2人の行き先
「警部。この辺りにはいなさそうですね。」
CIPに所属したばかりの橘巡査は廃墟と化した工場の入口へと駆け寄り、拓海へと報告した。
「この場所から離れた可能性が高いな。」
「もし昨日の犯人のグループに連れ去られたとしたら……ヤバくないですか?」
橘にも昨日の事件はすでに伝わっているのか。
昨日の犯人グループの仕業だとすれば防御反応がある可能性もあるが、聖海夜は昨日の現場にいた。
護身獣に確認をするはずだ。
それよりも友達の伶青という子の方が心配だな。
聖海夜の能力が使えるようになったとは聞いたが……使いこなせているとは言い難い。
拓海は橘に昨日の犯人グループの一味かもしれない男を確保していることを話した。
その男がもし知っていれば場所の特定ができる。
久世の息子かもしれないことはまだ伏せておいた方がいいだろう。
「そういえば黒羽はどうした? 一緒に捜索していたんじゃなかったのか?」
「あれ? さっきまで後ろに居たはず……。ちょっと探してきます。」
そう言って橘は黒羽を探しに行った。
拓海は海星に言われたことを思い出し、護身獣に聖海夜の居場所を聞くことにする。
「龍水、聖海夜の護身獣の居場所を探すことはできるのか?」
"うむ 一族の気ならば居場所はわかるが 特定はできぬ "
一族の能力者は14人いる。
この辺りで探すならば、西宮司家の4人と定年後に引退して海外に移住した2人は除外していいだろう。
残りは7人になる。広海と頼人は病院、蓮と海星はカフェに向かい、論は学校にいるはずだ。
あとは拓海を除き、類と聖海夜ということになる。
拓海は類に居場所を聞きだそうと、携帯電話に連絡をした。
「類兄、今どこにいる?」
「会社の近くのホテルで会食だ。何かあったのか?」
拓海は簡易に説明をした。
聖海夜が能力者に襲われ行方不明になり、友達と一緒にいること。そして居場所を特定するために護身獣の気を探っている。他にもいろいろとありすぎて説明したいが話すと長くなる為、詳しいことは広海から聞いてもらうようにお願いして電話を切った。
類の居場所の特定ができた。
拓海は携帯電話のマップを開き、それぞれがいる場所に印をつける。
印以外の気配が聖海夜の居場所になるはずだ。
龍水は眼を瞑り、集中して居場所を探り始めた。
"この近辺にはいないようだ "
「いない? 離れた場所にいるのか?」
"範囲を広げてみよう"
龍水は再び集中する。
さっきよりも時間が長い。
もしかして見つからないのか?そんな不安を抱きながら拓海は見守った。
しばらくして眼を開ける。
「どうだ? わかったか?」
"先程の地図を見せてくれぬか おそらくだが 西寄りにいる "
「西?」
拓海は地図を縮小し全体的な地図にする。
龍水はそれを見つめた。
"範囲を広げてみたが 4つの気配が集中してる地域はおそらく西宮司家だろう 残りの1つはこのあたりだ "
龍水が地図を見て、小さな龍の手で場所を指した。
拓海は指された場所を見て驚く。
そこは、名古屋だったーー
「ちょっと待て、どうやってここまで行った?」
聖海夜の護身獣から連絡を受け、現場に到着して30分も経っていない。
現場には先にCIPの橘と黒羽が拓海より5分ほど先に到着し捜索していた。
遅くても20分ほどでここから名古屋まで行ったことになる。
融合したとしても能力には限界がある。距離的にも行くことは難しいはずだ。
そして2人がそこに行く理由が見つからない。
犯人グループの能力者が、何らかの能力を使って連れて行ったと考えた方が辻褄が合う。
「警部ー。黒羽先輩が目撃者見つけましたよ!」
橘がそう言って拓海のそばに駆け寄る。その後ろには目を隠すように伸びた前髪の黒羽が、黒猫を抱いて歩いて来ていた。
「本当か? 目撃者は誰だ?」
「ほら、先輩。ちゃんと報告してくださいよ。」
「………。」
黒羽は何も語らず無表情だった。
拓海と橘は苦笑いをする。
黒羽は無口で少し風変わりだ。CIP内でも何を考えているのかわからない不思議ちゃんだと有名である。
「頼む。大事なことなんだ。話してくれないか?」
拓海は黒羽にお願いをする。
黒羽は抱いている黒猫の前足を挙手しているかのように挙げた。
「目撃者は僕にゃん。少年達はあの辺りに隠れていて、足元に黒いものが現れると吸い込まれるように落ちていったにゃん。能力者の仕業にゃん。」
黒羽の説明を聞き終え、微妙な空気感が漂った。
いや、どう対応していいのかわからなかった。
黒羽の能力は目を合わせることで相手の情報を知ることができ、そして操ることもできる。
現場近くにいた猫の記憶を辿り、猫になったつもりで代弁をしていたのだろう。
「先輩……。一言。言わせてもらってもいいですか?」
真剣な眼差しで橘は黒羽を見つめた。
「その猫……メスです。僕はおかしいです。」
「あ………本当だ。」
◇◇◇
有料駐車場に1台の車が停まった。
エンジンを切った途端に勢いよく扉が開き、出てきた2人は駆け出す。
「待ちなさい! 2人とも!」
2人の勢いに出遅れた1人が叫んでいた。
渡された鍵で車をロックし、2人を追いかけた。
駐車場から走って3分ほどのところにあるカフェに辿り着き、自動ドアを潜り抜け店内を見渡す。
出入り口から遠いテーブルに、周りの人より体格が良く、坊主頭、顔に傷のある男を見つけた。
そこに行くまでの途中、大食い大会が行われたかのように皿が積み上げられていた席があった。
それを見向きもせずに、真っ直ぐ目的の席へと進む。
男も2人に気づいたようだ。
そして座っている席に近寄り、探していた男とは別の男の胸ぐらを掴む。
「聖海夜はどこにいる!」
「場所を教えてくれ!」
胸ぐらを掴まれた男は驚きを隠せない。勢い迫った2人に戸惑い、言っている意味もわからなかった。
周りにいる客も騒ぎに気付き、ざわつき始める。
「え? 何? 場所?」
(日本語?)
「2人とも落ち着け。とりあえずその手を離すんだ。」
「早く場所を教えてくれないと危ないんだよ!」
気が動転していて落ち着く様子は見えない。
背後から誰かが近寄っていることさえ気づかなかった。
2人はいきなり手首を後ろに捻られる。痛みが走り呻いていた。
「いいか、少年達。これ以上騒ぐと他のお客さんにも迷惑がかかる。営業妨害で逮捕するぞ。」
「いいのか?海星? このままだと署まで連行して、広海さんが迎えに来ることになるんだぞ。」
広海の名を聞き、冷静になっていく2人。
その様子をみた長岡と城田は手を離した。
「ハァ……一足遅かったか……。」
息を切らしながら店内に入って来たのは久世だ。
ガラス越しに店内の様子が見えたのだろう。2人に追いつこうと必死に走ってきた様子が窺えた。
「久世さん?」
武田が近づいてくる久世の姿に気づき、何故ここにいるのか疑問に思う。長岡と城田も同様に驚いていた。
重要参考人である男は久世という名前を聞き、顔を隠すように俯く。
「迷惑をかけてすまない。2人を止めれなかった私の責任だ。とりあえず場所を変えた方が良さそうだな。詳しいことは後で話す。」
蓮と海星は久世に謝罪をする。
2人は久世から説教を受け、周りに謝罪をし、テーブルを綺麗に片付けてから車へ来るようにと指示された。
素直に従いテーブルを片付け始めようとするも、重要参考人の様子がおかしいことに気づく。
久世は顔を隠している重要参考人の肩に手を添えた。
「行くぞ。もう芝居は終わりだ。全て話せ。」
「………。はい。」
か細い声で返事をし、俯きながら席を立った。
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