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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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エレベーター


 蓮は静かに息を潜めて無線を聞いている。


 ……数分前。

 地下駐車場の機械室で停電の復旧作業をし、聖海夜は広海を背負って非常用階段へと向かう。

 しかし、蓮は駐車場で乗ってきた車を探していた。


 停電もホテル内は非常用電力で復旧したが外はまだのようだ。駐車場から出られない車が列を並んでいた。

 蓮達が乗って来た車は黒色のセンチュリーだ。見渡しても似たような車で見つけにくい。

 車両ナンバーを1つずつ確認していく。運転席には蓮のSPである後藤がいるはずだ。


 通常ならば後藤と斉藤が就くわけだが、今回は急なパーティーの出席で拓海がSPとして就くことになった為、後藤はいつも運転している斉藤の代わりに任務に就く。

 斉藤は蓮の襲撃の際に怪我をし、同じ毒に侵された。解毒剤を持参していなければ危なかっただろう。今は療養ができてむしろ良かったのかもしれない。


 蓮はようやく車を見つけた。視力が良いため遠目でも車両ナンバーがわかった。車へと近づいたが後藤は誰かと電話をしているようだった。蓮の姿には気がついていない。

 駐車場内は停電でなかなか進まず、エンジン音とクラクションが鳴り響いている。後藤の声も大きくなり外まで聞こえた。

 蓮は聞いたことのある単語を耳にする。

 "PubLis(パブリス)"

 昨日、大樹から聞いた機密兵器のことだ。

 その情報を知るために広海と拓海は潜入し、蓮達はその補助をする為にここにいる。

 車の後ろに座り込み、息を潜めながら後藤の電話が終わるのを待つ。


 待っている間……蓮の心は穏やかではなかった。


 後藤は電話を切り、バッグミラー越しに蓮の姿に気づいた。そして運転席から降りる。


「蓮様? どうかされましたか?」


「後ろのトランクの荷物を取りにきたんだ。ゴウさんが電話中だったから邪魔しちゃ悪いと思って、静かに待ってた。」

「そうでしたか。お気遣いありがとうございます。」


 そしてトランクを開けた。そこにはゴルフバックぐらいの大きさの黒いバッグがあった。


「これには一体何が入っているんです?」

「俺の秘密兵器さ。」


 蓮は後藤に微笑みながらバッグを取り出した。荷物を運びましょうかと言ってくれたが蓮は大丈夫だと断った。広海よりは軽い。蓮でもかろうじて持てた。

 後藤とは別れを告げ、皆がいる4階へと足早に急ぐ。


 蓮は無線機のチャンネルを変えた。


「たぶんそっちに氷のヤツが行くと思う。気をつけて。」


 "わかった 今どこにいる "


「エレベーターに乗って、4階に向かってる。」


 "ダメだ 今すぐ降りろ 危険すぎる "


 拓海からの降りろという怒鳴り声を聞いた蓮は何故なのかわからなかった。

 聖海夜と広海は非常用階段から4階へと行ったのを知っていたが、蓮は車のトランクからそこそこ重い荷物を持っていた。荷物を持ちながら階段で行くよりかはエレベーターで行った方が楽だ。そして、蓮は4階の配置を知らない。

 蓮が乗っているエレベーターが行き着く先は、能力者がいるエレベーターホールだ。


 4階へと到着した。

 危険を察知した蓮は急いで別の階のボタン押し、ボタンを連打して扉を閉めようとする。

 

(銃声が聞こえる! ヤバい!)


 扉が閉まりかけた時、誰かが扉を押さえた。

 そして扉が開く。

 目の前には炎の能力者がいた。

 蓮に緊張が走る。

 

 

 拓海は蓮からの通信が途絶え、エレベーターホールの方向を見つめる。


「もしかして……。」


 顔を歪ませながら、不安と焦りを感じていた。


 非常用階段に近い部屋の1室から広海と久世が出てきた。総理のいる部屋だ。

 総理は広海の案で窓からの脱出を試みることにした。類の能力で浮かしながら下まで降ろし、救急車で脱出するというものだ。


「蓮は? 鉢合わせたのか?」


 広海も無線を付けている。今までの会話は全て聞いていた。部屋の中では類が任務を遂行中だ。

 広海は久世に話しがあると言って部屋を出てきた。

 無線を聞いてない者達は詳細をまだわかっていない。


「わからない……。副総監、射撃態勢を解除してもらえませんか?」

「なんだ? 何かあったのか?」


 広海と拓海はバツが悪そうな顔をしながら、久世に説明をする。2人は伝達不足だったと謝罪し、今後の行動をどうするか悩んでいた。

 

「これだと向こうの様子がわからないな。仕方あるまい。あの竜巻をどけるんだ。蓮くんは無能力者だろ? 人命救助が優先だ。」


 その時に無線が入る。能力者と蓮の会話だ。

 広海は海星に竜巻の解除を待つように伝える。

 

「なんだ? あいつ外国人を演じるつもりか?」

「必死に地下の駐車場へ行こうとしてるな。上手くいけばいいが……。」


 エレベーターホールで蓮は炎の能力者に会う。蓮はエレベーター内で咄嗟に英語で会話をしていた。蓮の容姿なら怪しまれる問題はないだろう。能力者は何を言っているのかわかっていないようだった。そして手に持っている無線のマイクをオンにし広海と拓海に状況を知らせていた。


 しかし、別のエレベーターから頭を下げながらヌッとガタイの良い短髪の男が降りて来た。

 

「すまない。兄貴。パーティー会場から能力者が逃げた。」

「何やってんだよ、お前。会場からだすなって言っただろ。停電まで解除された。お前の氷を解除する者がいるということだ。そいつを見つけ出せ。」


氷の能力者だ!


 突如現れた者が何者かがわかる。話しの内容を聞いている2人も気づいただろう。そしてこの2人は兄弟ということも。弟はガタイが良いが、兄は細く華奢な体型でウェーブのかかった髪が肩ぐらいまであった。

 氷を解除する者……それが蓮だと知られたら、さすがに2人の能力者を相手にするのは厳しい。

 このまま開放してくれることを祈るばかりだ。

 そして、蓮はある事に気づいた。計画では蓮の護身獣が呪われた護身獣を解放する予定だったが、この2人に護身獣は見当たらない。


『私にも護身獣は見えません。どういうことでしょうか? これでは解放できませんね。困りました。』


 蓮の考えがお嬢にも伝わっていた。能力者には聞こえないように蓮の頭に伝達をする。


『この事をみんなに伝えたいんだけど、方法とかある?』

『護身獣達になら伝えることはできます。』

『それでいい。頼む。』

『わかりました。』


 お嬢から護身獣達へ伝わる。護身獣達はそれぞれの宿主へと伝達した。

 伝わったのはいいが、予期せぬ出来事に困惑する。

 このままでは防御反応が扱える能力者に、能力を使わずに対応しなければならなくなった。


 

「ところで兄貴。この外人は誰だ?」

「エレベーターから別の能力者が来たのかと思ったんだが、違ったようだ。行っていいぞ。」


 どうやら蓮のことを能力者とは思っていないようだ。蓮は安堵する。このまま違う階で降りて非常用階段からみんなと合流しようと考える。

 炎の能力者はエレベーターの扉から手を離し、扉が閉まろうとする。

 

「ちょっと待った。俺こいつを最近見たことがあるんだよな。どこだ?」


 氷の能力者がそう言いながら扉が閉まるのを阻止した。


( 会ってない! 扉閉めてくれ!)

 

 無線で聞いている2人は小声で実況していた。解放されるかと思っていただけに、皆、頭を抱えて落胆する。


 氷の能力者がパーティー会場に来た時は停電で暗闇だった。それに他の招待客も大勢いる。蓮の顔はそこでは覚えていないはずだ。


「お前、名前は?」

「?」

「your name?」

「ah……Ren」

 

 蓮は名前は言っても問題はないだろうと思ったが……それが仇となる。


「思い出した……。」

「!?」


 氷の能力者は携帯を取り出し、画面を兄に見せる。そして画面と蓮の顔を交互ににみた。

     

「マジか! こいつ1億円の懸賞首だぞ。」

「しかし、すごい金額だな。お前何やったんだ?」


 能力者達は蓮の指名手配書を見ていたのだ。顔写真と蓮を見比べていたのだろう。蓮は血の気が引いた。


 広海と拓海は焦っていた。

「指名手配書か!」

「あいつら、蓮を連れて行く気じゃないだろうな。」

「待て! 指名手配とはどういうことだ?」

「いや、違うんだ。副総監。裏のサイトで蓮は指名手配されてんだよ。何故かは俺達もわからない。」


 遠くの方で蓮が抵抗している声が聞こえた。


「なんか、英語で必死に抵抗してるな。どうする? 父さん。」

「出方次第だな。向こうの様子が知りたい。竜巻を解除してもいいか? 副総監殿。」

「やむを得ないな。」


 海星は竜巻を解除し風へと変わる、拓海も纏っていた水を霧に変化させた。

エレベーターホールへ続く通路がおもむろに姿を現す。風の音が消え、蓮と2人の能力者達も異変に気づいた。

 

「あいつら、何かする気か?」

「一気に攻め込むか。能力者は手出しできない。」

「おい、お前も一緒に来い。抵抗しない方が身の為だぞ。」


 炎の能力者は掌から炎を出し蓮を手招きした。もしここで抵抗し、防御反応のある能力で捕まったら厄介だ。蓮は素直に従った。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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