救急車
「同じ病院に行くのかな?」
蓮はベッドに寝そべりながら、横に座っている類に広海達と同じ病院へ向かっているのかと聞いていた。
応急処置をしてもらい、特に重症ではなかった為、救急隊員は運転席に乗っており車内は2人きりだった。
「たぶんな……。」
類は足を組み、頬杖を立てて蓮をジッと見つめていた。その視線は手に冷や汗が握るほど蓮には伝わっている。
「…………。」
「…………。」
蓮は視線に耐えきれなかった。
「なんだよ! 言いたいことがあるなら言えばいいだろ!」
「言いたいことがあるのはお前の方だろ? ホテルを出る辺りからずっとソワソワしてるじゃないか。」
「あれ? 怒ってないの?」
蓮はホテルでのエレベーターの件で怒られると覚悟していた。しかし拓海から伝達不足だったと謝罪があり、そのことについては特にお咎めはなかった。
類が何も言わないことが逆に嵐の前の静けさのようで不安だったようだ。
「それで、何を隠してるんだ?」
「人聞きが悪いな。別に隠してなんかないよ。」
広海の足のことを話す。蓮は医者ではない為、詳しいことまではわからないが、神経が損傷して感覚が失っているように見え、本人にもそれは自覚があった。
再生医療ができればいいが、もし悪化して壊死が始まっていたら切断することにもなり得る。
「そうだったのか……。危険だと知らされた時、まさかとは思っていたんだ……。」
類は辛そうな顔をする。今のところ命に別状がないのが幸いではあるが、広海の気持ちは計り知れない。
自分の足のことだ。本人が1番理解していたはず。
それでも、今回の事件は最後まで見届けたかったのだろう。
そして、一族でも司令塔でもある広海が離脱となれば、今後の対応は変わってくる。不安は深まるばかりだ。
「あとは医師の判断がどういう結果になるかだけど、不安で仕方がない。」
「一難去ってまた一難か……。蓮が帰って来てからどうしてこう次々と問題が起こる。」
類は深い溜息を吐いた。蓮は苦笑いをする。
「ついでに言うと……実は他にも問題があって……。」
「次はなんだ? これ以上増えても大して変わらん。全て話せ。」
類は溜息混じりにぶっきらぼうに言う。対処すべき問題が多すぎて怒る気力はもう無かった。
留学先での爆破事件、大学院退学、指名手配、メアリの行方、蓮のことだけでこれだけある。一族の問題も入れると更に増えるだろう。
「能力者達が持っていたネックレスあるだろ? どこかで見た事あるなと思っていたら、頼人が付けているものと同じような気がするんだよ。」
「あれは、蓮が頼人に贈ったものではないのか?」
「俺じゃない。留学先の部屋から逃げた時にはすでに付けていた。メアリか博士か第三者なのか……。誰なのかはわからない。」
「博士? シュナイダー博士のことか? どう関係がある?」
留学先の部屋から逃げた時、頼人にはネックレスの他にシュナイダー博士のスカーフで包まれていたことを蓮は話した。博士はいつも首元に独特な柄のスカーフを巻いていたため、蓮は覚えていた。
博士は関与している可能性がある為、後藤に言って行方を探してもらってはいるが報告はない。
「俺にはその報告は上がってきてないぞ。」
「その……ゴウさんのことなんだけどさ。ホテルで会った能力者達との仲間だ。そしてPubLisを探している。」
「!! え? いや、ちょっと待て! 今、サラッとすごく重大なこと話したよな? 盗聴されてたらどうするんだ?」
「ちゃんと妨害してるよ。」
類は蓮の爆弾発言に動揺していた。蓮はポケットから盗聴妨害する特殊な電磁波を出す機械を出した。もちろん蓮の発明品である。救急車内のエリアはこの電磁波によって盗聴器があったとしても聞こえることはない。
「何故、わかった?」
「偶然だよ。俺が車のトランクまで荷物取りに行ったときに聞いた。」
蓮が地下駐車場に荷物を取りに行った時、後藤は電話をしていた。
微かにPubLisという単語を耳にした蓮は車の後ろに行き、無線のチャンネルを変更する。
後藤との連絡を取るために無線機を会場に持参しようとした蓮だったが、厳重体制のため持ち込みはできない事を知らされる。無線機は車の後部座席へと置いて車から出て、会場へと向かったのだ。
蓮はその無線機のチャンネルを合わせ、車内の声を聞く。後藤の電話の会話だ。
仲間がPubLisを奪おうとどこかに潜入するも、そこにはなかった。ホテルの電気が復旧した為、そこも危険だから撤収しろと言い、総理の家族は解放しろと指示をした。そして、我々もホテルから撤収すると。
そして蓮に気付き、トランクの荷物を渡し、車内へとへ戻って再び誰かに連絡をした。
会場には誰もいない。4階で合流して撤収しろと。
会話の相手はおそらく氷の能力者だろう。
能力者達は無線を付けていなかった。連絡手段は携帯電話を使っていた可能性が高い。
しかし、能力者達は撤収するどころか要求をする。 自分達の方が強いと過信していたのだろう。
それが誤算となり、今回捕まったわけだが。
「ホテルの襲撃は総理の家族を人質にして、潜入する為に開催したということか。拓海もそう考えていたな。」
「たまたまかわからないけど……俺達一族はここに集結していた。会場に閉じ込めて、潜入先には行かせないようにするのが目的だったのかも。氷の能力者は俺達を閉じ込めるのが任務だったみたいだし。」
「後藤は俺達の監視か……。」
「たぶんね。無線機付けてたし、無線の会話は筒抜けだ。ほぼ全員が会場に揃った途端に、氷の刃が飛んできただろ? 暗闇の中、どうやって俺達がいるのを把握していたのか不思議だったんだ。」
類は事の深刻さに頭を抱える。後藤に何の疑いもなく、情報を渡していたのだ。
「こういう大事な事はもっと早く言えよ!」
類は次々と問題が起こりすぎてイラついていた。
それを聞いた蓮は父に物申す。
「俺だって早く親父に相談したかったんだよ! こんな話聞いて平常心でいられるわけないだろ! 俺は携帯を壊されて持っていない。無線で伝えるのは危険。そして急いでエレベーターに乗ったら能力者がいた。あの状況で伝える暇なんかない!」
蓮は1人で抱え込んでいた鬱憤を吐き出していた。ただなんとなく気になって聞いた話の内容が、重大なこととは思ってもいなかった。そして、後藤が事件に関わっていることは蓮にとっても信じがたいことだった。
「そうだな。すまん……。それにしても、何で後藤が。目的はなんだ?」
「俺もまだ信じられない。今後、どうすればいいんだ? ゴウさんは車で病院へ向かっているんだろ?」
「あぁ。こっちに向かっているはずだ。とりあえず警察に相談しよう。俺達だけで対応できる問題じゃない。」
「わかった。それとさ……」
「まだ、何かあるのか? これ以上俺を混乱させるのはやめてくれ。」
「全て話せって言ったのは親父だろ!」
2人が口論している間に病院へと到着し、救急隊員が扉を開けた。
2人は口論を止め、救急車から降りる。
広海と拓海は緊急だった為、先に到着しているはずだ。
救急外来の入り口から中へ入ろうとした時、見た事のある黒のセンチュリーが2人の乗ってきた救急車の後ろに止まる。
ホテルから病院に向かっていた後藤が到着したのだろう。
2人は平常心を保ってはいるが、内心どうするべきか悩んでいた。このまま捕まえて警察に任せるか、先に相談してから対処するか。
そして、運転席の扉が開く。
「蓮さん、大丈夫ですか?」
「え? あれ?」
蓮と類は驚く。後藤が降りてくると構えていたが、後藤ではなく、斉藤だった。
「サイさん? ゴウさんは? それより怪我は大丈夫なの?」
「ええ。怪我は少し痛む程度なので大丈夫です。後藤主任から呼び出しがあって運転手を任されました。聞いてませんか?」
「それで後藤はどこに?」
「別の任務に向かうとしか聞いていません。」
類と蓮は顔を見合わせた。別の任務に行ったことを信じたいが、逃亡という言葉が2人の頭をよぎる。
もし、そうなら一刻も早い対応が必要だろう。
「とりあえず、拓海に相談しよう。」
類は救急外来の入り口に進もうとしたが、蓮が腕を掴みそれを阻止した。
「親父。先に母さんに連絡して頼人の様子聞いてみてよ……。念の為だ。」
類は蓮が最悪のケースを考えているのがわかった。
仲間である能力者達が捕まり、ホテル襲撃の計画、仲間のことなど尋問されるはずだ。そこに後藤の名が出てくる可能性がある。
そうなると警察は後藤を探すだろう。
逃亡の交渉に人質を取ることも考えられる。
後藤がもし天宮司家へ向かったとすれば、何も怪しまれる事なく入ることができる。
蓮が考える最悪のケースとは、母と頼人が人質になることだ。
頼人は能力者達がしていたネックレスと同じ可能性がある。あれは護身獣を隠し、能力が膨大するとさっき知り得たばかりだ。能力者なら欲しいと思うだろう。
後藤は頼人がネックレスをしていることは知っている。奪いにくることも考えられた。
決してあり得るとこではないと信じてはいるが、不安は払拭しておきたい。そう蓮は思った。
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