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第27話 シンエイ・クジョウ

冒険者の街テオタビ。

宿屋の1階の食堂内。


目つきの悪い中年男が定食をむさぼっている。

シンエイは男に近づき話し掛ける。


「アンタ、この街の者か?」

「あ!?」


男は不審者を見るような目つきでシンエイを睨む。


「この街に着いたばかりで右も左も分からないんだ。いろいろ街のことを教えてくれないか?」


「はっ!なんでオレが」


「初めての場所はベテランに乞えと、小さい時から親に教えられててね」


銀貨を2枚(2万円)を差しだす。


「ほー、なかなか見る目があるじゃねーか、お前さんの親は」


銀貨を引ったぐるように手にする。


「しょうがねえ、銀貨2枚分教えてやろうじゃねえか!もう1枚出せば娼館のいい女も教えてやるぜ」


もう1枚、銀貨を机に置く。


男は甲高く笑う。


★★


路地裏。


スキル「麻痺」を掛けられた男は声が出ずに、立ちすくんだまま直立不動。


「1カ月前、Aランクの獣人の「サザメダ」とパーティを組んだな?一緒に迷宮に潜り、冒険者仲間と殺害。

その後サザメダの家に行き、娘の姉妹を売ろうと押し入ったな」


「ーーッーーーッ」

首を横に振る男。


「姉妹には逃げられ追跡したが貧民街近くで見失った。

その後家に戻り、衝動的だったのか計画的だったのかは知らないが、

共犯の仲間3人を殺害。仲間の物品、家の物、全てを奪った」


「―――ッ」


シンエイは男が所持していた大袋の中の小物や衣服を捨て、短剣を手にする。


「これは姉妹の家から奪ったものか? 読唇で読む、答えろ」


(違う!)


「ボクはあの晩、逃げた姉妹を助けた者だ。その時、追っていた4人の男の顔は覚えている。

3人はその晩、姉妹の家で死体になっていた。

そして4人目の男が、いま目の前に居る」


シンエイは男の人差し指を折る。


<ボギッ>

(ギャアアア!)


「売ったならそう答えろ。これはあの家から盗んだ物か?

正直に答えるなら2本目は折らない」


(そうだ、それが盗んだ物だ。返す!勘弁してくれ、許してくれ!)


懐から布袋を取り出す。

金貨7枚。銀貨15枚。


「床下からの金だな。いくら使った?」


(ほとんど使ってねえ、本当、)


<ボキッ>

(ギァアアアア!)


「いくら使った?」


(…金貨、2枚)


<ボキッ、ボキッ>


「お前が娼館で散財しないわけないだろう?」


(……金貨、14、15枚くらいだ。いてええ、ゆ、許してくれ……)


★★


薬屋。


店内の猫人族の店主はシンエイ、脚を見て驚く。


「お前さんあの時の? 

死霊のレイスとかじゃないよな? 

聖者に伝手があるとは思えないが、それとも悪魔にでも身売りでもしたか?」


「世話になった。施しの金がなかったら姉妹共々餓死していた」


「そりゃよかった。お嬢ちゃんたちは?」


「元気だ」


店主に金貨を1枚渡す。


「こんなこともあるんだな。気まぐれでやった金を」


店主は笑う。


「毒が抜け五体満足か。こんな街でそんな奇跡は起こらねえ。聖者絡みか?」


「それは言えないな」


「シノビはしぶといって本当だったんだな」


「幸運に恵まれただけだ」


「帝国に帰った元お仲間さんたちだが、ソンエイという男がクジョウ家の当主になるようだな」


「……そうか」


「それと、帝国から近々王国にクジョウ家は移転もするようだ。

なんでも「真龍神教教団」と手を組むらしい」


「…その話は前から挙がってたな」


「この情報はこの街ではニーズがまったくねえ。

活用できるのはお前さんくらいだが情報料はこの金貨で相殺だ」


「もっと儲けたいなら、ボクが生きてる情報を流せばいい」


「お前さんが生きてたらクジョウ家は慌てるのか?」


「里は荒れるな。ボクの派閥が黙っていないだろう」


「なるほど、当主争いか。

だが、恨みがあるなら闇討ちした方が殺る可能性が高くないか?」


「弟をクジョウ家の当主にさせておくのが嫌でね。震えて眠れと言いたい」


店主は笑う。


「それなら遠慮はしねえ」


街の魔物の注意喚起表の裏の白紙に、


「生きてる証として、一筆書け」


文字を書き、指をナイフで切り血判を押す。

<聖者の力で生き残った。ソンエイ、いずれ会いに行く>


「銀貨が金貨に化けて、それが3倍?5倍?いや大金貨になるか?こりゃ笑いが止まらねーな!」


★★


店を出ると、

目つきの鋭い黒髪の少女。

フードを被った顔の見えない幼女。

赤い眼の金髪幼女の3人。


姉妹の仇の男の傍に立ち尽くしている。


この3人組は男やボクの事を探ってるのか?


睨むと金髪幼女は落ち着きながら、


「連れか? 別にこの男に用も含むこともないわ。店の前の木偶の坊が怪しいて、店に入るか迷っておっただけなのじゃ」


赤い眼の金髪。この独特の言はこの王国のドラゴン・スレイヤー?

興味ある人物だがこちらと無関係なら無駄な接触は避けた方がいいだろう。


男に着いて来いと命令をして、その場を離れる。


★★


建物の裏。

指と腕が折られ、もがき合えながら地べたに横たわる男。


「ゥーーッゥゥーー」



ボクは弟含む仲間5人でこのテオタビの街へとやってきた。

自分たちに課せられた任務は、

姉妹の父親サザメダを見つけ出し、

高LV聖属性持ちのイルメダを連れ帰ること。


この男が姉妹の父親のサザメダを殺さなかったら、

ボクたちは冒険者ギルドで容易にサザメダ見つけることができただろう。


そして姉妹と接触したのち父親とアルメダを殺害し、

イルメダを捕らえ里へと連れ出していた。


帰還中、弟がボクを殺そうとしたかもしれない。

それが成功だろうが失敗だろうとイルメダの運命は変わらず、

一生、里の為に能力を酷使、使われていたはず。


この男が事を起こし全てが狂った。


毒を受け、貧民街で苦しみ恨みながら死を待っていた。

ある夜、追われる姉妹を見かけ、同情から助け出す。

最初は気付かなかったが、それが姉妹、イルメダだったのは偶然だった。


姉妹にとって許せない男だが、結果的にはボクを変えてくれ、転移人の聖女から脚の治癒、復活させてもらった。


地面でもがき続ける男。


悪党だがある意味、感謝するしかない……。



空間転移でノゾミが現れる。


「お待ち~。お、その男が例の?」


「姉妹の父親を殺害した男。目減りしたが金と形見の短剣を取り戻した」


「まだ生きてるねぇー」


「アルメダとイルメダに、父親の仇をと」


「こっちはこっちで生々しい展開だ。

少年が仇をとったならアルイルも納得するんじゃないかな?」


「…始末する」


短剣で首を刺し絶命。


「あと、話があります」


「待ってたよ。でもいったん戻らない?」


「いえ、ここでお願いします」


「そっ、ちょっと待ってて。[ストレージ]」


遺体となった男は黒い穴に吸い込まれていく。


「どうするんですか?」


「どこか森中にでも捨て置く。これは完全犯罪にも使えるねー。

さて、お話とはクジョウ家はイルちゃんを狙ってた話?」


「どうして、それを…」


「時の魔道具でお部屋のお話し聞いてたでしょ。

内容から推測しただけ。


クジョウ家の目的は姉妹の父親。正確にはその娘のイルメダ。


イルのLVの高さ、聖女もしくは上位回復術師の特性があると情報を得て父親を見つけ出し娘を捕らえようとした。


さすがにイルを手に入れたい動機までは知らないけど、里での術師不足とかそんな感じかな?


もしかしたら姉妹の血縁者で有能な回復術師が存在していたとか。


それかその本人を雇用していて里で最近まで現役?それが亡くなったとか。

それだと情報源はその人ということになるのかな?


少年と弟含むクジョウ家の軍団は、里の命令でこのテオタビの街へと。しかし父親も娘も見つからないまま日々は過ぎる。


この街に来た時点で父親は殺されもうこの世にはいなかった。


それゆえ自宅に引き籠った姉妹の捜索も難航を極めた。


脚を失ったのはクジョウの当主の座を巡って。

古今東西、どの世界でもこの手のお話はあるからね。


弟としては当主の座を争う兄は目の上のたん瘤。

里を離れた機会に亡き者にしようと闇討ちを画策。


少年は毒を受け、全身に回る前に瞬時に脚を切断。


死を目前に復讐心は残っているが、動けない身体に生きる気力を失う。


そんな時、助けた姉妹が偶然目的の子だった。


死を待つ短い間だが、この姉妹を守ろうと決意。


アタシらと出会って、聖女の力で脚を復活。


復讐心が芽生え意趣返しを決意。


街に赴き姉妹の仇を見つけ出す。


形見を取り返す。


と、今に至る。そんな感じかな?」


「…ほとんど、合ってます」


「この年齢で波乱な人生だ」


「本当ならボクは姉妹の側にいる資格はない。

結果的には姉妹を助けた形になったが、ボクはこの男や仲間らと何ら変わらない。


弟の裏切りがなかったらイルメダを探しだし任務を遂行していた。

アルメダさえ手に掛けていたかもしれない。

ボクは殺しを糧として生きてきた罪深い人間だ。


姉妹にこの事を知られると軽蔑されるだろう。

もちろん事実を伝えるつもりだ。

姉妹がボクを許さないなら殺されてもいいと思っている」


「少年はクジョウの里で間者や刺客をしてた?」


「はい」


「殺害の相手は、命令により悪人も善人も?」


「殺しました」


「対象に自ら殺意を湧いた事、私利私欲のために殺しや暴状は?」


「ありません」


「指令や命令は絶対で、洗脳に近い、小さい頃から刷りこまれていたクジョウ家の大義の為に動いていた?」


「…そうかもしれません」


ノゾミは倒れている男の頭を蹴る。


「アルイルの父親を殺した男に殺意はあった?」


「ありました」


「姉妹に対しての献身や守りたい気持ちは伝わったよ。

いまの感情を大切にしなさい。

出自や今回の事を全て話したとしてもアルメダ、イルメダがシンエイを否定することはない。アタシが保証しよう」


「ノゾミさん…」


「お、この胸で泣くかい? いいよ。アルには内緒にしとくから」


「泣きません」


「それは、ざんねん」


「ところで、何を書いたのかな?」


「……?」


「薬屋で、「弟を九条家の当主にさせておくのが嫌でね。震えて眠れと言いたい」。名言ですな」


「な、何で!?」


シンエイのポケットを探り、小型無線機を取る。


「通信の魔道具みたいなもの。10キロ離れていても伝わるの。

病み上がりだしお姉さんこれでも心配してたんだよ。

今日の朝、恐い顔で街に用事があると闇に落ち入りそうな感じだったし。

元々信用はしてたけど、姉妹への感情も目的意識もはっきりした。

それと復讐するなら手伝うよー。

それには強さを身に付けなきゃね」


「………」


「しばらくは一緒だよ」


「…今後ともお願いします。ノゾミさん」


「さあ、帰りましょう、家族の元に」


「はい」


「っと、その前に針と糸だ! ちょっと古着屋付き合って」



――

27 シンエイ・クジョウ 終わり     (77)

28 狼人族エル (ゴトー編3)     (78)

――


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