ep.4 やれば出来る
こんにちは!作者です!
執筆活動の歴はあまり長くありませんが、描きたいものを書いていきたいと思っています。お時間があれば是非読んでください!
ヘンテ村の宿屋、ミユキ屋の一室でルイスは真っ白のローブを脱ぎ捨てて全体重をベッドに預けていた。
1部屋80Gという良心的な価格に加えてフカフカのベッド、普通の人間であれば申し分のないその環境に感激するだろうが部屋には暗く淀んだ空気が流れていた。
「ライネル、、、もっと他の伝え方があったんじゃない?」
「ごめん、まさかあの話をあんな風に捉えられるなんて思わなかったんだ、、、」
魔物を食べるという行為は衛生面や栄養面を考えても動物食と比べて何ら変わりはない。がしかし世間一般では魔物は魔物であり討伐対象あっても捕食対象ではない、それは人が根源的に持つ魔物への不快感によるものだ。
その常識を思い出したライネルはそれを忘れるまでに至った経緯を頭に浮かべる。
「私達はきっとその辺の倫理観をあの洞窟に置いてきちゃったんだろうね」
「もうやめてくれライネル、今は何も思い出したくない、、、」
「、、、」
長めの沈黙。自分が端を発した沈黙ではあるもののライネルはこの静かさに耐えきれずに話題を変える。
「そう言えばルイスの魔法研究の仕事って今は休暇扱いなのかい?」
「、、、僕の所は休暇とりにくいし貯金については問題ないから辞めてきた。魔王討伐の大義名分とは言え、ずっと行かないのも他の研究員にとっては迷惑だろうし」
ライネルが「そっか」と呟いた後、会話は途切れる。罪悪感と咄嗟に思い付いた話題である事もありそれ以上の言葉が両者から発される事はなかった。
ライネルが次は何を話そうかと悩んでいると意外なことにルイスが口を開く。
「はぁ、、、やっぱりお母様の言う事を聞くんじゃなくて自分なりのほ、う、、ほう、、、、で?」
「、、、ルイス?」
見ればルイスの顔は先ほどまでの悲壮感に満ちた顔から真顔に変わっている。遠くてよく見えないがその瞳孔は少し開きすぎのように見えた。
「ライネル、あの2人を連れて門の所まで来て!僕は先に行く!」
「えっ?え?急に何?」
「来れば多分分かる!早く!」
雑に投げ捨てられていたローブを身に纏ってフードを深く被ってからルイスは部屋を出る。
「ハッ、、、ハァ!」
日は完全に傾き、月光が雲に遮られる闇夜の中ルイスは身体強化魔法を自身に掛けて疾走する。
村の入り口と宿屋はさして遠くはないため10秒と掛からずに到着した。
「やっぱり魔素があり得ないほど乱れてる、、、」
それは今までのような揺らぎではなく乱れで、風によって魔素が乱れる場合もあるが今回のこれはどうも違うように感じる。
「あの、、、どうかなさいましたか?」
肩で呼吸をしながら森の方を見て独り言を呟くルイスを見て門番が尋ねる。その顔には不信感が滲み出ていてルイスは弁解の意もこめて現状を語る。
「壁の外の魔素が異様に乱れていて、、、森のあっちの方って何かありますか?」
「あの方角には、、、」
ルイスの指した方向を見て門番は何かを悟ったかの様な表情のままその先の言葉を言い淀んでいる。ルイスはその様子に眉を顰めるも、何かを思い出したかのようにハッとする。
「って僕が話したいのはそうじゃなくて!」
「はい?」
「今すぐ門を閉めてください!ここまで魔素が乱れていると魔物が凶暴化するんです!」
「ちょっ!それを先に言ってくださいよ!?」
門番の男はそう叫びながら門を閉めるべく鐘を鳴らすための槌を持った瞬間、遠吠えが聞こえたのと同時に狼型の魔物が門番に飛び掛かる。
「ウワァァァ!?」
魔物は門番にのしかかり今にもその牙は目の前の男の喉笛を噛み破ろうと迫る。
「衝撃魔法!」
寸での所でルイスは魔法で魔物を吹き飛ばす。魔物は体勢を立て直すとおどろおどろしい鳴き声を上げながら今度はその牙をルイスに向けた。
「切断魔法!」
詠唱と同時に魔物の首が切り裂かれ、その屍体は地面へと音を立てて落下した。その様子を見たルイスは森の方に右手を向けながら門番に吠える。
「早く門を!」
「はい!」
カァァンカァァンと鐘が2回鳴り響くと重い金属音と共に巨大な鉄の柵が降り始める。その速度はルイス達を焦らすようにゆっくりとしたものであった。
「なっなんで!?点検はしていたハズなのに!」
「速める手段は無いんですか!?」
「何とか対処します!それまでここを守ってくださいお願いします!」
「なるべく早くお願いしますね!」
門番の男は返事の時間すら惜しみ、何処かに走り去る。ルイスが再び森の方に目を向けると月光が雲の間から森を薄く照らし始めていた。
「冗談だろ、、、!」
苦笑を浮かべるルイスの目には先程の狼型の魔物が何匹も映っていた。それらはルイスを囲い込むように並び、一歩また一歩と近づいてくる。
「、、、っ」
ルイスは思考を巡らせていた。
魔法同時多発発動?いや、ここまで魔素が乱れているとそれは自分には不可能。防護魔法で凌ぐか?いや、この状況下でそこまで強度のある障壁を作れるか?あるいは、、、
「クソッ!これしかないかっ!?」
攻めるにしろ守るにしろルイスに選択の時間は幾許も無かった。ルイスは右手を構え直す。瞬間、乱れていた大量の魔素がマナに変換されて幾何学模様に並び始める。
「、、、イア・クスム・レウプ・ユフィンガム・ウォブ・ドーグ・エシルス」
構築した魔法陣は通常の切断魔法のそれより大きく、また内部のマナの密度も高い。
術式拡大と呼ばれるその技術はより速い魔法陣の生成と高いマナ変換効率を必要とし、ごく一部の魔法使いしか扱えない。
「我が魂に応えよっ!!」
その魔法は轟音を森中に響かせながら木と幾匹もの魔物の体を抉っていく。
遂には目の前の全ては切り刻まれ、木々があったその場所には魔物の血肉と木片のみが残った。
「ハァ、、、ハァ、、、あの時もこれが使えたら、、もしかしたら、、、」
片膝をつきながらルイスはそう静かに呟く。
「ルイスっ!大丈夫!?」
「いっ生きてますか!?さっき凄い音なってましたけど!!」
「ふあぁ〜呼び出しておいて出番なしぃ?」
その声に振り返ればライネル、アイシャ、カイネが駆け寄って来ていた。
夜の森にはルイスの荒い呼吸音が木霊し、一難去ったかの様に見えた。ーーそう見えただけであった。
ワオォォォォン!!
突如耳をつんざく程の魔物の鳴き声が闇夜に響き渡る。それは先程の魔物の遠吠えに似ているものの他の魔物とは一線を画す殺意が込められていた。
「全員戦闘体制!」
「ルイスさん大丈夫ですか!?立てますか?」
「何、、今の?一気に目覚めたんだけどぉ?」
恐る恐るルイスは森の奥の方に視線を送る。そこに居たのは角の生えた巨大な狼の魔物であった。
「スー、、、ハー」
ルイスは深呼吸をしながらライネルの所まで下がるとそれに合わせるかのようにソレはゆっくりと近づいて来る。まだ距離があるうちにルイスは恐怖に乾いた口を開く。
「ライネル、原因は不明だけど魔素が不安定で今の僕は上手く魔法が使えない」
「どうする?」
「前衛2人で十数秒時間を稼いで。僕はアイシャさんと協力して何とかしてみせる」
「分かった」
そこまで伝えてルイスはアイシャの隣まで近付き、パーティの陣形を整える。この時にはもう目と鼻の先に魔物がいた。互いの攻撃範囲内にすでに入ったまま、うるさい程の静寂が森に訪れる。
その堰を切ったのはライネルであった。
「カイネさん時間を稼ぐよ!」
「はいよっ!」
言葉が終わるか否かの瞬間に、魔物の爪が眼前に迫り、ライネルは咄嗟にそれを防ぐ。矢継ぎ早に爪が、牙が、咆哮がライネルとカイネの命を狙う。
自身に攻撃が向いていない事を確認し、ルイスは片目を閉じてアイシャに話し掛ける。
「ア、アイシャさんはマナの変換の補助をお願いします!」
「分かりました!」
アイシャは両手で杖を持って周囲の荒れ狂う魔素をマナに変換し、ルイスは右手を魔物に向けてもう一度術式拡大を試みる。
「壁から出たら分かりましたけど魔素が尋常じゃない位に乱れてますね、、、この中でルイスさんはあの魔法を、、、?」
「イア・クスム・レウプ・ユフィンガム、、、」
アイシャの呟きの一切が聞こえないほどルイスは魔法に集中するも、酸欠の時のような頭痛がマナの制御を苛み、思わず奥歯を噛み締める。
「ウォブ、、ドーグ、、エシルスゥゥ、、、!」
何とか魔法陣が完成し、アイシャが叫ぶ。
「お二人とも、魔法の準備出来ました!」
その言葉に反応したライネルとカイネは魔物の攻撃を同時に弾き、大きく後ろに下がる。
「ルイス!」
「、、、我が魂に応えよっ!!」
極大の不可視の斬撃が大気を裂き、魔物の鬣を切り、ルイスが勝利を確信した刹那の瞬間だった。
ザワザワザワ!
これまで以上に魔素が吹き荒れ始めたとルイスが感じた時、既にナニかが目の前にこちらを見ながら佇んでいた。音もなく現れたソイツの足元で先程までいた魔物が力無く倒れている。
「なっ、、、!?」
1対の翼に2本の脚、月に照らされて青色に鈍く光る鱗を身に纏うそれは紛う事なきドラゴンであった。
しかし同時にルイスは悟っていた。目の前にいるこのドラゴンはただの魔物ではなく、此度の常軌を逸した魔素の乱れの元凶であると。
死ぬ
「っ!!」
直感的にそう思ったルイスは無詠唱で防護魔法をパーティ全体に掛ける。尚もドラゴンはこちらをジッと見るのみである。
「ルッルイスさん、、、?」
アイシャが自分でも聞こえるか分からない大きさの声でルイスに話し掛けた瞬間であった。
激しい金属音を立てながら門が閉まり始めた。
「壁の中へ!!」
門番の声だ。そうルイスが認識するよりも前にドラゴンがその翼を横に薙ぎ、防護魔法が破られて全員壁の中へと吹き飛ばされると門が閉まり切る。
「ぐっ、、!痛っ、、、た!」
「はっ!?」
ライネルが視線を上げるとドラゴンが今まさに壁内に入ろうと飛んで来ていた。
一瞬の思考、門が閉じようとドラゴンは上から侵入できる。被害は計り知れない!ならどうする?何か手段は?どうすれば阻止できる?
「大魔法使い様は身体強化魔法!ライネル君は私を上に飛ばして!」
見ればカイネが走ってきていた。ライネルは咄嗟に低い位置に手を組んで土台を作り、ルイスは重い身体を無理矢理起こす。
「何か分かんないけど!」
「身体強化魔法!、、、うぅ」
「良い、、、感じっ!」
ライネルは手にカイネの足が乗った瞬間に上に飛ばす。
「高っ、、、けど無問題〜!」
魔法で強化されたライネルの腕力とカイネの脚力は彼女の身体を巨大な壁の遥か上空まで飛ばすには十分であった。
カイネの眼前には壁内に侵入しようとしているドラゴン。手にはアイシャの剣。
「アイシャちゃんごめんねぇ!」
カイネはドラゴンの眼に狙いを定めて、後ろに大きく振りかぶってから剣を投擲する。
「そぉ〜い!」
ゴォォォォ!!
その眼には剣が深々と突き刺さり、咆哮を1つ残してドラゴンは夜空の彼方に飛び去っていった。
「やりぃ!、、、って私着地の事考えてなかったわぁ〜」
重力にしたがい、カイネの身体は遥か上空で自由落下を始め、とてつもない風切り音が耳を襲う。
「やばいっ!ルイスは気を失ってるしどうしよう!?」
ライネルが必死に叫ぼうとも刻一刻とカイネと地面の衝突の瞬間は迫り来る。
「ごめ〜ん、誰か着地手伝ってぇ〜」
「手伝うって言っても!?」
地面とぶつかるまであと数秒。
「彼の者に束の間の神性を!飛翔!」
アイシャの詠唱の直後カイネの身体はふわりと浮き上がり、ゆったりと落ち葉のように地面に着地する。
「はへぇ〜何とかなったぁ」
「ふぅ、、、疲れた」
「しっ心臓に悪すぎです、、、」
それぞれは言葉を吐き捨ててその場にバタリと倒れて気を失ったのだった。
ー 勇者アイシャの英雄譚 序章 『邂逅』 ー
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