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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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4兄弟


 広海のVIPの病室の扉から入って来た女性は、黒のキャップにマスクをし、黒のベンチコートの様な物を羽織っていた。170㎝はあるだろう。女性にしては長身であり、コートを羽織ってはいるがスタイルの良さは隠しきれていなかった。顔から覗かせている茶色い大きな瞳は切ない眼をしていた。

 女性は蓮の姿を見つけた途端、小走りで駆け寄り蓮に抱きついた。

 蓮も女性の正体に気付き抱擁する。


(りん)姉……。」

「元気そうで良かった。聞いたよ……いろいろと大変だったんだね。そばにいてあげられなくてごめんね。」


 蓮は(りん)の言葉を聞き、涙腺が緩む。

 いつも平然と修羅場を潜り抜けてきた蓮だが、莉の存在は心から安らげる居場所だった。


 その場にいた者達は何事かと困難しながらも、美男美女の抱き合う姿がまるで感動の再会をしたドラマのワンシーンかのように見惚れていた。

 感動の再会もさておき、一緒に入って来た女性の医師がコホンと咳払いをする。

 ドラマの様なワンシーンに目を奪われ、男大所帯の病室に圧倒されながらも仕事に専念をする。


「東宮寺さん。退院手続きのサインをいただきたいのですが……。」


 しかし、当人の広海は大樹と電話中だった。

 すぐさま状況を把握し、あとで掛け直すと言って電話を切った。


「申し訳ない、先生。急に無理な退院を申し出てご迷惑をお掛けいたしました。」


 広海の猫被りな丁寧な言い方で謝罪をし、退院手続きにサインをする。

 そして弟が入院することになったことを説明し、自分が退院した後この部屋を使用できるようにお願いをした。

 医師が確認したところ、幸いVIPルームを使用する患者はいなかった為、快く承諾を得た。

 VIPルームは病院側にとっても多大な利益となる。よほどな理由がない限り断る理由はないだろう。

 担当の女性の医師は仕事を終えて、病室を去って行った。

 

 広海の足は頼人のおかげで完治している。

 聖海夜と海星が襲撃され、一族が狙われ始めている。ゆっくり入院している場合ではないと判断したのだろう。実際、現場の指揮で慌ただしい現状だ。


「ちょっと待って! 広海さんが退院して、拓海さんが入院ってどういうこと?」


 何も知らない莉は拓海が入院していることを聞き、大怪我なのかと不安になった。広海は不安がる莉を安心させるように説明をする。拓海の容体が安定し、何もなければすぐに退院できることを聞き安心したようだ。

 忘れないうちに……と言いながら、莉はコートのポケットから折り畳まれたメモを取り出して広海に渡した。

 広海はそれを受け取り、中に書かれている文字に目を通す。

 書かれていたことに驚きを隠せなかった。

 

「どうやってこの情報を手に入れた? 大丈夫なのか?」

「ふふっ。仲の良い記者さんから。これで貸し1つだよ。」


 蓮と海星はメモに書かれていることを知りたくて覗き込む。まだ2人だけの秘密だ、と言って見せてはくれなかった。悔しがる2人は不貞腐れた。


「ゲーマーの絆か? 仲良すぎだろ。」

「俺にもゲーム混ぜてよー。」


 広海と莉はいわゆるゲーム仲間だ。お互い時間が合えばオンラインでゲームをしては、チャットで悩みや愚痴を言い、ストレスを発散させていた。

 莉は仕事上、記者や政界などいろいろな分野の人と関わることが多い。そこから情報を聞いたり、情報交換をしている。


「それより、仕事は大丈夫なのか? ドラマの撮影中で忙しいって言ってただろ。一族も狙われているんだから莉も気をつけろよ。」

「撮影の合間に来たから10分くらいかな? 蓮と頼人君にも早く会いたかったし。」


 突如現れた莉を知らない者からすれば、ドラマ、撮影、というキーワードがどういう意味なのかわからなかった。

 そんな周りの空気感に気にもせず、莉はある者の存在に気づく。そして、側へと近づきマスクと帽子を取って握手を求めた。


「あなたが聖海夜君ね。初めまして。天宮司 莉です。よろしくね。」


 莉が帽子をマスクを取った素顔をみて、聖海夜は驚きのあまり頭がついていけていなかった。

 自分の目の前で握手をしようとしている人物をよく知っていたからだ。


「え? ちょっと待って! 莉? あのRINちゃん? 天宮司って……一族だったの?」


 莉は元女優の母の影響もあり、幼い頃からRINの名義でモデルをしていた。今はドラマにCMと忙しい女優へと成長し、知らない者はいないと言っても過言ではないくらい知名度がある。

 

「あれ? もしかして私のこと聞いてなかった?」


 莉は後ろを振り向き、蓮と海星、広海の方をみる。

 3人は顔を見合わせ、お互いに首を横に振った。どうやら聖海夜には莉のことを誰からも聞かされていないようだ。戸惑っている聖海夜に蓮が説明をする。


「うちは4兄弟なんだよ。弟の論はこの前会ったよな。そこにいる莉姉は俺の姉ちゃんで、お前の知ってるRINで間違いない。そしてもう1人上に姉がいる。」


 蓮の説明に聖海夜は理解した。莉は自分の知っている芸能人のRINで蓮の姉なのだと。

 そして差し伸べられた手に握手をしようとした瞬間、隣に座っていた男が奪い取る。


「RINさん、大ファンです。」


 目を輝かさせながら、藍丸が莉と握手をしていた。

 莉は戸惑いながらもそこはプロである。笑顔で感謝を述べた。


「ちなみにそいつは副総監の末息子の藍丸。容疑者で高額な指名手配中だ。気をつけろー。」


 広海が野次を飛ばす。


「いや! 誤解だ。信じないでくれ!」


 莉に懇願する藍丸の服の襟を武田は後ろから掴み、軽々しく持ち上げて引き剥がした。

 暴れる藍丸に手錠するぞ?と脅し藍丸は大人しくなる。

 そしてようやく聖海夜と挨拶を交わした。そして、ファン交流会のような場のような空気になる。

 聖海夜と伶青は一緒に写真を撮り、橘はサインをお願いをする。

 その騒がしい雰囲気を感じたのか、広海のベッドで寝ていた黒羽がムクリと起きだした。

 寝ぼけながらボーッと周りを見渡す。静かにベッドから降り脱いでいた靴を履いて、近くいた橘にサインをしている莉の姿を確認し近づいた。

 背後から静かにヌッと現れた長身の黒羽に橘と莉は驚きのあまり、ビクッとなった。


「結婚してください。」


 いきなりのプロポーズに、一同固まる……。


(あいつ、今なんて言った?)

(結婚してくれって聞こえたけど……。)

(初対面……だよな?)


 ベッドから少し離れたソファー席では黒羽が発した言葉について会議が行われていた。


「え? 先輩? いきなり起きて何言ってるんですか? 寝ぼけすぎですよ。」


 橘は先輩である黒羽の冗談だと笑い飛ばしていたが、黒羽の視線は莉を真っ直ぐ見つめ、本気なのだと周りの者達も気づき始める。

 莉は前髪をそっと掻き上げ、黒羽の隠れていた瞳を見つめた。


「寝ぼけてるの? それとも本気?」


 莉は黒羽に真意を問う。黒羽は小さく重い口調で呟いた。


「本気……。」


 2人は真剣な眼差しで見つめ合う。

 初めて会った者からいきなりのプロポーズだ。断られるだろうと誰もが思った。


「いいよー。」

(えぇーーーっ!!)


 莉の軽いプロポーズの返事、そして了承したことに驚きのあまり誰も声を発することが出来なかった。

 日頃から感情をあまり表に出さない黒羽は、微笑んでいるように見える。

 

「待った! 莉姉! そんなに簡単に決めていいのか?」

「こんな重要なこと簡単に決めるわけないでしょ。よーく考えての結果よ。それより、蓮にお願いがあるんだけど……。」


 はぐらかすように莉はお願いをする。

 能力者から自分の身を守れるようなものを作ることはできないかということだった。

 能力はないが、一族で有名人である莉が狙われる可能性だってある。護身術程度の武力はあるが心許ないだろう。


「対能力者か……。どういった能力なのかわからないから、そこをどう守るかだよな。」

「やっぱり難しいよね……。私にも能力が少しぐらいあれば良かったのに。」


 少しの能力?

 蓮は莉の言葉で思い出し、藍丸を見た。


「そうか! 藍丸のペンダントなら能力を入れることができるよな。」


 蓮は藍丸に予備のペンダントか構造図はないかと尋ねる。

 しかし、ペンダントは藍丸の持っている1つだけだった。博士の研究室は爆破によって破壊され、全てを失う。幸い、構造図のデータは藍丸のパソコンに保管されていたが、同じものを制作するにも重要な原材料が研究室に保管されてい為、今となっては難しいだろう。

 藍丸は自分のネックレスを莉に渡そうとしたが、指名手配をされ、身を守るべき藍丸からは受け取れないと拒んだ。

 

「構造図があるなら俺が作るよ。」


 藍丸は困惑する。

 博士との研究で作り出されたネックレスだが、この構造を知っているのは2人だけだ。指名手配されているのはこれが原因だという可能性が高いことを告げる。

 知るということは蓮にも危険を及ぼすだろう。

 蓮は広海を見つめた。

 

「俺の了承はいらない。好きにしろ。すでに指名手配されているんだ。危険なことには変わりないだろ。それにな……お前の探究心をやめさせられないことはよーく知ってる。」


 産まれた時から知る広海は、蓮が今まで行ってきた破天荒な行いを忘れるはずがない。

 そんな後押しもあってか、藍丸に構造図をみせて欲しいとお願いをする。

 藍丸は本当にいいのか?と再確認をしていた。


 そこに莉の携帯にマネージャーからの催促の電話が鳴り響く。


「ごめん。私そろそろ行かないと! 蓮、あとで連絡して!」

「え? わかった。」


 莉はそう言って小走りに病室を去り、マネージャーが待つ駐車場へと急いだ。

 駆け足で急ぎながらも病室での出来事を思い出す。

 

(まさかベッドに凛君が居たなんて……ビックリした。みんなは今日が初対面だと思ってるよね……広海さんは流石に気づいてるかな。)


 突如現れ、慌ただしく去って行った莉を見送り、病室は静寂になった雰囲気を広海が仕切り直す。

 

「さて、事件の続きを聞こうか……って、待て! 黒羽ー! 寝るのは説明した後にしろ。」


 黒羽は莉が帰ったのを見て、再び寝ようと布団を掛けようとしていた。

 上司の命令に、仕方ないと言わんばかりの仕草で重い体を起こしベッドへと座った。


(莉の彼氏がまさかこいつだったとはな……。)


 広海は莉から彼氏の特徴だけは聞いていた。

 同じ名前、公務員、寡黙でたまに何を考えているのかわからない人……黒羽の特徴に当てはまっていた。

 

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