第2話 戦闘
タケルは襲い掛かる先頭の豚の魔物を袈裟斬りで切り込み、2体目の魔物の喉元を刀を突き刺す。
ノゾミは素早く木の陰に隠れて、戦闘を見守りながらスマホで撮影。
3体目の棍棒を振りかざす攻撃をタケルは躱し、背中、脚の腱を切り、仰向けに倒れたところで心臓に止めを刺す。
素早く動ける自身の身体。
「向上した身体能力は凄いな。今ならヒグマが襲って来ても恐くないな」
魔物2体が興奮した状態でアヤカに迫る。
「キャアアアアアアア!」
「魔法だ!アヤカ!」
「イヤーーーー!!」
アヤカは手の平を魔物に向け、
「[ファイヤー!ファイヤー!ファイヤー!!]」
<ゴオオオ!><ゴオオオ!><ゴオオオオオ!!>
魔物2体は炎に包まれながら、地面を転げ回りもがき続ける。
過剰な炎攻撃で、周りに生えてる草木にも燃え移る。
「ギャアアアアアアア!」
「火力、上げ過ぎだ!」
黒焦げとなった2体は絶命。
タケルは残りの1体を始末して、
パニックになったアヤカの元へと駆け寄る。
「木が燃えてる!水水!」
「ワワワ、ど、どうするの!?」
「魔法で水出したろ!」
手の平を燃える草木に向け、
「み、[水ーー!]」
手の平から大量の水が射出され辺り一面へと放出。
燃え盛る草木の炎が鎮火していく。
ノゾミは木の陰からヒョッコリと出てきて、
「森で火の魔法はダメじゃん」
「アンタ、どこに居たのよ」
「アタシは非力な聖女だから」
「初戦闘としては十分。あとは魔法のコントロールが課題か。属性もいろいろあるから後で確認、練習しないとだな」
「コワイコワイコワイ、化け物コワイ。手から火や水が出る自分もコワイ!」
黒焦げ含む6体の屍。
「なに、この化け物…」
「異世界物では鉄板の魔物だな。豚の顔ならオークとかかな?」
「消し炭だー、アヤ姉、人間火炎放射機~」
「うっさい! アンタにも攻撃の魔法あるんでしょ」
ノゾミの左手にはスマホ、右手には拳銃が握られている。
「ピストル持ってるなら、それで攻撃しなさいよ!」
「ここはタケ兄とアヤ姉に奮闘してもらわないと。攻撃や魔法を使用しないと、LV上がらないよ」
「スマホで録画してる暇があるなら、」
<パタパタパター>
羽がはためく小さな音と怒声が響く。
「ゴラァ! 誰だぁー! アタイの森の木を焼いたクソヤローは!」
手の平サイズの妖精(男の子)が空から舞ってくる。
「「え!?」」
「おーーー」
フワフワと宙を飛翔してこちら側へと羽ばたいてくる。
焼け焦がれた草木を指さし、
「この惨状オマエらか! このクソガキ共があ!」
「妖精、なの…?」
「アタイは西の森の妖精じゃあ! テリトリー荒らす奴は4なすぞ!」
「うそ!? フェアリーちゃん! え? えーー!?」
「異世界ファンタジー、キター――(゜∀゜)――!!!」
「妖精もいるんだな、さすが異世界」
「ちょっと、超絶ラブリーなんですけど!」
「あーん、ラブリーなのは知ってるわ!
だれだ!森の木を焼いたクソガキん子は!」
「口わるっ」
「ねー、ちょっとだけ触れてもいい?お願い!」
「あ゛ーーん?」
妖精にテンションが上がるアヤカ。
「肩に、いえ、この腕に乗って!」
アヤカは腕を差し出し、
「ノゾミ、写メ写メ! 撮って撮って!」
激怒の森妖精。
「いい加減にしろ!オマエらはしばくっ!」
森妖精は精霊言語の呪文を唱える。
「撮ったら次、アタシねー」
ノゾミはスマホを森妖精に向けると、
「ぎゃああああああああ! 魂がああああああああ!」
上空へ飛び、あっという間に消え去る森妖精。
「あー、インスタ映えがー」
「魂? この世界に魂が抜かれるとか、カメラ存在するのか?」
「あるっぽいねー、それとも魔道具の類であるのかな?」
「ねー!あの子凄くない?凄くない?超絶可愛過ぎなんですけど!」
「外見と比例して毒舌? なんならアタシたちしばき倒そうとまでしてたし」
「また会えないかな!」
「また火をつければ来るかも」
「………」
「アヤ姉、それは検討しちゃダメ」
「そ、そんな非常識なこと、しないわよ」
「あれ? あの2人がいない」
不審な男と金髪幼女の姿が消えている。
「逃げた?」
「貴重な情報源だったのにー」
「できれば話しかけていろいろ聞きたかったんだが」
「本気? あんなのに話しかけるの絶対無理でしょ」
「元々避けてるというか、接触したいような感じじゃなかったよね」
「こんな世界だし他者に慎重なのかもな。もしかしたら犯罪を犯して逃げているとか。下手をしたらこちらが事故やトラブルに巻き込まれるとかあるかもしれないな」
「あの天狗とゾウさんコラボは、けっこう事故ってたけどねー」
「魔物、ピックマン、LV44。 武器は、[ストレージ]っと」
「魔物の遺体は放置でいいよな」
「魔石あるって言ってたし、これは取らねばならぬ」
「ノゾミは動物の解体とか慣れてるだろうが、さすがに…」
「魔石取りは異世界での必須事項だよ!
ゲームや小説の消滅して魔石だけが残るなんて考えは甘々。
タケ兄、全然異世界冒険生活の覚悟できてないじゃん」
「腹を裂くのはな…」
「冗談じゃない!そんな気持ち悪いこと。欲しけりゃアンタが取ればいいでしょ」
「冒険の序盤、魔物の魔石や素材を売って明日の糧や路銀を貯めるんだよ。元は豚っぽいし解体したお肉の半分以上はアヤ姉のお腹の中に入るんだよ」
「食べるわけないでしょ!!」
「間違いなく街の屋台とかで売ってる系の串焼の肉だよな」
「ワタシ、この世界の食べ物は口にしないと誓うわ」
「じゃあ魔石だけでもかっさばいて獲るからアヤカ水、水場ないから頼むよ」
「イヤよ! ワタシの見えない所でやってよね」
「そんなことじゃこの世界生きていけないんだけどー」
ノゾミは焼死体以外の4体の魔物を「念動」スキルで浮かせる。
「[ストレージ]」
空間収納に収める。
「死体もワタシのには絶対入れないから!」
「魔物の担当はノゾミに任せよう」
「酷っ」
「いいから今日はもう休みましょう。いろいろあって限界よ」
「明るいうちは動いた方がいい。ノゾミ、「マップ」を見てくれ」
ノゾミは「マップ」ギフトを発動。
「方向から察するに、いまの2人は冒険者の街「テオタビ」からだね。秘境や迷宮があるとこ」
「それは異世界的にそそるな」
「距離はここから60キロ。
あの2人が向かったのは東の逆方向。
先にはにポツポツと小さな村や集落。
大きい街はバサアソ領242キロ先。
モモタン領487キロ。
リーチェ領808キロ。
ホトライト領が979キロ」
「「テオタビ」の街だな。
今の状況で村や200キロの距離はさすがにないな」
「いいねー。迷宮も興味深々だよー」
「え?大きな街じゃじゃないの?」
「大きな街を目指すより近場の街で情報を仕入れたい。序盤はモンスターを狩ってLVを上げ、素材など売って金を稼ぐ。これは冒険を進める上での基本と言ってもいい」
「その知識ってゲームや漫画でしょ? チマチマするより早く終わらせて地球に帰りたいんだけど」
「この世界で慣れも必要だし剣や魔法の練習も必要だ。そこまで遠回りじゃない。ノゾミの空間転移魔法があればどこに行ってもこの場に飛んで戻ってこられる。
大きな街や王都はそれから目指せばいい」
「アヤ姉はまず魔法だね。一緒に練習しよー」
項垂れるアヤカ。
「ノゾミ、転移できるだろう、頼む」
3人は寄り添う。
「[テレポート]」
一瞬で天狗の男と幼女と遭遇した森の出入り口に転移する。
「一度行った所じゃないと行けないのがな」
「今日中に街まで行ける? ホテルでお風呂入ってベッドで休みたいんだけど」
「思ってるようなホテルはないと思うよー」
「何となく察してるわよ……」
★★
夕方。
森から抜けて林道を歩く。
陽が落ち辺りが暗く不気味な獣の遠吠え、鳥の鳴き声が響く。
「街まで残10キロ。今日は辿り着かないかー」
「「暗視」スキルはあるが異世界初心者だからな。街に着いても夜間は入れない可能性もあるな」
「今宵は開けたとこを探して異世界キャンプですな」
「テントはイヤ。アウトドアは論外よ、家、出してよね」
3人は広場を探し先を歩く。
「ねー、お父さんとは会えなさそうだねー」
「ああ、神さまがこの領地に居るようなこと言ってたが、かなりの広範囲だしな」
「第一テラウス人は落ち武者みたいな野盗だったし、次は子供と天狗の変質者かー」
「会うのはもっと落ち着いてからの方がいいかな。絡むなら重要イベントとして。お話し的にもね」
「正直なところワタシは会いたくないわね。写真さえ見たことない小さい頃に出て行った父親なんて」
「お母さん今だに好きっぽいし、アタシの中では2人でこっそり会ってる説」
「じゃあどうしてワタシたちと会わないのよ。養育費は送られてきてるのに」
「地球での職歴は暗殺者、ここでもジョブが「暗殺者」だよ。まだ見ぬ父は非情な殺し屋。対立する悪の組織に追われ、子供らを危険に晒すまいと、そんな訳あり涙あり悲壮な物語があるんだよ」
「どこの三流ドラマよ」
「不思議な感じだな。親子揃って異世界に飛ばされるなんて。父親は子供たちであるオレたちが召喚された事は知らない。勇者と間違って召喚されたのは父親の方。
地球じゃなく異世界での父子初対面。流れ的にけっこう熱いストーリー展開じゃないか?」
「劇的な対面は間違いなし。アタシはもう10個の対面パターンを考えてるよ」
「ワタシは認めない。今までほったらかしにして子供に会わない父親なんて」
「なあ、今ふと気付いたが、まさか、さっきの天狗の……」
「え?」
「うわー」
「遠目だったけど、黒髪だったよな」
「まさかの金髪幼女連れ!」
「スライムの雫の概念も」
「日本人の発想かー」
「やめてやめて!あり得ない!
年齢合ってないじゃない。いま70くらいなんでしょ?」
「天狗が強烈すぎて忘れてたが異世界物では中年、老人はかなりの確率で若返りさせるんだ」
「異世界ってなんでも有りなの?」
「定番だね。ゴンちゃん(神さま)は若返りの事も言ってたし、一時アヤ姉を巨乳にするぐらいだし、若いのは確定かも」
「ちょっと待ってよ、あの変態が父親?」
「あの子の奴隷になってたらちょっと悲しくなるねー、案外ゾウさんパンツもあの子のおさがりだったりして」
「アレが父親なら泣きたくなるだろう」
「確かに、論外だね」
「あんなの幻滅どころか絶縁案件じゃない。他人よ他人!」
「鑑定、視れなかったんだよな?」
「弾かれちゃった感じ。アタシたちってかなり高LVだけど、鑑定阻害できる上位LVなら高確率でお父さんだね。
ゴンちゃんもLVカンスト99で驚いたと言ってるし」
「まだ異世界6日目だろう? どんなドラマがあったらゾウのパンツに天狗の面を被せるんだ?」
「さすがにアレは擁護できないね。けど、合理的で根拠ある正当な理由があるはず。アタシたちの父親が変態であるわけない」
「あの姿を見て庇護できるって…」
「いくらなんでもプライドあるなら、アレはちょっと、な……」
「どっちでもいいわよ。元々ワタシたちだけが転移されるはずだったんでしょ。
神さまが共闘してとか言ってたけど、いくら強くてもあんな変態ごめんよ。
肉親だろうが他人だろうが、ここではこの3人以外の慣れ合いは不要よ」
「クール&モチベあるねー」
「アンタらほどないわよ」
「まあ、魔王討伐という共通した目的があるしいずれ出会うのは必然だよ。それまでこの3人で力や体制を整えていく。
お父さんとの初対面のその日まで肩を並べられるよう、成長したアタシたちの姿を披露できるようにしなきゃ」
「なんで無理やりいい話にしようとしてるのよ」
「それまで剣や魔法の鍛錬がんばろー! もろもろのチート能力を駆使して!」
「神さまから与えられたチート能力か」
「ぶん取ったしねー。夢だった闇魔法が使える」
「兄としては危険なシロモノはやめてもらいたいんだがな」
「闇は我にとって不可欠! タケ兄は異世界無双ハーレムが待ってるし」
「ハーレムって何よ?」
「文字通りだよ。一夫多妻的な?」
「うわーサイテー」
アヤカはジト目で兄を睨む。
「それはノゾミが勝手に言ってるだけだ」
「金髪幼女や、ケモ耳少女とか侍らかしてねー」
「え?幼女? アンタこそ変態じゃない!」
「違う違う。幼女は愛でるもので性的な目は一切ない。
オレの好みは、きつい目つきの美形で、巨乳で、」
「アンタの好みなんて聞いてないわよ!!」
「まあまあ、アヤ姉は魔王討伐後の異世界ご褒美の巨乳が待ってるよ。
ლ(゜д゜ლ) ほれほれ」
「茶化さない! 疲れた、もう歩きたくない。明日明日!」
「あの辺がよくない?」
前方に平地。開けた場所。
「ちょうど収まりそうだな」
「じゃあ出すよー。
[ハウス!] [発電機] [灯油ドラム缶][灯油ポンプ]、出ろ!」
開けた場所に家屋、発電機、ドラム缶が出現する。
「本当に家…出せるんだな」
「非常識ね…助かるけど」
「物品で頼んだ刀や銃、パンとかジュース出したじゃん。大小関係ないよ」
「けど家を一軒頼んだのはでかしたわ。ワタシじゃそんな発想なかったから」
「まだあるよー。さっきアヤ姉、ホテルと言ったよね。
某有名どころのホテル、億ションと言われるマンション一棟ずつも頼んだのだよ」
「「………」」
「まあ今のところ使いどころはないし、電気系統、エレベーターはこの発電機程度じゃ無理なんだけどね。何かの箔付けとか使えればいいかなと」
「ノゾミ、これは孤児院設立のフラグか?」
「さすが分かってるねー」
「孤児院って何よ?」
「そこは物語の進み具合だよ。
さて、タケ兄は発電機のチェック、起動させてね。
水回りはないから各自仮設トイレも出すことー」
「お米炊く! 今日はガッツリ食べる。タケル、丼ものの親子丼か、かつ丼作って。お湯があるならカップ麺も」
「今日はヤケ食いすかー。ご飯3合くらい食べそうっすねー」
「食べなきゃやってられないわ」
「メシのことだが、問題があるんだが」
「なに!?」
「鍋やフライパン頼んだか?」
「……!」
「他の電化製品は一通りそろってるが、炊飯器はないし、皿、茶碗、食器類全般…」
「あれだけ頼んで、何で忘れたしー」
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2 戦闘 終わり (52)
3 異世界の夜の会話 (53)
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