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R E D  作者: 弓弦葉
第1章

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22/48

潜入


 広海と拓海は黒の出動服を着て、防衛省の屋上で建物の地図と設計図を見ている。身を潜めながら待機していた。

 屋上には水タンクや電圧装置がある。

 2人の能力は雷と水であり、自らもその物質へと変化することができる。

 広海は電気、拓海は水があればそれを伝って場所を移動することができる。潜入場所にルートが繋がっていれば入れるというわけだ。

 ただ、いつもは入念な準備をしルートの確認はしているが、今回は急遽決まった。2人は屋上から部屋に入るルートを確認する。


「頭に入れたか?」

「あぁ。あとは運だな。どこまで行けるかだ。」

「故障してないことを祈るよ。」

「途中何かあったら、連絡しろよ。」

「兄貴もな。どちらかが着けばなんとかなる。」

 

 会場の音声を聞いていたイヤホンを外し、別のものを付ける。2人は無線の動作確認をする為、海星に連絡をする。海星は拓海に扮してSPとして会場にいる為、無線を付けていてもおかしくない。連絡は全て海星が頼りだ。


「海星、聞こえるか?」

 "聞こえる"

「こっちは?」

 "大丈夫だ"

「何かあったら連絡する。頼んだぞ。」

 "了解"


 無線を切り、黒のフェイスマスクとグローブを着け準備をする。


「18:05 任務開始」

「了」


 2人はそれぞれの全体を電気と水に変化させる。そして電圧装置と水タンクへと向かった。


「じゃ、後で。」


 そう言って広海は電圧線のコードを手で掴み、バチッと音を鳴らせ入って行った。

 拓海は水タンクの漏れを探すがなかった為、水の水圧で少し穴を開け、そこから侵入して行った。

 各々のルートで大臣の部屋の洗面室へと急ぐ。そこが一番人目につかず安全だからだ。

 途中、何事もなければ数分で着くはずだ。


 庁舎は勤務時間が過ぎている。残っている者もいるが、最上階の大臣の部屋はフロアの電気はほぼ消えていて静かだ。皆、会場へと出向いているのだろう。それでも最新の防犯カメラは常に監視している。

 ここはいわば国軍の中枢部だ。周りの庁舎には軍の待機場所もある。何か異常があればすぐに駆けつけられる。


 大臣の部屋の洗面室に2人は無事に着いていた。おそらく部屋のどこかに防犯カメラが作動しているはずだ。事前に調査ができていれば良かったが、洗面室から大臣室へと繋がる扉の隙間から目視で探すが見えづらい。


「1つだけか?」

「見にくいな、どうする?」

「護身獣様に任せるか。」


 護身獣はただ側にいるだけではない。いわば能力の源である。本体から切り離し護身獣だけで行動する事も可能だ。2人は護身獣を解き放つ。

 2人の護身獣の虎と龍は本体のお願いを聞き、行動する。


(虎)久しぶりに解放されたな。

(龍)時間がないのだ。早く探すぞ。

(虎)会話ができれば他にも方法があるのだが……()()()()()()()()だけだな。

(龍)そのうち我々の声も聞こえるであろう。


 護身獣達は防犯カメラを探し、能力を使って作動を停止させた。そして、2人の元へ戻る。

 2人は洗面室から抜け出し、大臣のデスクへと向かう。デスクに置いてあるパソコンに電源を入れた。


 その時、サザッと無線が入る。海星からだ。


 "会場に能力者が来るかもしれない"


 2人は目を合わせる。どういうことだろうか?



 ◇◇◇


 数分前の会場ーーー


 会場では立食パーティーの為、テーブルにはあらゆる料理が置かれていた。ウェイターがトレイにドリンクを乗せて配っている。

 18時から始まる予定だったが、総理の到着が遅れているのだろう。先程、アナウンスで"15分頃から始まる予定です。それまではごゆっくりおくつろぎ下さい"と告げられた。飲食しながら待って下さいということだろう。

 そして、蓮は遠慮なく食べていた。類はつまむ程度でシャンパンを飲んでいる。無論……海星はSPなのでただ蓮が食べているのを見ているだけだ。お預けを食らった犬のような顔をしている。


「お前の分も食べてやるよ。」

「蓮。食べすぎだ。そのへんでやめておけ。」


 類はポケットからクレジットカードを取り出し、海星に渡した。


「ここが終わったら、あっちの広海と一緒に好きに使え。蓮には絶対に渡すな。俺にちゃんと返せよ。」

「ありがとうございます。」


 海星は喜んで受取、大事にポケットへとしまった。 広海の突拍子のない今回の計画の要となる海星と聖海夜が不憫に思えたのだろう。


 そんな3人に1人が近づいてくる。

 七三に分けた髪に銀色のデザインされたメガネが良く似合っている。細長い体型には警察の制服を着ていた。


 "久世だ!"

 

 3人に緊張が走る。


「どうも、天宮司さん。皆さんおそろいで。少しお時間よろしいですか?」

「えぇ、副総監。どうかされましたか?」

「皆さん、こちらへ。」


 そう言い、会場の人気のないところへ3人を誘導する。バレたのだろうか……内心そう思いながらも久世について行った。


「わざわざ移動させて申し訳ありません。人に聞かれては混乱を招きます。ここだけの話しにしていただけますか?」


 久世はそう前置きし、話し始めた。数日前に犯行声明とも取れるメールが総理に届く。内容はパーティーを中止しろ。さもなくば会場を襲撃すると。これを送ってきた犯人はまだ見つかっていない。総理にも中止を促したが、決行となってしまった。久世がこの会場にいるのもそれが理由だ。そこに能力者一族も会場に来ることを知る。もし相手が能力者だった場合は対応をお願いしたいということだった。


「そうでしたか。ところでこの事は広海には話されていますか?」


 類が久世に尋ねる。


「いえ。ここに本当に現れるかも現段階では不明です。CIPには出動要請は出ておりません。まぁ、あそこにいる彼と話すると反発することが多くてですね。ここで騒ぎをお越したくはありませんから、冷静な弟君の方にお話をした方が良いと思ったのですよ。」


 さすがの広海でもこの話を聞いて騒ぐことはないだろうとは思うが、久世が相手ならどう出るかはわからない。今の広海は聖海夜だ。そこまで対応はできないだろう。不信に思われる可能性もある。むしろこちらに話してくれた方が助かったかもしれない。


「ところで、副総監。俺にSP付ける理由を教えてもらえないですか?」


蓮は自分のことへと話しを逸らした。


「確か君は、能力がない蓮君だったね。SPを付けているのは私ではないよ。君が小学校卒業する12歳までは能力が現れる可能性があるから、監察して様子を見ようと言ったのは私だが。」


 蓮は驚く。SPがついたのは留学があったからだ。その時は11歳。つまり1年間だけだったことになる。

 蓮は18歳だ。なぜ解除されていないのだろうか。

 久世は何度も上に抗議するが認めてもらえず、広海からも抗議され続けていた。

 今まで蓮にSPを付けているのは久世だと思っていたがそうではない。久世より権力がある者が付けさせているということだ。一体、誰が何のために?

 そして、税金の無駄遣いだと思わないかね?と久世は少し怒りながら、今まで蓮についたSP2人に掛かった費用1億5864万3472円だと丁寧に教えてくれた。

 ただ、能力のない蓮にSPがつく理由がわからない。久世は蓮に不信感を抱いていた。


「君は何かしたのかい? 何か隠しているとか?」

「身に覚えがありません。もし俺が何かを隠していたらどうなるんですか?」

「そうだね。一族の問題であれば……まず何らかの処罰はあるだろう。最悪の場合、それに関与している警視正と警部は懲戒免職、警視正の奥さんの家系もどうなるかわからない。私はその報告を楽しみに待っているよ。」


 不適な笑みをしながら蓮に告げる。


「残念ながら、待っていても報告はないですよ。」


  蓮は負けじと自信満々に言い返す。内心は自分が隠したことによって周りが迷惑をかけることを知り、広海が怒って当然だと納得した。


「そうかい?残念だ。君のSP問題だったね。今日、警視正からも連絡をもらっているよ。上にも言ったが解除は無理だったよ。でも2人から1人に減らすことは承諾してくれた。まぁ、彼ならSP2人分以上に君を守ってくれるだろう。頼んだよ、東宮司警部。辞令はそのうち通知する。では、私はこれで。」


 そう言って、久世は礼をして去って行った。

 

(今日の拓海は何か違和感があったな。広海も珍しくパーティーに参加している。何か企んでいるのか?)


 久世は拓海に違和感を感じてはいたが、まだバレてはいないようだ。

 蓮は拓海と広海の階級を知らなかった。類と海星から教えてもらい、今後SPにつくのは拓海だとわかる。嫌がり落ち込む蓮を放っておき、類と海星は相談する。

 久世が言っていた犯行声明。もし襲撃してきた相手が能力者だった場合、一族は対応しなければならなくなった。計画に問題が生じる。海星の能力は風、聖海夜は火だ。今の姿のままでは能力を使うことができず、それを不信に思われるだろう。それまでに潜入している2人が戻らなければ、今回の計画がバレてしまう。


 類は海星に無線で2人に急いで戻るように伝えるように言った。


 こうして、潜入中の2人に無線が入ったのだ。


 

 ◇◇◇


 海星から会場の状況を無線で聞いた2人は事態が変わったことに気づく。早く戻らなければならない。

 最悪の場合、会場にいる海星と聖海夜を脱出させることを考えていたが、今はそれができない。

 久世から襲撃のことを聞いてしまった。

 襲撃が起き、相手が能力者だとすれば、2人は対応しなければならない。安全を守る警察官としての立場もある。よほどの事がない限り離脱は免れないだろう。


「拓海! 急いで蓮にもらった装置を繋げろ! 俺はその間ログインを試みる!」


 拓海は蓮の装置をパソコンのUSBポートに差し込むんだ。装置に付いている赤の点滅ランプが緑になれば完了だ。1分ほどだと蓮は言っていた。

 広海はパソコンにログインする。年配の官僚達はパスワードを忘れた場合に備え、デスクに貼ってあるかメモを置いている場合が多い。

 パソコン画面を操作するが、肝心な情報は場所を探しても見つからない。


「兄貴! 完了した! 行くぞ!」

「クソッ! ここまでか!」


 広海は急いでパソコンの痕跡を消して電源を落とした。

 2人は洗面室に向かった。

 

「会場に着いたら連絡する! お前もできるだけ急げよ!」


 そう言って広海は全体を雷にして電源ケーブルから入って行った。電線を通って会場へ行くのだろう。


 残された拓海は考える。急いで帰る方法はないだろうか……。


 帰りは車で帰るつもりだった。この時間、ここから会場への道は渋滞している。ホテルまでは30分以上かかるだろう。能力を使って水の水路を通って行けるが、水の勢いで進む。スピードを上げることはできるが、体の全体を水に維持したまま移動するとなると能力が無くなる可能性もある。会場に着いて能力者との対応はできないだろう。


 拓海は護身獣を見る。龍水と名付けていた。拓海は焦りからか、珍しく弱音を呟く。


「なぁ、龍水。急いで帰る方法ないか? 聖海夜が心配で仕方がない……。知ってたら教えてくれ。頼む。」


 " ………できるか?"


 拓海はどこからか声が聞こえた気がした。龍水を見る。


 "お主は我輩と一体化することはできるか?"


「ん? もしかして龍水なのか?」

 "お主、我輩の声が聞こえるのか?"

「聞こえる。」

 "なんと、驚いた。とりあえず此処から出ぬか? 先程いた上へ参ろう。話しはそこでしようぞ "


 拓海は龍水に言われた通り、洗面室から屋上へと水を伝って移動した。そして水タンクから出て死角になるところへと身を潜める。

 

 明るかった街が一瞬で暗くなった。


 拓海は何事だ!と臨戦体制を取り、周りを見渡す。庁舎が騒がしい。電気が消えたと騒いでいる。


 「停電?」


 拓海は無線を繋いだ。


「停電だ。そっちは大丈夫か?」


 "こっちも停電だ 襲撃はない"


 会場も停電か。兄貴からは連絡がない。電線の電流を伝って移動してたはずだ。停電になれば動けない。無事だといいが……。


「龍水、急ごう。一体化になればいいんだな? どうすればいいのか教えてくれないか。」


 連絡のない広海も心配だが、拓海は会場へ急いで向かうことにする。




 

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