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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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一撃


 竜巻が解除され、エレベーターホールと客室へと繋がる通路は視界が見えるようになった。

エレベーターホールの中央には炎の能力者と氷の能力者が現れる。そして中央には人質のように黒いバッグを抱きしめる蓮がいた。蓮がいては銃撃することはできない。相手もそれがわかっていた。


 蓮の視界の先には、銃を構える警察官達、その後ろには……目が怖い広海、呆れてる海星、心配している聖海夜、いつも通りのクールな久世が見えた。拓海と類の姿は見当たらない。

 蓮は類がいないことにホッとし、苦笑いしながら手でごめんのポーズをした。


 広海は2人の能力者の姿を見る。今までは停電で暗闇であった為、姿を見るのは初めてだ。だが1人……よく知っている人物がいた。広海は鼻の頭を掻くそぶりをしながら無線で知らせる。


「拓海。お前を瀕死にさせた奴がいる。」


 その知らせは無線をつけている蓮や広海の周りにいた人達にも聞こえる。

 十数年前、拓海を瀕死にされたその時の相手が炎の能力者だった。相手も同様に大きな傷を負ったが逃げられてしまい、行方がわからなかった。拓海にとっては因縁とも言える相手だ。現場にいた広海や類にとってもそうに違いないだろう。


「あいつがそうか。」


 久世は当時まだCIPの部長ではなかった。相手の情報は知っていたが、顔まではわからなかった。

 

「それでここには何のようなのかな? そちらにいる関係のない一般人を解放してくれないだろうか?」


 久世は能力者達に交渉をする。


「それはできないな。こいつには1億円の価値がある。そっちが用意してくれるのか?」


(類がここにいたら出すとか普通に言い出しそうだ)


  広海はそう思いながらも、黙って交渉を久世に任せる。


「なるほど。金が用意できないとなるとどうするつもりだ?」

「別に。停電を直した奴を見つけるだけだ。」

「何故だい? ただ復旧しただけだと思うが。」

「違うな。俺の能力を解除したんだ。そっちにいる能力者がしたんだろ? そいつを出せばここから去る。」

「保証は?」

「ねえよ。そんなもん。」


 久世は広海の方をみた。交渉は広海の方が得意だろう、お前が交渉しろと言わんばかりの視線だ。


「停電を直した奴なら、そこにいるだろ?」


 広海は蓮を指した。蓮は驚いた顔になる。確かに嘘は言っていない。皆、広海の意図がわからず困惑する。

 能力者達は蓮を見る。そして笑い飛ばした。


「こいつが? そんなわけないだろ。こいつに能力はない。」

「能力がないと、なぜわかるんだ?」

「お前も能力者ならわかるだろ? こいつのそばには護身獣がいない。」

「へぇ……。俺にはお前達にもいないように見えるけどな。」


 誘導尋問だ。能力者達の護身獣が何故見えないのかわからない。それがわかればお嬢は呪いを解除できる。


 蓮にも広海の意図がわかった。能力者達の視線に気づきながらも知らないフリをする。

 広海の一言で能力者達は何かに気づいた表情になる。そして蓮を見つめ何かを探し始めようとした。

 蓮は黒のバッグを大事そうに抱えている。氷の能力者はそれをどけようとするが、蓮は必死に抵抗する。 しかし、氷の能力者の方が力は強かった。バッグは警察官達の方へと投げ捨てられる。

 すかさず中身を知っている海星がバッグを取りに走りだした。

 能力者達は蓮の襟を掴み引きちぎり、勢いよく蝶ネクタイとボタンが外れ蓮の鎖骨が露わになる。

 2人の視線は首元を見ていた。

 その行為を広海は見逃さない。憶測し無線で伝えた。


「おそらくネックレスだ。兄弟は同じものを付けている。」


 "ネックレス"


 その場にいる全員に情報が行き渡る。能力者からネックレスを奪うのがこの時点で課題となった。


 蓮は襟元にある氷の能力者の手を振り払った。


 「何をするんだ! 弁償しろ!」


 英語で言いながら少し距離を置く。

 背広の内ポケットに手を入れ、何かを取り出す。

 サングラスだ。

 そしてそれを掛け、天井に顔を向ける。

 不審な行動に能力者達は上に何かあるのかと視線を上に向けた。

 蓮はその一瞬の隙をついてペンの上のスイッチを押し、天井へと投げる。

 能力者以外は蓮が何をしようとしているのか知っていた。目を閉じて下を向く。


 周りが目が眩むほど明るくなった。

 蓮の特製閃光弾だ。通常の数倍の効果がある。光を見た者はしばらくは動けないだろう。


「なんだ! これは!」

「くそっ! 目が見えない!」


 目が眩み、能力者達は両手で目を抑えている。

 蓮は閃光弾専用のサングラスをしていた為、視界は守られ動くことができる。その隙に蓮は近くにいた氷の能力者のゴールドのネックレスを引きちぎった。

蓮でも引きちぎるということは、能力で解除しなければならないという縛りはないようだ。


 ネックレスを外し、氷の能力者の護身獣が現れた。

 蓮は見たこともない姿に背筋が凍る。


 (なんだ……これ……。)


 現れた護身獣は黒く不気味な姿で邪悪な気を感じ、何の形をしているのかもわからなかったのだ。


『人を殺めた分だけ念が込められ変化します。これを解除するには時間が必要ですね。』


 お嬢が言った言葉が本当なら、たくさんの人の命を奪ったということだろう。


 お嬢は護身獣の解除を始める。


 ネックレスをポケットに入れ、炎の能力者のネックレスも奪おうと試みるが勘づかれる。

 身体は炎化し、蓮の気配がする方へ炎の刃が蓮を襲う。それを避けようとしたが、腕をかすり血が流れていた。


「くそっ! お前もあいつらの仲間だったのか! 俺のネックレスを返せ!」


 氷の能力者は蓮に向かって叫ぶ。


「俺は持ってない! 通路にいるやつが持っていった。」


 奪ったネックレスを近くにいた海星に投げ渡した。

蓮は氷の能力者を向こう側へと仕向ける。

 

 氷の能力者も全身を氷化し始める。パキパキと氷の音が鳴っていた。

 海星は蓮が持っていたバッグを開けた。そこには蓮の開発した武器がいろいろあった。そこからバズーカみたいなものを見つけ手に取る。

 

「くらえ!」


 引き金を引くと、ものすごい勢いと範囲で炎が放射する。氷の能力者は火炎放射器の炎に包まれた。

 しかし、傷一つとして付いていない。全く効果がなかった。


「マジか! 効かない。何か他に使えるものないか?」


 警察官達は氷の能力者に銃弾を放つ。しかし強靭な氷に弾かれ跳弾し始める。

 全員防弾盾で身を守りながら収まるのを待つ。


「そんなもので俺の体は貫通しない。覚悟しろよ! お前らは皆殺しだ!」


「全員、後方へ退避。」


 久世が命令し防護盾を使って後退する。


「ウィン、あいつからは防御反応あるか?」


 "たぶんあるな 能力で攻撃すれば倍になって返ってくる"


 銃も能力も使えない。このままでは万事休すだ。お嬢の解除が終わるまで耐え続けなければならない。

 海星と警察官達は蓮のバッグから何か使えるものがないか物色していたが、どう使えばいいのなさっぱりわからなかった。


 蓮と炎の能力者はエレベーターホールだ。蓮は攻撃を回避していた。


「蓮君は一般人だよな? なぜあれをかわせる。」

 

 久世は蓮の動きに呆気をとられていた。


「あいつは頭だけは良い、ただの18歳だ。拓海との()()()()で鍛えられたんだろ。」

 

「蓮。そこから退避できるか?」

"無理だ"

「拓海、急げ!」


 蓮が回避できるのも時間の問題か。あいつ、体力がないからな……。相手の目もそろそろ慣れてくる頃だ。あっちに加勢に行きたいが、こいつを何とかしないと。


 そう考えていた広海だが何やら周りが騒がしい。


 氷の能力者の周りには、白い煙が上がり、剛鉄の網が放出され、槍が飛んでいく。


「ただの煙幕か。」

「これは何でしょうね?」

「ボタン押してみるか。」


 防弾盾を横並びに置いて盾にし、その後ろでは蓮の発明品の体験会が行われていた。

 広海と久世以外は皆この状況下楽しんでいる。能力者も何が出てくるのかわからず警戒していた。時間稼ぎにはなっているようだ。

 

 

 

 一方、蓮は炎の刃の攻撃をかわしつつ逃げる算段を考えていた。蓮は常にペンタイプの閃光弾と麻酔弾を持ち歩いている。残りは麻酔弾だ。それを打つタイミングを見計う。

 炎の能力者も目が慣れてくる頃だ。正確に攻撃をするようになってきた。

 

(誰もこっちに加勢こないのかよ! 俺1人じゃキツい!)


蓮は腕に怪我をし、血が流れ続けていた。これだけ激しく動けば徐々にふらついてくるだろう。

 そして、炎の能力者は蓮の足元に集中して狙ってくる。

 蓮の足元はおぼつかずバランスを崩し倒れた。そこをすかさず蓮に向かって攻撃する。

 上体を起こし逃げようとするが、腕に力を入れた時に傷が痛み、思うように動くことができず倒れ込んでしまった。

 

( ダメだ! 間に合わない!)


 蓮は眼を瞑る。

 そしてドカーンッ!と激しい音が鳴り響いた。

 

「遅くなった、すまん…。」

「遅いよ……親父。」


 蓮は父親の顔見て、泣きそうな表情になった。

 類が蓮を浮力化し、空中へと浮かせたのだ。能力者に攻撃しなければ防御反応はない。


「蓮、大丈夫か?」


 拓海は蓮に声を掛ける。

 空中から戻り地へと足をつけた蓮は立つことができず、類に支えられる。

 2人の顔を見て安心し脱力したのだろう。

 蓮にとっては拓海以外の能力者と戦うのは初めての経験だ。そして命がけで1人で戦っていた。無理もない。


「すぐに駆けつけたかったんだが……ここに着いた途端、閃光弾で眼がやられてな。そこで回復してたんだ。」

「だからって何かできるだろ? 俺、死ぬかと思ったんだぞ!」

「悪かった……。」

「あいつは!?」


 蓮は炎の能力者の姿を探す。

 能力者はエレベーターホールの反対の壁に倒れていた。動く気配がない。


「拓海……。何発殴った?」

「覚えてない。無我夢中だった。」

「俺は麻酔弾を打った。」


 ちなみに拓海の武技は威力がある。大きな石でも軽く粉砕されるだろう。

 蓮が襲われている光景を見て、自分の二の舞にはさせまいと必死だった。いつも以上の威力があってもおかしくはなかった。

 エレベーターホールから反対の壁へと数メートル以上飛ばされ、ものすごい衝撃音がした。

 壁にヒビが入っていることから凄まじい威力だったことが物語っている。


3人は顔を合わせ、恐る恐る能力者への元へと近づく。

 能力者の顔は血まみれで気を失っているように見える。拓海の渾身の攻撃が効いたのか、蓮の放った麻酔弾が効いているのかはわからなかった。

 拓海はネックレスを引きちぎった。そして護身獣が現れる。不気味な容姿をし、邪悪な気を感じられた。


"こちらの方の解除を行います"


 そう言ってお嬢は猫の姿になり、能力を放出する。


「あっちは解除されたんだな。加勢に行かないと。」


 お嬢は蓮の護身獣から解き放たれ、氷の能力者の解除をしていた。ここに戻ったということは無事に終わったということだ。

 3人は通路の方へ急ぎ駆け寄る。

 通路の視界の先はなんとも異様な光景だった。蓮の発明品がところどころに転がり、氷の能力者はアリ地獄の様なものに下半身な埋まり、身動きしていない。


「やっぱりなー。このネックレスで能力が膨れ上がるみたいだな。」

「父さん、俺には絶対にするなよ!」


 どうやら広海の能力で氷の能力者は気絶しているようだ。送電でもされたのだろうか。黒い煙が出ている。


「そっちも片付いたのか?」

「あぁ、蓮が頑張ったおかげでな。ほとんど俺達は何もしてない。」

「蓮もなかなかやるなー。次も頼むな。」

「断る!」



 総理も無事に脱出し、ホテルや客に被害も少なく終息したことが幸いであった。

 久世は能力者の護送準備を始めるよう、無線で指示をしている。能力が使えないように厳重な捕縛をし連行するのだ。この場にいた警察官達は撤収準備を始めた。


 蓮は激戦の末、立つことが出来ず類に背負われる。恥ずかしかしいから降ろせと喚くも、昨日も背負って家に帰ったことを聞かされた。どうやら、REDから蓮を運び出したのは類だったようだ。

 喚く方が恥ずかしいから大人しくしろ!と拓海に背負われている広海に言われ素直に従った。

 海星と聖海夜は類から借りたカードを持って、嬉しそうに夜の街へと元気に出掛けて行った。

 羨ましそうに見送る蓮……。

  

 残された4人は救急車へと向かい、別々に乗った。

 

 蓮は腕の怪我の傷が深い為、診てもらうようにと久世が手配してくれた。


 そして、顔が青白くなってきた広海には輸血が必要だった。幸い、拓海は広海と同じAB型のRH−だ。

 車内で輸血されながら、病院へと向かう。


「なんか呆気なく終わったな。」

「あぁ……。蓮でも相手できる奴に、俺は瀕死にさせられたのかと悔しくなった。」

「十数年前の話だ。拓海はあれからはるかに強くなり、あいつはそのままだった。蓮が攻撃をかわせたのも現在の拓海と相手してきたからだろ。あの時の俺達は能力に頼り過ぎてたのが敗因だ。ぶっ飛ばしてくれて俺は清々しいよ。」


 そして広海から笑顔が消え、深刻そうな表情になる。


「あのさ……。」

「なんだ?」

「俺の足……感覚がないんだ。」


 輸血しながら座っていた拓海は、歪んだ顔をして俯いた。悔しさのあまり拳を握りしめる。

 蓮から危険な状態だと聞かされた時、もしかしてと不安はあった。

 真実を知り、動揺を隠せなかった……。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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