第1話 異世界(テラウス星)
ー初日ー
木立が並ぶ森の浅瀬。
サバゲー用の迷彩服姿で、異世界(テラウス星)の地に降り立つ3人。
地球とは異なる光景に困惑しながら、
急いで武器の準備をする、長男のタケル18歳。
ギフト「マップ」の確認をする次女のノゾミ17歳。
「これが名刀、三日月宗近、か…。感動だな」
「ここはルーシヘア領の森。一番近い街はここから距離60キロだね」
「王都は?」
「逆方向、1200キロ以上」
「遠いな」
「ここは寄り道でしょ。最初から王都イベントは早過ぎるよ」
「ねー、森というより、アマゾンのジャングルみたいなんだけど…」
長女のアヤカ(ノゾミとは双子)は、
不安そうに目の前に広がる広大な密林を見つめる。
樹木が蔦に覆われ隙間がないほど生い茂、所々常識では考えられない程の巨樹がそびえ立っている。
「世界樹の葉っぱとかありそうだねー」
「アヤカ、日本の、いや、地球の常識では考えない方がいいぞ」
「紛うことなく異国だしね」
「不安でしかないんだけど……」
草むらからいきなり頭に2本、角の生えたウサギが飛び込んでくる。
「うおっ!」
「え? 角?」
「ほう、これはなんとも異世界的にはポピュラーな」
「二角のウサギか」
ノゾミは「鑑定」を発動。
「[鑑定]。魔獣、ホーン・ラビット、LV 18。
角の推定価格、大銅貨3枚。お肉は食用可」
タケルが近づくと、ホーン・ラビットは方向転換して森の中へと逃げていく。
「逃げるかー」
逃げた先に、大型動物サイズのカエルが横たわっている。
「でっか!」
「すげー」
色はピンクの半透明。
ノゾミはスマホを取り出し撮影する。
「真ん中の、腹の中?白の、動いてるのなに?」
「グラス・トード、LV 22。ヒキガエルだね。
へー、白いのは内臓だ。グラスの意味はスケスケの半透明だからかな?」
中身の内臓、心臓がドクドクと脈打っている。
「キモ過ぎでしょ…」
「大きさ、バグってるよな」
地面には列をなして歩くキノコ。
「この、○ocomoのキノコみたいなの、なんで歩いてるのよ」
「アヤ姉、菌類だって生きてるんだよ。形ある物全てに生命が宿り、」
「そんな講釈いらないわよ」
「本当に異世界なんだな」
「信じらんない、まだここに来て3分も経ってないのよ」
「○ンジョン飯でこんなのいたよな」
「ウォーキング・マッシュルーム。食用可。後で捕まえて解剖、実食だね」
「は?こんなの食べれるわけないでしょ!」
「アヤ姉がこの星に生まれていたなら、なんの躊躇もなく食している食材だよ」
「ワタシ日本人だから」
「文化の違いってだけ。あのヒキガエルも食用可だし喜んで食べてるよー」
「キモイって。ワタシの中の常識がこれは、」
「人だ、こっちに来るぞ!」
タケルが緊張すると、
薄汚れた布の服。剣の武器、棍棒を手に持つ男たちが近づいてくる。
「な、なによ、あのみすぼらしい格好」
「野盗だねー。あれもまあまあここではスタンダートな部類かな」
「うそでしょ…」
「恥辱されたくなかったら、ああいうのも相手にしないとだ」
「無理、見るのも近づくのも触れるのも、生理的に無理!」
3人の男たちはギラギラした卑しい目で、
「若い女だな」
「こいつは高い値がつきそうだ」
「その前に存分に楽しまなきゃな」
「身なりがいいな。おらっ武器と持ち物を寄越せっ!」
「そうすりゃ命だけ助けてやる。奴隷としてだがな」
「ギャッハッハッハ」
「ホントに知らない言語が自動で耳の中、副音声されてるー」
「「翻訳」スキル、凄いな」
「いや、それどころじゃないでしょ…」
「ノゾミ、これ正当防衛でいいんだよな」
「当然ギルティだ」
ノゾミは手に持っているガバメント銃で2発撃つ。
1人は額、もう1人は心臓と撃ち抜き、男たちは地面に倒れ込む。
「ひ、飛発、ひーー!」
腰が抜け四つん這いで逃げ出す男。
「タケ兄、美少女の妹2人を凌辱しようとしたんだよ、ここは兄としてケジメをつけさせようか」
「………」
タケルは後ろから、武器の日本刀(強化付与)で斬りつけ男を始末する。
一連の行動に驚き動揺するアヤカ。
3人の遺体が地面に転がる。
「どう?初仕事は」
「あ、ああ。殺されて当然の人間だよな」
意思とは無関係に手が震えている。
「犯罪行為に対して防衛するのは当然のこと。恐喝、暴行、窃盗未遂。奴隷売買もか。これは正義のアクト。それと未来の犠牲者を出さないための所業だ」
「だよな…」
ノゾミは転がっている野盗の剣の「鑑定」をする。
「ブロード・ソード、攻撃力120、錆、刃欠け有り。
推定買い取り価格、銀貨2枚と大銅貨4枚。
銀貨の価値いくらか分んないけど売れそうだから[ストレージ]」
ノゾミの傍に黒い空間。
空間収納にブロード・ソードが吸い込まれ消えていく。
「なにか持ってないか探るか」
タケルは男たちの懐を探る。
「タ、タケルもアンタも、人を……」
「大丈夫、皆スキルに「精神耐性」があるからメンタル的には平気」
「いや、平気って」
「去年、アヤ姉の「ストーカー男ボコった事件」あったよね。
アヤ姉が盗賊を殺してもそれぐらいの衝撃度、情緒面で済むはず」
「………」
「無理かな? こういうの?」
「アイツらは、ワタシとノゾミを襲おうとしたんでしょ。
そういう、相手には……やっぱ無理! ワタシには無理……」
「盗賊に同情は無縁、然るべく末路だよ。
いままで女子供を捕らえ、幾度も繰り返してきて行為なんだから」
「………」
「ここはこういう世界。まあ慣れだよ慣れ。いずれ覚悟も決意もできるし、染まるから」
「………」
★★
ギフトの「マップ」を頼りに道を探す。
「飛発、銃に類する物ここにもあるんだね。火縄銃の類かな?もしかして先代転移人発祥とか?」
「なあ、ノゾミは神さまからこの世界の事、どのぐらい話を聞いたんだ?」
「さらっとね。冒険の楽しみが減るからほとんど聞いてないよ」
「普通、いろいろ尋ねるだろう」
「それもうネタバレじゃん」
「命が掛かってるなら話は別だろ。コンテニューもないんだぞ」
「緊張感のない闘いなんてゲームだけで十分。アタシから言わせればRPGは緊迫感維持のため、絶滅したら「○来のシレン」のように最初からスタートして欲しいくらいなんだけど」
「それはガチ勢過ぎるだろう。
LV50でラスボスで死んで最初からスタートか?」
「死んだら死。どこの世界でも当たり前のことじゃん。緊迫感だよ。空気が張りつめる感が生きているという実感を、差し迫った感じが心も身体も成長させてくれるんだよ」
「ノゾミほど豪胆で自信家じゃないんだが」
アヤカは2ℓの○プシをがぶ飲みしながら、
「ねえ、車、出してよ」
「いや、それはまだ早いだろ、ここ道じゃないし」
「山道とか荒地とか余裕とか言ってたじゃない」
「もう少し様子見、落ち着いてからだ。何が出てくるか分からないからな」
「ちょっと、人だよ」
遠方の道に男女2人組の姿。
「1人は女の子か?」
「親子連れの冒険者かもしれないねー。
ここはスキルの出番ですな。スキル[望遠]」
「スキル[望遠]!」 「ス、スキル、[望遠」」
3人は「望遠」スキルを発動。
「便利ー、自動調整してくれ……ん?」
全裸で股間にお面(天狗の面)を装着した体格のいい30歳前後の男性。
小さい龍(?)と、スライム(?)を引き連れた可愛らしい金髪の女の子。
アヤカは不審な男を目の当たりにして、
「なによアレ? アレってこの世界の常識なの?」
「なかなかな強キャラ(?)が現れたねぇー」
タケルの表情も険しくなる。
「普通の人間だよな。金髪の女の子は真面そうだが、その連れ(股間に天狗)に話しかける自信は、ないな…」
「この世界にも天狗が居るんだー」
奇妙な2人組は立ち止まってこちら側の様子を伺っている。
「まさか、こっちに来ないでしょうね」
「「来るもの拒まず」の精神だよ、アヤ姉」
「いや、拒むでしょう、あんなの」
2人組はしばらくしてコチラを無視して森中へと消えていく。
「行っちゃったかー」
「だから来られたら困るって」
「モブと判断する? 股間天狗はともかく、金髪幼女はちょっと見逃せなくない?」
「後をつけよう、情報収集は冒険の基本だ」
「ウソでしょ……」
★★
森の中の小道を歩く不審な男と金髪幼女を、
20メートル後方から追跡する。
不審な男はパンツを履いている。
「ね、ねえ、さっき見た時、あの男パンツ履いてなかったわよね」
「だよな。素で尻が見えてたし、この森に入って履いたのか」
「一応、アタシたちに配慮してくれたのかな? これは紳士」
「なんでアレ見て紳士って言葉が出てくるのよ」
金髪幼女の周りに仔龍らしき生き物が飛び回る。
「絶対あれは龍だって!すげー!」
「かわいいねー。あのゼリーっぽいのスライム?」
地面を張って動く不気味な物体。
「やっぱりあれは、お約束のテイムかな?」
「エモいねー、龍も主従できる?」
「これは夢が広がるな」
「アタシらはないけど、姉のギフトに「使役」があるんだよねー」
「最高じゃないか!」
「でも、雫型のスライムの概念はゲームだけじゃない? 宇宙共通?」
「そう言われれば!」
「けどデフォルメタイプの可愛さじゃないんだよね。
微妙にキモイし、ウサちゃんも仔龍ちゃんもどちらかというと普通にリアル系だし」
「ちょっとアンタたち。龍よりあの男が気にならないの? どう見ても股間に天狗は不審者以外何者でもないでしょ」
「だね、どう見ても変態にしか見えないねー」
「あの子、誘拐されて連れ回されてるのよ。助けなきゃ!」
「いやいや、その断言はまだ早くないか?」
「奴隷にされてるのかもしれないよ」
「え!?…奴隷?」
「違ってたらどうするんだよ。何か訳があるのかもしれないだろう?」
「許せない!幼い子が奴隷なんて!」
「待て待て、慌てるな」
「じゃあ私がやるわ。訳の分からない魔法で」
「逆かもしれない」
「逆?」
「あの幼女の奴隷だったら?」
「……?」
「異世界物にはよくあるパターンだ。
奴隷として幼女の方が男を従わせているんだ。元罪人とか、借金奴隷とか」
「首輪とか付けて、隷属として服従してるのかも」
「首輪なんてないじゃない」
「身に着けている物とは限らない。呪いとか魔法とか魔道具とか。それで従わせるんだ」
「言ってることがイミフなんですけど」
「ここはもうファンタジー世界なんだ。アヤカは魔法を使えるし、ノゾミは傷を癒せる。
もしかしたらあの天狗の面が隷属としての役割を果たすとか、幼女にマインドコントロールとかそんな能力があるのかもしれない。
それとオレの勘だが、あの子は何十歳、何百歳も歳上の可能性がある」
「見かけの年齢と精神年齢が違う。異世界あるあるだね」
「いや、意味分んないって」
「長命種のエルフとか亜人さんだったらすごいねー」
「アンタまで…」
「タケ兄のラノベ読破してるからね」
「通称ロリババア。歳をとっても成長が遅いとか、止まったままとか、見た目若いままなんだ」
「キモイんですけど」
「キモくない。金髪幼女は尊いだろう!」
「キモいのは力説するアンタの頭よ!」
「従者という可能性もある。見た感じ2人は普通に話しているだろう? 脅かされてる雰囲気はなさそうだし、幼女は龍を抱いて普通だし、男は護衛とか家来という線もある」
「おー。タケ兄、説あるコアだよ」
「従者が何で天狗の面なの?どうみても変質者じゃない」
「もしかしたら、ああいう文化や風習かもしれない」
「それはイヤな文化だー」
「それとかあの男の趣味とか?」
「倒錯しすぎでしょ!変態の快楽殺人者だったらどうするの?それで小児性愛好者なら秒で攻撃するわよ!」
「あのゾウさんで子供を誘ってるんでしょ!」
「うわー、言っちゃった。そこはあえてモブさんの尊厳のために触れなかったのに」
不審者男のパンツの後ろには刺繍したデフォルメしたゾウの絵。
⊂^ し^⊃
「初めに襲われた盗賊がいただろう。身ぐるみ剝されたとかあるのかもしれない」
「せめて腰蓑とかでしょう? 人道的にも道徳的にも子供の前ではゾウや天狗はダメでしょう」
「アヤ姉、とりあえず落ち着こう。いきなりの攻撃はないと思うよ」
「ワタシだって別に好き好んで攻撃しようなんて思わないわよ!
もうイヤ!やっぱり帰りたい!少しでもその気になった自分が許せない!」
「夢の褒美のDカップ待ってるよー」
「そんなのもういらないわよ!!」
「落ち着け、アヤカ」
「盗賊に襲われ変な動物やキノコ。
ワタシが賢者ってなによ!
魔王討伐って訳分んない。もう家に帰りたい!」
「あー、もう。キャンセルよキャンセル!」
「アヤ姉、これもう却下できないからー」
泣き叫ぶアヤカをノゾミは慰める。
「アンタ、あの時、地球に帰る方法知ってたんじゃない?
あんなに追い詰めて、服従させておいて」
「いやいや、それは人聞きが悪い」
「絶対知ってたわね? この別の世界に来たいため黙ってたんでしょ」
「ゴンダラフ神(仮)に誓って、」
「その神が信用ならないのよ!」
「帰還方法は本当になかったんだよ。
これは強制だからアタシたちには成す術はなかったんだよ」
後方から複数の足音。
振り向くと二足歩行する醜悪面の化け物が走り迫ってくる。
アヤカが悲鳴を上げる。
「キャアアアアアアア!」
豚の顔、ブヨブヨと太った腹。
地球では想像上でしか存在しないモンスターが向かってくる。
アヤカは悲鳴を上げパニック状態。
「イヤアアアアアアアア!」
「魔物だ!倒すぞ!」
「初魔物だー」
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1 異世界(テラウス星) 終わり (51)
2 戦闘 (52)