追憶 3
「蓮様、そろそろご自宅へ到着いたします。」
後部座席で腕を組み、アイマスクをし、口を開けながら眠っている。起きる気配がない。
ここのところ忙しかったため疲労も溜まっているのだろう。さらに昨晩は病院からの連絡を待っていた為、あまり眠れていないはずだ……。
( どうしたものか…… )
「どうします?もう少しこの辺を周りましょうか?」
「そうだな。病院の面会時間の終了まで時間はある。もう少し眠らせてあげよう。」
自宅の前を通り過ぎようとしたが、路上の脇の空いているスペースに駐車する。
「蓮様! 起きてください!」
ゴウさんには珍しく大きな声で蓮は目を覚ます。
「ん? 着いた?」
アイマスクを外し、瞼をゆっくりと開けた。
「ええ。ですが、ご自宅の窓から火が見えます。私が様子を見てまいりますので、こちらでお待ちください。」
サイさんは携帯で会話している。どうやら消防に連絡をしているようだ。
すぐさま理解できなかったが、車の窓から自宅をみる。窓につけてあったカーテンが燃えているように見えた。
「ゴウさん待って! 俺が行く。」
「ダメです! 危険です!」
SPは、蓮の身辺警護が仕事である。たとえ、命令だとしても危険な行為は避けたいところだ。何者かが蓮の命を狙った可能性もある。
「自然発火の可能性もあるだろ。部屋の鍵は俺が細工してある。もし、破壊したり異常があればブザー音が鳴り響き、俺の携帯にセキュリティ通知がくるはず……だけどそれがない。仮に放火だとすれば、犯人は近くにいる可能性が高い。怪しい行動をする人がいたらゴウさんはそいつを追って!サイさんはすぐに逃げれるように車で待機しながら出入り口付近を撮影。5分経って、戻らなければ突入してよ。」
蓮の説得にに後藤と斉藤は目を合わせて頷く。
「では、念の為…こちらを。」
防弾チョッキと銃を渡された。万が一のことがあっては2人が責任を負うことになる。ここは素直に従おう。
そうして3人は各々の任務を実行する。
車から降り、道路を渡って自宅へと急ぐ。アパートの前には数名ほどいた。頭上を見上げながら会話をしている。
"あれ、火事じゃないか?誰か通報したのか?"
そんな声が聞こえてきた。
アパートの正面玄関のロックを解除し、エントランスへと入っていく。そして壁に備え付けられた非常ボタンを押した。ブザー音が鳴り響く。非常ボタンが作動した為、エレベーターは停止するはずだ。住民達が音に気づき、階段で降りてくるだろう。エレベーターの横にある階段で自宅まで一気に駆け上る。
途中逃げる住民達にもすれ違い、道を憚れたが自宅のある6階に着いた時には、すでに息が上がっていた。防弾チョッキを着ているせいもあるが、運動不足が原因だろう。部屋の扉を見るが、鍵は壊されてはいないようだ。
不審者が中にいる可能性もある。そっとドアノブに手をかけ、鍵がかかっているかどうか確認をする。どうやら解除されているようだ。10桁の暗証番号、カード、鍵。解除するにはこの3つが合わさらないと解除ができない。解除方法を知っているのは4人だけだ。これを解除したということは、相当な手練れ者か……もしくは……。
ドアの隙間から微かに声が聞こえた…。
「…………!!」
勢いよく扉を開ける。
目の前には大きな窓に備え付けていたカーテンが激しく燃えているのがみえた。近くにあったデスクには火が燃え移っている。玄関近くにあった傘立てを扉前に置き、逃げ口を確保する。熱気を感じながらも口元を腕で抑え声の主を探す。
ベッドルームの扉を開けた。
「 ………!! 頼人!? 」
ベッドで泣き叫んでいる俺と同じ髪色の赤ん坊がいる。我が子を間違えるわけがない!この子は俺の子だ!頼人!何故ここにいる!?メアリと病院にいるはずじゃないのか?どういうことだ!?
蓮はしばらく我を失った……。
「 蓮様! 」
ゴウさんの声が玄関から聞こえた。おそらく5分経って様子を見に来たのだろう。すでに火の元は広がっていた。消化器で火元を消そうとしている姿が見える。だが消える気配がない。ここから離れなければ、更に火は燃え移り避難できなくなるだろう。
後藤の声で少し冷静になった蓮。ベッドルームにあるクローゼットを開いた。
「 ゴウさん! とりあえず逃げよう! 」
後藤は蓮の言葉を理解した。斉藤に無線で連絡をする。2人は変装し、頼人を匿いながら部屋を出た。
逃げる住民に紛れながらアパートから脱出する。警戒しながら、人目のつかないところに停車した車へと無事に乗り込む。乗り込んだと同時に車は発車する。
アパートの方から爆発音がした!ここからは見えないが、自宅かもしれない。避難が遅ければ巻き込まれていた可能性もある。
「蓮様、安全な場所へ移動します。頼人様のことも気がかりですし、ミルクも与えなければいけません。念の為、医者に診てもらった方がよろしいかと思います。」
「メアリがいる病院は?無事なのか?」
「先程、病院に電話で問い合わせました。昼頃に退院したとのことです。彼女の父親らしい人物が無理矢理に連れ去り、そして、赤ん坊は行方不明と。詳しい情報はまだわかっておりません。」
行方不明……昼頃だとすると数時間前か。まだ、追える可能性はある。それと気がかりなことがある。腕の中で泣いている頼人を見つめた。首にはネックレスのようなものが架かっていた。初めて見るものだ。四角いゴールドのトップには見たことのない模様がある。文字に見えなくもないが、これは何を意味するのか。頼人が包まれているスカーフ。これには見覚えがある。
「 ゴウさん、頼みがあるんだけど。シュナイダー博士の行方を調べてくれないか? 」
「 シュナイダー博士をですか? 」
「頼人が包まれているスカーフ……博士も同じものを付けていた。関わっている可能性もある。」
「わかりました。すぐに手配いたします。」
ゴウさんはどこかに連絡をした。誰かに依頼をするのだろう。調べる時には第三者に頼むこともある。
蓮の携帯が鳴った。ズボンのポケットから取り出し、着信の相手を確認する。父親からだ。蓮は通話ボタンを押した。
「蓮か! どういうことだ? 子供が産まれるなんて聞いてないぞ!! 今すぐに帰ってこい!! 」
車中に怒鳴り声が響いた。思わず耳から携帯を離す。頼人は驚き、更に泣きだした。ゴウさんとサイさんは知らぬふりをしている。
( この2人…こうなることを知ってたな。)
持っている携帯からパキッと割れる音がした。数ヶ所にヒビが入り、画面は真っ暗だ。通話も切れている。
「壊れた……。」
蓮は壊れた携帯を見つめ、父親の怒りが相当だと判断した。
「なぁ…このままみんなで逃避行しない?」
「無理です。旦那様のご命令ですから、日本に帰りますよ。腹を括ってください。」
「もしもの場合、俺のこと助けてくれるよな?」
「それは、場合によります。お疲れでしょうから、しばらくゆっくりとお休みになってください。」
蓮は意識が遠のくのを感じた。
次に意識が戻るのは飛行機の中だ。
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