秘密
広海の部屋でドカッと大きな音がした。
広海の頬は赤くなり、口からは血が出ていた。拓海は兄の襟口を掴む。拓海が広海を殴ったのだ。
「拓海! やめろよ! ちゃんと話を聞こう!」
聖海夜が小さい体で止めに入るが、体格が違う。突き放され床に倒れた。音を聞きつけた海星が部屋に入り、拓海と広海の間に入って、父の襟口にある拓海の手を抑える。
「頼む! 拓海。父さんの話しを聞いてやってくれ!」
「お前も知っていたのか?」
「俺は大樹さんから聞いた……警察署の帰りの車内で。
美波さんの戸籍謄本をみて、夫の欄に拓海の名前があって……受付でビックリしたって。その後、父さんから話しを聞いた。」
拓海はそれを聞いて、大樹が署内でした行動を理解できた。大樹はただ拓海を夫として、家族として、当然のことをしただけだった。
拓海は手を放し、座り込んだ。冷静に話しかける。
「俺に何の断りもなく勝手に提出したのか?」
「うん。」
「美波は知ってたのか?」
「知ってる。美波が提出した。」
「美波が……?」
「うん。」
広海は海星に大丈夫だからと言って、学校へ行かせた。そして、少し落ち着いた拓海と聖海夜に説明をする。
数年前までは広海も知らなかった。判明したのはパスポートの手続きの時だ。自分の手続きに戸籍謄本が必要で、役所へ取りに来ていた。拓海も同じ時期に更新していた為、ついでに拓海の戸籍謄本も請求する。
しかし、そこには美波と聖海夜の名前があった。
拓海があれだけ結婚を頑なに拒んだ、言えずに隠しているのかもしれない、先に美波に詳細を聞こうと思い、話したいことがあると美波に連絡をした。
会って話しをしたが、思っていたことと違う返答がきた。
美波が自分で書いて提出したと。拓海はこのことを知らず、自分から話すからそれまでは黙っていて欲しいと。その時に結婚指輪も預かった。
美波は拓海の気持ちも尊重したく、結婚しないことを承諾した。だが……もし自分に何かあった場合、聖海夜は1人になる。自分のように1人で寂しい想いをしてほしくないという思いがよぎった。
もし、拓海に何かあった場合、家族でないと面会できないこともある。それが一番辛い。
広海に泣きながら自分の過ちを謝罪していた。
それから数年、何度か美波にも連絡して話すように伝えた。拓海が知る前に伝えるべきだと。広海から伝えようかとも助言したが自分から伝えるとの一点張りだった。
「それが、その時に預かった指輪だ。俺は自分から渡してやれって言ったんだが、それを置いて帰ってしまったんだ。」
「美波は、俺に何故言わなかったんだ……。」
「俺にもわからないが……拒絶されたらと思うと怖かったのかもな。」
「母さん、拓海と結婚したかったんだね……。どうして! 母さんの思いに気づかなかったんだよ! 俺と母さんはそんなにいらない存在なのかよ!」
拓海の胸ぐらを掴み、泣きながら聖海夜は訴えた。
「それは違う! ごめん……ごめんな、聖海夜。俺が悪いんだ。」
「もう、遅い!」
そう言って、バターン!と襖を開け、部屋から出て行った。
「おい! 聖海夜! 父さん、これで冷やして。」
海星が広海に保冷剤を投げ渡し、聖海夜を追いかける。心配で部屋の外で聞いていたのだろう。
拓海も追いかけようとしたが、広海がそれを止める。今は海星に任せようと告げ、保冷剤で頬を冷やしていた。
「殴って、悪かった。」
「いや、殴られてすっきりした。俺も隠してる事にずっと罪悪感があってさ、お前に言うかすっげー悩んだ。俺からもっと早く言っておけば良かったのかもな……。」
聖海夜と海星は縁側に座っていた。2人で庭を眺めている。
「落ち着いた?」
「うん。」
「ここ数日でいろんなことがありすぎて混乱するよな。聖海夜は何に怒ってる? 拓海か?」
「わかんない。」
「そっか……。」
海星は自分が思っていることを聖海夜に伝える。
東宮司家は代々警官である。拓海はパイロットになるのが夢だった。警官にはなりたくないが、東宮司家に産まれた運命だと受け入れるしかなかった。
拓海には胸に大きな傷がある。聖海夜が産まれる頃に意識不明状態になり、生死を彷徨ったことがあった。
その時は家族以外面会謝絶で、美波とお腹にいる聖海夜は会うことができなかったはずだ。
まだ小さかった海星だが、拓海がいなくなってしまうという恐怖を憶えていた。
我が子に警官という道を歩んで欲しくない気持ちが強くなったと海星は思う。
聖海夜は海星の話しを聞いて、父と母の気持ちがわかる気もした。しかし、3人で家族として過ごすことはもう叶わない。それが怒りに変わったのだろう。
「ここで一緒に暮らさないか? 兄弟喧嘩止めるの俺1人じゃ大変なんだよ。聖海夜がいてくれると助かる。」
「昨日のやつは、ヤバかったもんね。」
「能力は使うなとか言ってるけど、あの2人めっちゃ使うからな。気をつけろよ。」
「そういえば、名前にみんな海が入ってるけど意味あるの?」
「代々名前に入ってるんだって。家紋が海みたいだからだったかな? 聖海夜はかっこいいよな。俺なんか海星だろう? ヒトデじゃん。」
「俺だってクリスマスに産まれたからってこの名前だろ。海はあて字ってバレバレだし。」
談笑している2人の背後から威圧感を感じる影があった。広海がいた。
「親のいないところで陰口か? 親が一生懸命考えた名前に文句言うな!」
「父さん、他に候補とかなかったの?」
「女の子なら海月だったか。」
「クラゲじゃん。」
「聖海夜もあとで拓海に聞いてみろよ。面白いもん聞けるかもな。」
拓海は広海の部屋で腕を組みながら悩んでいた。広海からある情報を聞いたからだ。
広海は聖海夜の様子を見てくるから、その間にどうするか考えといてくれと言われる。
広海は昨晩の兄弟喧嘩の騒動の後、凪紗の父に会っていた。大樹が言っていたPubLisが気になり、義父に連絡し、家へと会いに行く。
もちろん機密情報である為、教えてくれるわけがない。だが、さりげなくヒントをくれた。
「明日、君が参加するパーティーは大規模のものだから、国の上層部も参加するだろう。もちろん、防衛省のお偉いさんもな。」
つまり上層部参加ということは、警備が手薄になり侵入しやすいかもしれない。やるべきか否か。
そして帰りに凪紗に遭遇し、髪を切らされたと言うわけだ。
拓海は話しを聞きどうするか考えていた。PubLisは美波がいた会社に保管されていて、それが盗まれた。
自分達に関係あるのかはわからないが、どういうものなのかは気にはなるところだ。
そんなことを考えていたら、広海達が部屋に戻ってきた。
「なぁ、拓海。なんで俺の名前は聖海夜になったんだ?」
「なんだ? いきなり。んー。確か……お前が産まれた日の夜、星が綺麗だったんだ。あと、海星が弟が欲しいって言ってたの思い出して、兄弟っぽい感じになるかな?と思ったからだ。」
「どのあたりが?」
「星は夜じゃないと見えないだろ。」
名前の由来で親子喧嘩が始まった。2人が普通に話せたことに広海と海星は安心する。
「それで、決めたのか?」
「ん? 俺達には関係ないかもしれないが気にはなるよな。どういうものなのか。」
「だよな。潜入してみるか。ただ……1つ問題がある。」




