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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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念話


 VIPの病室にいる広海は携帯で誰かと話していた。

 浮かない表情をしている。


「わかった……。病室は1063だ。」


 相手にそう言って電話を切る。


「緊急事態で一樹がこっちに来るってよ。はぁ……全く、次から次へと問題が起こるな。」

「一樹だけ? 何があったの?」


 海星は父の言葉に何が起こったのかと不安になった。それは周りのいる者も同じことだ。一樹を知っている海星や蓮、武田はともかく他の者は一樹が何者かさえわからない。

 

「俺も詳しい話しはまだ聞いてない。まぁ、こうやって話している間にくるだろう。」


 広海の話しを聞き、海星と蓮は部屋の周りを見渡す。それにつられ、事情を知らない者も何が起こるのかと見渡した。

 武田は一樹と面識がある為、能力を知っている。気にせずパソコンに映る防犯カメラの映像を調べていた。

 まもなくしてドアからコンコンとノックの音が聞こえ、扉が開く。


「!! なんや、えらい大所帯やな。」


片手にはカフェからテイクアウトした紙袋を持ち、広海しかいないと思っていた一樹は人の多さに驚く。

 

「えっと……西宮司一樹です。お邪魔しまーす。」


 初めて会う者も多々いた為、一樹は名乗りながら恐る恐ると、気心が知れる海星と蓮のそばへと近寄った。


「普通に扉からかよ……。部屋にテレポートして現れると思って警戒してたのにさ。」

「あぁ……全くだ。期待を裏切られたよな。」


 一樹の姿を見て残念そうに海星と蓮は言った。

 そして、一樹の能力がテレポートだと判明し、聖海夜と伶青は自分もやってみたいと眼を輝かせていた。

 

「なんやねん、お前ら。久しぶりに()うたそばから、クレームかいな。」


 一樹の現在のテレポート能力では500Km圏内であれば、ひとっ飛びでその場所を念じれば行くことができる。広海の病室に直接来れることもできたが、幼少期の頃からやんちゃだった一樹は、広海から叱られることも多々あった。

 今回は西宮司家の能力者3人が行方不明。もちろん一樹には非はないが……失態と思うところもあった。

 広海に何を言われるかわからないという恐れを察知した一樹は、己の心を落ち着かせる為にも、普通に扉から入ったのだった。


「ところで……広海さんしかおらんと思ってたんやけど……ここで捜査会議か聴取でもしてるんか?」


 一樹が病室に訪れて目にした光景は思っていたものと全く違っていた。入院中の広海はベッドではなく、車椅子に座り、武田がパソコンで操作ている。拉致されたであろう少年2人にベッドの近くには警官らしき人物が2人いる。


「こっちでもいろいろ問題があってな。で、次は一樹からの電話だろ。ゆっくり入院のつもりが、朝から慌ただしくて全く落ち着かない。」


 広海は溜息を吐く。そして状況が読み込めていない一樹に簡単に説明をした。


「武田は隣にいる副総監の息子の指名手配中でもある藍丸容疑者のアリバイ確認中。」

 

 武田は一樹に久しぶりだなと声を掛け、藍丸は何も悪いことはらやってないからと身の潔白を豪語していた。


「その後ろにいるのが、救出された拓海の息子の聖海夜と友達の伶青。2人は問題を抱えててな……逃亡する時に護身獣と一体化したのが原因で、伶青が能力使えるようになって離れられないらしい。」


 聖海夜と伶青は会釈をし、どうにかしてくださいと切実に訴えた。

 聖海夜に初めて会った一樹は、拓海の息子であることに疑問を持つ。父である大樹からは広海にそっくりだと聞いていた。入れ替わってもバレないんじゃないか?と内心思った。

 すでに実験済みということはまだ知らない。


「で、そこにいるのが聖海夜達の救出したESPの黒羽と橘。一樹も来年入庁だから先輩にあたるな。待てよ。黒羽はさっき莉にプロポーズしてたから親戚か?まぁいいや。そこで静かに寝ている可愛い赤ん坊は蓮の息子の頼人だ。」


 一樹は情報量の多さに思考は停止し固まっていた。

 呆然とする一樹の肩にポンっと海星と蓮は手を置いた。


「大丈夫か? 一樹。」

「いや、無理やわ。まだ内容を整理できてない。」

「あとでゆっくりと説明してやるよ。」


 一通りの説明を終えた広海は次は一樹に求めた。


「それで? そっちは何があった? 3人が行方不明ってどういうことだよ?」


 広海は一樹の顔を見て冷ややかな眼をしている。

 痛い視線を感じながらも、見て見ぬふりをしながら一樹は遭った出来事を話し始めた。

 名古屋にある敵のアジト近くのカフェに4人が合流し、青樹が相手の能力を確認した時に足元に黒い物が現れて3人が消えたと。


「恐らくやけど……状況を考えると二樹はテレポートさせた可能性もあるかな?とは思う。」

「かな?って覚えてないのか?」


 広海に尋ねられて、一樹は腕を組みながらもう一度真剣によく考えてみる。


「テレポートした場所に心当たりは?」

「……わからん!」

「お前なー! ドヤ顔で言うな! 何でそんな大事なこと覚えてないんだよ!」

「しゃーないやろ! あん時は、青樹が逃げろっていきなり言って戸惑うし、一瞬の出来事やったんやって!」

 

 2人は言い争いを始める。それを止めるかのように、少年2人の経験者は語った。


「でも、一樹さんが言ってることはわかるよ。俺達もいきなり足元に黒いやつが現れて、知らない間に落ちてたし。」

「んー、確かに。驚きのあまり覚えてないかも。」

「せやろ! 覚えてないよな?」


 一樹は聖海夜と伶青の言葉に同意する。心強い味方ができホッとしたようだ。

 広海は何か言いたげそうだったが、海星がそれを阻止した。


「とにかく! 連絡が取れない大樹さんと青樹さんはワープして敵に捕まり、二樹はテレポートしたと仮定しよう。問題はニ樹だ。」

「けど、場所も心当たりもないし連絡もつかないんだろ? 向かうからの連絡待つしかないんじゃないか?」


 蓮が追い討ちをかけ、ニ樹の居場所がわからない一樹は落ち込む。


「あっ! そういえば一樹。確かニ樹とテレパシーみたいなやつできなかったか?」

「あぁ! ニ樹の家出事件の時な! 確か……一樹がニ樹に居場所を聞いて見つかったんだよな。」


 幼少期のことを思い出した2人は、希望に満ちた瞳で一樹を見つめた。


「待て待て! テレパシーってなんのことだ? それができるのならすでにやってるだろ。」


 広海はテレパシーのことは初耳だったようだ。

 こいつらは他にも隠し事がありそうだなと呆れていた。


「実はさ……あれ以来できへんねん。たぶん……子供ながらにニ樹を必死で探そうと思ってできたんやと思う。さっきもやってみたけど、どうやったんかわからん。」


 申し訳なさそうにする一樹の言葉を聞き、海星と蓮は怒りを露わにし責め立てる。


「今がその時だろ! 必死に思い出せ!」

「さっさとやれ!」

「わかった! もう一度やってみるから! お前ら落ち着け!」

 

 やり取りを聞いていた聖海夜はふと考え、思うところがあった。


"ねぇ、リュー"

"どうしたの?"

"俺達ってこうやって頭の中で会話できるだろ?これってさ護身獣とだけなの?"

"念話のことだね。僕達は繋がっている関係だからできるんだよ。昔はこれで一族のお互いの位置や情報を念話をして連絡を取り合っていたよ"

"じゃあ、行方不明の3人とも連絡取れるってこと?"

"そうか!できるかもしれない。もしかしたら、一樹のいうテレパシーは念話のことなのかな?"


 聖海夜は護身獣のリューから念話の事を詳しく聞くが、それには条件があった。

 行方不明の3人がこの条件に当てはまるかはわからない。しかし可能性があるのならやってみる価値はある。

 聖海夜はリューから聞いたことを皆に告げた。

 

「待って! 一樹さんのいうテレパシーは念話のことなのならできるかもしれない!」


 聖海夜の言葉で騒がしかった病室は静かになった。

 一樹は聖海夜の言葉に問いかける。


「念話?」

「護身獣と頭の中で話すやつだよ!」

「……護身獣と話す?」

「うん。え? 俺だけじゃないよね?」


 聖海夜は不安になりながらも辺りを見渡す。

 能力者である黒羽と橘にいたっては身に覚えがないようだが、一族には身に覚えがあった。

 病室にいる者で護身獣と会話ができるのは一族だけのようだ。


「その念話ってやつはどうやるんだ?」


 広海は聖海夜に質問をする。

 護身獣にだけできると思っていたが、そうではなかったのかと知ることとなる。


「俺も詳しいことはわからない。護身獣に聞いた方わかりやすいと思う。それに……さっきから海星の護身獣が話したがってるみたいだし。」


 皆は海星の護身獣であるウィンを見た。

 口は動いていて何かを話している。

 能力者ではない武田と藍丸は、見えないことに残念がっていた。


「俺もさっきから気にはなってはいたんだよな。海星の護身獣は口は動いてるのに聞こえないのはなんでだ?」


 蓮はずっと疑問に思っていた。


「俺の護身獣はお喋りが好きでさ。ずっと話してるわけ。周りの声と被るから俺は集中できない訳よ。だから……その繋がり?を切断してる感じ?」


 蓮は事情を聞き状況を把握した。

 護身獣は会話したいのに海星から切断されている。

 双方の事を思うと仕方のないことなのかもしれないが、海星の護身獣のことを思うと切ない気持ちになった蓮であった。


「ん……。状況はわかった。けど今は開放してやれよ。念話について話したいみたいだし?」


 蓮の言葉に海星は不安がありつつも、今は念話について詳しくは聞きたい。

 

「ウィン。念話こと()()説明してくれるか?」

 

 そう言って、ウィンとの繋がりを海星は開放した。

 久しぶりに開放されたウィンは、度重なる日々の鬱憤が溜まっていた。


"ようやく開放か! さっきから念話について話ししてんのに! 海星は自分の都合の良い時しか俺と繋がれへんやんか! 今後は能力も試験も助けへんからな!"

「えぇ! それは困るって! 1月は大事な試験があるし、能力も助言してくれないと!」

"知らん!"


 開放したことにより主と護身獣の言い争いが始まってしまった。海星の声は病室にいる者、護身獣の声は一族へと聞こえる。

 思わず、蓮はこれ以上話すなと抵抗するように海星の口を手で塞いだ。

 海星は何するんだと蓮に眼で訴えていたが、蓮は静かに耳元で理由を話した。

 それを聞いた海星は自分の過ちに気付く。念話ではなく発言していたことに。

 周りは海星の発言により、大体の憶測ができた。

 

「今の発言について聞きたいことが山ほどあるが、今は念話について教えてくれるか?」


 広海は静かにウィンにお願いをした。今は3人の行方を探す方が先だろう。


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