第20話 アルメダ1 回想
1カ月前に冒険者のお父さんは仲間と迷宮に行き、帰って来る約束の日に家に帰って来なかった。
次の日、お父さんの冒険者仲間と名乗る人たちが家に押しかけてきて、お父さんは魔物に襲われて死んだと知らされた。
男たちは面倒を見る人がいないと子供たちだけでは家に住むことはできない。自分たちが親代わりで面倒を見ると言い、勝手に食べ物やお酒を飲み、いやらしい目でわたしを見てくる。
スキを見て妹のイルメダと2人で家から逃げ出した。
けど逃げたことに気付いた男たちは、わたしたちをしつこく追ってくる。
ひとりが「追跡」のスキル持ちで、どこに逃げても、隠れても、どこまでも追ってきた。
街の外れの貧民街まで追いつめられると、わたしより少し上くらいの片足のない男の子に助けられ、かくまってくれた。
男の子は自分や人を見えなくするスキルが使えて、姿が消えたわたしたちに、男たちはくやしそうにあきらめて帰っていった。
男の子の名前はシンエイ。
顔色が悪く、片足でも杖を2本使って歩くことができる。長い髪の毛で銀色。顔も着ている物も汚れていたけど、よく見るとキレイな顔だちの子だ。
貧民街に住むシンエイは、崩れかけている小さな平屋に招いてくれた。
貧民街。
お父さんの話しから、人生をあきらめた人たちが住まうところ。
犯罪者が逃げ隠れているところ。
働けない、動けない人たちの最後に行きつくところ。
みんな街中のゴミを漁り残飯で命をつないでいるという。
片足のないこの子はどんな理由でここにいるんだろう?
助けてくれたお礼を言う。
「たまたま目について、なんとなく助けただけだ。適当に寝てくれ」
お父さんが死んだことを聞かされたイルはグズり抱きついてくる。
「おとうさん生きてるの。あの人たちは、ウソをついてるの…」
わたしも生きていると信じたい。
きっと男たちに裏切られ、殺されたか見捨てられたんだと思う。
けどお父さんは強い。簡単に死ぬはずがない。キズを負って逃げて、キズが癒えるまでどこかに隠れ、しばらくすると帰ってくる。
そして、わたしとイルの前に現れていつものように笑顔で抱きしめてくれる。
そんなことを願ってしまう。
「アルー、おとうさん、帰ってくるよね」
「…うん…帰って、くるよ」
イルは笑顔になる。
「あの男たち、やっつけて、また家にもどれるんだよね」
そうなったらどれだけうれしいことか。
けどこの街、この世界はそんなに甘くはない。
死は日常だ。
けどイルの言葉通り、わたしもそう願わずにはいられなかった。
家を追い出された理由をシンエイに話すとだまって話を聞いてくれた。
話を終えるとクリスはしばらくのあいだ考え込み、
「始末すればいい」
「え?」
「今の時間なら酒を呑んで油断してる」
「え、でも…」
「おうちに帰れるの?」
イルは顔をほころばせる。
「残念だがもうその家には住めないだろう。
この国では親のいない子供たちだけの居住は認められない」
「あそこは、おとうさんが買った家なの」
「国の決まりだ。家、土地は領主が徴収。
役人が来て君らは教会の孤児院に連れて行かれる」
「教会の、孤児院……」
名だけの孤児院。
いつも満杯で、多くの子供たちは建物の外で寝かせ浮浪児の扱い。
大きくなって成人するといろいろな店に、ほうこうさせられる。
お父さんはそうなると生きてるあいだ、さくしゅされ、自由なんてなくなると言っていた。
そのために、生き抜くために、魔法やスキル、闘い方のやり方をお父さんから学び教えてもらっていた。
けど、まだ小さいわたしたちはそこまでの力もない。強くもない。
「おうちに帰れないの? おとうさん帰ってきたらどうするの?
アル、おとうさん、死んでないよね」
シンエイは残念そうにわたしを見て、小さく首を横に振る。
まだ生きてるなんて甘い考えだ。
男たちは計画的にお父さんを殺したんだろう。
報酬やお父さんの家、わたしたちを売ってお金にするために。
まだお父さんが生きてるなんて、そんな夢やつごうのいいことなんて起こるはずない。
「ねーアルー」
「イル、お父さん、死んだの」
「うそ、アル、さっき生きてるって言ったの!」
イルメダは涙ぐむ。
「お父さんがいなくなったときの決まりごと、覚えてるでしょ?」
「いやなの…おとうさん……」
お父さんは「最悪な事態を想定して動け」。
「俺が死んだらイルを守り、姉妹で助け合って生きていけ」と、
イルにもわたしにもいつも言っていた。
イルはまだ小さくてそこまでの覚悟もできないだろう。
正直、わたしだって、できていない。
「会いたいの、おとーさん……」
泣くイルを抱きしめる。
覚悟を決めないと。これからイルを守るため、悪いことをしてくる人間にはむかっていかないといけない。
「お父さんとの決まりごと、約束覚えてるでしょ?お父さんがいなくなっても泣かない、わたしの言うことを聞くって」
「うっ、うぅぅ……」
「泣いてもお父さんは帰って来ない…生き返らないの」
「アルのばかぁー」
「これからは2人で協力して生きていくの。
わたしはイルを守るし、イルもわたしを守って、ね?」
「う、うぅぅぅー」
泣き叫ぶイルを強く抱きしめる。
★★
深夜。
家の前。
「気配がない」
「帰ったの?」
「下位ランクの冒険者は安宿暮らし、家はない。簡単に手放すとは思えない」
戸板を開ける。
「血の匂いだ」
シンエイは家の中に入り、わたしとイルもその後をついていく。
ロウソクに火をつけ、居間に入ると、男が胸から血が流し、もう2人は頭がつぶれていた。3つの死体は服がなく裸だった。
「もう1人いないよ。4人いるはず」
「気配はないな」
シンエイは死体のキズを見る。
「3人に抵抗の跡がない。
残りの1人が油断したところを裏切って仲間を殺す。
金から武器防具、服まで剥ぎ取って行ったんだろう。よくある話だ」
家の中の食料品。小物や数少ない生活用品も持ち去られている。お父さんからゆずってもらった宝物の小さな短剣もなかった。
どうして身につけていなかったんだろう……。
わたしは流しの床下の板を外して、古い箱を取り出す。
蓋を開けると空っぽだった。
「そんな……」
「それは?」
「お父さんになにかあったら、ここにお金を隠しておくって、これも見つけられて、取られちゃった…」
全てなくなった。お金、宝物。そしてお父さん……。
イルはベットの下から小さな袋と紙を取り出し、
「おとうさんから、もらったお金なの」
手には大銅貨3枚。銅貨8枚 (3800円相当)。
お父さんから、お手伝い賃としてもらったお金だ。
これだけあれば、3人で数日はご飯を食べられる。
イルの持つ紙には、親子3人の姿絵。
それを見て涙目になる。
「イル、お父さんを大切に持っててね」
「うん……」
「多分もう警戒して戻って来ないだろう。
役人が来たら厄介だ。名残惜しいだろうが戻った方がいい」
「…わかった」
「おにいちゃん、どうして足がないの?」
「イル!シンエイ、ごめんなさい」
「……仲間だった人に嫌われてて、毒を塗った矢じりを脚に受けてね。全身に毒が回る前に、切ったんだよ」
「自分で!?」
シンエイは凄いことを平気で言った。
「痛いの?」
「間に合わなくて少し体にも毒が入った。あまり調子はよくないかな」
イルは足の切断部分を撫で「毒浄化」を唱える。
淡い緑色の帯が切った足に包み入り込む。
「イルは聖魔法が使えるの。けど「回復」も「毒浄化」のLVも低いし、治るかはわからない」
「おわったよ。痛くなくなった?」
「少し、楽になったよ」
「まだ?じゃあもう1回するの」
「ダメだ。魔力欠で倒れるから」
「だって…」
「毒浄化のLVはいくつだい?」
「2だよ」
「だいぶ痛みが軽減している。ありがとう、イルメダ」
「少しは効いてるの?」
「一時的に和らげてくれる、十分助かる」
「また明日もかけてあげるの!」
「毒の解毒剤は? 薬草はどこに生えてるの?」
「たぶん、この国にはない。帝国だ」
★★
翌日。
薬屋バード。
薬屋に出向き、わたしたちはお店の人の猫人族のおじさんから話を聞く。
「植物の毒か?」
「コントラ草の猛毒だ」
「帝国産の? 言語からあんた帝国人か」
「そうだ。流民だ…」
「コントラ草の解毒剤は長いこと薬草を見てきたが、この王国ではみたことがないな」
「治らないの?」
「解毒剤以外、その蓄積してる毒を無くすのは、
上位魔術師、は無理か。聖女様の癒しくらいしかないな」
「一番いい薬や薬草でもダメなの?」
「無駄金だな。現状この国では治せる手段も治療もない。
疑問だがコントラ毒を喰らってどうしてまだ動けるんだ?
先代帝王は暗殺で喰らって数秒で死んだと聞かされているが」
「微量入った。ここ数日で、死ぬだろう」
「そんな……」
店主は片足を見る。
「ちょっと前に2体の死体と、片足が落ちていた出来事があったな」
「………」
「アンタ、クジョウのシノビだろう。
同族同士の殺し合いで、大方仲間にでも裏切られたか?」
「シノビ?」
「一般人は知らんだろうな。帝国の裏の世界では、」
「よせ」
「…そうだな、女子供に聞かせるような話じゃないな」
「クジョウは、もう去ったのか?」
「情報には対価が必要だぜ。金がないなら情報には情報だ。
どうして帝国からわざわざこの街に?訳ありだろ」
「…ある男を探していた。名前は知らない。ボクは下っ端だったからな」
「探している理由は?」
「その人物が持っている…財宝だ」
「男を探しているのは本当らしいが、
「名前は知らない」、「財宝が目的」は、嘘だな」
「「疑眼」スキルの持ち主か」
「本当の事は?有用な情報かもしれん。
どうせ死ぬんだ。ここでみんな吐いてしまえ」
店主は銀貨1枚をテーブルに置く。
「ここではクジョウの情報の需要はないがな。
これは興味、これはオレ個人的な情報料だ」
「すまないが、これ以上晒すつもりはない」
「命を狙われたんだ。義理立てしてもしょうがないだろう?」
「もうボクには関係ないことだ」
「じゃあ裏切ったのは仲間か?自分か?」
「……ボクは、当主の長男だ。後は察しろ」
「下っ端どころか、大物、重要人物じゃないか」
「………」
「当主と言うとアンタ転移人の子孫だな。片脚の原因は醜い派閥争いってところか」
「もうすぐこの世から消え死ぬ。駆け引きになる相手もいない。生かせない情報だろう?」
「まったくだ。銭貨1枚にもならんな」
男は笑う。
「帰ろう」
「けど、薬…」
「元仲間が目的を達成したかは知らんが、2日前にこの街を去ったらしい。帝国に帰ったのかは知らんが」
「そうか、ありがとう」
「ほら、笑わせてもらった駄賃だ」
店主は銀貨を投げてシンエイは受け取る。
「殺しても死なない、それがシノビなんだろう?
シノビのスキルはこの世界にはない独特のものと聞く」
「過大評価だ。不死身な人間なんていない。数日後に証明してやるよ」
「しぶとい奴は、しぶといらしいな。万が一生き残ったら、オレを喜ばせろよな」
まあ無理か、と店主は笑って、わたしたちとシンエイと店を出る。
いろいろ事情があることを知った。
シノビはよくわからないけど、当主と言うくらいだ。
シンエイは名のあるお貴族さまとかかもしれない。
「おにーちゃん、じょうか、するの!」
「ありがとう、あとで頼むかな」
「どうすれば、ドクのじょうかの、れべる、上がるの?」
「何月も何年もスキル上げを努力すれば上がるよ。
ボクがいなくなっても、将来その力で困っている人を助けてやるんだよ」
「おにーちゃん、死んじゃうの…」
「………」
「う、うぅぅ、おにーちゃんを、たすけたいの…」
「寿命が尽きるまで2人に今後のこと、生き残りの術を授けよう」
貧民街は危険ということで、わたしたち3人は街の中での生活がはじまった。
大きな商会の建物の影で、シンエイは「隠蔽」スキルをイルとわたしに掛けてくれる。
スキルの発動は身体に負担がかかるらしく、みるみるシンエイは弱っていった。やめるように言ったがやめなかった。
持ってたお金、貰ったお金はパンとスープで20日ほどでなくなった。
教会の炊き出し3日おき。
冒険者ギルドでのお仕事は成人していない子供にはあまりない。
1日1回、イルはシンエイに毒浄化を掛ける。
そのときだけ苦しさが少しだけ収まるようで眠りにつく。
ご飯を食べないと体力が持たない。
イルもだんだんと弱っていく。
街中の人たちが魔王が復活したと騒いでいた。
シンエイに聞くと、精鋭者と魔族の闘いが始まるかもしれないと言ってる。
そんなことはわたしたちに関係ない、今いかにご飯を食べれるかが問題だった。
ここ最近、街の外の森の中で魔物魔獣が増えて、動物の姿が消えた。小さな動物でも狩れればいいけど、ここ数日LVの高い手に負えない魔獣がウロついて逃げるしかない。
森の奥の珍しい薬草も取りにいけない。
浅瀬の薬草はギルドでも余ってるらしく買い取りはしてくれない。
薬屋に直接売るのは重罪だ。
食べ物を買うためムリをして薬草を採り、直接売るしかない。
キレトの回復草、大銅貨1枚 (1000円)で売れる。
銅貨5枚 (500円)にしても、3枚(300円)にしても全然売れない。
道端の素の薬草売りでは、まったく見向きもされなかった。
せめて黒パン3つ、いえ2つ分だけでも売れてほしかった。
教会の炊き出しまで2日。
イルは寝たきり。クリスも身体を動かせないくらい身体が弱っている。
薬草を買おうかと何人かの男が寄って来る。
しかし目的は薬草でなく、わたしの身体か奴隷商の人買い。
今までもよくあった。
力まかせやイヤな予感がしたときは「迅速」のスキルで逃げる。
1人だけなら「迅速」は大人たちや魔獣からも逃げられた。
この街の平民も、冒険者も、憲兵も、領主も腐っている。
お父さんももう少し稼いだらこの街を出ると言っていたのを思い出す。
お父さん、くじけそうだよ。
シンエイどころか、イルさえも助けられないかもしれない。
一草銅貨2枚にしようか?1枚にしようか?
それでも薬草が売れなかったら、最後の手段、娼館。
イルやシンエイのためなら…がまん、できる……。
いくら声掛けをくり返してもムダだった。
薬草売りはもうやめようか。
早く覚悟を決めないと2人はもっと弱っていく。
そんな時、若いキレイなお姉さんが声を掛けてくれた。
「ねえ、1本おいくら?」
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