LV 1でも脳天貫けば、毛皮や素材が無傷で獲れるぞ」
「微調整はこれから、実戦を積み重ねだね」
「魔法すごい…。ねえ、火の投剣とか手裏剣とかあったわよね!」
「「ファイアー・ソード」もできそうだけど、森で火はやめようね」
「氷なら、[マジカル・アイス・ソード!]」
氷魔法で氷の大剣を生成、出現させる。
「おおーー!あれ? 持っても冷たくないんだ」
「いいねいいねー。賢者だからオールマイティに戦闘もしなきゃだ」
「ワタシも剣、振り回して戦うの?」
「基本、魔法。タケ兄の闘いの補助的な感じかな?
ここは中学剣道全国大会2位の実力を試す時がきたのだ!」
「…あの決勝か、あれは悔しかったな」
剣道の構え、氷の剣を振り回す。
「アヤカの順応力、凄いよな」
「リアルRPG楽しみだしてきたねー。元々凝り性の性格だしハマれば極めちゃう人だから」
「正直、モンスターとか殺せないタイプかと心配していたんだが」
「2人に「ストレス耐性」と「精神耐性」のスキルがあるでしょ。虫もダメ殺せない、メンタル弱弱のアヤ姉が忌避感なくモンスターを倒せるのは、そのスキルが自動発動しているからだね」
「確かにオレも盗賊やモンスターを殺して思うところはあるが、不思議に罪悪感がないのは耐性スキルのせいか」
「アタシのスキルに「精神障害耐性」「精神汚染耐性」「精神破壊耐性」があるの。闇魔法専用の耐性スキルあるんだけど、これがLV1なんだよね。
昨日の夜、闇魔法を試してみたけどアレはマズいわー。文字通り精神汚染、危うく理性失うところだったよ」
「神さまが、あれほど」
「まだ闇の攻撃系も低いから耐え抜いたけど。耐性スキルのLV上げないとこの先きついかな、さすが禁忌ですわー」
「闇に取り込まれるとかなんだろう?」
「闇落ちしたり一線を越えそうになったら、兄姉愛で支えてくれれば正気に戻るんじゃない? ほらっ、アタシお兄ちゃんお姉ちゃんっ子だし、従うよー」
「理性を失った悪魔のノゾミを戻せるとは思えん。
それに理性があってもオレらが注意して従った事あったか?」
「闇魔は今後の課題だ。
一応ゴンちゃんから注意や闇魔法の書の存在とかいろいろ聞いてるし」
「対処法があるならいいが、本当に悪魔になりそうだな」
「アタシ、称号女神だよ!」
「ウソ!?」
「ちょ、悪魔だと思ってた? せめてそこはキュートな小悪魔と!」
「キュートって意味知ってるか?」
「ラブリーでもいいよ」
「アンタたち少しは緊張感持ちなさいよ。
進行方向300に人が4人。こっちに向かって来るわ」
「2組目のザコ盗賊かな?」
「多いよな。さすが異世界、倫理観破壊してる」
「スローライフ系じゃなくって、修羅の異世界世紀末伝説だね」
「街から近いし冒険者の可能性もあるんだがな」
「獣人、エルフパーティの可能性も有りと」
「ここではまともな冒険者を装っても外見で判断はできない、要警戒だ」
「うわっ!キモッ!」
アヤカが叫ぶ。
「どしたどしたー?」
茂みに植物園の食虫植物を思わせる大きな蔓系植物。
太く茎の上部が口の形、分厚い唇の隙間からギザギザの歯が覗く。
「これ、ハエトリ草タイプでカメレオンみたいに舌がビヨーンって捕食する感じだね」
「食虫どころじゃないな。この大きさ小動物とか食べそうだ」
「見た目最悪。ワタシ、こういう系もダメだわ」
「「プラント・マンイーター」肉食植物だって。
ギザギザ歯に、隙間から覗く舌がグログロだー」
周りにはクネクネ踊る蔦の集合体。
「これは「ダンシング・プラント」。撮るしかないのだ」
「危ないからやめなさい」
「可愛いもんさねー」
スマホを取り出す。
「地球に帰ったらショートで動画を拡散するんだ。
アタシの過疎チャンネルの方に誘導、完全版を上げて銀の盾ゲットだぜ!」
――
(ピコーン!)
近日 地球でこの動画を上がります 全世界物議を醸しだします
――
スマホ撮影。
●REC
「はい、謎の異世界2日目でーす。
前回は「ウォーキング・マッシュ・ルーム」を観察しましたが、今回は蔓系植物の「ダンシング・プラント」「プラント・マンイーター」を発見しました。
肉食ということでー、生態系は、」
「こんな謎植物や魔獣魔物がネットに上がれば、登録者10万どころか1000万人は軽く越えそうだな」
――
(ピコーン!)
越えます 最終的に○ouTube 2億越えの登録者数を獲得します
――
「ほれほれい舌出してみ?おう?来るんか?来ないんか?来い来いw」
プラント・マンイータを挑発するノゾミ。
「よく直視できるわね。気味悪いったらありゃしない」
「昔からグロ耐性あるからな。鹿の解体まで参加する強者少女だし」
「動物の皮か何か知らないけど、夜な夜な変なの作ってたわよ」
「クラフト制作? 趣味、多彩過ぎるだろう」
「ギャッ!」
ノゾミの悲鳴。
「なに!?」
ノゾミが振り向く。
左手が血だらけで指3本が千切れている。
「ガブッて食べられた―」
「ぎゃああああああああ!!!」
指を咬み千切られ、
ノゾミの血でプラント・マンイーターの歯は真っ赤。
「ノゾミ!」
「危ないって言ったでしょ!アンタは子供か!子供でももっと危機感あるわよ!」
「いったぁーい、けど、へーきへーき」
「平気なわけあるかー!」
ノゾミはタケルにスマホを渡す。
「撮っててね」
「は?」
右手を掲げる。
「右手に宿りし精霊よ。肉体を再生し、[癒したまえ]」
右手から青く淡い光。
失った左手の指がゆっくりと逆再生されたように元通りに戻っていく。
「「………」」
「はい、治りましたー。
治癒能力で部位欠損もこの通り。
なんたって、レ ア ジョ ブ、の、聖女ですから!
えーっと、姉が怒ってますので怒られてきます。
光と闇の女神、ノゾミンでしたー。しーゆーあげえーん」
スマホの録画を停止。
「精霊って言葉使ったけど全然関係ないよ。それっぽいからね」
「バカじゃないの!ワザとなの?冗談でもこんな事やめなさい!」
「ノゾミよ…」
「ごめんなさい。治癒能力がどの程度か試したかった」
「自分で試すことないでしょうが!このバカ娘!」
「今後ワザとはしない。誓う。反省もするよ」
「反省はするが、後悔はしてないって顔だな」
ノゾミは傷跡を確認している。
「ホントに元通りだー、跡もなーい」
「信じらんない。この子、自傷行為とかしてないでしょうね?」
「家では隠キャだったが、そんなタマかよ、ノゾミだぞ、」
「おいおい、こんな所に上等の獲物がいるぜ~」
4人組の薄汚れた男たちが近づいてくる。
「ひゃっほー、女だ!」
「いい服着てるじゃねーか」
「ガキだがキレイな顔してるな。これは高値がつくぞ」
「へっへっへ。その前に楽しませてもらうぜ」
「おい! 男は服脱いで、武器を渡しやがれ!」
タケルたちは呆れたような表情で、
「最初の馬鹿と同じようなセリフだな」
「テンプレ野盗? もうゲームのNPCキャラじゃん」
「この世界には変態やこんな奴等しかいないの?」
粗末な武器で向かって来る4人にタケルは刀、アヤカは魔法で対抗し、それぞれに攻撃。
攻撃を受けバタバタと倒れる盗賊。
「ま、魔術師!ヒィーー!わかった、何もしねえ、お、お助ゲッ……」
アヤカは冷たい表情で命ごえする男の喉元に氷の矢を突き刺す。
地べたに突っ伏す4人の遺体。
「躊躇ないっすねー」
「アンタが覚悟とか言うからでしょ。
どうせ生かしても社会の屑。温情なんてかける価値なし」
「おー!覚醒したマイさんのセリフだ!マジカル勇者としての素質あるよ」
「そんな素質いらないわよ。魔法試すならこういう屑で試しなさい」
「はーい」
タケルとアヤカは遺体の衣服を漁り、懐の小袋を取り出す。
中身を確認すると銀貨4枚と銅貨が10数枚。
「殺す前に価値とか相場を聞いとくべきだったな」
「ちゃんと鋳造された銀貨ね。いくらぐらいかしら?」
「2人とも立派な荒くれ冒険者に育ってくれて、アタシャ妹として鼻が高いよ」
「酷い世界と、妹の軽さが泣けてくるわ…」
「そこは個性豊かとか、お茶目とか言ってね」
ノゾミは盗賊の剣を空間収納に入れる。
「「探知」の警告音だ。人が倒れてるな。
この先、道から外れて50メートルくらい。
生命反応が微弱。寿命5分49秒」
「コイツらの仲間?」
「方向的に違う。薬草採取の冒険者とか平民とかかもしれない」
「一般人なら助けなきゃ!」
★★
雑木林。
「いたよ!」
若い男が小振りのソードを握り、うつ伏せで行き倒れている。
「どんな人? 盗賊なら放置よ」
「今まで遭った盗賊は徒党を組んでたから外見では見分けがつかないな。仲間割れとか捨てられた線も考えられるが」
「盗賊じゃないよ。ジョブは斥候。名前はレーデル・ギャラガー。
この世界、苗字あるってことはそれなりの人かな?」
「LVは?」
「52。いままでの最高記録。
状態は脱水症状。衰弱。
リトル・ポイズン・スパイダーの猛毒異常」
男は右脚のはふくらはぎが紫色に変色して膨れ腫れあがっている。
「パンパンに腫れてるな。これはオレやアヤカの低い聖魔法では無理だ。
寿命1分切った。ノゾミ、頼む」
「じゃあ治すよ。 光よ……いや、聖なる、うーんと……」
「いいから早く!」
「[ポイズン・ピュリフィケーション LV 7]」
男が淡い光に包まれ、脚の腫れ皮膚の色も元通りに癒えていく。
「[ヒーリング LV 8]」
――
4 遭難者 終わり (54)
5 ルーデル 転移人と遭遇する (55)
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