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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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2人の秘密


 広海の病室のソファーには聖海夜と伶青が座って考え込んでいた。


「確かに……後藤って名前聞いたよな?」

「うん。真ん中に座ってた人だよね?」


 2人は話しながら記憶を辿っていた。

 工場跡地で救助を待っていた2人は、突如足元に出現した黒い円形の物に吸い寄せられるように落下していった。そして、見知らぬ部屋へと辿り着く。

 そこには6人がいた。

 2人はその場所で聞いた3人の名前を告げた。

 後藤、伽耶、安藤……そしてその場にいた6人の特徴を伝える。

 能力がわかっているのは家で襲撃された3人だけだ。

 玄関を爆破した大男と場所をワープのように移動ができる安藤、そして聖海夜の能力でも燃えない特殊な糸のようなものを出す伽耶だ。


「特徴を聞く限り、後藤で間違いなさそうだな。後藤は能力者ではないはずだが……相手の護身獣は見えたのか?」


 車椅子に座っている広海は聖海夜に問いかけた。

 

「見えなかった。昨日の事件で見たペンダントをつけているのを確認したから、そのせいかと思う」


 そして、聖海夜は広海に伶青に起こっている現状を話す。

 襲撃され、八方塞がりだった2人は護身獣と融合し、その場から脱することができた。

 しかし伶青には融合した影響からか、聖海夜の能力が使えるようになってしまう。護身獣の姿は見えないが声は聞こえている状況だ。

 護身獣の姿は、ある程度の能力が使いこなせるようになる必要がある。まだ使いこなせていない伶青には見えていないのだろう。

 広海も状況はわかったが、元に戻せる方法はわからなかった。今まで一般人と融合すること、そして能力を渡すということは聞いたことがなかったからだ。

 ソファーで不貞腐れていた男がその話が聞き、小さく呟く。


「能力者になってしまったってことだろ……。たぶん元に戻すことは難しいんじゃないか?」


 聖海夜はその小さな呟きを聞き逃さなかった。


「おじさん! その話し、本当か?」

「おじさ……、俺はまだ25歳だ! お兄さんだろ。」


 おじさんと呼ばれることに抵抗があった藍丸は、聖海夜の顔を見つめ物申す。

 聖海夜としてはどうでもいいことだが、15歳の少年からすれば成人している男性はおじさんに値するのだろう。それよりも早く質問の回答をしてくれと目で訴えていた。


「いや……俺も詳しいことは知らない。ただ能力の研究している過程でも、能力を別の人に渡すことはできなかったんだよ。それでペンダントに能力を込めることにしたんだ。」


 聖海夜はペンダントに能力を宿すことは初耳だった。それよりも藍丸が能力を人に渡そうとしていたことに疑問を持つ。


「俺がなぜ能力の研究をしていたかを知りたいだろ? そして一緒に指名手配されて、逃げる算段を考えないか?」


 藍丸はタブレットにある自身の指名手配書を見せて誘いかける。指名手配書にある金額を見せられた少年2人は、桁違いな数字に引いていた。

 しかし藍丸は同じ状況の仲間欲しさに話しかけようとする。

 遠慮すると言わんばかりに少年達は耳を手で塞ぎ、聞こえないようにしていた。


「やめろ、大人気ない。子供を巻き込むな。」


 藍丸の後ろに立っていた武田が呆れるように止めに入った。


「わかってるよ。冗談だって……。でも君たちの状態については俺よりも、一族のトップに能力のことを聞けばわかるんじゃないか? 代々続く能力者一家なんだろ?」


 藍丸は広海の顔を見て言った。この場では一家のトップは広海になると思ったのだろう。

 

「俺は東の分家だよ。当主は蓮の親父だ。一族のことで聞くことがあるからなー、その時に詳しく聞く。」


 広海は蓮を見つめがら言った。自分に言われていることを察した蓮は苦笑いをする。

 昨日の事件で蓮の護身獣の存在を知られてはいけないことを知った。

 事情を知っているのは今のところ蓮と当主である類だ。類は一族を召集して皆に説明をすると言ってはいたが……襲撃事件に広海と拓海が入院している。

 落ち着いてからになるだろう。


「いや! それじゃ遅いよ! 俺達いつまでも離れられないじゃん!」

「そうだよ! 少しでも離れたらひっつくんだって! どうにかしてください!」


 2人の困惑した訴えに皆は戸惑った。

 離れられないとはどういう意味なのだろうかと。

 

「なるほどね……。護身獣の関係で2人は一緒に過ごさなければならないのか。」


 藍丸が2人の言い分にいち早く理解する。

 護身獣と能力者は一定の距離しか離れることはできない。今は護身獣1体に聖海夜と伶青……能力者2人が繋がっている状態だ。

 つまり聖海夜と共にいる護身獣から伶青も一定の距離しか離れられないことになる。

 藍丸の説明に一同納得した。

 2人にとっては四六時中、共に過ごさなければならないという理不尽な状況だ。

 いくら親友で仲が良いとはいえ、プライベートを全て曝け出すことには抵抗はあるのだろう。


「お前達の深刻な状況はわかった。当主様に聞いてみるから待ってろ……。あっ!大樹に連絡するの忘れてた!」


 広海は携帯を操作し、発信履歴を見て思い出す。

 聖海夜達の救助をお願いし、2人がいる名古屋に向かっている西の一族である大樹達に連絡するのを忘れていたのだ。

 拓海が救急搬送され、気が動転していたのだろう。

 

「蓮! 類に電話して聞いてみてくれ。俺は大樹に連絡をする。」

「親父に携帯を破壊されて持ってない。」

「え? まだ持ってないのか? 論の能力で直せば良かっただろ?」


 広海の一言に、蓮は帰国した3日前からの出来事を思い出し苛立ちを言葉にする。

 

「広海さん……論がいた日、俺は目覚めた後すぐに薬の成分を分析し、そしてどこかの兄弟喧嘩に巻き込まれた挙句、大掛かりな修復作業を徹夜でさせられました。論は翌朝学校へ強制送還です。覚えてますか?」


 蓮はどこにそんな暇があったんだと、丁寧な言葉とは裏腹に怒りに満ちた眼差しで広海に訴えた。

 あ……。と思い出したかのように自分の余計な一言だったことを認識する。

 

「いや、そこはお互いに条件が……。」

「俺が出した条件は受け入れられているどころか、悪化してる!」


 海星は2人の喧嘩が勃発するのを防ぐように間に入って提案した。


「こうしよう! 俺の携帯で蓮は類さんに連絡、父さんは大樹さんに連絡する! それでいいだろ?」


 2人は海星の提案を渋々受け入れ、広海は大樹、蓮は類へと連絡をする。

 聖海夜は事情を知っているが、他の者達は理由がわからないまま不穏な空気が流れていた。

 

 

「親父? 俺。聖海夜と伶青のことで聞きたいことあるんだけどさ……。」


 蓮は類に2人の状況を説明した。

 類は2人が無事に戻ってきたことに安堵するが、どういう経緯で戻って来れたのかはまだ蓮も聞かされておらず説明はできなかった。


 "状況は?"

「まぁまぁだ。」

 

 一族の家庭の事情により、盗聴されていることもある。密談をする時には2人の合言葉があった。

 状況が"絶好調"の場合は2人しか聞いていない。"まぁまぁ"の場合は会話は2人しか聞いていないが周りに人がいる、"最悪"の場合は筒抜け状態だ。


 "2人の状況はわかったが……俺も詳しくはわからないな。それより、お嬢に聞いた方がわかるだろ?"


 蓮と類はお嬢の正体を知っている……。


 一族の守るべき石碑であるお嬢のことを。


 お嬢は石碑だ。一族の守るべき石碑の守護神と言った方がわかりやすいかもしれない。

 護身獣ではない彼女が理由(わけ)あって蓮の護身獣として世に放たれた。

 一族に能力を与えた石碑でもある彼女がこれまでの歴史を知らないわけがない。

 類よりもお嬢が詳しいことは蓮も理解している。

 お嬢のことを全て話せることができればいいが、蓮はお嬢から自分の存在は明かされると危険だと口止めされ、それを忠実に守り今まで過ごしてきた。

 

 しかし当主である父は全てを知っていることに昨日の事件で知ることとなる。

 昨日の事件によって隠していたお嬢の存在が、一族に知れ渡った。

 蓮は当主である父に、全てを話すべきなのかという判断を任せた方がいいと理解していた。


 そして蓮は聖海夜達の状況を聞いた時にすでにお嬢に聞いている。


「そうなんだけど……。元に戻さないとどうしようもないって。」


 蓮は周りが聞いている状況では詳しいことはまだ話せない。曖昧な言葉で類に伝える。

 類は蓮の置かれている状況を把握し、伝えたいことを判断する。


"それはお嬢か? それとも聖海夜の能力か?"

「両方だ。」


 つまり……お嬢が元の場所である石碑に戻り、聖海夜の能力を源である石碑に戻す必要があるということだ。

 未だに蓮の護身獣であり続けているお嬢にとっては困難な問題である。


 "わかった。広海が退院次第、皆にはお嬢のことを説明する。とりあえずは調べておくと説明しておいてくれ。"

「了解。広海さんはは大丈夫だけど、タクが入院した。」


 蓮は拓海が猫アレルギーで入院することになったことを説明する。


 "通りで拓海に連絡するも繋がらないはずだ。お前に伝えたいことがあったんだよ。ところで……携帯はまだ復旧しないのか? デスクの上に最新型の携帯置いていただろ? 論には伝えておいたはずだが……。"


 蓮は初耳だった。

 蓮が目覚めた時、論も精神的はそれどころではなかっただろう。自分が無力のせいで美波が亡くなったと気に病んでいた。

 蓮は家に帰ってから確認すると言い、伝えたいことってなんだ?と質問をする。


"(りん)がお前と頼人に会いに広海の病院へ向かった。そろそろ着く頃じゃないか? じゃあな。"


 類との電話は途切れた。

 その時、扉からノックする音が聞こえる。


 扉がガラッと開き、マスクと帽子をした女性と医者の女性が入ってきた。

 

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