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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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アレルギー

 

「猫アレルギー?」


 車椅子に乗っている広海と、後ろに立っている海星は少し驚いたような声で医師に聞き直した。

 救急室のベッドには拓海が点滴をしながら眠っている。顔は腫れ、皮膚は発疹で赤くなっていた。

 その横で聖海夜は椅子に腰掛け見守っている。

 

「ええ。ご存知なかったですか?」


 拓海がアレルギーを発症し病院へ向かった先が、偶然にも広海が入院している病院だった。

 聖海夜は広海に連絡をし、親族である3人で症状の説明を聞いているところだ。

 聖海夜と一緒にいた伶青とCIPの黒羽と橘は救急室の外の待合室で待機している。


「アレルギーのことは知っていたけど……ここまでひどいのは初めてだな。」


 広海の言葉に海星も頷く。


「そうですか。過度な疲れやストレスが原因かもしれませんが、息子さんから事情を聞けば密閉された空間で症状が悪化したと聞きましたので……環境も悪かったのかと思います。」


 疲れやストレス…….それを聞いて3人は思い当たる。

 美波が急に亡くなり、聖海夜に真実を伝えることにも思い悩んでいた。気を紛らわすように仕事をしているところを見ると、心身共に疲弊していたのだろう。


「ところで、密閉ってどういうことだ?」


 状況が良くわからない広海と海星は聖海夜の方を見つめる。

聖海夜達が敵襲され、名古屋に移動していることまでがわかって救助の要請をしていたところだ。

 それが時間も経たない内に当人から連絡があった。

 現場にいなかった2人にとっては理解不能だった。

 しかし、今はそれよりも拓海の容体を優先するべだ。何があったのかは後で詳しく聞くことにする。


「先生、説明の続きをお願いします。」


 医師は頷き、症状の説明を再開した。

 呼吸は安定し容体は改善されているが、しばらくは安静が必要な為入院をして様子をみることになった。

 入院手続きについては看護師から説明を聞き、広海が書面にて手続きを終えた。

 そして安定して眠っている拓海を見つめる。


「お前はいつも1人で抱え込むからなー。しばらくは入院して回復しろ。」

「父さんの次は拓海が入院か……。聖海夜は大丈夫なのか?」


 聖海夜の目には涙が浮かんでいた。

 驚いた2人は顔を合わせる。


「あ……ごめん。拓海までいなくなっちゃうのかと思って……ずっと不安だった。」


 聖海夜は涙を手で拭い、弱音を吐いた……。

 母が亡くなったばかりだ。父が急な呼吸困難で倒れれば不安にもなるだろう。

 聖海夜の気持ちを知った広海は口を開いた。


「なぁ、聖海夜。寝込んだことってあるか?」


 突然の問いに聖海夜は驚きつつも考え込む。

 どうやら身に覚えはなさそうだ。


「な? お前も俺らもうちの家系は頑丈でしぶとい。あまり心配するな。」

「入院中の父さんが話しても説得力ないって。」

「怪我は仕方ないだろー。初めての入院でのんびりしようと思ってたのに問題ばかり起こる。」


 溜息交じりに広海は聖海夜が無事で良かったと胸の内を言葉にした。

 看護師に何かあれば連絡をして欲しいと病室の番号も伝えその場を離れた。

 そして救急外来の待合室で待っている3人のそばへと歩み寄り、安定した拓海の症状を説明し入院することを伝える。

 待機していた3人はそれを聞き安心した様子だ。

 そして一行はこれまでの事情を聞く為に広海の病室へと移動するエレベーターへと向かった。

 

「ところで警視正。警部の息子さんって警視正に似すぎじゃないですか? もしかして隠し子なんじゃ……。」


 橘が待機していた3人の疑問を代表して質問した。待機しながら3人はそれについて話していたのだろう。

 呆れながらも家族なんだから似るのは当たり前だと答える。


「なぁ、入れ替わってもバレないと思うか?」

「え? 警部の息子さんとですか?」


 橘は広海の問いに考えながら、大丈夫じゃないですか?と答える。

 何やらまたよからぬことを考えているようだ……。

 聖海夜は昨日の入れ替わりを思い出し、不安がよぎった。




◇◇◇




 広海の病室では藍丸が憔悴していた。

 自分が指名手配されたことが未だに信じ難く、金額も500万ドルと高額だったからだ。

 この金額ならいつどこで誰に狙われるかもわからない。


「ほら、俺だって指名手配されてるし……気を落とさずにさ……。」

「……蓮君は能力者だろ。金額も全然違う。俺には武術も銃の扱いも皆無だ。すぐに捕まる。」


 蓮は慰めるつもりが大きく不安に変わってしまったようだ。


 聖海夜からの連絡で拓海が呼吸困難で運ばれたことを知り、広海と海星は飛び出して行った。

 指名手配されている2人は病室に残り、武田は未だ容疑者である藍丸を監視しなくてはならない。

 

「容疑が晴れたとしてもどこに身を隠すかだな。アメリカの家や実家には帰れないだろ。」


 武田の言葉にさらに藍丸は塞ぎ込んでしまう。

 そしてガラッと扉が開いた。広海達が帰ってきたのだろう。

 

「なんだ? 藍丸から重い空気が漂ってるな。指名手配のショックか?」


 車椅子に乗った広海がそう言った後から、病室にゾロゾロと人が入ってくる。

 そして4人いた部屋がさらに6人が増え10人となり大所帯となった。

 VIPの部屋は20畳ほどはあり広く感じるが、180cm以上の大の男達が数名いると手狭に見える。

 

 蓮は聖海夜の姿を見つけ話しかけた。


「聖海夜、無事だったんだな。タクは?」

「容体は落ち着いてる。しばらくは様子見で入院するみたい。」


 それを聞いて蓮と武田は安心する。

 博士のことも気がかりな蓮は早くアメリカへ行きたいが、SPである拓海の回復を待つしかないだろう。

 

「あの……ものすごく落ち込んでる人がいますけど。何があったんです?」


 藍丸の姿を見て心配そうに小声で広海に聞いた。

 

「藍丸か? 副総監の息子だ。指名手配中の後藤を追跡していたら、偶然そこの現場に居合わせたんだよ。そして容疑者になり、別件で500万ドルという指名手配されてることがわかって現実逃避中ってとこか?」


 副総監の息子ということにビックリする橘だが、さらに容疑者に指名手配もされていることにも驚く。

 そしてたった数時間の間に人生が一変した藍丸を同情の眼差しで見つめた。


「とりあえず、容疑を晴しに天宮司家へ向かうか。ここも人数増えてきたしな。」


 武田が席を立ち、藍丸に話しかけるが一向に動く気配はなかった。

 

「武田警部は後藤主任の事件の担当なんですか?」

「あぁ。何か知っているのか? 橘。」

「俺よりは現場にいた聖海夜君と伶青君の方が詳しいかも。」


 橘は聖海夜と伶青の顔を見つめた。

 2人は何のことだろうとお互いの顔を見つめる。


「もしかして……拉致された現場に後藤がいたのか?」

「俺は顔は知らないですけど、まだ意識のあった警部があれは後藤だって言ってましたよ。ね? 先輩?」


 そう言って橘は黒羽の姿を探す。

 ベッドから足がはみ出しそうな大きな男が布団を被って眠っていた。

 それを見た橘はベッドに歩み寄り、大男の体を揺さぶった。


「先輩! 能力の使いすぎたのは知ってますけど……ちゃんと武勇伝を説明してから寝てくださいよー!」


 橘の必死の抵抗にも黒羽は熟睡していた。

 黒羽の操る能力は体力をかなり消耗する。何度も立て続けに使用した黒羽は限界だったのだろう。

 黒羽のおかげで聖海夜達は脱出できたことは、橘が語ることになる。


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