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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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テイクアウト


 都心から少し離れたところにビルが立ち並んでいる。飲食店や商業テナント、オフィスビルがあり、メインストリートは賑わっていた。

 メインストリートから少し離れ、裏通りに行くと静かだ。雑居ビルやマンションが多い。

 裏通りにある隠れ家のような雰囲気のカフェでは、2人の男が店内の窓から目の前にあるビルの様子を伺っていた。


「父さん……。やっぱ潜入せなあかんの? 少年2人は無事に脱出できたんやし……今日はやめとこうや。」


 クリームたっぷりのったココアをスプーンで叩きながら、か弱い声で前に座っている男に話かける。

 それを聞いたガタイの良い色黒の男は厳しい目つきになった。


「ええか。早かれ遅かれ、俺らとはそのうち相手になる奴等や。様子みて能力とか把握しとった方がええやろ。次はお前が狙われるかもしれんのやで。」

「……。その時は……隠れる。」

「………。」


 今は何を言っても無駄だと察知したのか、頭を抱えながら溜息を吐いた。

 その時、テーブルに置いていた携帯に着信が鳴る。

 男はかかってきた相手と会話をしながら、扉の方に視線を向ける。そして2人の男が店内に入ってきた。

 ここだ、と合図をするように手を挙げ通話を切り、

2人が座っている4人掛けのテーブルへと着席する。

 店員が水とメニューを持ってきたが、2人はメニューを見ずにホットコーヒーを注文した。


「思うてたより早かったな、青樹(せいじゅ)一樹(いっき)と一緒に飛んできたんか?」

「捜査会議が早よ終わってん。そしたらちょうど一樹から連絡がきてな。」

「一緒に来た方が電車賃浮くやろ。経費は抑えろっていう親父が煩いしな……。で、二樹(にき)は何でそんな浮かない顔しとるん?」

「いつものやつや。」


 テーブル席に西の一族である西宮司家が集う。

 大樹の能力は木や花、土など自然の物を操ることができる。先日あった広海と拓海の兄弟喧嘩では阻止しようとセメントのように固い土を覆うも、2人の能力が強大に合わさり、木っ端微塵にされた。

 青樹は大樹の双子の兄だ。近畿区域の警務部長である。顔は大樹とそっくりだが、それ以外は正反対だ。

 短髪の大樹より髪は長く、眼鏡をかけ、色白でスリムな体型だ。能力はビジョン。未来予測や様々なものを透視して見ることができる。建物の構造や能力者の能力も青樹から隠すことはできないだろう。22歳になる双子の娘がいるが能力はない。

 一樹は大樹の長男、大学4年生22歳。能力は瞬間移動。距離にすると地球を一周できるが、複数人と共にすると距離は縮まる。大学を卒業後は警視庁への入庁が決まっている。性格は明るく人懐っこい。

 二樹は大樹の次男、高校3年生17歳。能力は透明。自身や身に付けている衣服を透明にする。触れると物や人物も透明にできるが、心も読むことができる。

 幼少期の頃に他人の考えを読めることを知り、能力を使うことがトラウマになった。よほどのことがない限り読むことはしない。性格は大人しく、優しいが、面倒くさがりなところがある。

 

「来て早々やけど、お前の能力でここからあいつらの能力わかるか? やつらはネックレスをしてるらしい。」


 大樹は窓から見える雑居ビルを指しながら、青樹に頼んだ。

 雑居ビルは聖海夜も伶青がワープで連れてこられた場所であり、犯行グループのアジトだ。

 場所がすぐに判明したのには理由がある。

 拓海達と一緒にワープして来た黒猫。

 現場に着いた途端に逃走したが、実は黒羽が操作していた。そして猫の視界を奪い、周りを探索して場所を特定したのである。

 大樹は3人に、広海から聞いている犯行グループの詳細を話す。

 現場にいるのは6人ということと、把握している3人の能力を伝えた。

 残りの3名の能力は不明だ。そこに無能力者である後藤は含まれているが、能力を隠していることも考えられた。他の者の能力も判明すれば対策ができるだろう。


「ネックレスか……。そんな代物が世に出回ってるとはな。」

「それより防御反応の方がヤバいやろ。自分の能力が倍になって襲ってくんねんで。」

「けど、最後は拓海さんの一発やろ? 親父の腕力のも相当やんか。なんとかなるって。」


 昨夜に起こった事件の詳細は、CIPに所属している西宮司家にも伝わっていた。

 西では西宮司家が主体で能力者の犯罪を阻止している。昨日のように防御反応がある能力者と出会うこともあるだろう。

 東と同じように能力者の犯罪は多いが、東に比べると検挙率は劣っている。CIPが発足される前の体制のままだからだ。

 東はCIPが発足されてからは、CIPにだけ所属している者が多いことから、現場へ直ぐに向かうことができる。

 それに比べ、西や各地で能力者の犯罪が起こった場合、まずCIPに通報がいく。そして現場近くにいるCIPに兼任している警察官へと指示を出されるが、所属している部署の仕事もある。

 直ぐに駆けつけることは難しい。現場に着く前に犯人が逃走することも多いのだ。各地にCIPの拠点を置けるといいが、所属している人数も少ないこともあり配置できないでいた。

 

「広海さん……復帰できるんかな。」


 二樹が不安そうにポツリと呟く。

 広海の怪我は深刻だった。神経は幸い繋がっているものの、素早さが武器であった広海にとっては今まで通りに動けることは難しい。

 まぁ、実際のところ。頼人の能力?のおかげで完治しているのだが……今のところそれを知っているのは、本人と久世、拓海、蓮だけである。


「大丈夫や。あいつは昔から何でもやってのけた。何事もなかったかのように現れるんとちゃうか?」


 そう言って、大樹は広海を心配する二樹を励ました。


「ニ樹、考えみろ。あの広海やで。引退するわけないやろ。」

「いつも何かやらすもんなー。今も何か思いもよらない計画立ててそうな気がするわ。」

「ん……。そうやな。そんな気がしてきた。」


 二樹は皆の励ましの言葉に微笑んだ。


「じゃあ、仕切り直してこっちも計画立てるか。」

「せやな。俺は相手の能力を探ってみるわ。」


 そう言って青樹は目を瞑った。

 青樹の能力は集中力がいる。目を開けたままでも能力を使用することはできるが、より集中したい時には目を瞑るようにしている。

 能力を使用中は、蓮や黒羽と同じように眼に紋様が浮かびあがる。

 眼鏡はそれを隠すためだ。眼鏡を通して見る瞳には紋様は見えないようになっている。蓮の開発した眼鏡ということは言うまでもない。


 青樹は集中して目の前にある雑居ビルに焦点を合わせた。

 そして、何かに気づき眼を見開く。


「ヤバい! 今直ぐにここから逃げろ!」


 青樹は能力であるビジョンを見て、そう叫ぶのも束の間……一瞬の出来事だった。

 一樹は青樹の言葉を聞き、咄嗟に体が動く。

 今まで現場で培った見事な判断だっただろう。

 テレポートをしようと右手は横に座っているニ樹の肩に触れ、左手は前に座っている2人に手を掴むように差し出す。

 足元に突如現れた黒いものに、そこに居た4人と、席にあったテーブル、座っていた椅子も吸い込まれいく。

 しかし……黒いものが拒むように元に戻るものがあった。

 それは、テーブルと椅子……。

 ……そして一樹だ。

 さっきまで4人いた席には一樹しかいない。

 一樹は何が起こったのかわからず……放心状態だ。

 近くにいた客も青樹の言葉に驚き、注視していた。 目撃したものは何が起こったのかと理解しきれていない。

 

「えっと。あの……。え?」


 カフェの店員が声を放つ。

 

 放心状態だった一樹は店員の声でハッと我に返り、店員へと目を向ける。

 店員は西宮司家のテーブルに提供するはずであったものを持って、呆然と立ちすくんでいた。

 右手にはアフタヌーンティーの象徴である3段プレート。スコーンにプチガトー、サンドイッチがあった。 左手のトレーにはホットコーヒーが2つ。

 

 少し冷静になった一樹は店員にお願いをする。

 

「テイクアウトできますか?」


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