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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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33/48

重要参考人


 拓海は武田と電話で会話をしている。

 武田は後藤が持っているであろう腕時計の発信機場所の追跡をしていた。その報告をしているのだろう。


「レン・ルーズヴェルト? 隣にいるぞ。」


 名前を言いながら隣に座っている蓮を見つめていた。

 

「なんで俺の名前が出てくるんだろ?」

「指名手配書関係とかじゃないか?」

「昨日もそれで名前が出てきたしな……。」


 3人は拓海の電話が終わるのを待っていた。



 久世にあった電話はCIPの事務官からだった。

 能力者らしきものが現れ、爆発音がした後に火災が発生した。近辺に能力者がいる可能性もある為、出動要請の確認だった。

 すでに自宅住民は避難していたが、火災が起こっている住居人である世帯主は数日前に亡くなっており、同居の息子は連絡先がわからず、安否確認は取れていなかった。

 息子の名前を聞き、久世は聖海夜のことだとわかる。

 

 そして広海は聖海夜に電話をしていた。


 聖海夜は親友の伶青と逃走中だ。

 自宅近辺の工場で潜伏している。今のところ能力者達には見つかってはいないようだが、下手に動くと見つかってしまう。

 聖海夜だけならまだしも、今回は一般人の伶青がいる。危険に晒すわけにはいかない。

 とりあえず今はそこで隠れて待っていろ、あとは現場の判断に任せると広海は電話で伝えた。


 また危険が迫り、逃走するために融合してしまうと次はどうなるかわからない。早めの救助が必要だ。

 

 久世はCIPに現場付近の工場に、能力者に狙われている少年達の救助を指示した。



「わかった。また連絡する。」


 拓海は電話を切った。

 武田と電話中だったが、周りの声は聞こえていた。 聖海夜が能力者に襲われたことを知り、内心は穏やかではなかったはずだ。


「状況は?」

「こっちは聖海夜がピンチだ。とりあえずCIPが救助へ向かってる。武田からはなんだって?」

「あぁ。それがな……。」




 遡ること1時間前。

 武田は部下2人と共に蓮の発信機を辿り、後藤の腕時計がある場所を目指していた。

 発信機が指す建物から少し離れた場所に車を止め、歩いて近くまで行った。建物から見えないように隠れて様子を伺う。

 2階建ての古びた建物だ。1階はシャッターが閉まっており、横の階段を登った2階の扉付近には、"BAR"と書かれた丸いネオンの看板が破損した形で掲げられていた。外観は営業はしていなさそうに見える。

 しかし、2階へと続く階段の近くに防犯カメラがあった。ランプが点いているところをみると作動しているようだ。人がいる可能性が高い。

 そこにCIPから2人の応援が来る。城田巡査と長岡巡査長だ。武田とはよく現場で会う為、顔馴染みになっている。


「武田警部。おつかれさまです。」


 2人は通常の任務は交番勤務だが、CIPに所属している。

 街中で能力者が現れることがよくある為、交番に能力者が配置されているのだ。


 潜入捜査の時は制服だと目立つ為、2人はジャケットを羽織っていた。


「来たところ悪いが、あの防犯カメラを停止できるか?」

「んじゃ、俺が。」


 掌からスライムのようなものを出し、数百メートル先の防犯カメラに向かって投げつけた。スライムはカメラの全体を覆い固まり停止したようだ。

 

「おー。相変わらず、コントロールが良いですね。」

「ピッチャーを舐めるなよ。」


 城田が長岡を褒めていた。どうやら長岡は元ピッチャーだったようだ。

 

 一行は現場へと近づいた。

 1階は窓ガラスが割れており、飲食店だった面影がそのまま残っていた。中に人影はない。おそらく2階にいるのだろう。

 2階の入口に長岡と武田の部下1名、2階裏口に武田と城田、1階に部下1名を残して待機する。

 長岡は水を操る。水を鉄のように硬化し、入口のドアの鍵を解除した。

 2階裏口のドアの前には、階段の踊り場にあった中身の入ったビールケースを武田が見つけ、2ケース置いた。ドアを簡単には開けられないようにするためだ。


 そして長岡達の侵入に気づいた犯人らしき者達は、裏口から出ようとするもビールケースが邪魔で開けることができない。そしてドアを爆破した。

 扉を蹴破り1人が出てきたが、城田が銃を向けて弾を撃つ。犯人は弾き飛ばされ、もう1人は武田がこめかみに銃を突きつけた。


 城田は風を銃の中で圧縮して弾丸を作り、圧縮熱で弾き飛ばす。圧縮する加減によって威力は変わる。

 銃がなくてもできるのだが、銃から出した方がカッコいいというただそれだけの理由だった。

 圧縮するのに少々時間がかかる為、いつも2丁持ち歩いている。


 2階のBARを隅々まで捜索するが、裏口から出て来た2人しかいなかった。

 発信機を指す後藤の腕時計らしきものは2階のテーブルの上に置かれていた。

 後藤がここにいた証拠だ。

 部屋に残されたパソコンを調べてもらう為に、鑑識を呼ぶ。

 

 城田に吹っ飛ばされた者は脳震盪を起こしていた為救急車で運ばれていった。加減を間違えたと城田は焦っていた。代理の久世から小言があることは免れないだろう。


 武田はもう1人の男を車に乗せ、話を聞くことにする。あくまでも重要参考人のため任意だ。

 断ることもできるが、そうすると嫌疑がかかる。素直に従った方が身の為だろう。


「奴は能力者か?」


 能力者である長岡と城田に武田は聞いた。


「護身獣は見えないですけど……朝一に報告があって、特殊なネックレスをしてるやつは見えないって聞いてます。あいつ……ネックレスしてますしね。もしかすると……能力者かも。」

「一応、話が終わるまでは俺達は待機しておきます。」


 武田は車へと向かい、後部座席に座っている男に質問をした。

 

「何故、あの場所にいたんだ?」


 男は黙っていた。

 まだ、20代前半くらいだろうか?

 すらっとしたモデル体型に、切長の目には黒縁眼鏡、耳の下まである茶色い長めの髪はくせ毛のようだ。

 

「レン・ルーズヴェルトに会わせてくれたら、そいつに全てを話す。」


 男は武田に英語で用件を話した。武田も英語で返答する。


「レン・ルーズヴェルト? 誰だ?」

「…………。」


 そこから男は黙ったままだ。

 

「わかった。探してみよう。とりあえず、警察署まで……」

「ダメだ! 警察には行かない!」

 

 男は真剣な眼差しで武田に訴えた。

 

 



「……というわけで、蓮に話したいそうだ。大人しくカフェで待ってるから連れて来て欲しいらしい。」

「一体誰なんだろ? 学校の知り合いかな? 写真とかないの?」

「武田にお願いしてみよう。」


 拓海は携帯電話を取り出し、武田に連絡をした。


「蓮に全てを話すって言ってるんだし会ってみろよ。後藤の情報も得られるかも知れないだろ。」

「そうだな……。タクも連れて?」

「蓮君のSPは拓海だからな……。指名手配もされているし1人じゃ危険だ。」

「んー。聖海夜の方はどうするかだな。俺は動けないし……。」


 拓海は聖海夜の方に救助に行きたいところだろうが、蓮が重要参考人の話しを聞きに行かなければならなくなった。

 能力者は3人。何の能力を使うのかはまだわかっていない。CIPが救助へと向かっている。無事に救助されるのを待つしかないだろう。


 扉をノックする音が聞こえた。

 全員、扉の方に目を向ける。


 入って来たのは海星だった。

 能力者に襲われたと聞いていたが、撒いてきたのだろうか。


「追手はどうした?」

「撒いた。家に帰るよりはこっちの方が安全かと思って来たんだけど……何でVIPなの?」

「うるさくて周りに迷惑がかかるから、凪紗さんが手配したらしい。」

「あぁ……。」

 

 蓮の言葉に久世と海星は納得していた。


「だから、なんで納得するんだよ!」

「兄貴、うるさい。頼人が起きるだろ。」

「拓海まで……。」

「蓮、武田から写真がきた。」


 拓海は携帯電話に届いた武田からのメッセージを開き、みんなに見せる。

 そこにはカフェにいる男の写真があった。遠くから拡大して撮ったのか少しボケている。

 久世はその写真を見てハッとした顔になり、拓海から携帯電話を奪った。

 そして写真を凝視する。

 久世の思わぬ行動に驚き、皆、呆然としている。


「どうした? 知り合いか?」


 広海は只事ではないような気がして、そっと話しかけた。

 久世は重い溜息を吐きながら、顔を下に向け愕然としている。

 そして、そっと拓海に携帯を返した。

 

「久世さん?」

「……………だ。」

「え?」

「俺の息子だ。」


 久世の言葉に、一同固まった。


「えーーーっ!!」

「見間違いじゃないのか? よく見ろ!」

「人違いかも知れないよ?」


 久世は頭を抱えながら、重い口を開く。


「俺も何度も見たんだが……目の下のホクロの位置、手の甲の火傷の跡、俺があげた腕時計をしている。」


 そして、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出し、息子の写真を見せた。

 武田の送ってきた写真とは違い、髪型と雰囲気は真面目な好青年に見えるが顔は似ていた。

 そして、息子と一致する3つの特徴が当てはまる。

 同一人物の可能性は高いだろう。


「でも、息子って3人いただろ? 久世警部は知ってるから除外して、残りの2人か?」


 久世の息子は警察庁へ入庁し、本部に所属している。広海と拓海も面識はあった。


「次男は会社員だ。末っ子だよ。アメリカの大学に留学して、それから博士の助手をしていたはずだ。」


 アメリカの大学、博士……蓮はまさかとは思ったが聞いてみることにする。


「もしかして……シュナイダー博士とか?」

「!! 知っているのか?」


 久世は博士の名前を蓮が知っていることに驚いた。

 蓮と話したいと言った理由は、アメリカで起こった出来事と何か関係があるかもしれない。そして、博士の行方も……。

 

「俺は大学院で博士と一緒に研究してた。博士に聞きたいことがあって今は行方を探しているんだ。」

「……….。わかった。蓮君と同行しよう。俺も息子の話が聞きたいしな。そうすれば拓海は聖海夜君の救助へ向かえるだろ。」

「待ってください、久世さん。蓮は指名手配中だ。海星も聖海夜も数人の能力者に狙われた。2人で行くのは危険すぎる。」


 拓海が心配するのは当然だ。久世は能力者ではないし、蓮も能力者と言っても一族の能力しか使えない。道中に能力者に出会したら危ういだろう。


「俺が一緒に同行するよ。父さんは身動きできないだろ? 撒くのに能力使ったからあんまり残ってないけど、最悪の場合蓮が俺の能力……。」


 海星は言いかけた時に久世がいることに気づき言葉を止めた。


「海星……。久世には全てバレてる。蓮の能力も潜入捜査に入れ替わりの件もな。」

「え? そうなの? あれだけ苦労したのに? だから言っただろ。バレるって……。」

「うるさい!」


 こうして、蓮と久世と海星はカフェで待つ久世の末っ子に会いに行き、拓海は聖海夜の救助へと向かう。

 広海は怪我を治してくれた頼人の子守りを、喜んで引き受けた。


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