君の夢
待ち合わせの時刻より20分早く来てしまった。当然如月さんは来ていない。本当に如月さんは来るのかという不安を感じながら、時間まで何をしようか迷って目の前にあったコンビニで時間をつぶすことにした。
あっという間に時間が経ち、待ち合わせの時間になっていた。慌ててコンビニを出るが、如月さんの姿はない。もしかすると、如月さんは教室にいるのかもしれない。急いで1年の教室を見に行った。しかし、如月さんの姿はなかった。こうしているうちに、もう待ち合わせの時間から20分が過ぎていた。こうなるなら来なければよっかた。もう帰ろうと思っていると、遠くに走っている如月さんが見えた。
「ごめん。忘れ物して取りに戻ってた」
そう言って、息を切らしながら僕のところへ来た。
「もう帰ろうかと思ったよ」
「ごめん。お詫びにこれあげる」
如月さんが手を差し出してきた。手には三つの飴があり、僕はその飴を受け取り、1つを口の中に放り込んだ。爽やかなサイダーの味がして、意外と美味しかった。息が整ったようで、
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこに?」
「えーとね。いいところ」
そうだけ言って、如月さんは歩き始めた。如月さんはいつもどこに行くのか教えてくれない。10分ほど歩いているとついたよと横を見た。僕も如月さんにならってよこをみると、そこは女子が好きそうなお洒落なカフェだった。店内は結構にぎわっていた。そして、お客さんはほとんどが女性だった。終わった…
「ここのパンケーキ食べてみたかったんだー」
如月さんは嬉しそうに言う。看板を見る目がきらきら輝いている。が、僕の目はだんだんと漆黒の色へと変わってゆく。本当にこういう場所は苦手だ。
「あの、僕用事思い出したから帰るね」
帰ろうと思い振り返ると如月さんが僕の腕を掴んだ。
「残念だけど、君は返さないよ。もう予約しちゃったし」
「じゃあ、如月さんだけ行ってきたら?僕は近くの公園で待ってるから」
そう言うと頬をぷくっと膨らませいた。
「もう、それじゃ意味ないじゃん。一人で食べるより、友達と食べた方が美味しいだよー
それに話したいことがあるから行こう」
僕は、腕を引かれ強引に店の中に入れられた。
「いらっしゃいませー」
と店員さんが笑顔で言った。
「予約した如月です」
彼女が、答えた。いつもと違ってちゃんとしていて少し驚いた。顔に出てたのか失礼だなぁという顔で僕を見てきた。僕らは、パンケーキとコーヒーを注文した。店員さんは、僕らをカップルだと勘違いし、カップル専用のメニューを勧めてきて、如月さんは乗り気だったが、僕が丁寧にお断りした。十分ほど待っているとパンケーキとコーヒーが運ばれてきた。見た目がお洒落でとても美味しいだ。コーヒーも香りが良く、食欲がそそられた。一口食べると甘い味が口に広がり、コーヒーを飲むと程よい苦味が甘さと交わあってても美味しいかった。如月さんはというと笑顔で「美味しい〜」
と満足そうに食べている。僕らは、パンケーキを味わって食べた。美味しいかったと余韻に浸りながらコーヒーを飲んでいると如月が急に姿勢を正した。思わず僕もつられて姿勢を正した。如月は、深呼吸すると真面目な顔で話し始めた。
「月島君にお願いしたいことは、私を夢から助けて欲しいの」
何を言っっているんだろう。夢から助ける?意味がわからない。
「夢から助けるってどういうこと?」
「えっとね…信じてもらえないと思うけど、私夢で見たことが現実で起こるの」
「えーとそれは、正夢ってこと?」
「うん」
ありえないと思った。だが、如月が真剣な目で言っているので嘘ではないような気がする。
「仮にそうだとして、僕はどうすればいいの?」
「本当なんだけどな。まぁいいや月島君にお願いしたいことは、わたしの夢が現実に起こらないようにしてほしいの」
「どうしてそんなことしないといけないの?
別に現実になったも困らないじゃあないの?」
「それがさーいい夢ならいいんだけどね。私の見る夢は、悪いことなの?」
「それは、嫌だね」
「でしょーだからその運命から私を助けてほしいの」
彼女は、お願いと手を合わせいる。だが、僕は彼女の言っていることをまだ信じられなかった。アニメや漫画ではそういう人を見たことあるが、現実にもいるのだろうか?僕が疑いの目を向けているとため息をついて思ってもいなかったことを言ってきた。
「私ね月島君の夢を見たことあるんだよ。月島君、明日君は学校に来る時に自転車にひかれそうになって、それを避けやようとして足を挫くから気をつけてね」
そう言って、立ち上がり僕の分までお会計して帰ってしまった。追いかけようとしたが、頭がそれを拒んだ。
その日夜、僕はベッドの上で彼女のことを考えた。正夢をみるか…僕は、まだ如月雫っていう人物がどういう人か知らないため、彼女の言葉を信じていない。まぁ、明日になればわかるだろう。僕は、そのまま眠りについた。
次の日、僕は彼女の言葉を少し頭に置いて学校へ向かった。僕は、電車で通学しているため、駅まで歩いて行く。いつも通る道をいつも通り歩く。優しい風が吹いていて気持ちいい。この時期は、寒くもなく暑くもなくとても過ごしやすくて好きだ。この季節がずっと続けばいいのになんて考えながら歩いていたら、駅に着いた。そして、そのままちょうど来た電車に乗った。ここまで来たらもうそんなに歩くことはないので、足を挫くことは、ないだろう。安心していると三駅目で蓮が電車に乗ってきた。
「柊、おはよう。お前昨日、如月に呼び出されてたけど、何かあったのか?」
どうやら昨日のことが気になっているらしい。
「何にもないよ」
彼女の夢のことは、言わなかった。言ったら、少なからず僕がおかしい奴だと思われてしまうだろうから。
「なんだ、告られたと思ったわ。呼び出された後、みんな噂してたぜ。まぁ如月は、男子からよくモテてるからな。仕方ないな」
驚いた。彼女も自分で人気があると言っていたが、本当だったとは。とはいえ、僕には彼女のどこがいいのか分からない。
その後は、学校の最寄り駅に着くまで昨日のドラマの話や学校の話などを話した。友達の少ない僕は、この蓮と話す時間が素直に楽しかった。だが、人生は楽しいこともあれば、辛いこともあると言えばいいのだろうか。僕は、この後酷いめにあった。
「柊、まじで大丈夫か?保健室行く?」
蓮が心配顔で言った。僕は、足を引きずりながら蓮の肩を借りて教室に入り、自分の席に座る。クラスメイト達の視線が集まる。それも無理はないだろう。僕もクラスメイトがこんな友達に肩を借りて教室に行ってきたら、気になってしまう。
「うん。大丈夫。肩ありがとう」
「これくらいいいってことよ。保健室から氷もらってくるな」
そう言って蓮は保健室に走って行ってくれた。本当蓮がいて良かった。僕ひとりでは今教室に来れてないだろう。 ところで、なぜ僕が今こんな状況になっているかというと、学校の最寄り駅を出て学校までの道のりを歩いていると、スマホをいじっていた自転車にぶつかられそうになったからだ。蓮がギリギリ声かけてくれたおかげで衝突はまぬがれだが、バランスを崩し足を挫いてしまったのだ。そしてこれは、如月さんが昨日言っていた通りだ。
如月の言っていたことは、本当のことなのだろうか。僕は、普段あまり転んだり、怪我をしたりしない。そんな僕が足を挫くなんて感で当てられるのだろうか。いや感や偶然で当てられるわけがない。
如月は、本当に正夢を見れるらしい。
昼休み、屋上に行き一人でお弁当を食べた。ここは普段誰も来ないので、静かでとても落ち着く。一人でのんびりと過ごせる。この時間も僕は好きだ。
「あ、いたいた。月島君探したよー」
いきなり僕を呼ぶ声が聞こえて振り返ると屋上の入り口に如月さんがいた。
「初めて屋上来た。結構いいところだね。何してるの?」
如月さんが僕の隣に座り聞いて来た。
「見ての通り弁当食べてる」
「一人で?」
如月さんは、不思議そうに顔を覗いてきた。きっと友達の多い如月さんにとって、一人で弁当を食べることなどないのだろう。でも、少し如月さんが羨ましいかった。
「うん。いつも一人で食べてる」
「ふ〜ん、そうなんだ」
彼女は、興味なさげに言った。まあ、当然の反応だろう。友達が多く、男子からもモテているらしい如月さんが僕に興味を持つ方が不思議だ。
「それでなんで僕を探していたの」
「今日は、大丈夫だった?足、挫かなかった?」
「如月さんの言っていた通り自転車を避けようとして、足を挫いてしまったよ」
「そっか。未来は変わらなかったか。今日ずっと心配してたんだよ。大丈夫?保健室には行った?」
「いや、行ってない。でも、大丈夫」
「そっかなら良くないけど、良かった」
正直、如月さんが僕を心配していたことは驚いた。意外と優しいところもあるみたいだ。
「あのさ…如月さんは、本当に正夢?を見るの?」
「お、やっと信じてくれたかー」
「いや、まだ完全に信じたわけではないけど…今朝のことを考えたら本当かなって」
「うん、私は、正夢を見ることができる。全部いい夢ではないけど」
如月さんは、微笑んだ。けれど、僕には心なしか悲しい顔に見えた。僕が如月さんなら、毎日寝るのだ怖くなんだろう。きっと如月さんは、これまで夢に苦しめられてきたんだ。もしそうなら、助けてあげたい。
「如月さんは、昨日僕に夢から助けて欲しいと僕に頼んだよね。いいよ、僕ができることはあまりないかもしれないけど、僕は如月さんを助ける」
如月さんが一瞬面をくらったような顔をした後、大きな声で笑った。
「本当に引き受けてくれると思ってなかった。ありがとう。本当に嬉しい」
その後、如月さんは自分が今までどんな夢を見てきたのかなどを話てくれた。如月さんの夢は僕が思っていたより残酷だった。これを一人で抱えていたと思うと胸が苦しくなった。同時にどうして如月さんはいつも明るくいられているのだろうという疑問が浮かんだ。普通の人なら鬱病になってもおかしくないレベルだ。もう慣れたのだろうか?それとも如月さんは生まれつきすごく明るい性格で育ってきたのだろうか?僕の頭の中には様々な考えが浮かんだ。
「如月さんは、いつもこんな夢見て辛くないの?」
如月さん表情が暗くなった。
「辛いに決まってるじゃん。私だって人間だもん。でもね最近の夢は、嫌な夢だけど転ぶとか怒られるとかまだいい方の夢が多いの」
僕はそうなんだとしか言えなかった。
次の日も昼休み僕は、いつも通り一人で弁当を食べていた。すると、扉の開く音が聞こえた。僕は、まさかと思い後ろを振り返るとそのまさかの人が立っていた。
「何してるの?」
僕が質問をすると如月さんがにっこりと笑い手に持っていたものを見せてきた。それは、弁当だった。
「今日から私もここで食べていい?」
そう言って如月さんは昨日のように座り弁当を食べ始めた。
「え、友達はどうしたの?いつも一緒に食べてるんじゃないの」
「食べてるよ。でも私は月島君と食べたいから、今日から別の人と食べるって言ってきた」
そんなことしていいのだろうか。そんなことしたら、友達に仲間外れにされそうだが。
彼女は僕の心を読んだのか大丈夫だよと言ってきた。
こうして僕らは、今日から一緒にお昼を過ごすことになった。