第22話 アルメダ3 シンエイの事情
誰かが私の名前を呼んでいる……。
「アルメダ」
目を開けると目の前にシンエイの顔。
「!」
「ご、ごめん」
(////)
お部屋にお姉さんはいなかった。
横のイルは眠ったまま。
身体を起こしたシンエイは、いままでと違って顔色がいい。
「毒、大丈夫なんだよね?」
「完全に抜けたようだ」
「よかった…」
「あの人は何者だ? ここはどこだ?」
街で薬草を買ってくれたこと。
ハグレの冒険者から助けられたこと。
この街から出て、別の街の孤児院に連れて行ってくれること。
空間転移で森に来て、謎の魔法で家を出したこと。
それまで起こったことを話した。
それを聞いたシンエイは難しい顔をして考え込む。
わたしもお父さんから、
「親切には必ず見返りを要求される」
「この世は悪意に満ちている」と教え込まれていた。
普通ならこんな親切は異常なことだ。
知らない人についていくなんて危ないことだ。
しかし同情から薬草を買ってくれ、わたしのために冒険者を倒してくれた。
お姉さんたち、お兄さんたちからは、いままで会ってきた悪い人たちのような、たくらみやよこしまな気持ちは感じられなかった。
シンエイも同じ気持ちだろう。
お姉さんの一言で安心して眠った。
フカフカのベット。美味しいご飯。
回復と毒までも治してくれた。
「聖女さま、だよね…」
「断言はできないが、聖者のLVに近い相当な上位回復術師かもしれない」
「上位回復術師…」
雲の上の冒険者だ。
シンエイは部屋を見回す。
大きな鏡面。
曇りひとつないガラス。
見たこともない立派な椅子と机。
四角い板のショウギの盤面。
「あれは将棋だよな」
「そうみたい」
「何で、下にこぼれないんだ?」
わたしと同じこと考えてた!
「それ、触れるとコマが動くの」
「駒が、動く?」
「わたしさっき「銀」に触ったら、上にピョンと進んだの」
ベットから降り、杖を手に机の四角い板まで行き「銀」に触れる。
斜め前右にコマが動く。
「あ、右上に動いた。動いたでしょ、なんで?」
「…なんでって、なんでだろ?」
「銀」を元に戻す。
「指でヒュイってすると動かせるみたい」
シンエイも興味を持ったようで真剣に見つめる。
ショウギが好きなんだろうか?
目をキラキラさせて普通の少年のようだ。
出会った当初は毒に苦しんでいて人を寄せつかないし警戒ばかりしていた。毒で身体がむしばんでいたからしょうがないけど。
命を救ってくれたお姉さんには感謝しかない。
シンエイは「金」に触れて前に動かす。
先手72%○○○○○○○●●●28%後手
↓
先手64%○○○○○○●●●●36%後手
「動くと上の数字も変わるの」
四角い板から男の人の声。
『5・六歩』
「「!!」」
突然の声に驚く。
「誰か中に入ってる!?」
四角い板の裏を見るがなにもない。
「誰の声?」
「相手の手番で、5・六の「歩」が動いた。
相手はこの文字の、ごんた?」
「スキルか魔法で人を閉じ込めてるんだよ。
小さくされた「ごんた」さんが、中でコマを動かしてるんだよ!」
「いや、そんなことは…。声が出るということは、魔道通信の類か?」
「歩」に触れると、ひとつ進み、敵の陣地で成り上がった。
「どうしてひっくり返してないのに成り上がる?」
「「ごんた」さんが、下からよいっしょってひっくり返して……」
『8・二角』
シンエイは「飛」を動かし「桂」を取る。
先手25%○○●●●●●●●●75%後手
しばらく対戦を続ける。
『ツミマシタ マケマシタ
タイセンセイセキ
ノゾミン ノ 1ショウ 41ハイ
アリガトウゴザイマシタ』
「勝っちゃった? 「ごんた」さんの負け?」
「勝ったらしいけど、なんだろうこれ?」
「おとぎ話に出てくる小人族?いるか分からないけど」
「魔道具?将棋の?」
「ショウギの魔道具ってあるの?」
「初めて見た」
「先手後手の文字は、漢字に似ているんだが」
「かんじ?」
「この本は?」
「絵物語で女の子がお空を飛んで戦ってるの」
シンエイは手に取り、1枚1枚めくる。
「見たことのない風景や道具がたくさんあるが、戦争の話だな」
「戦争って、そんな小さい子が?」
「そう珍しい話じゃない。帝国ではスキル持ちの奴隷の亜人や獣人を強制的に戦争に駆り出されていた」
王国でも昔、獣人や子供を利用して戦争をしていたと聞いたことがある。
「じゃあこの子も同じで戦争させられていた?帝国のお話?」
「帝国らしいが、この大陸のソンガリーア帝国じゃない。まったく知らない国の物語だな」
黙々と読むシンエイ。
「この女の子は…転生者……」
てんせいしゃ? 初めて聞く言葉だ。
2冊目を取りパラパラとめくる。
凄い速さだ。もしかしたらスキルかなにかな?
2冊目、3冊目を読み終わると、難しい顔をするシンエイ。
「どんな内容?」
「……」
「シンエイ?」
「あ。ああ。内容は、
理解できないところもあるが、死後、神から無信仰を咎められ、信仰を芽生えさせる目的として、別の世界へ生まれかわらせる話だ」
「別の世界? その子、神さま信じてないの?」
「無神論者の業の深さから、神が是正させるため戦争のある時代に、記憶をそのまま赤子のまま転生、送り込まれた」
「神さま信じないと、そうなるの?」
「神龍とは違う神で、これはただの物語だと思うんだが」
「それでその子どうなるの?」
「前世の別の世界の記憶を活かして、軍人に志願して戦歴を積んでいる。
出世して現場を離れて安全な仕事について楽な人生を送ろうとしてる」
「小さい女の子のお話だよね?」
「最前線の戦場ばかりへと派遣されるが前世の記憶を受け継いて、うまく立ち回り、功績を立て優秀な軍人として評価される。
本人の意思とは裏腹に、国の未来や対戦国に巻き込まれる喜劇のお話かな?」
「喜劇? 笑える要素あった?ないよね」
「笑えるとかじゃなく、皮肉めいてるというか、その子の心情とかは読んでみると分かる」
「うーん、よく分からないけど戦争のお話しはイヤだな」
「この女の子とは立場や境遇も違うが、ボクも2年前にこの王国と戦わされていた」
「え? 戦争ってずっと昔に休戦してるんじゃないの?」
「停戦はしているが、辺境では小競り合いが続いているんだ」
子供が戦争……。
「ボクは君ら王国の敵だ」
「で、でも、帝国の人って、流民とか難民とかこの国でたくさん見かけるよ。シンエイもそれで帝国から流れてきたんじゃないの?」
「違う。ボクは……」
「戦争のことならしょうがないよ。無理やり従わされていたんでしょ。みんなそう言っている」
確か、薬屋さんでクジョウの当主とか、
男の人を探しているとか、
仲間に裏切られ、それが元で足を失ったことを…。
「アルメダ。いままで言えなかった事がある。
これはボクが死ぬ間際に語ろうとしていたこと、贖罪だ……」
「なに?」
「ボクは仲間とある目的のために帝国からこの国、この街に来た。
目的の男は探せず、仲間と帰還か続行かで言い争ってるうちに、
弟の策略で毒の攻撃を受け脚を失った」
「弟から?ひどい!」
「嫌われていたのもあるが、要は当主を巡る争いだな。
急な裏切り行為に返り討ちをしたが、毒を受け弟には逃げられた。
もう自由に動ける状態ではなく、貧民街でボクは死を待つだけだった。
そんな時、君らを見かけて、同情で助けたんだが……」
あの時、助けてもらわなかったら、わたしもイルもどうなっていたか分からない。ヒドイ目にあって奴隷商に売られてたかもしれない。
「出会って助けたのは決して意図的ではない。
本当に偶然だった。
弟の裏切りらなかったら……ボクは……」
シンエイは口を閉ざしてしまう。
どんな事情があってもシンエイはシンエイだ。
わたしやイルを助けてくれた命の恩人だ。
シンエイの顔が青ざめている。
「大丈夫?」
シンエイはイルを見る。
「この話は、体力を戻してからでいいか?
その時アルメダとイルメダ2人に、真実を語りたい」
「ど、どうしたのシンエイ?」
「今後、何が起ころうと君らには手を掛けるつもりも、裏切るつもりもない。絶対にだ」
「?」
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22 アルメダ3 シンエイの事情 終わり (72)
23 アルメダ4 イルメダの価値と転移人 (73)
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